ものを言えない日本社会にジャーナリストらが警鐘「差別主義者の『表現の自由』を守るためにマイノリティの『表現の自由』が奪われていいのか」 2014.9.26

記事公開日:2014.9.28取材地: テキスト動画
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(IWJ・原佑介)

 安倍政権下で「表現の自由」が脅かされつつある一方、街では、ヘイトスピーチがあふれている。社民党の福島みずほ議員らは9月26日、第二回となる院内集会、「もの言えぬ社会をつくるなPART2 -戦争をする国にしないために-」を開き、「表現の自由」をテーマに議論を深めた。

■ハイライト

  • 発言 木村広氏(出版労連書記長)/山口正紀氏(ジャーナリスト)/白井聡氏(文化学園大学助教)/雨宮処凛氏(作家・活動家)/安田浩一氏(ジャーナリスト)/白石孝氏(プライバシーアクション代表)ほか

国・メディア一体の朝日バッシングが生み出す「触らぬ権力に祟りなし」という風潮

 集会で登壇した元読売新聞記者でジャーナリストの山口正紀氏は、「特定秘密保護法、集団的自衛権の容認、というかたちで世の中が酷くなってきたところで、『(慰安婦報道をめぐる)朝日新聞バッシング』ということが起きている。これほどの危機はあるだろうか」と危機感をにじませる。

 「朝日新聞が吉田証言について謝罪したことで、石破幹事長は国会で検証すべきだと言い、安倍首相は産経のインタビューに対して、『吉田証言がどれだけ日韓関係に悪影響を与えたか』と発言した。日韓関係を悪化させているのはお前じゃないか、という話だ。自民党の政調会は菅官房長官に河野談話の見直しを、とまで訴えた。吉田証言は河野談話に影響していないと政府が認めているにも関わらず、だ」

 その上で山口氏は、「それで慰安婦制度は問題なかった、と世界に開き直っている。どれだけ孤立し、恥ずかしいことをやっているかわかっているのか」と強く批判。確かに朝日にも問題はあったが、では、他紙はどうか、日本の新聞はこれまで、誤報を検証し、謝罪してきたのか、山口氏は提起する。

 「例えば『3.11』後、『ただちに影響はない』という発言の検証をしたか。イラク戦争報道の際、イラクが大量破壊兵器を隠しているとバラまいたのはメディアだが、大量破壊兵器はなかった。これの謝罪、検証はしていない。小沢一郎の政治資金疑惑のときも、朝日、毎日新聞を含めて全力で小沢を叩いたが、謝罪、検証はしたのか。冤罪事件だった袴田事件、足利事件では謝罪し、検証しただろうか。何もしていないではないか」

 常に誤報について検証、謝罪をしないメディアが、なぜ、今回の朝日新聞のケースについてのみ、かつてない大事件であるかのように扱うのか。

 イラク戦争のようなメディアの誤報は、権力側が流した情報を、記者がそのまま流したことで起きた誤報、虚報であり、こうした報道が結果的に間違っていても、メディアは決して謝罪しない。ところが、権力を叩こうとして誤報を流してしまった場合、権力側と他メディアが揃って足を引っ張る。

 これが今起きている事態である、と山口氏は説明する。最後に山口氏は、「朝日新聞の中でも、『もう権力チェック報道はやめよう、触らぬ神に祟りなし、触らぬ権力に祟りなし』となっていく可能性が非常に高い。まともなジャーナリズムを作ろうと努力している人に対する権力側の攻撃であって、非常に危険な事態だ」と警鐘を鳴らした。

 山口氏は、特定秘密保護法にも強く反対し、法案可決前から積極的に問題提起してきた。また、フリージャーナリストらによる秘密保護法違憲訴訟の一人としても名を連ねている。

ヘイトスピーチと罵倒の違いが区別されていない国

 「もの言えぬ社会をつくるな」と題した集会だが、では、在特会らの「ヘイトスピーチ問題」をどう捉えるべきか。

 国連の人種差別撤廃委員会は8月29日、日本における人種差別の実態について「調査を行い、必要な場合には起訴すべきだ」と日本に厳しく勧告した。他方で、「ヘイトスピーチ規制は『表現の自由』の観点から慎重になるべきだ」とする意見も強い。

 『ネットと愛国』の著者で、差別・排外デモの取材を続けているジャーナリストの安田浩一氏は、ヘイトスピーチによって「ものを言えぬ」状態に追いやられているのは「マイノリティ」の側であると断じる。

・2013/12/10 安田浩一氏「事実無根のデマを放置、容認してはいけない」 ~世界人権宣言65周年記念東京集会

 安田氏は、「ヘイトスピーチという言葉が流行語のように流通しているが、2012年まではどこの新聞社も使った形跡がない。ヘイトスピーチとは何か、何が問題なのかが議論されないまま、新しい言葉としてひとり歩きしている」と指摘する。

 ヘイトスピーチとは「人種や国籍、性別など、どれだけ自分が努力しても変更不可能な属性に対して憎悪と差別を煽動し、社会的力関係を持って攻撃すること」であると安田氏は定義する。

 高市早苗政調会長などがヘイトスピーチ規制をめぐる議論の中で「市民運動を取り締まる必要がある」と飛躍させてしまうように、ヘイトスピーチの意味は広く浸透しておらず、相手を罵倒する言葉すべてが「ヘイトスピーチ」だと勘違いされている、と安田氏はみている。

「表現の自由」を守るために「表現の自由」が奪われている

 しかし日本とは違い、特に欧州では、ヘイトスピーチに対する認識は厳しい。ジュネーブで国連人種差別撤廃委員会の対日審査を傍聴した安田氏は、現地の状況を次のように振り返る。

 「日本のヘイトスピーチ現場の映像を観た多くの委員が絶句した。ヘイトスピーチの言葉、醜悪さだけでなく、『この環境からもたらされることは何か』を把握した、ということ。では、ヘイトスピーチの最大の効果は、何か。『沈黙させること』ということだ。

 よく、ヘイトスピーチを法規制すると『表現の自由』を奪われる、という議論がある。私は表現者として、誰よりも『表現の自由』を大事にしたいという気持ちが強い。でもこの瞬間に『表現の自由』が奪われているのは誰か。沈黙を強いられているのは誰か。言葉を奪われているのは誰か。マイノリティだ」

 安田氏は続ける。

 「メディアの一部は『表現の自由を守るため』という認識で、包括的なヘイトスピーチの取り締まり法案に反対している。だが、本当に表現を必要としているマイノリティの人たちはどうすればいいのか。我慢すればいいのか。『在特会の発言を優先するために、自分たちの表現は奪われても構わない』と考えなければいけないのか」(IWJ・原佑介)

「もの言えぬ社会」のために戦わなければならないのは誰か

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“ものを言えない日本社会にジャーナリストらが警鐘「差別主義者の『表現の自由』を守るためにマイノリティの『表現の自由』が奪われていいのか」” への 3 件のフィードバック

  1. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    ものを言えない日本社会にジャーナリストらが警鐘「差別主義者の『表現の自由』を守るためにマイノリティの『表現の自由』が奪われていいのか」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/171063 … @iwakamiyasumi
    いずれマジョリティの『表現の自由』も奪われるのは目に見えている。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/516192191706701824

  2. @hage3826さん(ツイッターのご意見) より:

    ものを言えない日本社会にジャーナリストらが警鐘「差別主義者の『表現の自由』を守るためにマイノリティの『表現の自由』が奪われていいのか」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/171063 … @iwakamiyasumi 安倍政権が常軌を逸している事、少しでも多くの方に認識してもらいたい。
    https://twitter.com/hage3826/status/516199085561217024

  3. @mvkgs11640さん(ツイッターのご意見) より:

    「差別主義者の『表現の自由』を守るためにマイノリティの『表現の自由』が奪われていいのか」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/171063 … @iwakamiyasumiさんから
    正に言論の自由の危機!しかし、日本ジャーナリズムは今まで本気で権力と戦って勝利を得たことがあるだろうか?
    https://twitter.com/mvkgs11640/status/516553785166921730

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