【IWJ特別寄稿】島尻大臣研究:島尻安伊子・沖縄担当大臣は自民党の“伝統的得意技”沖縄バラマキ振興策の旗振り役(ジャーナリスト・横田一)

記事公開日:2015.12.8 テキスト
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(横田一)

 安保法制に賛成した議員の「政治とカネ」の疑惑を徹底的に検証・告発し、その落選運動を支援する「安保関連法賛成議員の落選運動を支援する・弁護士・研究者の会」(落選運動を支援する会)。同会の落選対象議員「第一号」として2015年11月24日に刑事告発されたのが、島尻安伊子・沖縄担当大臣だ。

 この島尻氏は、官邸が沖縄に差し向けた沖縄出身の大臣で、辺野古新吉建設推進の旗を振り、「オール沖縄」が担ぐ翁長知事攻略の将としても注目されている。来年夏の参院選では、すでに立候補を表明している伊波洋一・元宜野湾市長と「一騎打ち」となる。

 沖縄がどうなるかは、日本の立憲主義、民主主義がどうなるかに関わる重大テーマだ。そこで、来る参院選に向け、この島尻大臣の数々の疑惑、そして「裏切り」の歴史に迫った、ジャーナリスト・横田一氏の寄稿を以下、掲載する。

※「落選運動を支援する会」の呼びかけ人である上脇博之・神戸学院大学法学部教授(憲法学)と阪口徳雄弁護士には、IWJ原佑介記者がインタビュー。その模様は、12月9日(水)にCh1で配信します!

【島尻沖縄担当大臣研究】島尻安伊子大臣は自民党の“伝統的得意技”の沖縄バラマキ振興策の旗振り役(ジャーナリスト・横田一)

 辺野古新基地建設に反対する沖縄の民意を裏切った“転向議員”を来夏の参院選で当選させる――これが今回の島尻安伊子参院議員の沖縄担当大臣抜擢の狙いとみられている。

 仙台生まれの島尻氏が証券会社や日本語学校副理事長を経て、那覇市議会議員に当選したのは2004年。そして政治家デビューから3年後の2007年4月、自公推薦で参院選補欠選挙に出馬、初当選をした。

 2010年の参院選では自民党公認ながら、「命をかけて県外移設に取り組む」として普天間代替施設の県内移設反対を訴えて当選したが、安倍政権誕生から約1年後の2013年11月に豹変、新基地建設賛成に転じた。石破茂幹事長(当時)と面談後、沖縄選出の自民党国会議員がそろって“転向宣言”をした時のことだ。

 「公約違反の地元自民党国会議員は、去年12月の総選挙で全敗(沖縄1区から4区)。来年の参議院選挙で改選の島尻氏も、厳しい選挙戦となるのは確実だった。そんな危機的状況を打開するために、2012年の内閣府政務官抜擢に続いて島尻氏は大臣になったというわけです」(永田町ウォッチャー)。

 安倍首相と思想信条が似通っている“タカ派仲間”の救済措置ともいえる。沖縄県知事選中の去年11月9日、「週刊新潮」で対談をするなど安倍首相と息がぴったりの自称ジャーナリスト(実際はデマゴーグ)の櫻井よしこ氏が現地入り。「沖縄のメデイアは真実を伝えてきたか?」と銘打った嘘八百の講演(※)をしながら、仲井真弘多知事(当時)への支持も訴えたのだが、その時に島尻氏はこう挨拶をした。「(地元2紙について)もう私は『報道』ではなくて、『扇動、誘導ではないか』と言っている」。すると、櫻井氏は島尻氏の言う通りと強調した上で、「朝日新聞と同じくらい悪いのが『琉球新報』と『沖縄タイムス』です」と訴えたのだ。まさに地元二紙叩きで櫻井氏と島尻氏は意気投合していたのである。


 さらには、住民による辺野古移設の反対運動について、「責任のない市民運動だと思っている。私たちは政治として対峙(たいじ)する」などと発言する有り様だ。「命をかけて県外移設に取り組む」などと訴えていた姿は、見る影もない。

 そんな「公約違反の転向政治家」島尻大臣に、今、疑惑が続出している。

 二期目の参院選直前に、島尻氏が代表を務める自民党支部が、借入金の一部を政治資金収支報告書に記載していなかったうえに、自身の顔写真と名前を掲載したカレンダーを配布していたことが発覚。選挙区内の有権者に配布した場合、公職選挙法(寄付行為の禁止)に抵触する可能性がある。11月24日には、市民団体「安保関連法賛成議員の落選運動を支援する弁護士・研究者の会」(落選運動を支援する会)が、那覇地検に告発状を送っている。

 ここまでの問題を抱えながら、未だに島尻氏は大臣辞任をしていない。松島みどり法相(当時)が選挙区内でうちわを配布して辞任したのとは対照的だ。

 「朝日新聞出身の松島氏はすぐに大臣辞職を追い込まれたのに比べ、島尻氏は辞職を迫られた気配すらありません。『安倍首相の“タカ派仲間”だから特別扱いされている』と勘繰られても仕方がないでしょう」(永田町ウォッチャー)。

 さらには、週刊金曜日(2015年10月16日号)が「沖縄振興開発金融公庫」からの異例の高額融資(5億5000万円)と暴露した「(株)JSLインターナショナル」(沖縄県浦添市)は、夫の島尻昇氏が理事長だが、報道関係者の間では、「同業者から『あそこの学生はまともではない』『不法労働の拠点の疑いがある』という告発が寄せられていた」という情報が広まっていた。

 「語学学校の学生を装って不法就労をしているのが事実であれば、大臣の身内が違法行為をしていたことになる。沖縄は他府県に比べて就学ビザが認められるケースが多いようですが、ここに何らかの政治的働きかけがあれば、より大きな問題になります」(沖縄ウォッチャー)。 

 ちなみに昇氏は元民主党県連代表だが、選挙で連戦連敗をして結局、幹部辞職をすることにもなった。その夫と入れ替わるように政治の世界に入ったのが、島尻安伊子氏。「奥さんの方が政治家向きだ」という話が出て妻が那覇市議選に民主党公認で出馬し、当選したのだ。

 その後、当時の那覇市長だった翁長雄志知事が参院選出馬を勧めると、今度は自公推薦候補となって当選(2007年の参院補選)。しかし国会議員となるきっかけを作った翁長知事とは現在、辺野古新基地建設を巡って正反対の立場だ。

 「参院選出馬の経緯を知っている人からは『恩を仇で返している』と批判されていますが、選挙に弱かった夫に代わって、政界の出世階段を駆け上った逞しき妻は『力こそ全て』という考えで権力に擦り寄り、政治的な変節を繰り返したのでしょう」(沖縄ウォッチャー)。

 安倍政権は、辺野古新基地をめぐって対立を深める翁長知事を揺さぶろうとしている。その一つが、島尻氏が旗振り役をしている地域振興策「沖縄メディカル・イノベーション・センター構想」(「OMIC構想」)だ。がん治療用重粒子線治療施設や新薬開発拠点などの医療関連施設を西普天間の米軍住宅跡地に作る計画だ。

 島尻氏のHPには、「沖縄に日米新薬拠点 米軍住宅の返還跡 両政府検討」(2014年1月28日付 読売新聞)と銘打った関連記事が貼り付けられて、次のように説明していた。

 「地元紙にもありますように、わたくしが内閣府政務官のときから取り組んでいたものであり、現在は自民党沖縄振興調査会のもと、『西普天間地区跡地振興に関するWT』(座長 島尻あい子)にて議論しているところです」。

 この5カ月後の同年6月13日のHPにも「OMIC構想発表」と題して、自民党西普天間基地跡地振興に関するWT(座長 島尻あい子)の報告書が自民党合同会議で承認されたことを紹介している。

 しかし地元記者は「沖縄の要請もないのに突然空から降ってくるような巨大プロジェクト。利権の匂いがする」と疑問視していた。

 「『新薬開発で製薬会社の利益が出て地元振興につながる』というのが新薬開発拠点のうたい文句ですが、米国製薬会社の儲けになっても沖縄に具体的なメリットがあるのか良く分からない。公的施設となれば、地元負担が生じる可能性もあるのに、その金額さえ不明です。『中央の予算で地元にハコモノ建設など公共事業をばらまけば、地域振興になるに違いない』という古き自民党利益誘導の典型です」(地元記者)。

 最先端のがん治療が受けられる「重粒子線治療施設」に対しても、医療ジャーナリストは「県民143万人で沖縄にどれだけのニーズがあるのか。とても治療費で維持費などを賄えるとは考えにくい」と首を傾げていた。しかも新薬開発拠点と同様、「総事業費や県負担額」や「採算性関連データ(維持費・利用者数予測・県負担額など)」の基本的情報すら公開されていないというのだ。

 「情報公開をした上で、県民負担が伴うのなら『それほどまでして作る必要があるのか』という議論を県民参加ですべきです。大臣になる前から島尻氏はこのプロジェクトの旗振り役でしたが、今回の大臣就任で事業内容が不透明なままゴリ押しされることが懸念されます」(地元記者)。

 「OMIC構想」の旗振り役の島尻氏は来年夏の参院選で改選となる。

 すでに出馬を表明し、沖縄選挙区で元宜野湾市長の伊波洋一氏と一騎打ちとなる構図が確定している。県知事選で「オール沖縄」を掲げて翁長知事を支援した辺野古新基地反対派は9月に伊波氏の擁立を正式決定し、本人も受諾したからだ。

 具体的効果が不明瞭な「OMIC構想」だが、参院選対策のための目玉事業となる可能性は十分にある。こうしたバラマキ型振興事業は自民党の“得意技”で、これまでの国政選挙でも選挙対策で活用してきたからだ。

 例えば、かつて尾身幸次・元沖縄担当大臣が推進した「沖縄大学院大学」も、参院選に出馬した娘・朝子氏の選挙対策の性格も有していた。「世界一の大学院を作る」との触れ込みで、豪華な施設の大学に海外の研究者が来たものの、地元へのメリットは不明瞭のままだった。

 しかし尾身大臣(当時)が地元大手建設会社で、県内の振興事業を語りながら「(参院選に立候補する)娘をよろしく」と話し、選挙対策に絡めたのは紛れもない事実だ。建設業者としてみれば、「仕事を取りたいなら娘に投票しなさい」とお願いされたように受け取ったのは間違いないからである。

 島尻大臣推進の「OMIC構想」も、自ら改選となる来夏の参院選対策の可能性は十分にある。「旗振り役をすることで建設業界などからの票が期待できる」という魂胆が透けて見えるのだ。

 参院選の勝敗の帰趨を決するのは全国で三二ある一人区。そこで、どれだけ野党統一候補を出せるのかが焦点だが、その中で伊波氏が全国に先駆けて出馬発表をした。野党共闘の先駆的選挙区となった沖縄に対して、安倍政権も「天下分け目の決戦」と位置づけ、大臣抜擢という露骨な選挙対策をしてきたのは間違いない。


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