「ベラルーシの18歳未満の人たちでは、甲状腺がんは、平常時の200倍の発症を確認した。手術したうち30%は他に移転。かつ、女性の死亡率は男性の5倍だ。また、甲状腺がんは、ヨウ素131、129だけではなく、テクネチウム、ルビジウム、セシウム134、137でも発症する」──。
2014年3月8日、京都市上京区のKBSカルチャーで、ヘレン・カルディコット財団主催の講演会が開催され、「未来を担う子どもたちの為に、今、私たちにできること」と題し、医師のヘレン・カルディコット氏と京都大学原子炉実験所の小出裕章氏が講演を行った。
カルディコット氏は「チェルノブイリ事故の影響により、ヨーロッパでは1986年から2056年までの間に、甲状腺がんの発生が9万2627件と見積もられ、そのうち、死亡者数は2万6584人と予想されている」とした。質疑応答で、「このような調査をしていて、権力側からの弾圧はあるのか」と尋ねられると、「今までに8回、殺害予告などの脅迫があった。CIAからも妨害は受けた」と答えた。
小出裕章氏には、「4号機の使用済み燃料の移動作業が、失敗したらどうなるのか」との質問があり、小出氏は「もし、作業中に事故があっても、破局的な事故にはならないと思う。ただし、地震などでプール全体が崩壊したら終わりだ。しかし、仮にそうなっても、燃料が溶け始めるまでは10日間ぐらいかかると思う。逃げる猶予はあるだろう」と答えた。
※3月8日の講演の模様を、3月18日に配信しました。
- 講演 ヘレン・カルディコット氏(医師)/小出裕章氏(京都大学原子炉実験所)
京都聖護院門跡の宮城泰年氏は、開会のあいさつで、「日本は、536年に仏教が来るまで、自然すべてに神がいた。私たちは、今まで、あまりにも自然を顧みずに生きてきてしまった。そういう人間の生き方について、学び、反省する必要がある」と述べた。
ベラルーシで健康な子どもは20%だけ
カルディコット氏が登壇。「今回、使用するデータは、5000種類の論文を網羅した、ニューヨーク医学アカデミーの報告書(2009年)をもとにする」と述べ、まず、放射線被害を調査した範囲や医療機関、症例などの詳細を説明した。
「チェルノブイリの大惨事は、広島・長崎の原爆と同じ、何百万人に対する人体実験だ。28年後の今でも、13ヵ国の領土50%が、長期的に放射性物質で汚染され続けている。ベラルーシには、20%しか健康な子どもはいない。広島、長崎では4年間、チェルノブイリでは3年間にわたり、すべての医学的データは隠蔽された」と語り、チェルノブイリ事故に関する健康被害などを話した。
環境に放出された有害物質の数々
カルディコット氏は、福島の原発事故に関して、「日本政府と東電は、事故で放出された有害物質をすべて発表していない」とし、特に影響が長期に及ぶものとして、「セシウム137とストロンチウム90は、300年の有害性。トリチウムは120年。コバルト60は50年。ルテニウム106は10年。テクネチウム132は78時間ののち、ヨウ素131になり、80日間。プルトニウム238は877年。プルトニウム239は25万年。プルトニウム241は140年の有害性をもつ」と列挙した。
そして、「放射性物質は土壌に落下し、濃縮され続け、食物連鎖によって危険度を増加させていく。中でも、プルトニウム241は、アメリシウム241に変化し、より体内に吸収されやすくなる。甲状腺がんや白血病は、被曝から2~5年後に発病すると言われている。そのほか、肺、乳房、腎臓などの腫瘍は、15年後ぐらいに出てくる」。
次に、倦怠感やめまい、うつ、吐き気などの、放射線由来による症状を挙げて、「チェルノブイリでは、子どもたちに早期の老化現象も認められ、事故処理にあたった80万人の若者たちにも同様の症状を確認。12万5000人が死亡した」と語った。
また、福島原発の汚染水が太平洋に流れ込み、海産物に著しい汚染があることについても深い懸念を示し、「福島原発から32キロ離れた海で捕れたクロダイは、1キロあたり1万2400ベクレルを検出。相馬市の川魚は1キロあたり2670ベクレル。アメリカ西海岸にも、アラスカ経由で福島の汚染水が到達している」と話した。
がんと原発事故との因果関係
カルディコット氏は「福島原発事故では、80%の放射性物質が太平洋上に行った。しかし、福島での健康被害のデータはない。『放射性物質に由来する疾病を、決して患者に伝えてはならない』と、医師たちは指示されている」と述べ、このように続けた。
「福島県とIAEAは、除染や放射性廃棄物に関して、どちらかが要望すれば情報を非公開にできる条項が含まれている同意書を交わした。福島県立医大も、放射能の健康影響調査において、同様の書類を交わしている。事故での重要な資料が出てこない上に、甲状腺がんに関するデータも、今後、隠蔽される」。
その上で、「IAEAは、福島に事務所を設置。さらに、がん専門病院を建設しはじめている。裏を返せば、福島原発事故とがんの因果関係を認めているということだ。残念だが、安倍首相が特定秘密保護法を通し、福島原発事故やがんなど、医療情報が封じ込められるようになってしまった」と懸念した。
そして、「今回、自分の発表にも危険があると思い、アメリカ人の青年たちが、ボランティアで身辺警護に駆けつけてくれている」と話した。
チェルノブイリの3倍の希ガスも放出
カルディコット氏は「福島原発事故では、チェルノブイリの3倍のノーブルガス(希ガス)が放出された。それには、キセノン、クリプトン、アルゴンが含まれ、太ももや腹部の脂肪に蓄積、生殖機能に影響を及ぼす。また、高エネルギーのガンマ線を放出、遺伝病などの異常を起こす」と語った。
さらに、「ヨーロッパにおける科学および環境政策委員会」が発表した報告書「福島2013年以後の汚染の広がりに関する新たなる考察」で示された、1平方メートルあたり4万ベクレルの地域に関して、「せめて、若い女性や子どもたちは避難させるべき」と主張した。
最後に、放射性物質への対処方法を聴衆に伝えた。「放射性物質をホコリのようなものと考えてほしい。家の中を清潔にする。ぬれタオルなどでホコリを除去し、拡散しないようにする。食事の準備に、水道水はなるべく使わない。家の中で着る服は外では着ない。外出着は、家の中には持ち込まない。外に出たペットの足は丁寧に拭く。子どもたちは、手をよく洗うこと」などと話し、「福島原発事故は、まったく収束してはいない」と結んだ。
法治国家ではなくなった日本
次に、小出裕章氏が登壇。まず、原子力発電の仕組みを説明し、「広島原爆で使われたウランの量が800グラム。100万キロワットの原発を1年稼働させるためには、1トンのウランが必要だ」と話した。その上で、「福島の事故は、まったく収束していない。炉心は2800度にならないと溶けないのだが、それが100トンも溶けてしまった。1500度で溶ける鋼鉄の圧力釜に落ちてしまった」と顔を曇らせた。
小出氏は、日本政府がIAEAに報告した「セシウム137の放出量は、広島原爆168発分」というデータの信憑性に疑問を呈した。続けて、 1平方メートルあたり6万ベクレルの汚染地域の地図を示し、放射線管理区域での規定を例に上げて、「通常、人は住めない場所だ」と指摘した。
「日本は法治国家。悪いことをすると逮捕される。法律を決めた国家は、最低限その法律を、自ら守るのが常識だ。しかし、その法律を反故にし、緊急時だからと、通常は住めない場所に人を住まわせるのか」。
猛烈な汚染食品は原発推進派が食べてくれ
続いて、「被曝のリスクには低線量に至るまでしきい値はない」と明言したBEIR-Ⅶ(2005年、米科学アカデミーからの電離放射線の生物学的影響)の報告と、100ミリシーベルト以下の被曝も危険を伴うという、ICRPの2007年勧告を紹介。にもかかわらず、「安全だ」と喧伝していた山下俊一氏を非難した。
さらに、小出氏は、若ければ若いほど健康被害が増す、放射性がん死の年齢依存性について解説し、「子どもを被曝から守るには、逃げるしかない。できなかったら、キャンプ疎開。次に、校庭、園庭の土のはぎ取り。福島第二原発を放射能のゴミ捨て場にするべきだ」と訴えた。
「学校給食の材料を厳選してほしい。猛烈な汚染食品は、原発を推進した人たちに食べさせるべきだ。食べ物も汚染の度合いごとに、10歳以下は食べてはいけない『10禁』、20歳以下なら『20禁』などと仕分けをするべき」と主張した。
最後に、小出氏は「子どもたちを守らないなら、私は私自身を許せない」と熱く語って講演を終えた。