【大阪都構想】住民投票、迷うなら「反対に投票するのが得策」──立命館大学・森裕之教授「賛成が上回って大阪市が消滅すれば、復活はあり得ない」(聞き手:柏原資亮記者) 2015.4.29

記事公開日:2015.5.8取材地: テキスト動画独自
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(取材・IWJ 柏原資亮/テキストスタッフ・富田)

特集 大阪都構想
※5月8日テキストを追加しました!

 大阪市を5つの特別区に分割する「大阪都構想」。その是非を大阪市民らに問う住民投票が、2015年5月17日に迫っている。もし、賛成数が反対数を上回れば、どんなに投票率が低くても、大阪市は消滅する──。

 住民投票の告示後、大阪都構想の提唱者である橋下徹大阪市長(大阪維新の会代表)は、各地で開かれた住民説明会(市主催)に登場したが、その説明や応答のしかたや、会場で配布されるパンフレットの内容に対して、「住民を賛成へと誘導させる」との批判の声が相次いだ。

 実際にいくつかの住民説明会を取材したIWJの柏原資亮記者は、2015年4月29日、地方財政学の専門家で、大阪都構想に反対する立命館大学教授の森裕之氏にインタビューを行った。

 「市のパンフレットには、『初期費用を差し引いても、17年間で約2700億円の財源が生まれる』と記されているが」と尋ねる柏原記者に、森氏は、その約2700億円には、土地売却や特別区の貯金取り崩し、さらには大阪府からの貸し付けといったカラクリがある、と指摘。「このような書き方は、市民の誤解を招く。説明会に集まった人たちに真実がちゃんと伝わっているのだろうか」と疑問を呈した。

 「都構想の是非は、抽象論で決めてはならない」。森氏は、こう力説して、「都構想に賛成する大阪市民らは、自分の理解が正しいか、もう一度、考えてみてほしい」と述べた。

 森氏の話から改めてわかるのは、都構想の是非を問う住民投票は、大阪市民一人ひとりに、かなりの「学習負担」を強いるということだった。市の情報の出し方に難がある現状では、なおさら、市民が十分に理解した上で投票に向かうことができるのかが懸念される。

 この点について、都構想のような重大かつ難解なテーマの是非を、住民に審判させることには、そもそも無理があると主張する森氏は、「ここは『反対』に投票するのが得策だ。棄権は賛成派に加担することになる。もし、賛成が上回って大阪市が消滅すれば、復活はあり得ない。それほどの重大テーマを『住民投票』で決めていいのか」と強調した。

記事目次

■イントロ

  • 日時 2015年4月29日(水) 16:15~
  • 場所 立命館大学 大阪いばらきキャンパス(大阪府茨木市)

都構想の財政メリット、試算の数字がだんだん小さくなってきた

 インタビューは、大阪都構想には本当に財政上のメリットがあるのか、という検証からスタートした。当初、橋下市長や松井一郎府知事は、「大阪市が大阪府の特別区になると、年間約4000億円のコストが浮く」とアピールしていたからだ。

 「その約4000億円という数字は、具体的な試算から出たものではない。財源の5%程度を節約するという『イメージ』によるものだった。その後、大阪府市が実際に計算してみると、削減効果は年間970億円程度にしかならないことが判明した。しかも、その大部分(743億円)は、市が単独で行っている地下鉄・バスやゴミ処理の民営化といった、わざわざ二重行政を解消しなくとも実行できるものだった」

 森氏はこう指摘した上で、自身が試算した数字を、「民営化や市政改革プランという二重行政の解消に関係ないものを除くと、年間30億円程度にしかならない」と強調し、その中身について、「多くは(民営化で公務員が民間企業社員になることによる)職員コストの削減で生まれる」と説明した。

 「つまり、この削減分を除いた、本当の意味での削減効果は年間3億円ぐらいにしかならない。府側が約1億円で、市側が約2億円だ」  

柏原記者が、「市は、年間約1億円という試算結果を公表しています」と話すと、森氏は、「中身を精査しているのだろう」と回答。「約1億円(府)と約1億円(市)で約2億円の削減効果が30年間続いても、累計では約60億円にしかならない」とし、次のように語った。

 「一方で、大阪都構想を行うには、(5つの特別区の創設に伴う)庁舎の建て替えや情報システムの改修などに約600億円~680億円の初期コストがかかるとされており、それ以外にも、年間約20億円の維持費がかかる。(初期コストを約600億円とすれば)30年間で約1200億円が必要になる」  大阪都構想を実施すれば、財政上には却ってデメリットがもたらされる公算が大きい、との趣旨である。

 「大阪市を消滅させなくとも、行政の無駄をなくすことは可能」と主張する森氏は、「橋下市長と松井府知事の連携で、すでに(今の府と市のあり方のままで)無駄の削減が進んでいる」と強調。「二重行政解消による、財政削減効果の試算結果の数字が、時間の経過につれて下がってきているのは、そのせいだ」と語った。

大阪の無駄の主因は「二重行政」にあらず

 森氏は、「そもそも、大阪の行政の無駄の主因は『二重行政』ではない」と言及する。1980年代後半からのバブル期の、豊かな税収に慢心した大盤振る舞い型の政策がアダになっている、との見解であり、「これは大阪のみならず、日本全体の自治体にあった傾向だ。市は大阪市住之江区にWTCビル(現大阪府咲洲庁舎)を、府は大阪府泉佐野市にりんくうゲートタワービルを作った(いずれも経営破たん)。競い合うように高層ビルを建てるような政策は、今はやりたくてもやれない」 

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「【大阪都構想】住民投票、迷うなら「反対に投票するのが得策」──立命館大学・森裕之教授「賛成が上回って大阪市が消滅すれば、復活はあり得ない」(聞き手:柏原資亮記者)」への2件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    【大阪都構想】住民投票、迷うなら「反対に投票するのが得策」立命館大学・森裕之教授「賛成が上回って大阪市が消滅すれば、復活はあり得ない」(聞き手:柏原資亮記者) http://iwj.co.jp/wj/open/archives/244004 … @iwakamiyasumi
    「とりあえず変えてみる」という選択肢はない。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/596589431244525570

  2. 森住明弘 より:

    森裕之先生
    私は5月12日の学習会参加者の森住明弘と申します。
    総合区と特別区の財政収支を比べると、圧倒的に総合区の方が良いのに市の資料では直ちに読み取れない。それは、特別区設置or総合区設置の際の収支式=大阪市が仮に存属した場合の年度毎の収支式+財政効果額-人件費(組織体制の影響額)-設置コストとなっているが、政効果額は入れるべきでなく除いて計算してみました。
    すると総合区の場合平均で102億円/年の黒字vs.特別区平均赤字額は51億円になる。
    こうなるのは、初期費用・ランニングコスト・人件費に大差があるからである。
    そこで森先生に、御願いします
    ① 財政収支を求める際、財政効果額を省いて計算する。
    ② 現在は総合区と特別区各々の収支しか求めていないが、比較表を作成し、一目で総合区がよいことがわかるようにする。

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