【IWJルポルタージュ】 宮崎県日向市在住の主婦をめぐる裁判はSLAPPなのか!? ~黒木睦子さんと日向製錬所を直接取材(後編) 2014.11.14

記事公開日:2014.11.28取材地: テキスト独自
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(取材・文:IWJ ぎぎまき、記事構成:岩上安身)

【IWJルポルタージュ】宮崎県日向市在住の主婦をめぐる裁判はSLAPPなのか!? ~黒木睦子さんと日向製錬所を直接取材 前編はこちら

(ここから後編)

 翌日11月14日は、宮崎地方裁判所、延岡支部第二法廷において、第一回口頭弁論が行われた。

 延岡市内に宿を取っていた私は朝9時には法廷近くに到着していた。朝食を取るための喫茶店やカフェを探したが見当たらない。地元の方に、「この辺に朝食を食べられる場所はないよ」と言われた私は、しかたなく、コンビニでパンとおにぎりを購入し、コーヒーを飲みながら車の中で待機した。

県の内外から駆けつけた、黒木さんの支援者で法廷の傍聴席は満席に

 9時40分頃、私は車を出て、裁判所に入ると、2階に誘導された。すると、そこにはすでに20人以上の傍聴希望者が廊下に並んでいた。黒木さんを支援する個人が、県内や県外から駆け付けたのだ。時間になって法廷のドアが開き、私たちは一斉に着席。36の傍聴席は、あっという間に埋まった。

 原告側の席には、30代とみられる若い弁護士が、分厚い資料ファイルを並べ、席についていた。原告である、日向製錬所の中見里社長の姿は見えない。一方、被告側は黒木さん本人が出廷し、昨日とは違ったスーツで身を固め、緊張した面持ちで席についた。傍聴席が満席になっている様子を見て、驚いていた黒木さんに、傍聴者の一人が、「みんな応援しているよ」と声をかけた。

 第一口頭弁論では、通常、弁論は行なわれない。双方から事前に提出された書面の確認が中心となるが、裁判官より、黒木さんに対し、訴状の請求の趣旨に対する認否を次回までにすませるよう指示があった。また、これまで黒木さんがブログで書いてきた内容の経緯についても、時系列でまとめるよう要求された。

 第二回口頭弁論は来年の1月22日に設定され、裁判はたった20分程度で終了した。訴状は一切、読み上げられることはなかった。これでは、傍聴していた人間には、原告側がなぜ訴えを起こしたのかが分からない。民事訴訟の場合、謄写や筆写はできなくても、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求できる。しかし、今は時間がない。閲覧は後日にして、私は黒木さんのあとを追った。

 外へ出ると、黒木さんは地元のメディアとみられる記者から囲み取材を受けていた。

▲裁判所を後にする黒木さん。10時から始まった初の口頭弁論は、約20分で終了した

地元の記者から囲み取材を受ける黒木さん。外では支援者によるミニ集会も

記者「実害を受けているのは何人か?」

黒木「私が分かる範囲で5人家族。親を含めて7人です」

記者「県が、水質検査の結果を公表しているが、その信憑性について、黒木さんは疑わしいと。やはり、自分の検査結果が正しいと?」

黒木「私たちがもらったというのは有害という報告だった。県はその報告書のコピーをもっていると思いますが、それでも何もしない。自分たちが無害だからといって、何で結果が違うのだろうかと考えてくれない」

記者「報告書は裁判で求められたら出すのか」

黒木「そのつもりです」

 傍聴にかけつけたという男性は、同じ日向市に住むという。匿名希望というその男性に、傍聴した感想を聞いた。

 「地元に近い場所でこういうことが起きていると知って、実際、現場で見ることが大事だと思い、来てみました。黒木さんを支援するかどうかは、まだ分かりませんが、今日は雰囲気だけつかみに来ました。法廷自体はなごやかで、宮崎らしいと思いましたね。

 今、問題になっている廃棄場はわりと新しいと聞いています。でも、今に始まったことではないのかな、と。ずっとこれまでも続いてきたことが表面化したのではないかな、と想像しています」

 その他にも、一週間前から法廷前でハンガーストライキをしていた男性などを中心にミニ集会が開かれ、この日、黒木さんを支援する会が立ち上がった。

「コピーはお渡しできません」「守秘義務があるのでお話できません」「お話する義務はありません」資料が手に入らない日々が続く

 私は早々と昼食をすませ、黒木さんからこれまで聞いた話を裏付ける資料集めに着手した。訴状の中身を知りたかったが、法廷で訴状が読み上げられなかった上に、黒木さんには訴状を公開する意志がないことは、前日のインタビューですでに確認していた。「訴状に書かれているのは真実ではないからです」と黒木さんはその理由をこう話していた。

 また、家族の体調異変を証明する診断書等も、黒木さんは持っていない。通常の取材では手に入るあれこれが、なかなか入手できない。私は次第に困惑し始めた。残すは、黒木さんが2年前に検査を依頼し、取得したという「有害」を示す公式な検査結果だ。先に紹介した、黒木さんがブログで掲載しているものは、宮崎県環境科学協会が出した検査結果を元に、黒木さんが分かりやすく作成し直した簡易な表で、公式なものではない。私は黒木さんに、協会から出された検査結果のコピーを求めた。

 「過去にひどい目にあったので、コピーはお渡しできません」

 黒木さんはコピーの提出を拒んだ。

 「有害という結果が事実であることを確かなものにするためには、協会からのデータが必要です」。私がそう食い下がっても、黒木さんは応じなかった。

 「ブログのデータは嘘ではありません」

 黒木さんは一言、そう付け加えた。

 そうであっても、記者である私には、情報を精査する義務がある。黒木さんの発言を裏付ける資料が、どうしても必要だった。仕方なく、私は、宮崎県環境科学協会に電話を入れた。

▲宮崎市内にある宮崎県環境科学協会。守秘義務があることから、インタビューには応じない

 甲斐さんという男性検査技師に電話がつながった。甲斐さんは、黒木さんの水質依頼を担当しただけではなく、日向市役所から依頼された検査も同様に担当した技師である。なぜ、違う結果になったのかについてもコメントが欲しかった。

 「守秘義務がありますので、個人のプライバシーはお話できません」

 問い合わせには何一つ答えることができないと、甲斐さんは丁寧な口調ながら、一切コメントすることはなかった。社として「第三者に情報を提供しない」と明確にしている以上、引き下がるしかなかった。

 どうにか、公式なデータを入手する手立てはないものか。「水質検査のデータを宮崎県庁に持っていった」という黒木さんの言葉を思い出し、次に私は、宮崎県庁の循環社会推進課に取材を試みた。公式な検査結果のコピーを県庁が保管していれば、情報提供してもらえるかもしれない。最後の頼みの綱である、宮崎県庁循環社会推進課に電話を入れた。

 電話口に出た、課の斉藤氏という男性にこれまでに経緯を話し、黒木さんが提出したというデータのコピーについて尋ねた。

 「こちらに答える義務はない」

 一蹴された。

 「本人からデータを入手して下さいよ。それが存在するかどうかも、私たちに答える義務はありませんから」

 おそらく、数々の問い合わせが県庁に集中していたのだろう。斉藤氏は、上機嫌とは到底いえない声で早々と電話を切った。

日向市役所「水はずっと滞留しているわけではありません。入れ替わりは出てきます」

 私は肩を落とした。この件について、まともに話ができる人がいなかったからだ。しかし、その中で唯一、日向市役所の黒木雅由氏だけは例外だった。この件を担当しているのは、市の環境政策課だ。課長である黒木氏に電話がつながると、黒木氏は快く電話インタビューに応じてくれた。私は、黒木氏に質問をぶつけた。

――黒木さんが水質調査を出されて、その後に、市役所でも調査をされている。同じ検査所に出している。全然違う結果が出ているのは事実ですか?

環境政策課黒木氏「黒木さんが言われている結果については、立ち会ったわけでもないので、コメントができない状況です」

――黒木さんは、市役所が水を採水する前に、きれいな水や土に入れ替えたのではないかと疑問を持たれていますが。

環境政策課黒木氏「水はずっと滞留しているわけではありません。入れ替わりは出てくる。黒木さんが水質検査をされたのは7月か8月。こちらは10月10日です(※2)。間も開いています」

――黒木さんによれば、有害となるデータが存在している。それが事実なら、その結果を否定するわけにはいかないと思いますが、それについては。

環境政策課黒木氏「採取方法でも結果が違うので、そのあたりはどうだったのか、という疑問はあります」

――改めて検査する必要性は?

環境政策課黒木氏「県の方でもやっています、今年の8月にも(※3)」

――もし、黒木さん本人が、もう一度、自分で検査に出したいと言った場合は?

環境政策課黒木氏「民間の土地になるので、地権者の方がOKだったらいいのではないでしょうか。うちからどうこういうことではないのでは」

――業者が、自分の工場からでた廃棄物を捨てたいという場合、どういう行政手続きが必要なのか?

環境政策課黒木氏「そもそも、今回の場合は、産業廃棄物というとらえ方をしていません。産廃は、産廃処理場じゃないとできませんから。造成工事の埋め立て材ということで、とらえています。それについては、開発工事ということで、ある程度の面積になった場合に、届け出が必要になってきますが、『許可』とは違います。『受理』です」

――埋め立てのための、造成工事の申請だったら、埋め立て材が何かは、そもそも調べないということですか?

環境政策課黒木氏「状況は見ますけど、はい。有害なものだったら調べますが、そういう事例がこれまでなかったので。調べないでただ受理するのが一般的なケースです」

――なるほど。今回初めて、有害という訴えがあったから調べてみたということですか?

環境政策課黒木氏「そうです」

 埋め立て材に使用するものが、グリーンサンドであることを市は事前に把握していたというが、グリーンサンドに有害性は認められないという認識だ。しかし、黒木さんからの訴えがあったことで、水質検査を行い、宮崎県環境科学協会より「環境基準値内」という結果を得ている。

日向製錬所から届いた6つの回答と、それに対する黒木さんのコメント

 私は2日間の取材を終えて、宮崎を後にした。東京へ戻ってからも、黒木さんを始め、環境省や経済産業省、再び日向市役所に追加取材を続けた。JIS規格を担当している経産省の工業標準調査室、野原氏からは以下のような回答を得た。

 「グリーンサンドは、コンクリート用スラグ骨材としてJIS認証を確かに受けているが、人体に有害か無害かといった規定はなく、安全性について経産省から保証することはできない。経産省の中で、それについて答えられる部署はおそらくないだろう」

 環境省に問い合わせをして、ようやく辿り着いた土壌環境課によると、人体への安全性については一義的に製造者に責任があり、今回の件のように、住民などが不安で訴えがある場合、自治体の判断によって検査を行うのが通常のケースだという。

 県や市、日向製錬所は独自に、土壌や水質検査、グリーンサンドの測定を行い、すべてにおいて「環境基準値内」であると報告している。しかし、例えば、コンクリート用細骨材としてグリーンサンドを使用する場合と、粉状のものを吸入し、体内に取り入れる場合と、その影響は同じなのか、という疑問も残る。しかし、現状は環境基準値内に収まっている以上、もし、人体に悪影響を及ぼすものだとしても、その有害性を立証するのは困難であり、「一個人vs一企業」が解決できる問題とも思えない。

 ツィッター上でも、黒木さんに対する賛同と批判の合戦がますますエスカレートしていくように見えた。事実がはっきりしないことに、この裁判に関心を寄せる人々も、苛立っているようにみえる。

 そんな中、私の元には、日向製錬所の代理弁護人である、新井貴博弁護士からメールが届いた。日向製錬所に提出していた6つの質問に対する回答が届いたのである。訴状のコピーも入手したが、「本件裁判に関する回答書」と題したメールに、原告側の主張が簡潔に述べられているため、以下、回答をそのまま掲載する。

【IWJからの質問一覧】

  1. 原告が第一工区、第二工区、第三工区において、造成工事のために運び込んでいるものは何か、その物資が無害であるという根拠は何でしょうか
  2. 原告は過去、製錬所の工場跡地で環境基準値を超えるヒ素とフッ素が検出されていた事実を公開していなかった事実がありますが、今回の黒木さんの訴えがある中で、情報公開についてどのような努力をされてきたのか、具体的な事例をあげて教えてください
  3. 原告が訴訟の中で、「名誉毀損」にあたると認識されている実害について教えてください。何点かあれば、もっとも重要なものを3点ほどお知らせください
  4. そうした実害は、いつから始まったものですか
  5. 裁判の中で黒木さんに求めていることは何ですか
  6. 黒木さんが2012年に宮崎環境科学協会から「有害」とする結果を受けた水質検査の結果について、認めますか。認めない場合、その根拠となるものを教えてください

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