【岩上安身のファイト&スポーツ】五輪2連覇の世界王者同士の初対決! しかしリゴンドーすら、超人的技巧派ロマチェンコにはなすすべなし! この人間離れした強さ・巧さ・速さに、同日に同級の王座を獲得した尾川堅一の立場は!? 2017.12.10

記事公開日:2017.12.11 テキスト
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(岩上安身)

 ついに始まった五輪2連覇経験のある世界王者同士の史上初の対決。しかも究極のテクニシャン同士。サウスポー同士で構えあったが、急所のレバーが前になる。これをどちらが打てるか。リゴンドーはボディショット一発でKOの山を築いてきた。超人的技巧派のロマチェンコが有利と言われてきたが、リゴンドーには左の一撃必殺の一発がある。ロマチェンコ、いつもより慎重。

▲インスタグラムより

 1ラウンド、様子を見ていたロマチェンコ、スピードと反応で自分が上回ると判断したのか、3ラウンドから見切ったようにロマチェンコはいつもの多様で自由自在な動きを始めた。

 3、4ラウンド以降、ロマチェンコは細かいフェイント、踊るようなフットワーク(小さい頃からダンスを習い続けてきた)、多彩な手数。あの人間離れした反射神経を持つリゴンドーの反応が遅れる。

 5ラウンドになるとますますロマチェンコの超絶的な手数が増えてワンマンショー状態。リゴンドーが何もできない。ダッキングしたままの低い姿勢をキープしたままという、反則スレスレて逃れるのみ(頭をベルト以下の位置に持っていくのは反則)。

 驚きというか、唖然というか、呆れたというか。圧倒されていたリゴンドーが試合放棄で、ロマチェンコのTKO勝利。いわゆるロマチェンコ勝ち。KOされる前に相手が、ロマチェンコとの力量差に何もできずと心を折られて棄権するという試合が4試合連続。

▲勝利したロマチェンコ

 リング上で試合後の興奮も収まらない状態で勝者と敗者にすぐインタビューするのが、アメリカ。これに即応できないような選手は選手としても人間としてもパフォーマーとしても相手にされない。

▲インタビューを受けるリゴンドー

 リゴンドーは左の拳を2回で痛めたのを棄権の言い訳にしたが、いつそんな強打を打ったのか。井上尚弥の爪の垢でも煎じて飲め、と言いたい。

 リゴンドーは何もできなかった。最後のラウンドには相手の腕を抱え込むホールドの反則。ロマチェンコは、クリンチから逃れる時に腰を引いてうまく体を離し、相手が接近戦でのロマチェンコのパンチを恐れ、ロマチェンコの腕をホールドしていることをアピールするのがうまい。

 毎試合、このホールドのアピールをふるのもロマチェンコのインサイドワークのひとつなのだが、まんまと反則まで取られたリゴンドーはメンツ丸つぶれ。その直後、棄権となった。

 リゴンドーは何もできなかった。それでも彼が、卓越した巧さ、速さ、強さをもつ世界屈指のボクサーであることに何の疑問もない。闘志には疑問符がついたが。

 だが、そのリゴンドーをもってしても、ロマチェンコに対してなすすべもなかったという事実。これがこのスーパーマッチの全てだ。

 メイウェザー対パッキャオ、ジョシュア対クリチコ、ゴロフキン対カネロ、どのスーパーマッチも接戦だった。史上初の五輪2連覇同士の対決、というこのスーパーマッチも、同様に競り合うものと思われた。ロマチェンコ有利と言われたもののオッズは4対1。

 それが、パワーや体格差ではなく、技術とスピードでここまでロマチェンコがリゴンドーを圧倒するとは。いったい誰がロマチェンコと互角の勝負ができるのか。いきなりプレッシャーをかけるわけではないが、尾川堅一の立場はどうなるのか。

▲チャンピオンベルトを着けた尾川堅一

 しかし人間離れした強さ、巧さ、速さを見せたロマチェンコもまた、尾川と同級のWBOのスーパーフェザー級世界王者。同級にこんな化け物がいるという悲劇。どうしても比べられないわけがない。

 その点はゴロフキンという絶対王者がいるミドル級において、村田がまだ真の同級世界王者とは言い難いのと同じ。もっともボクサー離れした知性をもつ村田は、王座獲得直後のリング上のインタビューで「自分より強い王者がいる」と認めたが。

 村田対ゴロフキンの統一戦がもし行われたら、ゴロフキンが年齢もありやや翳りを見せていることもあって、1割か2割くらいは村田が勝つ可能性があるかもしれない。しかし、尾川とロマチェンコの統一戦では、尾川が勝つ可能性は限りなくゼロに近い。

 現代では、ボクシングはメジャーだけでも4団体に分かれており、さらに正規王者にスーパー王者まで認定されたりするので、どこかのタイトルを取った、というだけでは評価されない。

 統一戦などを経て、複数のベルトを持ち、その階級で対立王者を凌駕して世界一と評価される必要がある。あるいは階級を上げて複数階級王者となり名を馳せるか。大物同士が、タイトル関係なしにビッグマッチを行なってビッグマネーを勝ち得るか。

 だから同級の他団体王者との統一戦は、世界王者となった瞬間からテーマとなる。この年末の31日にはWBA王者の田口良一と、IBF王者のミラン・メリンドとの、ライトフライ級の統一戦が行われる。

 メリンドは八重樫東に圧勝してタイトルを奪取しており、王者を名乗るにふさわしい実力者。田口良一との統一戦は、今年のボクシング界のトリをつとめるにふさわしいカードであると間違いなくいえる。

 その点、気の毒というのか、ファンとしてはため息続きなのが、井上尚弥である。井上はWBOスーパーフライ級王者。この階級はタレントが揃った激戦の注目階級と言われている。

 スーパーフライ級の選手ばかり集めたSuperflyという興行が今年の9月に米国で行われ、井上は米国初上陸を果たし、同級7位のニエベスを圧倒して勝利した。この興業の第二弾となるSuperfly2が来年2月にも予定されている。

 井上は今度こそ大舞台で統一戦ができると意気込み、年末30日の防衛戦から2ヶ月弱で統一戦という強行スケジュールにもかかわらず、出場に意欲を見せてきた。その相手として予定されていたのがIBF王者のアンカハス。侮れないフィリピンの強打者である。

 しかし、九分九厘、決定と思われていたこのカードが、急遽、中止となってしまった。アンカハスが契約の関係で「2.24」不出場を決めたというのであるが、合点がいかない。

 もう一人、英国のWBA王者ヤファイ。彼は村中優、石田匠と日本人の挑戦を連続して退けてきたが、井上とは対戦拒否。よほどの大金が積まれないとやらないそうだ。つまり勝てないと自ら告白したに等しい。

 WBCは王者シーサケットが、挑戦者決定戦でクアドラスに勝ったエストラーダの挑戦を受けることが決定済み。せっかくのSuperfly2というのに、井上は統一戦もできない。

 もう統一戦は不戦勝、井上尚弥が同級最強ということでいいのでは?一階級上げてバンタムで3階級制覇を目指せとの声もある。強すぎて相手に逃げられてしまう王者というのも考えもの。ロマゴンが勝ち続けてさえいれば、と思うと、実にもったいなくもある。

※2017年12月10日付けのツイートを並べて加筆し、掲載しています。

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