2020年5月25日に米国ミネソタ州で起きた、ジョージ・フロイド氏の死亡事件から1年が経過した。白人警察官がフロイド氏の首を9分間以上膝で押さえつけて死亡させた事件で、全米のみならず世界規模での「ブラック・ライヴス・マター」運動につながった。
▲2020年5月30日の「ジョージ・フロイド広場」の様子(wikipediaより、「赤いオーニング(日除け)のすぐ左でフロイド氏は殺された」と注がある。撮影・Fibonacci Blue)
ミネアポリスでは、フロイドさんが死亡した交差点は事件以来、「ジョージ・フロイド広場」と名付けられ、追悼広場となっている。25日にはジョージ・フロイド広場に大勢の人が集まったが、30発近い発砲があり、現場の記者が一時退却する場面があった。
フロイド氏を死亡させた元警官は4月20日に有罪判決を受けた。この種の事件で警官の犯罪を認めたという点で画期的な判決であったとはいえ、警察改革法案は、フロイド氏の命日を過ぎても議会で停滞し、成立していない。「ジョージ・フロイド警察活動正義法案」と呼ばれる警察改革法案に反対する共和党と民主党が真っ向対立しているからだ。
バイデン大統領はフロイド氏の命日にフロイド氏の遺族と面会したが、フロイド氏の妹は「兄の命日までに法案を成立させなかった」といってこの面会を拒否した。
米国の黒人差別問題は、「プライベートプリズン」の問題とも深く関わっている。新自由主義的な政策を進めてきた米国では、刑務所の民営化が進み、囚人の廉価な朗読力を利用した「刑務所ビジネス」が各州の経済にがっちりと組み込まれている。
犯罪厳罰主義を徹底し、大量投獄問題をつくる大きな要因となった1994年の暴力犯罪取締法は別名「バイデン法」とも言われている。バイデン氏自身が積極的に推進したからである。
バイデン政権は中国を新疆ウイグル自治区の人権侵害・虐待・ホロコーストだと厳しく批判し、軍事的な圧力までかけているが、「自由と人権」を標榜する米国自身が、刑務所-産業複合体の「刑務所ビジネス」によって人種差別を制度化しているのが実態である。
元警官、デレク・ショーヴィン被告に画期的な有罪判決
▲フロイド氏を死亡させたデレク・マイケル・ショーヴィン被告(wikipediaより)
フロイド氏を死亡させた、デレク・ショーヴィン被告(元警官)は、4月20日に、第2級殺人、第3級殺人、故殺の3つ罪すべてで有罪評決を受けた。殺意の有無に関わらず適用される第2級殺人罪の量刑は最長禁錮40年だ。
これまで米国では、白人警官が黒人容疑者を拘束して死に至らせるといった事件で、警官が有罪となることは稀だったので、この評決は今後の裁判に大きな影響を与えるとBBCは分析している。
評決を受けて、バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領はフロイド氏の遺族に電話をかけ、「もっと多くがなされるようにしていく。今回の評決は、社会に広がっている真の人種差別に向けた最初の一撃となる」(バイデン氏)、「この法案(ジョージ・フロイド警察活動正義法案、警察改革のための法案である)はジョージ・フロイドのレガシーの一部だ。もうとっくに成立しているべきだ」(ハリス氏)と話した。
バイデン大統領の面会を、フロイド氏の妹は「約束を破った」として拒否
▲世界的に大きな衝撃を与えたフロイド事件。「息ができない」というフロイド氏の最後の言葉を書いたストリートアートがベルリンのマウアー公園に描かれている。(wikipediaより、撮影・Singlespeedfahrer)
バイデン大統領はジョージ・フロイド氏の命日である25日に、遺族と面会したが、フロイド氏の妹、ブリジット・フロイド氏は、兄の命日までに「ジョージ・フロイド警察活動正義法」を成立されるという約束について、「バイデンは法案に署名していない。約束を破った」と怒りを表明し、バイデン氏に面会しなかった。
バイデン大統領は遺族との面会後に、「真の変化をもたらすには、法執行職員(警察官など)が誓いを破った場合に、我々が説明責任を果たさなければならない」と述べ、あらためジョージ・フロイド警察活動正義法を支持し続けるという声明を出したが、法案はいまだ議会で停滞している。
議会で停滞している理由は、警察組織との結びつきが強い共和党側が、ジョージ・フロイド警察活動正義法の免責事項の範囲を狭める規定に反対しており、民主党のリベラル派は免責事項を廃止しなければ法案には賛成しないと主張し、真っ向から対立しているからである。
新自由主義が生み出した米国社会の闇「プライベート・プリズン」
▲1852年7月開設のマリン郡のサンクエンティン刑務所。(wikipedia、撮影・Zboralski )
さらに背景には、人種差別と結びついた「プライベート・プリズン」の問題もある。
新自由主義的な政策が徹底して進められてきた米国では、刑務所の民営化が進み、時給40セント(50円)といった超低賃金労働を囚人にさせ、そこから部屋代や医療費を天引きするといったヤクザ顔負けの劣悪な強制労働収容所のようなことが堂々とまかり通っている。囚人を無償に近い賃金で働かせる奴隷労働力とみなす、やり方だ。
かつて米国は、ナチス・ドイツの強制収容キャンプや、ソ連の「収容所群島」(ソ連のノーベル賞作家、ソルジェニーツィンによる呼称)にも批判を加え、自由と人権の尊重を訴えてきたはずだ。
しかし、スリーストライク制という、3回重罪を犯したら自動的に終身刑という制度とともに、このように囚人の入った刑務所まるごと民営化して、工場経営者などに渡し、超安価な奴隷労働力として使うという人権無視がまかり通っている。
今の米国は、根本からモラルが根腐れてきている。他国に向かって人権の尊重や、人種差別の撤廃を求める資格もない。
「刑務所ビジネス」によって強制労働させられる超低賃金労働者を獲得するために、ホームレスを監視し、微罪で逮捕・収監する事例が増えている事実を、堤未果氏は指摘している。
大量投獄問題をつくる大きな要因となった「バイデン法」――米国の正体
▲バイデン大統領(The White Houseより)
米国では19世紀の奴隷解放令以降、労働力不足に困った白人農園主たちが、黒人を「犯罪者」に仕立てあげて、奴隷労働者として使用した歴史がある。
現在、全米200万人の囚人の4割が黒人であり、その中で最も多い罪状は大麻所持である。プラベートプリズンはこうして黒人差別問題と直結し、「獄内低賃金労働者」の労働力が、州経済にとって欠かせない存在になっている。
IWJでは、日刊ガイドで「プライベート・プリズン」の問題を詳しく取り上げている。ぜひ、こちらもあわせて御読みください。
1994年の暴力犯罪取締法は、通称「バイデン法」と呼ばれている。
この「バイデン法」について、「史上最大の犯罪取締法ともいわれ、銃規制なども進めたが、基本は『犯罪厳罰主義(tough-on-crime)』。警官によるフロイドさん殺害事件をきっかけに『制度的人種差別』論議の焦点の一つとなった大量投獄問題をつくる大きな要因となった。死刑も増大した」と、会田弘継氏は指摘している。
制度化され、刑務所-産業複合体によるビジネスと結びついた人種差別。「ブラック・ライヴズ・マター」は、刑務所ビジネスに直結した人種差別的な大量投獄にも抗議しているが、これが他国に向かって「自由と人権」を訴え、それを理由として武力による「人道的介入」まで行ってきたのが、米国社会の「正体」なのである。
中国においてチベットやウイグル人が弾圧されているのは、事実であるとは思うが、それを声高に言い立て、各国の軍隊まで出して、中国包囲網クアッドを形成し、「人道的介入」主義的な武力攻撃の理由としようとしているのは、目をそむけたくなるような偽善であり、欺瞞だと感じざるをえない。