「ご指摘の文書そのものにつきましては、起案先も不明であり、そもそも外務省の行政文書なのかどうかも、確認がされていないと認識しています」――。2016年2月23日、岸田文雄外務大臣は定例会見でIWJの質問に答え、鳩山由紀夫元総理に「県外移設」を断念させた外務省の「極秘文書」について、曖昧な回答に終始した。
(取材・文:佐々木隼也、記事構成:岩上安身)
※2月26日テキストを追加しました!
「ご指摘の文書そのものにつきましては、起案先も不明であり、そもそも外務省の行政文書なのかどうかも、確認がされていないと認識しています」――。2016年2月23日、岸田文雄外務大臣は定例会見でIWJの質問に答え、鳩山由紀夫元総理に「県外移設」を断念させた外務省の「極秘文書」について、曖昧な回答に終始した。
記事目次
■ハイライト
2010年、鳩山総理(当時)が進めていた普天間基地の鹿児島県徳之島への移設案。これに対し外務省は同年4月、鳩山氏のもとへ3枚の「極秘文書」を提出した。「極秘文書」には、沖縄米軍の訓練の一体性を考えると普天間基地の移設先は65海里(約120km)以内であるべきだ、ということが「米軍のマニュアルに明記してある」と書かれていた。
徳之島は200km以上も離れている――鳩山氏は同案を断念せざるを得なくなった。しかし最近、鳩山氏が川内博史元衆院議員とともに外務省を通じて在日米大使館に照会したところ、大使館から「そのようなマニュアルは確認できない」と回答があったという。
これが事実であれば、外務省が徳之島案を潰すために、米軍の基準を捏造し、現役の総理に対して虚偽の文章を作成して、虚偽の説明を行い、実際に鳩山氏の「最低でも県外」という国民との約束を覆させたことになる。だとすれば、たいへんな事態だ。
IWJは岸田大臣に会見で、この疑惑に関する認識を聞いた。
岸田大臣は、「海兵隊の航空部隊がそれを支援、連携する陸上部隊から一定の距離以上離れると運用に(支障を)きたす――これは平成22年(2010年)当時から、米軍から説明を受けており…」とし、「それをふまえて、普天間飛行場の徳之島移設案は課題が多いことが判明した」と答えた。
疑惑の焦点となっている「『一定の距離』が『65海里(約120km)以内』なのかどうか」は明言せず、さらに「徳之島案の課題」が「一定の距離」なのかどうかも不明瞭な回答ではある。しかし、「米軍が問題の『極秘文書』の内容と大筋で同じ内容を説明していた」と認めたことは重要である。
「65海里(約120km)以内」が実際には、米国側から外務省に対して内密にオフレコの場で提示があった可能性や、米国側から具体的な距離の提示がなかったとしても、「一定の距離」を理由に徳之島案を放棄させるよう、直接または間接的に、要請があった可能性もあるからだ。
岸田大臣は続けて、肝心の「一定の距離」の具体的な詳細については、「米軍は運用に関するものであるから、対外的に『今でも』明らかにしていないというのが、現実である」と述べた。
この回答も極めて曖昧かつ矛盾を含んでいる。「対外的に明らかにしていない」のであれば、外務省が提示した「65海里(約120km)基準」は、どこから引っ張ってきた数字なのか。しかも、前段で岸田大臣は「一定の距離以上離れると難しい」旨の説明が米軍からあったと明言している。外務省は「一定の距離」を勝手に「65海里(約120km)」と推察したということなのか。しかしそうすると、「米軍のマニュアルに明記されている」というペーパーの文言と、やはり矛盾する。
もし外務省が「65海里(約120km)」を「捏造」したとするならば、後に文書が極秘指定解除となった時に、鳩山氏がこの文言を検証し、公表するであろうことは予想できるはずである。その結果、上記のような様々な矛盾が噴出し、外務省に対する追及があがるのは、目に見えていたはずである。
もうひとつ考えられる可能性としては、嘘をついているのが外務省ではなく、米国側という可能性である。鳩山氏が総理だった時代、外務省は米国から伝えられた情報を、そのまま鳩山氏に「正直」に伝えたのだとする。そうすると、米国側は、その時々で日本政府に対する説明を変え、日本側はふり回されながら、その説明をうのみにして、履行しようとし、矛盾をきたしていることになる。この可能性も、完全には否定できない。
日本では米国政府を疑うような報道や論評、批判はまったく「タブー」扱いであるが、それが正しいとは限らない。「文書が見つからない」とか「確認中」という、外務省の狼狽ぶりは、自らの過ちを隠そうとしているようにも、米国側の作意が明らかになり、日本の世論が「反米」へ傾くのを阻止しようと泥をかぶっているようにも、みえる。どちらも推理可能である。
最後に岸田大臣は、この「極秘文書」について、「起案先も不明であり、そもそも外務省の行政文書なのかどうかも、確認がされていない」と述べたが、存在そのものについては、否定をしなかった。
誰が普天間基地の「県外移設」を潰したのか――。この「極秘文書」の問題は、この国の基地問題の今後を見据えるうえで、極めて重要な
このペーパーについては、現在、外務省の「監察査察官(※)」が調査中だという。
(※)監察査察官(監察査察室)とは、外務省の不祥事のチェックや、チェック体制の抜本的な見直しのため、2002年4月に外務省内に設置された組織。構成員には検事、公認会計士など外部専門家が含まれる。
――基地問題についてなのですが、2009年に鳩山元総理が普天間基地の県外移設を断念するきっかけとなったといわれる、外務省のペーパーが昨年解禁されました。これは、2009年4月に外務省の役人が鳩山元総理のもとに持ってきたもので、『普天間移設問題に関する米側からの説明』という極秘扱いのこのペーパーには、『移設先は「65海里」(約120km)が望ましく、この基準が米軍のマニュアルに書いてある』と明記され、当時、鳩山元総理が模索していた徳之島案を否定する内容となっています。
しかし最近、米国大使館は公式に、この「65海里」の基準について、米軍のマニュアルに存在しない、と回答しています。これがもし事実であれば、当時外務省は虚偽の情報をもって、鳩山元総理に県外移設を断念させたということになり、たいへんな問題です。
外務省は現在、このペーパーについて調査中とのことなのですが、事実なのか、虚偽なのかミスなのかを含めて、早期の真相解明・確認が必要かと思うのですが、岸田大臣のご所見をお聞かせいただけますでしょうか?
岸田文雄外務大臣「まずご指摘の点のなかで、内容についての部分ですが、海兵隊の航空部隊がそれを支援、連携する陸上部隊から一定の距離以上離れると運用に(支障を)きたす。これは平成22年(2010年)当時から、米軍から説明を受けており、それをふまえて普天間飛行場の徳之島移設案は課題が多いことが判明した。このように承知をしております。
距離等の具体的な詳細については、米軍は運用に関するものであるから、対外的に『今でも』明らかにしていないというのが、現実であると認識をしております。
ご指摘の文書そのものにつきましては、起案先も不明であり、そもそも外務省の行政文書なのかどうかも、確認がされていないと認識しています」
――早期の調査についてはいかがでしょうか?
岸田大臣「ご指摘を受けて、どのような対応をしているのか、それは今手もとにありませんので、確認いたします」
2016/01/26 猿田佐世ND事務局長講演会 外交のしくみを紐解く ―安保・原発・TPP・沖縄基地と日米関係の実像―(動画)
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/284360
2015/09/26 【福岡】「辺野古が唯一の選択肢」国防権限法案から削除! 翁長知事のロビー活動結実―ワシントンの小さな変化が東京に大きな影響「ワシントン拡声器効果」―柳澤協二氏、猿田佐世氏講演
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/267192