知的障害等を持つ男性が、5人の警察官に取り押さえられて亡くなった事件に関して、ドキュメンタリー映画の上映や関係者のトークを通して、警察や裁判所などの障害者に対する理解について問うイベントが、2024年4月17日、東京・永田町の星稜会館ホールで開催された。
主催は、安永健太さん事件に学び共生社会を実現する会(略称:健太さんの会)。
- 知的障害のある安永健太さんの死亡事件を考える(健太さんの会)
2007年9月25日、佐賀市在住の安永健太さん(当時25歳)が、自転車で障害者作業所から帰宅中に不審者と間違われ、警察官から後ろ手錠をかけられ、5人の警察官にうつぶせに取り押さえられて、突然亡くなった。
警察は、健太さんは「精神錯乱」状態だったので「保護」したと主張し、後述の裁判で警察の行為は正当とされる。
健太さんは、中程度の知的障害を伴う自閉症スペクトラム障害があり、コミュニケーションが難しい特性があった。警察官と相対した時も、「アーウー」としか言葉を発しなかったが、警察官は誰一人として健太さんに障害があることに気付かなかったという。
取り押さえた警察官はいったん不起訴処分になったが、真相究明のために家族が、警察官に対する刑事裁判を要求。裁判は行われたものの、無罪となる。同じく佐賀県警に対する民事訴訟でも、県の責任は認められなかった。
民事裁判の判決は、「言動などから障害があるとわかる場合には、警察官は、ゆっくりと穏やかに話しかけて近くで見守るなど、その特性を踏まえた適切な対応をしなければならない」としたが、「障害があるとわかる場合」はきわめて限定的とされ、健太さんのケースでは適用されなかったという。
こうした点から、健太さんの会では、「警察、裁判所ともに障害への理解が不十分であることが露呈された」として、同様の悲惨な事件を再び起こさないために、警察、司法、社会の障害への理解を深めていく活動を行っている。
イベントは、健太さん事件のドキュメンタリー映画「いつもの帰り道で─安永健太さんの死が問いかけるもの」上映と、健太さんの父親、弟、同映画の監督、支援者、弁護士などのクロストーク「安永健太さん事件が今に語りかけること」、さらに、「障害のある人と司法手続き・警察のあり方」と題した、研究者、弁護士、福祉現場に携わる方によるシンポジウムの、3部構成で行われた。
健太さんの弟の安永浩太氏は、「兄ちゃんの事件は、警察の無知から始まった」「取り押さえた50代の警察官は、何十年と警察官をやってきて、知的障害者にあったことがないと言った。障害者手帳も知らなかったという。こんな人間が、警察官をやっているのか」
「若い警察官は研修を受けているはずだが、彼もわからなかったと言う。知ろうとしない。
『不審者だから、こいつおかしいから、取り押さえろ。間違って死んじゃった。死んでも、自分たち悪くないよね』で、まかり通るのが今の法律だ」
「自分の親兄弟や、恋人、大切な人が死んだら、どう思うか」「こんなでたらめな法律があるか。これをなくしたい」と、思いを絞り出すように訴えた。
詳しくは、全編動画を御覧いただきたい。