先細り水道事業は「公営」で守れ! ~ジャーナリストらが橋下「民営化論」を短絡的と批判 2014.2.15

記事公開日:2014.2.15取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 水道事業の民営化素案が示されている大阪市で、2014年2月15日、シンポジウム「民営化でどうなる?! 私たちの『みず』 ~再公営化が世界の潮流~」が開催された。

 橋下徹大阪市長が、水道基本料金の月100円値下げを発表したのは、昨年12月26日のこと。ただし、これには「民営化」との大前提がある。

 橋下市長は同日の会見で、「市の水道事業を民営化して、市外や新興国にも、水ビジネスの場を広げていく」と意気込みを語っているが、この集会の登壇者からは、ただでさえ妙味が薄い水道事業に「民営化」は馴染まないとの指摘がなされ、海外の、いったん民間企業に委ねられた水道事業が「再民営化」される事例も紹介された。

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  • 基調講演 橋本淳司氏(水ジャーナリスト)「大阪市水道民営化方針の内容とは?水道の全国の状況や地下水条例などから見る、わたしたちのみず」
  • 水と未来のスピーチ/市民・有識者らによるシンポジウム/会場クロストーク
    新里嘉孝氏(大川水辺クラブ)「大阪の水辺と市議会の動向報告」/中村寿夫氏(水政策研究所理事長)「水道の現場からの報告」/堀内葵氏(AMネット理事)「海外の水の最新事情報告」/神田浩史氏(西濃環境NPOネットワーク副会長)「水行政と市民参加を考える」
  • 日時 2014年2月15日(土)14:00~17:00
  • 場所 グランキューブ大阪(大阪府大阪市)

 第1部で基調講演を担当した橋本淳司氏(水ジャーナリスト)は、日本の水道事業は、今後、「人口の減少」に本気で対応していかねばならないと強調し、超長期に及ぶことになる、その収益環境の悪化を、こう訴えた。

 「これからは、水道を使う人の数が減り続ける。一方では、施設の維持や管理にはコスト負担が重くのしかかる」。

水道料金は、むしろ上がって当然

 これから加速する人口減を見据えて、住民をそれぞれの地域の中心部に(半ば強制的に)集中居住させ、水道網などの小規模化を図り、社会インフラの維持・管理コストを削るという、斬新な政策を実行して実を結ばせるか、あるいは、使用料金を段階的に引き上げていかなければ、もはや維持できない──。今、日本の水道の将来を議論したら、こういう答えしか出てこないのだ。

 大阪市の人口は、2010年が266万人だったが、現在は微増で、おそらく、これがピークになるとされている。橋本氏からは、2040年には250万人割れで、今から50年先の2060年には、211万人にまで減るという試算が紹介された。

 大阪市の場合は、青森や秋田といった東北地方に顕著な過疎化とは、今後も無縁とみられるが、それでも「50年後の大阪市では、これまで10人で支えていた水道事業を8人で支えていく計算になる」。橋本氏は、人口減社会における、水道料金値上げの必然性を、次のように述べた。

 「施設の補修にかかるコストを加味すれば、水道料金が将来的に下がることは、まずあり得ない。水道管の破裂事故だけで、日本の上下水道で年間4000件のペースで発生している。今後は、施設全体に老朽化が進み、関連コストが膨らむ公算が大きい」。

縮小分野の「民営化」はリスク大

 こうした苦境から水道事業を救い出す「妙薬」のように語られがちなのが、橋下大阪市長が提唱する「民営化」だ。昨年4月には、麻生太郎元首相も米国の戦略国際問題研究所(CSIS)での講演で、日本の水道事業の民営化に言及しているが、演壇に立つ橋本氏は、こうした動きに「ノー」を言明する。「これだけ収益環境が悪い中で、日本の水道事業を民間会社に明け渡しても、民営化信奉者が思い描くような成果は得られない」。

 民営化とは、公益セクターへの「市場原理」の導入であり、参入した民間業者は利潤追求を使命にすることになる。ただ、その市場に成長性が見込めないとなれば、コスト削減に血道を上げ、無理矢理にでも利潤を捻出しなければならない。橋本氏は「ユーザー数の減少が確実である水道事業を民営化したら、施設の維持・管理が、ことに長期的な視点で十分でなくなる恐れがある」と警鐘を鳴らした。

 「参入した民間会社が、海外でも水道事業を展開すれば、日本の赤字分を、たとえば新興国の黒字で補うことが可能、といった言説は一見説得的だ。しかし、水道事業をまじめにやって、黒字を計上している民間会社の事例は、実はあまりない」。

 仏ヴェオリアなど、別種の事業を複数展開するコングロマリット企業が、水道事業を抱えている例はあると、橋本氏は指摘する。要は、水道事業だけでグローバル展開しても、得られるビジネス妙味は極めて薄いものになるということだ。

 橋本氏は力を込める。「大阪市民は、安心して飲むことができる水道水があることを、自分たちの財産と見なし、自分たちの手で水道事業を支えていくという気概を持ってほしい」。

大阪市の展開は拙速だ

 第2部の討議では、複数の登壇者が意見を交わした。

 中村寿夫氏(水政策研究所理事長)は、元大阪市水道局職員の立場から、市の水道事業の現状を伝えた。大阪市は現在3つの浄水場を持っており、1日最大243万トンの供給能力がある。ただ、市民の間の節水意識の定着などを背景に、現在の需要は120万トン程度で、フル稼働の半分程度で操業している──。

 そして、大阪市に「水道民営化論」が浮上するまでの経緯に触れた。「能力の半分程度の稼動ということで、橋下さんが2011年12月に大阪市長に就任した後、効率化の観点から、大阪公益水道企業団と大阪市水道の統合協議がスタートした」。

 同企業団とは、大阪府下43市町村のうち、大阪市を除いた42市町村が加盟するものだが、2013年6月、大阪維新以外の4会派が反対し、協議は中止されている。中村氏は「市民が得られるメリットが、はっきりしないことが理由」とした。

 大阪市水道事業の民営化の話は、協議中止から間をあけずに持ち上がったとのこと。「今度は、いきなり『民営化』という言葉が(橋下市長から)語られるようになった」。中村氏は、昨年11月に「民営化素案」が大阪市から出されていることを紹介した。

 素案には、施設は大阪市が所有し続けて、運営する人材管理を民間会社に任せる方針が明記されている。中村氏は「その民営化方針の内容を、この3月までの市議会で、踏み込んだものにする予定も記されているが、議会の中に、拙速な展開を危ぶむ声は多い」と語った。

ボリビア「水戦争」の顛末

 堀内葵氏(AMネット理事)は、海外の水道事業民営化について話した。「1990年代に、アジアとラテンアメリカに『民営化』の波が起こった。アルゼンチン、ボリビア、フィリピン、インドネシアなどの都市部の水道事業においてだが、必ずしも、現地の人たちが望んで民営化が行われたわけではない」。国際的な開発銀行から融資を受ける折に、その条件として、民間業者への開放を通じた水道事業の効率化が課せられてきた、というのである。

 たとえばボリビアでは、世界銀行が同政府にコチャバンバの市営水道会社を民営化するよう勧めており、民営化を実行したら600万ドルの多国間債務を免除するとの特典がついた。

 これを受け、ボリビアの水道は民営化され、米建設大手ベクテル社の子会社が新たな運営会社になるも、水道料金が一気に高騰してしまう。水道代が払えず、供給停止となり、不衛生な水を飲んで病気になる市民も現れたという。

 「海外では、民営化で水道水の質が低下した事例も、かなり報告されている」と堀内氏。国際開発銀行と多国籍企業がタッグを組み、「民営化」との切り口で新興国の公益セクターに攻め入るやり方には、あちこちで市民による抗議運動が起こっており、2000年代の中盤あたりからは、民間企業が手掛けている水道事業を、再び「公営」にする動きが出ていること紹介した。

パリ、再公営化で水道代下がる

 「アルゼンチンでは、一部で水道事業が『再公営化』されており、大きなところでは、たとえばフランスの首都、パリで、25年間ほど民間会社(前出のヴェオリアと、同社と同じ水メジャーである仏スエズ)が運営してきた水道事業が、2010年1月に公営に戻された。パリではすでに、再公営化が奏功し、水道料が8パーセント下がっている」。

 民営化という手法に「料金下落」を期待する向きは多い。しかし、民間企業がビジネスの立場で事業を展開するからには、公営業者とは違って「利潤」を求めることになり、その利潤分は料金に加算されるのは自明だ。また、民営の場合は、公営のように固定資産税が非課税ではないため、税の価格転嫁も実施されることになる。つまり、民営化イコール利用者本位(=料金低下)の議論は、かなりの部分で幻想に根ざしているのだ。

 橋本氏は基調講演で、「今、日本の水道事業を民営化したとしても、仕入れコストが大幅に下がることはない」とし、今や役所も、かなりコストにうるさくなっていることを指摘した。

TPPと水道民営化

 神田浩史氏(西濃環境NPOネットワーク副会長)は、仮に、このタイミングで大阪市水道の民営化と、TPP(環太平洋経済連携協定)の妥結の両方が実現した場合、大阪市水道にパリ並みの「再公営化」は、もはや期待できないだろうと強調した。

 理由は、TPPには(投資家が進出先国を訴えることができる)ISD条項があるからだとし、「大阪市の水道事業が民営化され、運営権が外資に握られた場合、しばらくして、政策変更で公営に戻したとしたら、『商機が奪われ、自分たちは大損した』とISD条項でもって国際裁判が起こされるシナリオが十分考えられる」と説明した。

 神田氏は、広く大阪市民に対し、「TPPへの参加が表明されている中で、水道事業の民営化を進めるなら、逆戻りはできない公算が大きいと覚悟しなければならない」と訴え、「今の大阪市には、橋下市長が、まるで自分の権限であるかのように水道政策を決めて、それを市議会にかければ終わり、という雰囲気が漂っている」と懸念を表明した。

 神田氏は、政府が進める公共政策のすべてに市民が関与することは難しいとしつつも、「水道政策のように、すべての市民に毎日関係してくるテーマに関しては、市民参加が実現する工夫が不可欠だ」と述べ、市民参加のための具対的方策を提案した。

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「先細り水道事業は「公営」で守れ! ~ジャーナリストらが橋下「民営化論」を短絡的と批判」への1件のフィードバック

  1. hotaka43 より:

     水道水とトリチウムの脅威
     トリチウムと言う三重水素は水素そのも、水(H2O)の素だと言うのを御存じですか。このトリチウムは12.32年という半減期を経て、β線を出しながらヘリウム3という安定物質に変わります。このトリチウムが、DNAの塩基対を形成する分子構造を繋ぐ、水素原子としての役割に取って代わってしまう事が可能です。そうしたらどうなるでしょうか?突然、水素がヘリウムに変わってしまうわけですから、塩基対は壊れてしまいます。トリチウムによるDNAの塩基対の直接破壊です。
    もちろん、その部分の遺伝情報は破壊されてしまいます。その結果活性酸素が増え、癌化が惹起きされます。
     江戸時代から癌は有る事が分かっていました。しかし近年その増え方の多さに疑念を持っていました。その疑念の解釈にこの概要が分かって漸く解決をみました。
     核開発以前にこの地球上に在ったトリチウムは、水素の0.1~1%だったそうです。それが現在0.3~3%に増えているそうです。そして今フクイチには膨大な量のそれが有ります。
     又、通常の原発も稼働しているだけで、それを海に放出します。法定量で確か、年間6万ベクレルだった、と記憶しています。更に、六ケ所村の様な再処理工場はそれを1日で放出していい、と決められて居る筈です。これはとんでもない数値です。この為に人間体内の癌化が、他の化学物質との相互作用によって進んでしまっているのではないかと思われます。
     更に、地球全体で絶滅危惧種が増え、海洋生物が減って来ている理由もそこに有るのではないでしょうか。そしてその海の生き物は私達の口に運ばれて、体内に取り込まれます。海の恵みとして。
     家族や親せき、更に今、ご本人が癌で苦しんでいる方、全てと言ってもいいくらいの皆さんが、この作用で病気に成っている可能性が有ります。
     これを伝えないで、何を拡散すればいいのでしょう。地震、津波も怖いですが、動いているだけで生み出されてしまう、
    トリチウム。これの恐怖を皆様に伝えてください。

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