【北星大脅迫事件】「言論、学問の自由を『暴力』によって歪めてはならない」全国の弁護士380人が容疑者不詳で刑事告発 2014.11.7

記事公開日:2014.11.13取材地: テキスト 動画
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(文:佐々木隼也)

※記事テキスト・告発状全文を掲載しました。

 「自らは闇に身を隠し刑事責任も民事責任も免れることを確信しながら、植村氏を社会的に抹殺するという不当な目的を、同氏の言論とは何の関係もない、勤務先であるに過ぎない大学に対して、大学に学ぶ学生を傷つけるという害悪の告知を行うことによって、達成しようとしているのである。卑劣このうえない手段というべきである」

 従軍慰安婦報道に関し、元朝日新聞記者の植村隆氏が非常勤講師を務める北星学園大学への脅迫事件で、11月7日、全国の弁護士380人が札幌地検に刑事告発した。告発人共同代表の中山武敏弁護士によれば、裁判以外の事でこれだけ多くの弁護士が動き出すのは、極めて異例だという。

■全編動画

  • 会見者 中山武敏氏(弁護士、第二東京弁護士会)/郷路征記氏(弁護士、札幌弁護士会)ほか
  • 日時 2014年11月7日(金)15:00~
  • 場所 札幌弁護士会館(北海道札幌市中央区)
  • 主催 北星学園大学への脅迫行為を告発する全国弁護士有志

事件を放置すれば「民主主義が危機に瀕する事態に」

 事件は2014年5月と7月、北星学園大学の田村信一学長あてに、「植村をなぶり殺しにしてやる」「(植村氏を)辞めさせろ。辞めさせなければ、学生を傷めつけてやる」「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの趣旨を記載した文書が送付されたというもの。

 共同代表の郷路征記弁護士は、7日に行われた提出後の記者会見で、「万が一にも犯人らの思惑通り、脅迫や威力妨害の効果として、植村氏の失職が現実のものとなるようなことがあれば、犯罪者の脅迫行為が、もくろみ達成のために有効なものとなる『実績』が作られることになる。このことは、言論の自由や学問の自由という民主主義社会にとって至高の価値が、『暴力』に屈して危機に瀕する事態となることを意味している」と語り、この事件が社会に今後及ぼしうる重大な影響を指摘した。

 郷路弁護士はそのうえで、「このような事件を抑止するのに一番重要なのは、捜査機関の力。捜査機関が厳正にこの事件に傾注して取り組んでいただきたい。そのことを法律家の一人として伝えたいために本件の告発を行った」と、告発の目的を語った。

植村氏と家族への卑劣な誹謗中傷「告発がなくても捜査すべき」

 告発は「容疑者不詳」のまま「大学への威力業務妨害容疑」で提出された。植村氏個人やその家族への強要・脅迫罪をあえて外した理由について、郷路弁護士は「植村氏個人のことと、大学の意思形成の自由を守る。という問題をごっちゃにしない方が良いと判断した」としたうえで、「告発した我々の一致点は、大学の自治、学問・表現・言論の自由を守りたい、その力になりたいというものだ」と語った。

 中山弁護士は植村氏個人への誹謗中傷について、「植村氏の家族、特に娘さんに対して『お父さんは売国奴』『お母さんは朝鮮からの密航者だ』『自殺しろ』などという言葉にするのも憚れるような言葉が、顔写真付きでネット上に晒されている。これでは現場の記者が萎縮し、報道機関が『騒ぎに巻き込まれたくない』と自主規制が始まるのではないか」と危機感を露わにした。

(※)中山弁護士は、朝日新聞が「吉田調書」に関する記事取り消しについて、9月26日、同氏が呼びかけ人となり、弁護士9人とともに、朝日新聞社と同社の第三者機関に対し「不当な処分はなされてはならない」「記事全体を取り消さなければならない誤報はなかった」などと申し入れを行った。その後10月10日、申し入れの詳細と経緯、理由についてIWJのインタビューに応えている。

 そのうえで中山弁護士は、「検察官も植村氏に関するネット上の書き込みを知っていた。捜査機関は告発がなくても犯罪行為を察知して、許せないとなれば、自ら捜査をすべきだと思う」と訴えた。

 告発人共同代表には他に、阪口徳雄弁護士、澤藤統一郎弁護士、梓澤和幸弁護士が名を連ねている。(IWJ・佐々木隼也)

 以下、告発状全文を掲載。

告   発   状
2014年(平成26年)11月7日
札幌地方検察庁 殿

          告発人共同代表  弁護士 阪口徳雄(大阪弁護士会)
          告発人共同代表  弁護士 中山武敏(第二東京弁護士会)
          告発人共同代表  弁護士 澤藤統一郎(東京弁護士会)
          告発人共同代表  弁護士 梓澤和幸(東京弁護士会)
          告発人共同代表  弁護士 郷路征記(札幌弁護士会)
           上記代表を含む別紙告発人目録記載の弁護士(   名)

          被告発人(1) 氏 名 不 詳
          被告発人(2) 氏 名 不 詳

第一 告発の趣旨

  住所氏名不詳の各被告発人の下記各行為は、刑法234条(威力業務妨害罪)に該当することが明らかと考えられるので、早急に被告発人らに対する捜査を遂げ厳正な処罰をされたく、告発する。

第二 告発事実

第1 被告発人(1)は、元朝日新聞記者である植村隆氏(以下「植村氏」という)を失職させる目的のもと、2014年(平成26年)5月某日、同人が非常勤講師として勤務する北星学園大学(札幌市厚別区大谷地西2丁目3番1号所在、運営主体は学校法人北星学園・理事長大山綱夫)の田村信一学長あてに、「植村をなぶり殺しにしてやる」「(植村氏を)辞めさせろ。辞めさせなければ、学生を傷めつけてやる」「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの趣旨を記載した文書を郵送し、同月29日、同学長に上記文書を閲読させ、同学長及び同学長から当該文書の内容の伝達を受けた学校法人北星学園大山綱夫理事長らをして、同法人従業員らに警察署等と連携し各種情報収集や情報交換のほか、日常的な巡回と緊急時の対応支援を要請するなどの態勢を構築させ、また、不測の事態に備えて、危機管理コンサルティング会社や弁護士などの外部専門家と連携した危機管理態勢を構築させ、さらに、植村氏の講義実施にあたり警備態勢等を取らせる等の対応を余儀なくさせ、これらに従事した同法人従業員らにおいて通常行うべき同社の業務の遂行を妨げ、もって威力を用いて同法人の業務を妨害した。

第2 被告発人(2)は、上記植村氏を失職させる目的のもと、2014年(平成26年)7月某日、同人が非常勤講師として勤務する札幌市厚別区大谷地西2丁目3番1号所在の北星学園大学(運営主体は学校法人北星学園・理事長大山綱夫)の田村信一学長あてに、「植村をなぶり殺しにしてやる。」「(植村氏を)辞めさせろ。辞めさせなければ、学生を傷めつけてやる」「くぎ入りガスボンベ爆弾を仕掛ける」などの趣旨を記載した文書を郵送し、同月28日、同学長に上記文書を閲読させ、同学長及び同学長から当該文書の内容の伝達を受けた学校法人北星学園大山綱夫理事長らをして、同法人従業員らに警察署等と連携し各種情報収集や情報交換のほか、日常的な巡回と緊急時の対応支援を要請するなどの態勢を構築させ、また、不測の事態に備えて、危機管理コンサルティング会社や弁護士などの外部専門家と連携した危機管理態勢を構築させ、さらに、植村氏の講義実施にあたり警備態勢等を取らせる等の対応を余儀なくさせ、これらに従事した同法人従業員らにおいて通常行うべき同社の業務の遂行を妨げ、もって威力を用いて同法人の業務を妨害した。

第三 告発の事情と告発目的

 植村氏は、1991年(平成3年)8月11日付の朝日新聞大阪本社版朝刊で韓国の元慰安婦の証言を他紙に先んじて報じ、同年12月には、この女性からの詳細な聞き書きを報じた。

 これに対し、植村氏の妻の母親が韓国の「太平洋戦争犠牲者遺族会」の幹部であることを指摘し、身内を利するため、捏造した事実を含む記事を書いたとする批判が繰り返されてきた。

 植村氏への中傷が激しくなる中、朝日新聞は本年8月5日付朝刊の特集においてこの問題に言及し、植村氏の記事の中に「慰安婦」と「女子挺身隊」との誤用があったことを認めた上で、記事に「意図的な事実のねじ曲げなどはありません」「縁戚関係を利用して特別な情報を得たことはありませんでした」と結論づけた。朝日新聞による上記特集紙面の結論の妥当性については、第三者委員会で検証されることが決まっている。

 朝日新聞の姿勢や、植村氏の報じた記事の内容に疑義があるとする者においては、言論をもって批判し反論すべきが民主主義社会における当然のルールでありマナーでもある。しかし、インターネットが登場し、容易に誰でも匿名で情報を発信できることになって以来、匿名性に隠れて「言論」の領域から逸脱し、故ない誹謗、中傷が繰り広げられ、刑法上の名誉棄損罪、強要罪、脅迫罪、強要罪などの違法行為となる言説がネット上で飛び交うことさえ見受けられる。時に、ネット空間の一部が、いわば自分たちの気に入らない、または自己の主義主張に反する者に対する公然たる私的制裁行為=リンチの場に化している実態がある。

 今回の植村氏の件では、インターネット上で、植村氏の実名を挙げ、憎悪をあおる言葉で個人攻撃が繰り返され、同人の高校生の長女の氏名、写真までさらされる事態となっている。「反日」「売国奴」などを罵倒し、まさしく同人及び家族に対する私的制裁行為=リンチ行為の場と化している。その中では名誉棄損罪、強要罪、脅迫罪などに該当する違法行為も公然と行われている。

 このような風潮の中で、集団による私的制裁行為の一端として植村氏が非常勤講師を務める北星学園大学へ上述のような脅迫文が届いたのである。
加えて、2014年(平成26年)9月12日夕方ころには、被告発人らとは別人と考えられる人物が、植村氏を失職させる目的のもと、所在不明の電話器から、北星学園大学の代表電話番号(011-891-2731)に電話をかけ、電話を取った男性警備員に対して、「(植村氏を)まだ雇っているのか。ふざけるな。爆弾を仕掛けるぞ」などと脅し、最近、威力業務妨害罪で逮捕に至った事件も発生している。上記脅迫電話の件については、北海道警察の捜査に敬意を表するものである。

 これらの脅迫文や電話での脅迫行為に関しては、大きく報道されて国民的関心事となっている。国民が強い関心を寄せたのは、本件の手段があまりに卑劣であるだけでなく、そのことによって奪われようとしている価値があまりに大きなものだからである。

 自らは闇に身を隠し刑事責任も民事責任も免れることを確信しながら、植村氏を社会的に抹殺するという不当な目的を、同氏の言論とは何の関係もない、勤務先であるに過ぎない大学に対して、大学に学ぶ学生を傷つけるという害悪の告知を行うことによって、達成しようとしているのである。卑劣このうえない手段というべきである。

 万が一にも、被告発人らの思惑どおり、脅迫や威力妨害の効果として、植村氏の失職が現実のものとなるようなことがあれば、犯罪者の脅迫行為が目論み達成のために有効なものとなる「実績」が作られることになる。このことは、言論の自由や学問の自由という民主主義社会にとって至高の価値が「暴力」に屈して危機に瀕する事態となることを意味している。

 意に沿わない記事を書いた元新聞記者の失職を目論み、勤務先に匿名の脅迫文を送付するという被告発人らの違法行為は、言論封じのテロというべき卑劣な行為であり、捜査機関は、特段の努力を傾注して、速やかに被告発人らを特定し、処罰しなければならない。捜査機関がこのような違法状態を放置するようなことがあれば、言論の自由や学問の自由が危険にさらされ、「私的リンチ行為」が公然と横行し、法治国家としての理念も秩序も崩壊しかねない。それは多くの国民、市民が安心して生活できない「私的制裁=リンチ社会」に道を開く危険な事態といわねばならない。

 告発人らは、「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」を使命とする弁護士として事態を傍観し得ず、以上の立場から本件告発を行うものである。

第四 捜査の要請

 雑誌やインターネット上において、植村氏並びに家族に対する名誉棄損、侮辱(いずれも親告罪)などの違法行為が堂々とまかり通っている。このような違法行為の放置は、法治国家において断じてあってはならない。

 告発人らは、植村氏及び家族らからの告訴の委任を受けている者ではなく、名誉毀損、侮辱について告訴をなす権限はない。しかし、植村氏らの告訴があった場合には、捜査機関においては直ちに捜査に着手し、各犯罪行為者を厳罰に処するよう強く要請する。

 また、親告罪ではない強要・脅迫(本件脅迫状によるものを含む)などについては告訴を待つことなく、厳正に捜査をされるよう要請する。

第五 立証方法

1 資料1 インターネット記事
      (どうしんウェブ 北海道新聞)
2 資料2 北星学園大学学長名義の文書
      「本学学生及び保護者の皆様へ」
3 資料3 毎日新聞
4資料4新聞記事

第六 添付資料
1 資料(写し)       各1通

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【北星大脅迫事件】「言論、学問の自由を『暴力』によって歪めてはならない」全国の弁護士380人が容疑者不詳で刑事告発」への1件のフィードバック

  1.  安倍政権の政策と連動するといわれているこの手の一連の脅迫事件について対応を誤れば、安倍政権は国際的な批判は免れないだろう。安倍政権の政策について、第二次大戦の戦勝国同士が戦勝国であることを確認した事実を忘れてはならない。

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