【IWJブログ:スラップ訴訟に迫られた経産省前脱原発テント 土地の明け渡しをめぐり、国と裁判へ突入】 2013.4.23

記事公開日:2013.4.16 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

(取材 原佑介、文責 岩上安身)

 経産省前脱原発テントは、ついにスラップ訴訟にかけられた。

 脱原発を訴える市民らが経済産業省前にテントを設置してから、約1年と半年。テントは、毎日24時間体制で市民らが管理し、脱原発を訴える市民の交流の場として、また、脱原発アクションの拠点として運営されてきた。この間、さまざまな存続の危機を迎えながらも維持されてきたテントだが、ついに、本格的に立ち退きを迫られることとなった。2013年4月6日(土)、テントの代表者である正清太一、渕上太郎両氏の自宅に、東京地方裁判所から、経産省前テント撤去と土地明渡しを求める国の訴状が送られてきたのだ。

 今年2月、経産省は東京地裁に仮処分申請を行い、2013年3月6日(水)にテントの「占有移転禁止仮処分の決定」が下された。占有移転禁止とは、他者への譲渡を禁止するものである。つまり、本格的な土地明渡訴訟をスムーズに運ぶため、あらかじめ被告人を特定しておこうとするものである。

 所有者に指定されたのは、テント設置時からの責任者である、渕上太郎氏と、正清太一氏。テントには3月14日に仮処分通知が届き、さらに同日、渕上、正清両氏の自宅には、経産省官房から、これまでの土地使用料として約1100万円に上る請求書が届いたという。

 請求書の中身は、かなり雑だ。名目は、「経産省敷地内での無許可テント設置による使用料相当損害金の国庫納付」。まず、14日着にして、支払期限も同日14日となっている。また、今回、初めての損害請求であるにも関わらず、5%の延滞金が課せられている。いったいどういう理屈で延滞金を請求しているのか、また、その金額はどのような根拠で算出されたのか、不明である。

 請求の方法や金額の算出方法については、かなり「適当」な感のある、経産省だが、テントの撤去計画は、したたかに進めていたようだ。昨年8月、経産省は、「経済産業省本庁舎敷地内における安全の確保及び警備体制の強化」を謳い、テント周辺に監視カメラを設置した。以降、経産省は、テントに出入りする市民らの動きを常時監視。10数名の中心人物を特定し、「いつ、誰がテントに出入りしたか」を数ヶ月にわたって記録した「出勤簿」を作成。それを東京地裁に提出していたことが、IWJの独自取材で明らかになった。経産省の、テント撤去に対する執念が見て取れる。

 そして国は、仮処分の決定から一ヶ月も経たない2013年3月29日(金)、所有者である渕上氏、正清氏を相手取り、「土地明渡請求訴訟」に踏み切った。被告の元に訴状が届いたのは2013年4月6日(土)。これを受け、2013年4月10日(水)、渕上氏らは、経産省前テントで記者会見を開いた。

 渕上太郎氏は、「不当な占拠であることは初めからわかっている。私たちは日本の民主主義や原発推進問題、それに対する国の無責任や隠蔽体質などを告発するためにここにいる。また、テントは、脱原発を願う全国の国民の心の支えでもある」とテントの必要性を主張。裁判の結果がどうなろうと、「非暴力不服従で戦う」と、最後まで退かない姿勢をみせた。

 弁護団の大口昭彦弁護士は、「原発事故に対する日本政府の対応は、不徹底で、今回の提訴は、政府の冷たいあり方が端的に示されている」と指摘。市民との対話に応じず、一方的に退去を求める姿勢を批判した。さらに、「現在の、国民の生活が守られない反憲法的な事態において、主権者たる国民は自ら行動し、意思表明した」と、テントの正当性を強調。「正清、淵上の二名がやっていることだと決めつけ、他の市民を無視しているのも間違い。テントはみんなの所有であり、二人に対する裁判をやれば済むという考えは違う。不法をやっているのはどっちだという点で、弁護団は全力を尽くして戦う」と意気込みを語った。

 「この一連の訴訟問題は、スラップ訴訟であるとの認識はあるか」というIWJの質問に対し、大口弁護士は、「損害は生じていないにも関わらず、一日あたり約2万円の計算で、計1100万円の巨額請求が二人に突き付けられた。これは威嚇以外の何物でもない」と回答。「『ここの占有者だと名乗るならお前にも請求するぞ』と、威嚇し、抑え込もうという意図が露骨に出ている。これは明らかにスラップだ」と断言し、国への怒りをにじませた。

 会見には、事故直後、福島第一原発の地元である双葉町から東京都港区に避難したという亀屋由紀子氏も参席。「逃げろと言われ、何も持たずに着の身着のまま逃げてきた。地獄だった」と、事故直後を振り返る。「応募して入った借り上げ住宅には、お皿もテーブルも服も何もなかった。毎晩泣いて過ごした。故郷に帰りたい、みんなに会いたい、と。そんな時、このテントにきて励まされた。テントがなければ立ち直れなかった」。故郷を失った亀屋氏は、「テントひろばは第二の故郷」と語り、「テントがなくなったら、どこで何をすればいいかわからない。今すぐ帰りたい、でも、帰れないのもわかっている。どうかテントひろばを守って下さい」と、報道陣に対し、涙ながらに訴えた。

 土地明渡しをめぐる裁判の第一回口頭弁論は、5月23日に東京地方裁判所で行われる予定である。大口弁護士は、詳細は未定ではあるが、反訴も予定していると明かした。

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です