【岩上安身のニュースのトリセツ】「ロシア軍による国境侵犯、ウクライナ軍が撃破!」とポロシェンコ大統領の「から騒ぎ」~ウクライナと西側総ぐるみの「8.15虚報!?」とその後の「だんまり」(中編) 2014.9.10

記事公開日:2014.9.10 テキスト
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(前編の続き)

 「侵入」と「破壊」に先立つ8月12日、ロシアはウクライナ東部に向けて、人道支援物資を積んだトラックの隊列を出発させていた。トラックは280台で、食品、医薬品、発電機、衣料品など、約2千トンの物資が積まれているという。

 なぜロシアはここへきて、「人道支援」に動きだしたのか。

ほとんど報じられない100万人を超える避難民の存在

 理由の一つに、増加する一途のロシアへのウクライナ人流入がある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による6月下旬の発表によれば、今年に入ってからウクライナからロシアへ逃れた人の数は11万人。また、ウクライナ国内の避難者も5万4千人だった。

 この時点でも相当の数だが、UNHCRによる8月5日の発表では、何らかの形でロシア移民局へ申請した数は16万8000人へとさらに増加。ビザなしでロシアに入国し滞在しているウクライナ人を含めると、その数は73万人にものぼる。彼らは事実上の一時避難民とみなしていいだろう。さらにウクライナ国内の各地への避難者は、11万7000人へと増加している。

 ロシアの緊急事態省が用意した一時収容施設へ避難したウクライナ人の数は、6月下旬で約1万6千人。8月1日の報道では3万8千人、さらに15日には、およそ5万2千人にまで増えている(「Almost 52,000 Ukrainian Refugees Sheltered in Russian Temporary Accommodations」2014/8/15 Ria Novosti)。

 国連難民高等弁務官事務所は、ロシアに避難した81万4000人とあわせ、居住地から避難したウクライナの難民が、とうとう100万人を超えたという見方を示した。西側のメディアでは、こうした異常な事態が報じられることがあまりにも少ない。日本の主要メディアに至っては、皆無に近い。

ガザと同じく、起きている事の本質は「民族浄化」

 現在のキエフ政府は、反ロシア、反ユダヤの嫌悪感情でこり固まった偏狭で排他的なウクライナ民族主義者と、汚職で私腹を肥やし億万長者になったオリガルヒ(億万長者)が牛耳っている。

 彼らは、東部の自国民の生命や暮らしをかえりみようとせず、住民が家を捨てて、隣のロシアへ逃げ出しているのを平然と見送っている。その一方、電気もガスも水道も途絶えた家に残って、爆撃や砲撃に耐えている住民に対し、人道物資を届けようとするロシアに対し、「侵略だ!」と非難し続けているのである。

 これは「民族浄化」ではないかと、なぜ西側のメディアは疑いの声をあげないのか。ガザの報道とは落差がありすぎる。

 そもそも、避難民増加の背景に、南東部での戦闘の激化があるのはいうまでもない。ウクライナ政府軍はドネツクとその郊外への砲撃を続け、8月12日にはドネツク付近の主要駅を占拠した。また、ルガンスクへの砲撃も再開。明確な数は報告されていないものの、市議会の発表によれば、多くの市民が殺され負傷している。

 またルガンスクでは、この8月半ばの時点ですでに、水、電気、および燃料の供給がストップしている状態だと伝えられた。それから約1ヶ月が経過した現在でも状況は何も変わっていない。ウクライナの冬は早く、そして厳しい。暖房抜きに過ごすのは困難である。なぜキエフは自国民が凍え死にしないだろうかと心を砕こうとしないのだろうか。

 ルガンスク住民の話によると、ウクライナ政府軍は、「自警団」がいる場所ではなく、民間地域を攻撃目標としているという。居住地域への攻撃の結果、家屋の破壊や、学校付近での死者が出ている。

 国際社会の目は、この夏、イスラエルによるガザへの攻撃に集中してきた。しかし、ガザで起きているのと同じ、一般市民への無差別的な攻撃や殺戮、学校のような公共施設に対する破壊は、東ウクライナでも横行しているのだ。

 住宅、学校へ攻撃を加えているところは、イスラエル軍の攻撃とまったく同じである。しかもウクライナ軍は、そんな違法で非道な攻撃を自国民に対して行っているのだ。

 もっともキエフ政権は、ロシア系住民をもはや「同胞」とみなしていないのかもしれない。自分たちを「ウクライナ人」とし、ロシア系住民を「他者」とみなして徹底的に暴力を加えて服従か追放を迫るのは、「民族浄化」以外の何ものでもなく、自ら多民族の共存する国民国家としてのウクライナ共和国の解体をはかっている、とすらいえる。

 死者の数も、ガザとほぼ同数である。

 国連人権高等弁務官事務所が13日に発表したところによると、4月中旬から8月10日までのウクライナ南東部での死者は少なく見積もっても2086人、負傷者は少なくとも4953人だという。7月26日の時点の死者数は1129人であったことから、7月下旬から8月上旬にかけての2週間での犠牲者の急激な増加が、事態の急激な悪化を物語る。ルガンスクとドネツクの制圧のため、キエフが作戦を強化しているのは明らかだ。

 これらの数字には、「ウクライナ兵、武装集団、親ロシア派、そして民間人」が含まれている。電気や水道などのインフラが断たれ、医療援助も受けられなくなっている現在、「民間人」のうち、とりわけ逃げ出すこともままならないような弱者の被害は、これからますます増えていくだろう。

純然たる人道支援を、「人道的な侵略」と中傷したワシントン・ポスト紙の社説

 西側諸国およびメディアの多くは、この人道支援について、「トロイの木馬ではないか」という疑いのまなざしをもってみていた。ロシアが、ウクライナに住むロシア系住民に対して示す「善意」など、まったくあたまから信じていないかのようだ。

 BBCは、ロシアが送ったトラックを「ほとんど空っぽ」と報じた。実際には、このBBCのレポーターが、トラックの中身を取材できたのは、ロシア緊急事態省によって、報道関係者にトラックの中身が公開されたためだ。

 公開される前は、西側のメディアは、トラックの中には親ロシア派に引き渡す武器や弾薬が満載されているとか、ロシア軍の兵士が隠れて乗っていると騒いでいた。公開されたら、今度は「空っぽ」と言い出す。積み込まれている援助物資は目に入らないらしい。こうなると、「疑心暗鬼」を通り越して、「悪意」があると言うしかない。

 西側のメディアの中には、「西側はロシアによる『人道的』なウクライナ侵略に対抗しなければならない」とまで社説で書く新聞もあらわれた。

 人道的な侵略? 人道支援を装って実際には侵略行為を働いているならわかるが、人道物資を送り届けるコンボイに対して、「侵略」と表現するなど、前代未聞である。しかも、この奇怪な社説を掲載したのが、「天下」のワシントン・ポスト紙であるというから、何重にも驚く。

 さすがにこの馬鹿げた社説に対しては、「米国こそ人道的空爆をしている」「過去最悪」など批判的なコメントが相次いだようだが、当たり前である。

 NATOのラスムセン事務総長は、「人道作戦という装いのもと、ロシアが軍事増強をしている」「(ロシアによる軍事介入の可能性は)高い」などと繰り返し発言している。

 彼の発言に根拠は特にない。根拠がなくても、NATOの事務総長がこうした発言を繰り返し、それを欧米の「権威ある」メディアが検証なしに報じれば、誰でもロシアの侵略は目前に近づいている、と思うだろう。

 白いコンボイの車列がウクライナ国境に近づいていくにつれて高まっていくヒステリーは、まるでロシアが侵略直前なのは確実であるかのような騒ぎ方だった。

 オバマ米大統領とポロシェンコ大統領は電話で会談し、ウクライナ政府による明示的な承諾のない場合、ロシアのいかなる介入も受け入れられないものであり、「国際法違反であること」を確認しあっている。

 さらにポロシェンコ大統領は、ウクライナ東部の状況を鑑み、赤十字国際委員会と共同し、多国間による人道支援の取り組みが必要だと訴えた。オバマ大統領もそのような人道支援の取り組みは緊急性を帯びたものだと応じた。

 このオバマとポロシェンコの電話会談は、要するにポロシェンコがオバマに、人道支援をねだり、オバマがその必要性を曖昧ながら認めたようなものである。一方で支援をねだっておきながら、実際に援助を行っているロシアに対しては、この態度、あきれざるをえない。

 特に、「介入…」「国際法違反…」と、ポロシェンコ大統領の言い草には絶句する。

 今、人道援助を必要としているのは、ウクライナの自国民である。自国民の救出や支援は自国政府の使命であろう。自国民の支援に多国間の取り組みが必要だ、などと言っている時点で、統治責任の放棄である。

 もちろん、そうであっても、手が回らない時もある。困った時はお互いさまだ。他国に支援を要請するほど大変な時もあるだろう。

 しかし、そうであるなら、見かねた隣国が支援を申し入れたら「感謝」するのが礼儀であろう。「介入だ」「国際法違反だ」とは、いくらなんでもお門違いではないか。

 もっと言ってしまえば、自国民が国際社会から人道支援を必要とするほどの苦難に陥ったのは、他ならぬポロシェンコ大統領率いるキエフ政権が、軍を率いて自国民を相手に内戦を仕掛けているからである。ウクライナ国内ではマイノリティーのロシア系住民に対する差別的政策をやめ、対話によって、国内融和をはかる努力をする必要があるはずだ。それが頭からすっぽりと抜け落ちている。

 実際には、ロシアによるウクライナ東部への人道支援は、終始、赤十字の管理下において行われてきたものだ。キエフ政権も、西側各国政府も、各国のメディアも、それを知っていたはずである。『EuroNews』は8月15日の時点で、人道支援の様子について、以下のように報じている。

 「赤十字は、これらのトラックがウクライナに入るときに軍隊によるエスコートがないことを断言した。親ロシア派軍が掌握する領土に向かうとき、もともと3人のクルーが乗っていたが、一人の運転手のみにする。

 赤十字国際委員会(ICRC)のトップであるローラン・コルバスは、記者たちにこう語った。『ICRCは軍隊によるエスコートを決して受け入れない。われわれの安全体制を整え、安全を保証する必要があり、決められた道路、決められたルートを通ることで、皆同意したことを確認する』」

 赤十字はここで軍を帯同しないと断言しているし、当然、彼らの管理のもと、積み荷の中に部隊がまるごとひそんでいたり、機関銃や銃弾を積載していることもありえない。

 ユーロニュースでは、赤十字の職員が白いトラックのひとつひとつを開いて中身をチェックしている様子、そのトラックの中まで映し出している。

ウクライナ東部市民の犠牲と米国の反応

 白いコンボイトラックの中身が人道支援物資だと批判したあとも、国境でとどめおかれている間、キエフ政権による親ロシア派=分離独立派に対する攻撃作戦は、日に日に勢いを増している。このような中、米国務省のハーフ副報道官は14日、ウクライナ東部の都市ドネツクがウクライナ政府軍による砲撃を受けているとの質問を受け、「ウクライナの現政権を支持する」と答えていた。

 ハーフ報道官は、「ウクライナ軍は、ルガンスクおよびドネツクから、分離派たちを除去しようと努めています。分離派たちは、我々も知っているように、人口密集地を選び、そこから作戦行動を行っています。我々は、ウクライナに対して、分離から都市を解放しようとするときに、地域住民を避けるよう、あらゆる手段をとるよう呼びかけています」と述べた。

 これに対し、「市民の犠牲を増やすような特定の重火器使用を、あなたは支持しているのか」という問いがあった。

 ハーフ報道官は、「そのような犠牲を増やす武器使用はしないようにウクライナには呼びかけている」と、いったんは答える。しかし、すぐに次のように続けた。

 「ここで我々の立場は、ウクライナを大きく支持するものです。彼らが渦中にいるのは、困難な戦いです。そして、我々は、都市が分離派により支配されないことが、最終的な目的としてあるべきだと考えます」。

 一方、ロシアの人道支援団について尋ねられたハーフ報道官は、「(ウクライナ)政府による明確な許可がなければ、ロシアには、いかなる種類の車両、人員、または貨物をウクライナへ送る権利はありません」と答えた。

 キエフ政権による、自国民への軍事力の行使は、米国の是認によって行われていることが、うかがわれる。重火器の使用によって、一般市民に犠牲が出ることがのぞましくない、とは言っていても、それは「最終的な目的」に優先するものではない、ということも、である。

 そして、キエフ側は猛烈な攻撃をかけている際中であり、作戦遂行のために人道援助の車両が入ってくることは邪魔だ、と米国政府としても感じている、ということも透けて見える。

 米国のヘーゲル国防長官とロシアのショイグ国防相15日、電話会談を行い、ロシアの人道支援団について話し合っている。「侵入」に関して意見が交換されたかは不明であるが、国防総省によれば、ショイグ国防相はヘーゲル長官に対し、人道支援団には軍関係者は含まれず、支援が軍事的な介入の口実ではないことを確かに請け合ったという。

 国防総省の発表では言及されていないが、ショイグ国防相は、キエフ政権によるウクライナ東部での民間人に対する戦闘機や重火器の使用について「受け入れられないものだ」と強く批判している。

 ウクライナ東部での即時停戦が必要だとし、人道支援を行い、東部ウクライナの戦闘地域から民間人を避難させるための安全な複数の回廊の必要性を訴えた。さらに、増加しつつある、ロシア国境に付近における米国およびNATOによる軍事活動に懸念を示したという。

「人道支援」と「テロとの戦い」

 ウクライナは17日になり、ようやく、ロシアが送っているトラックの積み荷が、ロシア側の申告通り、食糧などの人道支援物資であると認めた。しかし、自分たちが疑いをかけ、さんざっぱら「武器だ、侵略だ」と騒いだというのに、その謝罪なし。自国民への人道支援に感謝の表明もなし。

 人道支援物資である、ということを認めてからも、ウクライナ政府は、トラックをロシア領内に留めおいた。ウクライナ東部の人々に、支援物資が届かない状態がじりじりと続いた。8月18日に最初の16の積み荷が通関検査されることになったというが、検査は遅々として進まず、通過許可は先のばしにされた。物資を渇望している人びとの手元の届けられるのは、いったいいつになるのか、見通しがたたない状況だった(「ウクライナ 積み荷は人道支援物資と確認」2014/8/17 NHK)。

 8月17日にベルリンで行われた4ヵ国会談では、ロシアの人道支援物資のウクライナへの受け渡しに関して合意がなった。しかし、ウクライナ東部の停戦に関しては何ら成果がなかった。

 そうこうしている間にも、何者かにより、ルガンスク付近で、ウクライナ東部からの避難民の車列に対してロケット弾による攻撃が行われていた。女性と子供を含む数十人が命を落とした。ウクライナ軍報道官は、犯人は分離派だとしているが、名指しされている側は否定している。8月19日には、17人の遺体が発見され、6人が病院で手当を受けていると発表されたが、その後、真相は明らかになっていない。

 国境付近に一週間も留め置かれる中、ロシアの人道支援団は8月22日、とうとうしびれを切らし、ウクライナ政府の同意なしに国境の通過を始めた。BBCによれば、ロシアの車列は、放棄されていた国境検問所を通り抜けたのだという。

 ポロシェンコ大統領は、100を越える車両からなる隊列が、検問所での検査と越境の登録を受けず、赤十字国際委員会の同行がないまま、ウクライナ領に入ったとカンカンになった。同大統領はこれを、「国際法の甚だしい違反だ」と大げさに非難した。いやはや、中身は支援物資だと、自ら認めたというのに。医薬品や赤ちゃんのミルクの搬入が、国際法違反にあたるのだろうか?(「President of Ukraine: Ukraine offers Russia to return situation with humanitarian cargo to the framework of the international legal field」2014/8/22 Press office of President)

 一方、プーチン大統領はドイツのメルケル首相と電話会談し、人道支援物資の受け渡しがこれ以上遅延することを避けるため、「ロシアは断固として行動しなればならない」と伝えた。

 またロシア外務省は、「南東ウクライナへのロシアの人道支援の最初の受け渡しを妨害する終わりのない遅延は、許容しがたいものである」という声明を発表した。

 声明は、現地の人々が日々の砲撃や空爆にさらされており、特に「女性、子供、老人」が支援を必要としているとし、事態の緊急性を強調した。また、ウクライナ政府が、「繰り返し、新たな言い訳を発明し」、公式な同意を出し渋ってきたとも批判した。

 この動きに、NATO事務総長は黙っていなかった。ラスムセン事務総長は22日、「ロシアの、いわゆる、人道支援車列」が、ウクライナ当局の同意と、赤十字国際委員会の参加がない中、ウクライナ領へ入ったことをすぐさま非難。「ロシアが自身で作り出して油を注いでいる東部ウクライナ危機をさらに深刻化させるものだ」とした(「NATO Secretary General condemns entry of Russian convoy into Ukraine」2014/8/22 NATO)。

 また、米国では、ローズ大統領補佐官(安全保障)が、「過去数日、ロシアの大砲がウクライナにおいて使用されているのを見ている」と発言。「ロシアからウクライナへの砲撃を見ているし、ロシア砲と軍事装備品のウクライナへの不穏な動きを見ている」と続けた。証拠は、またしても明示されていない。

 ロシア側の報道によれば、人道支援団の第一陣はルガンスクに到着したと、「ルガンスク人民共和国」を名乗る分離派が発表したという。結局、物資の分配は、8月23日から開始されることになった。

 その8月23日当日も、ドネツクでは政府軍による激しい砲撃が続いた。朝6:00には南地区にある印刷工場が。さらにはレーニンスキー区域の居住区が標的となり、いくつかの建物が大きな被害を受けた。ロシアの人道支援に対する、これがキエフ政権からの返礼だったのだろう。

「WRAPUP 1-First trucks from aid convoy to Ukraine cross back into Russia」(2014/8/23 Reuters)

(この稿、後編へ続く)

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    ※アイキャッチ画像:Wikimedia Commons

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