難民審査で「あなたは難民としては元気すぎる」!? ~難民審査参与員の問題事例が全国難民弁護団連絡会議に多数報告される!! ――同会が改善求め法務省に申入書を提出 2017.9.12

記事公開日:2017.9.12取材地: テキスト動画
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(取材:阿部洋地 文:宇佐見俊)

※2018年6月7日テキストを追加しました。

 「軍人にレイプされたのは、あなたが美人だったから?」

 宗教や民族、政治的な理由などから自国で迫害され、日本に逃れて来た人々を、難民として受け入れるかを検討する難民認定審査。当事者の人生を左右する重要な場であるにもかかわらず、審査に関わる難民審査参与員(*1)から、申請者の人格を傷つけるような不適切な発言が数多くなされていると、審査に立ち会った弁護士らが明らかにした。

 2017年9月12日、全国難民弁護団連絡会議(*2)は、「難民審査参与員の問題発言・行動に対する申入書」を、法務省入国管理局審判課長の根岸功氏に提出した。その後、同会議の代表である渡辺彰悟弁護士らが、東京地方裁判所内の司法記者クラブにて緊急記者会見を開催した。

▲全国難民弁護団連絡会議による記者会見(2017年9月12日、IWJ撮影)

 同連絡会議が取りまとめた事例集では、性暴力を受けていた女性に「美人だから狙われたのか」「妊娠したのでは」など、無神経な言葉を投げかけた例や、申請者を動物のキャラクターになぞらえてバカにするような態度、就労許可を得ている申請者に「難民申請者のくせに、働いていいのか」と言うなど、人権意識に欠けた言動が多数報告されている。

 「これらは弁護士が同席して見聞きしたものなので、実際はもっと多いと思う。しかも、あとで調書を確認すると、問題発言が正しく記録されていないことが多い。きちんと訂正できる仕組みもない」と渡辺弁護士は言う。まず、正確な記録を残し、審査の検証を可能にする必要があると訴えた。

 さらに、「難民認定申請者の希望を奪うような、現在の難民審査参与員制度は見直しが必要だ」とし、これを放置してきた法務省に対して抜本的な改善を求めた。

 なお、この会見から10日後の9月22日、上川陽子法務大臣は性暴力被害者の女性に対する難民審査参与員の不適切な発言を認め、「難民認定に携わる者は常に人権意識が必要」と述べて、再発防止を図るとした。一方で、麻生太郎副総理は9月23日、北朝鮮有事により朝鮮半島から大量の難民が日本に来る可能性に触れ、「武装難民かもしれない。(そうならば)防衛出動か、射殺か」と発言している。

*1)難民審査参与員
日本の難民認定制度は1981年に創設。その後、国際情勢の変動に伴い、難民認定を取り巻く状況も大幅に変化したため、より公正・中立な手続で難民の適切な庇護を図る目的で、2005年に難民審査参与員制度ができた。2016年、新しい行政不服審査法の施行に伴い、難民審査参与員を同法の審理員とみなし、難民認定申請に対する不作為についての審査請求の手続にも同制度を適用する等の法改正が行われた。2017年9月現在、89名の難民審査参与員がいる。
参照:法務省 難民審査参与員制度について

*2)全国難民弁護団連絡会議(英語名:Japan Lawyers Network for Refugees)
1997年7月18日に設立された弁護士のネットワーク団体。適正かつ迅速な難民認定、申請者の地位の保障並びに難民認定者及び人道配慮者の地位の保障のため、個別の難民支援及び政策に対する提言等の必要な諸活動を行なっている。
参照:全国難民弁護団連絡会議ホームページより

■ハイライト

  • 先日の「美人だから」発言について
  • 難民審査参与員の事例について
  • 当会から法務省入国管理局への申入れについて
  • 日時 2017年9月12日(火) 15:15~
  • 場所 東京・霞ヶ関 司法記者クラブ(東京都千代田区)

弱々しい難民のイメージを求める参与員の「上から目線」に傷つく難民認定申請者たち

 難民審査の場では、審尋というかたちで難民審査参与員(以下、参与員)から申請者に質問がなされる。今年3月、「自国で軍人に監禁され性的暴行を受けていた」と訴えたコンゴ民主共和国出身の女性に対し、男性の参与員が「あなたが美人だったからレイプの対象として狙われたのか」と質問。別の参与員も、「見ず知らずの人に監禁されてレイプされていたなら、子どもができたのではないか。病気が移ったのでは?」などと発言していた。女性は弁護士を通して入国管理局に抗議、法務局は事実関係を確認するとしていた。

 「しかし、それ以後、特に対応がないため、私たちはこのような問題を集約し、さらに法務省入国管理局に申入書を提出することにした」と渡辺弁護士は経緯を説明した。そして、取りまとめた「難民審査参与員 問題のある言動 実例集」(以下、実例集)にもとづき、参与員の問題発言を紹介していった。

 この実例集は、1. 人格への攻撃、侮辱、名誉を傷つける不適切な発言、2. 職務責任事態を放棄するかのような不適切な発言、3. 威嚇、脅迫、無関心、怠慢等の不適切な発言、4. 予断、偏見や難民への無理解を示す不適切な発言、5. 出典を示さない質問等の不適切・不公平な発言、6. その他の事例、に分かれている。

 「参与員が、申請者の名前を有名な動物のキャラクターになぞらえ、『そのキャラクター並みの知能というわけか』と発言した。弁護士が、その言葉を記録に残すように要求すると、『不規則発言はしないように』と弁護士のほうが注意を受けた。結局、参与員の発言は調書には記載されなかった。また、『あなたは元気すぎる。本当の難民はもっと力がない』と言われた人もいる。これは歪んだ難民像としか言いようがない」

 航空機の利用や入国審査を気にかけていた申請者に、「飛行機に乗るという発想自体が難民とかけ離れている。現在、欧州に押しかけている人たちが難民条約(*)でいう本来の難民だ」と主張したり、在留資格があり、就労許可を得て働いていた人に、「難民申請者のくせに、働いていいのか」と発言した参与員もいる。渡辺弁護士は、「本当に時代錯誤というか、日本で難民認定機関に携わっている人の発言とは思えない」と憤った。

*難民条約
第二次大戦後、難民問題が世界的な課題となり、国際的な協調と団結が求められる中、1951年7月の外交会議で「難民の地位に関する条約」が採択された。1967年1月には、1951年の条約にあった地理的・時間的制約を取り除いた「難民の地位に関する議定書」が採択。通常、この2つを合わせて「難民条約」という。
参照:UNHCR日本 難民条約について

3月に問題発言、4月に抗議。9月に報道されるまで完全放置した法務省の対応

 続いて小田川綾音弁護士から、法務省入国管理局の対応について説明があった。前述の性暴力を受けた女性への発言は、今年の3月に口頭意見陳述・審尋が行われた時のもので、小田川弁護士と山田さくら弁護士、そして、女性の幼い子どもがその場にいた。

▲小田川綾音 弁護士

 小田川弁護士は、「男性参与員から、彼女が本国で経験した強姦という事実に関して、『なぜ、あなたが狙われたの。美人だったから?』という発言があった。しかし、4月にその調書が開示されて確認すると、その部分の記載はなかった。そのため、2017年4月25日付で、口頭意見陳述・審尋調書に関する訂正の指摘及び抗議申入書を、女性の代理人(弁護士)名義で提出。さらに抗議も付け加えた。指摘した訂正項目は41ヵ所に上った」と話す。

 この申入書に対して法務省からの対応はなく、小田川弁護士らは9月1日、改めてこの件に関してどういう認識だったのか、どんな対応をとったのか、と問う申入書を出している。これについても、この会見当日までに回答はなかった。

 「しかし、9月1日にこの件についての報道が出て、上川法務大臣がそれに言及したこともあり、先ほど法務省側は『今、事実調査を確認中』と話していた。では、どの時点で把握したのかと尋ねたところ、『抗議があったことは認識していたが、確認するように言ったのは報道の後だ』と。つまり、(4月の)抗議は認識していたのに(9月まで)事実関係の確認はしていないのだ」

 参与員の発言や法務省の対応について、小田川弁護士は、「こちらが参与員の発言を注意すれば『不規則発言はやめてください』と言われ、録音は開示されず、調書も事実とは変わっている。抗議をしても放置。こういう審査に、どのように対応したらいいのか」と表情を曇らせた。

参与員の強い猜疑心が難民認定申請者の希望を奪う。「審尋で責められ、人格を貶められて帰っていく」

 渡辺弁護士は、本来、参与員が果たす役割は、必要な事実確認を行い、主張の信憑性を検証することだとし、「にもかかわらず、申請者の知りようのない事実を尋ねたり、一方的に『あなたの言うことは信じられない』と決めつけたり、参与員が自分自身の意見を主張したりする。それらは難民認定手続き上は無意味だし、申請者は困惑、絶望、混乱し、萎縮する。元々、参与員が申請者の主張を信用しておらず、(偽装難民ではないかという)強い猜疑心を元に手続きに臨んでいると感じる」と述べた。

 「難民認定は、一次(審査)の判断から数年たって、ようやく審尋が開催される。申請者は本当に希望を抱えて入国管理局に行くわけだが、参与員から責められ、批判され、人格を貶められて帰っていく。こういった事態が生まれていることは問題だ。参与員の威圧的で尊大な態度も、申請者をいたずらに萎縮させて、冷静で自由な供述の可能性を奪っている」

現在の難民審査参与員制度はいらない! 難民法にもとづく難民認定をするシステムの構築が必要

 渡辺弁護士は、「参与員の問題発言をやめてほしい、というレベルではなく、難民審査参与員制度そのものの根幹に関わる問題。参与員が難民法(*)によって、目の前にいる申請者から彼らの難民性を抽出し、それを判断、評価して、認定・不認定をするという過程を取れていないのだ。

 申請者の抱えている迫害の恐れを、客観的に評価することが求められており、そのためには、供述の信憑性をきちんと評価する手法を、参与員が身につけていることが重要だ」と語る。

▲渡辺彰悟 弁護士

*難民法
出入国管理及び難民認定法のこと。日本国に入国しまたは日本国から出国するすべての人について適用され、出入国の公正な管理と難民認定手続の整備を目的とする。外国人の入国、上陸、在留、出国、退去強制、日本人の出国、帰国、船舶などの長および運送業者の責任について規定する。1981年、難民の地位に関する条約の批准に際して大幅に改正され、永住条件を緩和し、名称も現在のものになった。
参照:コトバンクより

 審尋の際、参与員の氏名は明かされない。渡辺弁護士は、「参与員は自分たちが何者であるか、表に出ない状況で手続きを進められる。責任ある発言が確保されているとは思えない。今回の申し入れでは、参与員の氏名の開示も要請している。海外では、難民の認定機関の担当官の名前をすべて公表し、その人たちの認定率をパーセンテージで公表しているところもある。今の日本の参与員の状況は無責任だ」と述べた。

 また、審尋の録音について、「入国管理局で録音しているはずだが、われわれにはまったく開示されない。システム的に、やはりそこは明確にすべき。こちらが録音してもいい体制をつくるか、録音を前提にして、それを後で開示することを考えてほしい。記録が明確に残ることによって、手続きの内容も公正なものになっていくし、後の批判的な検証にも役立つ」と主張した。

参与員は「人格が高潔」な元裁判官や元外交官、学者が多い!? その人選の基準は何か?

 渡辺弁護士は、難民認定に真摯に取り組んでいる参与員もいるが、と前置きした上で、「資質のある参与員が少なすぎる。難民法にもとづいた難民認定をするシステムになっていない。そういう人選がされていないのだ。難民審査参与員制度そのものを見直す時期かもしれない」と語る。

 現在、選任されている参与員は、元裁判官、元検事、元外交官、大学の名誉教授など、それなりの功績を残してリタイアした高齢者が多い。「そういう人たちに、申請者の人格を攻撃するようなことはやめてくださいと、入国管理局の職員が言えるだろうか」

 また、UNHCR(*)が参与員に対して研修をする時も、全員参加の義務はない。渡辺弁護士は、「難民審査はどうあるべきか。その理解のないまま、参与員を務めているのが実態。このような審査参与員制度はいらない」と強調した。

*UNHCR
国連難民高等弁務官事務所。国際連合の機関の一。難民に対する保護・救済、自発的な帰国や第三国への定住の促進などを行う。1951年、国際難民機関の業務を受け継いで活動開始。1954年と1981年にノーベル平和賞を受賞した。本部はジュネーブ。
参照:コトバンクより

 質疑応答になり、参与員の教育に関連して、「審尋の仕方や通訳の問題、心理学的なきめ細かい対応がなされているか」との質問があった。

 小田川弁護士は、ひどい拷問と強姦被害に遭った女性の申請者の例を紹介し、「彼女は強いPTSD(心的外傷後ストレス障害)のようで、女性の私に話をするだけでも泣いてしまう。そのため、審尋には女性参与員をお願いしたいと申し入れた。だが、『参与員の先生方は人格が高潔だから』という理由で、結局、参与員は女性1人と男性2人になった。本当に配慮がないというのが実態だ」と述べた。

 鈴木弁護士も、「医師からPTSDと診断された人がいたが、参与員が『自分は、この人をPTSDとは認めない』と発言したことがある。参与員に医師はいないので、医学的な知見は持っていないはずなのだが……」と話した。

 この日、申入書を法務省に提出する際に渡辺弁護士が、「これを参与員にそのまま渡してほしい」と言うと、担当者は「このまま渡すと、法務省側がここにある事例を全部認めたことになってしまう。伝え方を考えさせてほしい」と応じたという。ここでも法務省の参与員への気遣いばかりが目立つ。国際情勢が大きく変動している現在、不透明な難民審査参与員制度の改善は、今後の大きな課題として注目されるべきである。

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