2022年4月27日、午後6時より、東京都千代田区のスペースたんぽぽにて、たんぽぽ舎の主催による、新ちょぼゼミシリーズ「オルタナティブな日本をめざして」『生命操作時代の科学・技術、社会』が開催された。講師は、現在、柳原病院在宅診療部勤務の医師で、ゲノム問題検討会議賛同人の上林茂暢(かんばやししげのぶ)氏。
上林氏は、まず、自らの医師としての経歴を語り、その時々の医療現場における制度的・政治的な変化に対し、自身が、生命科学の観点からどのような問題意識・関心を持ち、取り組んできたのかについて時系列で説明した。
その上で上林氏は、「医学の進歩は本来、人間のためにあるのに、なぜ、薬害や公害など、非人間的かつ反社会的な事態が出来してしまうのか」と、問題提起した。
また、老人医療や精神医療における隔離などの問題について、「医療を単なる技術の問題ではなく、人権、つまり、人間の生き方の問題として考える『人権意識』が必要」であり、さらに「その人権意識をきちっとやるためには、医療はもっと『社会化』しなければならない」と訴えた。
上林氏は、「(ゲノムの解析や編集など)医療技術がここまで高度になり、生命の中枢までいじれるとすれば、安全性の問題だけではなく、人間社会の生き方の問題まで一緒に問うような原則を抜きにしては、本当に悲惨なことになるし、本当に健全な形での発展はないのではないか?」と問いかけた。
そして「各論的にはもちろん、どういうふうにしたらいいかといのはいくらでもあるが、やはり、僕は今、小さいごちゃごちゃした話をするよりは、大本から見て、この技術はどういうところに抵触し、どこを修正しなければいけないかということを考えるべき時期であり、新しい技術が出てきたからといって、万々歳ではなく、それは極めて限定的な技術でしかない」と結論づけた。
質疑応答では、参加者からの「生命を生命たらしめている要素は遺伝子だけではなく、総合的なもので、人間が考えつかないようなもの凄いバランスの中ですべてが成り立っており、ひとつの要素を取り出して、その善悪を勝手に決めつけること自体が間違いではないか」との質問に対し、上林氏は以下のように答えた。
「ひと昔前は、『遺伝子決定論』というものがあって、遺伝子が人の性格までも決定するといわれていたが、それはゲノム解析の過程で崩れた。そういった部分に関係しているのは、ゲノム全体の2%。98%は役割が分かっていない。
ということは、生命というものを詰めていこうと思うのならば、相当戦略的なステップを踏まなければできない。安全性について、もっともっと段階を踏まないといけないし、単純にちょっと何かがわかったからといって、それで済んじゃうような研究者もまだ多い。(中略)それをやって、何かとんでもないことが起こって、想定外でした、なんて冗談じゃない。
それを事前に評価するために、もっともっと、ちゃんと叡知を集めてやる必要がある」。
上林氏の講演、および質疑応答の詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。