2013年12月6日午後11時23分、”稀代の悪法”特定秘密保護法案が参議院本会議で可決されました。
「採決撤回!」「独裁やめろ!」――
法案可決の一報が入った後も、国会周辺を取り囲んだ多くの市民からは、怒りのシュプレヒコールが上がり続けました。
(岩上安身)
特集 秘密保護法|特集 憲法改正|特集 戦争の代償と歴史認識
★「IWJウィークリー」30号掲載「岩上安身のニュースのトリセツ」より転載
2013年12月6日午後11時23分、”稀代の悪法”特定秘密保護法案が参議院本会議で可決されました。
「採決撤回!」「独裁やめろ!」――
法案可決の一報が入った後も、国会周辺を取り囲んだ多くの市民からは、怒りのシュプレヒコールが上がり続けました。
記事目次
二転三転した森雅子担当大臣の答弁、これまでの国会の慣例を無視した地方公聴会の突然の開催、深夜になって立て続けに行われた民主党委員長の解任決議、そして、委員会での審議打ち切りと強行採決。特定秘密保護法案をめぐる与党の国会運営は、あまりにも横暴かつ強引なものでした。
政府・与党は、なぜこれほどまでに強引な手法を取り、特定秘密保護法の成立を急いだのか。ひとつの説明は、日中間の緊張が高まっているから、というものです。
私は前々号の「IWJウィークリー」28号の「ニュースのトリセツ」で、次のように記しました。
「特定秘密保護法は、単なる治安強化、国民への監視強化を目指した法案ではありません。この『トリセツ』でも再三、指摘してきた通り、日本を戦時体制に改造するための法律であり、その背景をなすのは、『台頭する中国の脅威』論であり、『不朽の日米同盟』が、固く手を携えあって、これを迎え撃つ、という物語です。
その同盟強化のために、秘密は保持されなくてはならない、だから秘密保護法は必要なのだ、という理屈になっているわけです。従って、『中国の脅威』を実感させる出来事が起これば、法案成立の追い風になりうる」
防空識別圏の設定に見られるような「台頭する中国の脅威」を国内にアピールすることで、極めて不備の多い特定秘密保護法案の成立を正当化する。そして、TPP関係閣僚会合を前に、法案の成立を米国に対する手土産として献上する。こうすれば、「不朽の日米同盟」をよりいっそう深化させることができるだろう。これが、安倍政権が思い描く構図です。
事実、特定秘密保護法案の審議の過程で、自民党の議員は、この防空識別圏問題を繰り返し持ち出し、法案の必要性を主張しました。
例えば、2013年12月4日に行われた埼玉での地方公聴会において、自民党の北村経夫議員は次のように発言しています。
「中国が防空識別圏を設定したことにより、東シナ海の安全保障環境は一気に緊張してきました。東アジアには、いまだに東西冷戦構造が残っているのです。
従って、安全保障の情勢の変化に対応するためにも、特定秘密保護法は必要であると考えます。情報を自衛隊が収集するだけでなく、米国や英国との共同作業が必要なのです」
■ハイライト 【埼玉】特定秘密保護法、自民・公明が地方公聴会を強行 公述人3人のうち2人が賛成
しかし、安倍総理をはじめ、大多数の自民党議員が考える、「台頭する中国の脅威」対「不朽の日米同盟」という構図、東アジアにおける「新しい冷戦構造」という構図は、はたして現実のものでしょうか、その大前提が真剣に問われなければなりません。
特定秘密保護法案可決のタイミングで浮上した防空識別圏騒動。これをきっかけに、日本国内で再び急速な高まりをみせる「中国脅威論」。それを論じるに際しては、まず第一に、中国の軍事力がどの程度「脅威」であるのか否か、冷静に確認しておく必要があります。
「IWJウィークリー」28号の「ニュースのトリセツ」で私は、中国の防空識別圏問題について、その経緯を簡単に解説しました。まず、日米両政府が中国政府に対して抗議を行います。それを中国側が突っぱねると、米軍は戦略爆撃機B-52をこの防空識別圏内で飛行させ、その貫禄を見せつけることにより中国側を黙らせたのでした。
中国による防空識別圏の設定を受け、日本政府はすぐさま、日本の民間航空会社に対し、中国の求める飛行計画書を提出しないよう呼びかけました。その一方で、米国務省は2013年11月29日、米民間飛行機会社に、「中国側の要求に従うべきだ」との見解を発表しました。ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空の米航空会社大手3社が、中国当局に飛行計画を提出したと発表したのです。
※「米民間機は中国の要求に従って」、防空圏問題で米国務省 (2013年11月30日、AFP)
※米民間航空3社、中国に防空圏飛行計画を提出(2013年12月2日、ロイター)
ケリー国務長官が緊急の声明を発表し、さらに戦略爆撃機B-52を飛行させるなど、政治的・軍事的なレベルでは、米国は中国をしっかりと牽制するかのような装いを見せ、日本側を安堵させました。しかし、いざ経済上の実利が絡むと、米中はしっかりと落とし所を作るのです。
この特定秘密保護法可決のタイミングでの中国の「軍事行動」は、もう一つありました。
B-52による防空識別圏内での飛行が行われる直前、中国海軍初の空母「遼寧」(りょうねい)が山東省青島の港を出港して南シナ海に向かったという報道が流れたのです。一時、緊張が走りました。青島と南シナ海の間には、尖閣諸島があります。防空識別圏の設定とあわせ、この「遼寧」の出港は、尖閣に対する中国側の極めて挑発的な態度であると、日本側は強く反発しました。その後、「遼寧」の行先については、続報が見当たりません。(毎日新聞 2013年11月26日 中国空母「遼寧」出港 尖閣周辺通過の可能性も)
「遼寧」とは、2012年9月25日に就役した、中国海軍が初めて保有する空母です。旧ソ連の空母「ヴァリャーグ」の未完成の艦隊を中国海軍が入手、改良したもので、50機もの戦闘機が搭載可能だと言われています。遼寧が就役した際、日本では「北東アジアの軍事バランスが変わりかねない」など、強い警戒をもって報じられました。
中国が初めて空母を保有した、というニュースは、昨年来、大手メディアでも大々的に取り上げられてきました。戦略論でいえば、伝統的に「大陸型」国家だった中国が、「海洋型」国家を本格的に目指そうとする姿勢のあらわれであるとも報じられ、「中国脅威論」の象徴として扱われてきたわけです。
しかし、この「遼寧」は、実は「張り子の虎」ではないか、という指摘があります。小河正義・国谷省吾著『空を制するオバマの国家戦略』(実業之日本社、2013.02)には、海上自衛隊幹部と米国防総省担当者の証言として、遼寧に関する以下のような記述が登場します。
これは本当に空母といえるものなのだろうか。空母超大国のアメリカの評価は厳しいものだった。当時のニューヨーク・タイムズ紙はこう報じている。『中国は国家元首まで登場して初の空母保有を宣言したが、中国が誇る初の空母は外国向けの誇示に過ぎず、中身はない』。つまり周辺国を脅かすための『張りぼて』と喝破したのだ。
米国務省に至ってはもっとそっけなかった。『特に驚くべきことはない』(国防総省スポークスマン)。少なくとも日本のマスコミが報じたような『軍事バランスをただちに変える』ライバルの出現とは思っていないのは確かなようだ。
海上自衛隊の中には、『日本のヘリコプター搭載護衛艦(ヘリ空母)の出現におっとり刀ででてきた鉄クズ空母』との声まである。米国防総省の担当者は試験航海する『遼寧』の偵察衛星から送られた写真をみて吹き出したという。
『甲板に艦載機ゼロ。カタパルトも発艦装置もない』。「遼寧」は世上言われるような空母ではなく、ただの全通型甲板を持つ”輸送船”だったという。これでは短時間に艦載機を何十機も飛ばせる空母の姿に程遠いというわけだ。[91ページ]
この記述が事実ならば、「遼寧」は、日本国内で大々的に喧伝されているほどの実戦能力を持った空母ではない、ということになります。
日本側は「遼寧」の存在を過大に警戒していますが、ここ数年で軍事力の増強を図ってきたのは、中国ではなく、実は日本側なのだと、小河・国谷両氏は、同書の中で綴ります。
日本の海上自衛隊は、2009年3月、「ひゅうが」を、そして2011年3月には「いせ」を、それぞれ就役させています。
海上自衛隊は、この「ひゅうが」と「いせ」を、潜水艦による攻撃に備えるための「ヘリコプター護衛艦」だと称している。しかし、「ひゅうが」と「いせ」の実態は、それぞれ11機のヘリコプターを搭載している「ヘリ空母」なのです。さらに、いざとなれば、簡単な甲板修復で、ハリアー戦闘機10機を搭載することも可能だと言われています。
このような「ひゅうが」や「いせ」のようなタイプの「護衛艦」は、海外では「STVOL空母」と呼ばれます。「STVOL」機とは、短距離での離陸と垂直着陸ができる戦闘機のことです。つまり、「ひゅうが」や「いせ」は、甲板修復を行い、戦闘機を搭載すれば、いつでも攻撃用の空母に様変わりすることが可能なのです。
防衛省は海自最大のヘリコプター護衛艦『22DDH』を建造中だ。基準排水量一万九五〇〇トン、長さ二四八メートルの全通型飛行甲板を持ち、『護衛艦』と称するが外見は空母そのものだ。(中略)
将来は『F35』戦闘機も艦載機として運用できるよう飛行甲板の強度と耐熱度を強化した設計となっている。『日本が国内世論や中国の批判を恐れて護衛艦と強弁しても無理。世界の軍事常識からみれば22DDHは最強の空母の分類であり、仮に艦載機をオスプレイや対潜ヘリだけに限定してもヘリ空母と呼ばれる主役級の現代空母になる』とロシアの軍事専門家は警戒を隠さない。[85ページ]
この「22DDH」と、「いせ」「ひゅうが」そして輸送艦の「おおすみ」を加えると、日本は実質的には「空母」の機能を備える艦船を4隻保有することになる、といいます。
なお、「22DDH」は、今年の2013年8月6日、「いずも」として進水しました。就役は2015年3月の予定とされています。(産経新聞 2013年8月6日 海自最大艦「いずも」進水 15年に就役)
※「いずも」の進水式の様子は、海上自衛隊が動画を公開している。動画をご覧いただければ、非常に巨大な「空母」であることがお分かりいただけると思う。この進水式には、麻生太郎副総理、石破茂自民党幹事長が参加している。
■【命名・進水式】 新型護衛艦 “22DDH「いずも」” New class DDH-183 IZUMO
「空母」を「空母」とあえて呼ばないことについて、小河・国谷両筆者は、「空母保有に対する周辺国の軋轢(あつれき)や、左翼や反日勢力の非難を考慮した賢明な対応といえるかもしれない」と記しています。
この表現からわかる通り、両氏は左派の人間ではなく、どちらかと言えば右派の論客であろうと思われます。小河正義氏は航空評論家で元日経新聞編集委員。国谷省吾氏は大手新聞(どこの新聞かは明記せず)で勤務後、アジア企業のコンサルタントも務める国際ジャーナリストであると、同書に肩書きが記されています。
彼らのような、どちらかといえば右寄りの論客の目から見ても、東アジアの海域で一方的な軍備増強を図っているのは中国海軍というよりも、むしろ米軍および海上自衛隊の方が先行しており、それが中国側に過剰な刺激を与えている、と映っているようです
私が2013年12月5日にインタビューを行った、「有事法制」研究の第一人者の山口大学副学長の纐纈(こうけつ)厚氏も、次のように指摘しました。
「中国が『遼寧』という空母を保有したのは、実際の戦闘に使用するためではなく、中国人民解放軍が自らの軍事的プライドを担保するための装備です。この装備に、どれだけの軍事的な有効性、汎用性があるかは、非常に疑問です。
それから、『遼寧』に載っている戦闘機は非常に旧式です。ですから、例えば米国の第7艦隊などには、とてもではありませんが歯が立ちません。ですから、具体的な戦闘は、千歩一万歩譲っても、ないと思います」
■ハイライト 岩上安身による山口大学副学長・纐纈厚氏インタビュー
こう指摘する纐纈氏は、ほとんど報じられることのない海上自衛隊の実態を明らかにしました。
「日本の自衛隊は、防衛省は大型護衛艦と言っていますけど、1万トンを超える空母があります。このたび、フィリピンにも行きましたよね(産経新聞 2013年11月13日 フィリピン救援に海自最大艦「いせ」など3隻、1000人規模派遣)。
飛行甲板が左舷に集中配備されていて、135メートルあります。これは、ヘリ空母です。イギリスから技術を提供してもらって、飛行甲板ができたんですね。昔だったら軍艦と言われたものですが、それを護衛艦と言って作ろうとしているのです
完全に、今の日本の海上自衛隊は『外征型』です。『専守防衛』などという言葉は、もはや彼らの中では死語です。自衛隊の幹部は、本音では『専守防衛』なんて思っていません。それは、海上保安庁に任せればいい、と思っています。『俺たちは外に出て行って、周辺事態に備える』、という腹なんですね」
その実態を糊塗され、日本国内では強調される「中国脅威論」。その声に後押しされ、着々と重武装化を進める日本の自衛隊。
今国会で可決した特定秘密保護法案と日本版NSCの創設、そして来年初頭にも行われるのではないかと懸念される解釈改憲による集団的自衛権の行使容認とは、「中国の脅威とそれに対抗する自衛隊」という、「物語」に力を得て、日本周辺の有事どころか、「地球の裏側でも、宇宙でも」(安保法制懇の北岡伸一座長代理)米軍につき従って戦争する体制を整えているのです。
もうひとつ、改めて検証しなくてはならないのは、ここまで日中関係が急速にこじれてしまったのはなぜか、どういう道筋をたどってのことか、という経緯です。
事の発端は、今から1年半前。2012年4月16日に飛び出した、以下の発言でした。
「東京都はあの尖閣諸島を買います。買うことにしました。たぶん、私が留守の間に実務者が決めているでしょう。
本当はね、国が買い上げたほうがいいんだけれども、国が買い上げると支那が怒るからね。なんか外務省がビクビクビクビクしてやがんの」
これは、昨年の2012年4月16日、当時東京都知事だった石原慎太郎氏が、東京都による尖閣諸島の購入を宣言した際の発言です。現在に至る日中関係の極端な悪化の、まさに起点となる爆弾発言です。
この発言以降、尖閣諸島を巡り日中関係がどのように悪化したのか、時系列で簡単に振り返ってみましょう。
2012年4月16日の石原氏の発言に対し、中国外交部はすぐさま「日本側のいかなる一方的な措置も違法かつ無効であり、この島が中国に属するという事実を変えることはできない」との談話を発表、東京都による尖閣諸島購入の構えに強く反発しました。
それに対し、当時の野田佳彦総理は2012年5月18日、中国政府の反発を和らげ「平穏かつ安定的な維持管理」をするためなどとして、政府関係者に尖閣諸島の国有化を指示、2012年7月7日には、実際に国有化の方針を正式に表明しました。
そして2012年9月10日、日本政府は、尖閣諸島の中から、魚釣島、南小島、北小島の3島の国有化を閣議決定。藤村修官房長官はその日の会見で、「所有者が売却したい意向を示した。第三者が買えば平穏かつ安定的な維持管理の目的が果たせなくなる」と国有化の必要性を強調しました。そして日本政府は、翌9月11日、3島を20億5千万円で購入し、日本国への所有権移転登記を完了させました。
しかし、野田総理のこの決断は、中国側の「反発を和らげる」どころか、実際には、逆に激しい反発を招くことになりました。国有化の方針が正式に表明されたその日、中国の漁船監視船3隻が日本の領海内に侵入。2012年8月17日には、香港の民間抗議船が尖閣諸島に上陸します。
2012年9月15日には中国27都市で大規模な反日デモが行われ、反日気運が毎年盛り上がる柳条湖事件の起きた日にあたる2012年9月18日には、多くの日系企業がデモ隊に襲われました。
柳条湖事件とは、1931(昭和6)年、奉天(現・審陽)の郊外・柳条湖で、日本の関東軍が自らの手で南満州鉄道の線路を爆破しておきながら、張学良の東北軍による破壊工作によるものだと発表し、満州(現在は中国東北部)への武力侵攻を開始した、忌まわしい謀略事件です。これが満州事変の発端となったことは、戦後生まれの日本人の多くが忘れてしまっていても、被害を受けた中国人は忘れてはいません。「ナショナリズム」という燃えやすい枯れ葉のような感情の山に、マッチをすって放り投げたようなものです。
かくて、日中国交正常化以来、積み上げてきた平和と信頼関係の構築、共存共栄に向けての努力は灰燼に帰し、日中間の怒り、憎悪、恐怖、敵対感情は、戦後最悪の状態にまで高まってしまいました。日本人にとっても、中国人にとっても、これは「悲劇」という他はありません。
ここで、注目しなくてはならないのは、日中関係悪化のきっかけを作った石原発言が飛び出したのが、日本ではなく、米国、それもワシントンの保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」での講演であった、という事実です。
そのヘリテージ財団が、今から約一年前の2012年11月14日、すなわち、野田佳彦前総理と安倍晋三自民党総裁が芝居がかった党首討論を行い、衆議院の解散が决まったまさにその日、「米国は日本の政治的変化を利用して同盟を深化させるべきである」と題するレポートを発表しました。
執筆したのは、ブルース・クリングナー。ヘリテージ財団の上席研究員で、CIAの朝鮮半島分析官を務めた経歴を持つ人物です。
彼はこのレポートの冒頭でまず「安倍晋三元首相が日本の次期首相に選ばれることになりそうだ」と予測。そのうえで、「安倍氏の外交姿勢が保守的であり、日本国民のあいだに中国への懸念が広がりつつあるという状況は、米国政府にとって、日米同盟の健全性維持のために死活的に重要な数項目の政策目標を達成する絶好の機会である」と指摘したのです。
ヘリテージ財団レポート
(”BACKGROUNDER” 第2743号(2012年11月14日発行))
「米国は日本の政治的変化を利用して同盟を深化させるべきである」
ブルース・クリングナー(ヘリテージ財団アジア研究所北東アジア上席研究員)【レポート原文はこちら(英文)】http://herit.ag/QGxuSz
●要約
保守系の自民党が次期総選挙で第一党になり、党首の安倍晋三元首相が日本の次期首相に選ばれることになりそうだ。安倍氏の外交姿勢が保守的であり、日本国民のあいだに中国への懸念が広がりつつあるという状況は、米国政府にとって、日米同盟の健全性維持のために死活的に重要な数項目の政策目標を達成する絶好の機会である。
石原氏に「尖閣購入発言」の舞台を提供し、中国と日本の両国で憎悪と悪性のナショナリズムの炎が燃え広がる「悲劇」を見届けながら、右傾化する日本の政治状況をにらみすえて、この状況を米国の政治的目的達成のために利用しよう、とこのレポートはあからさまに述べるのです。
さらに、クリングナー論文は以下のように続きます。
米国政府は長きにわたって、日本が自国の防衛により大きな役割を担うこと、さらに海外の安全保障についてもその軍事力・経済力に見合う責任を負担することを求めてきた。日本が防衛費支出を増大させ、集団的自衛権行使を可能にし、海外平和維持活動への部隊派遣に関する法規を緩和し、沖縄における米海兵隊航空基地代替施設の建設を推進することになるとすれば、米国にとって有益なことである。
すなわち、日本が防衛支出を増やすことも、集団的自衛権行使容認という日本の憲法解釈にかかわる重大な問題も、普天間飛行場の辺野古への移転も、一見、日本の安全保障のために、日本政府自らが主体となって進めているかのように装いながら、実のところ、米国の利益のため、「米国にとって死活的に重要な政治的目的を達成するため」に進めている政策である、ということです。
現代の「軍機保護法」である「特定秘密保護法」が強行採決されたのは、まさにそのためなのです。