今年7月の参院選の結果、「改憲勢力」(自民、公明、維新、日本のこころ)が衆参両院で3分の2議席を占めることになった。安倍政権が改憲によって創設を狙っているのが、自民党憲法改憲草案第98・99条に明記された緊急事態条項である。
しかしこの緊急事態条項は、国民の基本的人権を停止させ、権力を時の政府に一元化することで独裁体制の確立に道を開くという、極めて危険なものだ。2016年10月26日、参議院会館講堂で「自民党改憲案を考える超党派の議員と市民の勉強会」が開かれ、講師として招かれた永井幸寿弁護士が、緊急事態条項の危険性について講演を行った。
- テーマ 緊急事態宣言条項
- 講師 永井幸寿氏(弁護士)
- 日時 2016年10月26日(水) 17:30~
- 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
永井氏は講演の中で、ナチス・ドイツのヒトラーが1933年に全権委任法(授権法)を成立させ、独裁者となった過程と現在の日本を比較して、次のように説明した。
「自民党の緊急事態条項の中には、既に全権委任条項が入っているんです。だから、この緊急事態条項を憲法に入れて、総理大臣が『緊急事態だ!』といえば、ただちに独裁が成立するんです」
ヒトラーによる独裁体制成立のプロセスについては、岩上安身が『ヒトラーとナチ・ドイツ』の著者で東京大学教授の石田勇治氏にロングインタビューを行っているので、ぜひご覧いただきたい。
さらに講演の後半で永井氏は、全国29の弁護士会が、災害を理由に緊急事態条項を憲法に創設することに反対する声明を出していることを紹介した。
この声明を最初に出したのは、阪神・淡路大震災を経験した兵庫県の弁護士会。兵庫県在住の永井弁護士が所属している弁護士会である。その他にも、新潟県や東北弁護士会連合会など、大災害を経験した地域の弁護士会の多くがこの声明を出している。このことについて永井氏は、「震災の経験をしているから、こんなものは要らないと、よく分かるんです」と語った。
▲自民党改憲草案の危険性を訴える永井幸寿弁護士――10月26日、参議院議員会館
1995年の阪神・淡路大震災で自身も被災し、以来20年以上に渡って被災者支援を行ってきた永井氏は、「災害対策で一番重要なのは現場なんですね。実際に災害が起こったときには、被災者に一番近い自治体が、準備にしたがって対処するというのが災害対策なんです」と語り、災害発生時に権力を内閣に集中し、トップダウンで指揮命令を下す緊急事態宣言がいかに役に立たないかを説明した。
最後に「災害をだしにして憲法を変えてはいけない」という、東日本大震災の宮城県の被災者の言葉を紹介して講演を締めくくった。
永井氏には、昨年2015年12月に岩上安身が、この緊急事態条項をテーマに単独インタビューを行っているので、こちらもあわせてご覧いただきたい。
「災害をダシにして憲法を変えてはいけない!」――災害対策のプロ・永井幸寿弁護士が「緊急事態条項」をテーマに超党派の議員と市民の勉強会で講演~安倍政権をナチスになぞらえる指摘も https://iwj.co.jp/wj/open/archives/341762 … @iwakamiyasumi
総理大臣が『緊急事態だ!』といえば、ただちに独裁が成立する。
https://twitter.com/55kurosuke/status/1035283679482802176