「人類学者は『人種』という言葉を使わない」科学的無知に基づく人種差別の愚かしさ 〜岩上安身による篠田謙一氏インタビュー第2弾! 2015.5.18

記事公開日:2015.5.19取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田、記事構成:佐々木隼也)

 「文化の多様性とは、あとになって生まれたもの。人類の普遍性は、6万年前から変わらない」──。

 「日本人とは何か」を人類学の視点から問い直し、大きな反響があった、2013年8月の分子人類学者・篠田謙一氏へのインタビュー。その第2弾を、2015年5月18日、岩上安身が行った。分子人類学とは、分子生命学を応用した遺伝子レベルでの人類研究の学問で、篠田氏はミイラや古代の人骨のミトコンドリアDNAなどを解析し、人類の起源やその広がりを調査研究している。

 篠田氏は、自身が人類研究部研究グループ長を務める、茨城県つくば市にある国立科学博物館で取材に応じ、「6万年ほど前に、アフリカから出た一部の集団が存在し、それぞれが突然変異を起こしながら、人類として特有のタイプを形成していった」と述べて、人類の普遍性は6万年前の時点から今に続いている、と強調した。

 今回のインタビューで岩上安身は、日本を取り巻く世界環境の変化に日本人が対応していく上で、「人類の普遍性」を立証する人類学的な視座が有用になるのではないかと、篠田氏に水を向けた。

 米国を頂点とする、日本を含む先進7ヵ国(G7)の長引く低迷と、それとは対照的な中国の台頭を背景に、世界経済のヘゲモニー(覇権)が変わりつつある今、これから先の日本人には、「米国さえ見ていれば何とかなる」という時代は用意されないのではないか。日本人が心のどこかで、「自分たちは、アジアの他民族より優れている」と思い上がっているならば、日本の未来は決して明るくならないのではないか。

 さらに、そのような思い上がりは、在日特権を許さない市民の会(在特会)の存在が象徴する、在日コリアンなどマイノリティへのヘイトスピーチ(差別的発言)の根っこの部分にも宿っているのではないか。

 岩上安身の問いに篠田氏は、「戦後の日本人には、特定の民族さえ見ていれば、それで十分だった時代が長く続いたと思う。しかし、その時代は過去の遺物になりつつあり、すでに日本人は、さまざまな民族に目を向けなければならない時代を迎えている。それなのに、日本人全般が、どうすればいいのかわからずにいる、というのが今の状況だと思います」と語った。

 そして、横行するヘイトデモに関して「人類学も昔は、(民衆への扇動で)かなり酷いことをやっています。具体的には、ナチスドイツが人類学を使ってユダヤ人迫害の口実を作りました」と警鐘を鳴らした。

 「そもそも、人類学者は『人種』という言葉を使いません。人種にはさほど差異はありませんから」——。

 人種差別が科学的にも「間違っている」ことを指摘する篠田氏は、「われわれ人間には、人類普遍の価値観と、その民族が歴史的経緯で獲得した価値観、さらには個々人のレベルでも、それぞれの人生による価値がある」と断言。「大切なのは、『人間の本質は、そういうものだ』という立場に立って他者を見る、他の民族を見る、他国を見る、という習慣を会得することだ」と語った。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2015年5月18日(月) 14:00~
  • 場所 国立科学博物館(茨城県つくば市)

人類学は「危険な学問」

岩上安身(以下、岩上)「本日は、篠田先生の研究室にお邪魔しています。人類学や進化生物学、考古学、歴史研究など幅広い学術分野がある中で、たとえ同一のデータでも、どこから見るかによって、得られる結論が微妙に違ってくるのではないでしょうか。また、そうして得られた結論の組み合わせ次第では、まったく違う学説が導き出されることもあると思いますが」

篠田謙一氏(以下、篠田・敬称略)「確かに、科学にはそういう面がある。科学では『実験(や調査)で得られたデータを、どう解釈するか』がもっとも重要なんですが、その部分で研究者が(恣意的に)切り貼りを行えば、自分が得たい結論を強引に導き出すことが可能です」

岩上「今、世界は歴史的に大きな転換期に差しかかっていると思います。日本社会で、今もまだ、勢いを保っているヘイトスピーチの根っこには、日本民族をアジアのほかの民族と峻別する価値観があるのではないか。今日はその辺に関しても、人類学者としてのお考えを、ぜひ、お聞かせ願いたいと思います」

篠田「岩上さんがさっき指摘した通り、戦後の日本人には、特定の民族さえ見ていれば、それで十分だった時代が長く続いたと、私も思う。しかし、その時代は過去の遺物になりつつあり、すでに日本人は、さまざまな民族に目を向けなければならない時代を迎えている。それなのに、日本人全般が、どうすればいいのかわからずにいる、というのが今の状況だと思います。

 ヘイトデモに関しては、メディアで得られる情報しか知りませんが、人類学も昔は、(民衆への扇動で)かなり酷いことをやっています。具体的には、ナチスドイツが人類学を使ってユダヤ人迫害の口実を作りました」

岩上「AとBという2つの民族について、『AはBに勝っている』という説を人類学が提供した、ということですね」

篠田「はい。人類学という学問は、意図的に悪用することが十分可能な学問であり、その点に関しては、われわれ人類学者は十二分に注意を払わねばなりません」

太古の女子骨格が物語るもの──弱者を保護する社会

篠田「では、本論に入ります。今、映し出している画像は、遡ること3000年から4000年ほど前のものとみられる、北海道で発掘された貝塚から見つかった、女子の全身骨格です。

 その筋の専門家であれば、この写真をぱっと見れば、普通ではないことがすぐにわかります。四肢が異常に細い。たぶん、この女子は歩行困難だったと思います。小児マヒにかかり、寝たきりの生活が続いたとみられますが、この骨格は実に重要なことを物語っています。

 それは、食うか食われるかといった野蛮なトーンで語られがちな縄文時代にも、生産性を持ち合わせていない(=経済活動に貢献しない)身体障がい者がケアされる、社会システムのようなものが存在していた、ということです」

岩上「当時すでに、福祉社会の一面があったと?」

篠田「はい。人類の世界は大昔からそうだったことが、そこから読めてくるんですが、一方で、ペルーで発掘された1000年ほど前のものとみられる集団埋葬の遺跡からは、当時の若い男性が首を切られたり、手足をバラバラにされて捨てられていたことがわかる。では、こうした相反する二面性が、なぜ、大昔の人間社会に同居していたのか。それについて論じる前に、DNAについて少し話をします。

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“「人類学者は『人種』という言葉を使わない」科学的無知に基づく人種差別の愚かしさ 〜岩上安身による篠田謙一氏インタビュー第2弾!” への 1 件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    「人類学者は『人種』という言葉を使わない」科学的無知に基づく人種差別の愚かしさ 〜岩上安身による篠田謙一氏インタビュー第2弾! http://iwj.co.jp/wj/open/archives/245971 … @iwakamiyasumi
    「人種差別はいけない」は科学的にも大正論。そもそも、人として恥ずべき行為。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/671100090442981376

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