TPP年内妥結見送りも「新しい餌」を献上し続ける安倍政権 ~その先にある「経済植民地化」(IWJウィークリー31号「岩上安身のニュースのトリセツ」より) 2013.12.17

記事公開日:2013.12.17 テキスト
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(岩上安身)

特集 TPP問題|特集憲法改正|特集戦争の代償と歴史認識
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 12月6日、多くの国民の反対の声を押し切り、無視し、政府・与党は稀代の悪法「特定秘密保護法案」を強行に成立させました。その混乱冷めやらぬ翌日7日、政府はシンガポールで開幕したTPP閣僚会合に出席しました。

 参加12ヶ国中、特に米国と日本は、「大枠合意」の年内妥結を目指していたため、このシンガポール会合で政治決着を強行するのではないか、と少なからず懸念の声がありました。しかし蓋を開けてみると、「交渉継続」と「来年1月に再度閣僚会合の開催」と明記した共同声明を採択するにとどまり、「年内妥結」は見送られました。

 舌がんの治療のため、会合出席を見送った甘利明TPP担当相の代打として、シンガポール入りしていた西村康稔内閣府副大臣は帰国後、13日に自民党のTPP対策委員会で報告を行い、来年1月の次回閣僚会合で「交渉妥結」を目指す考えを強調しつつも、「来年春までに方向性を示すことができなければ、交渉が長期化する可能性がある」と、難航する交渉の内幕をうかがわせました。

記事目次

「年内妥結」見送りの背景に「横暴な米国」と他国の反発
~埋まらない「溝」をウィキリークスが暴露

 「年内妥結」が見送られた背景には、「関税」や「知的財産」の分野などで、参加12ヶ国間の利害が対立し、歩み寄りがなされなかったためと言われています。

 この各国間の溝は、リークされた交渉の内部テキストからもうかがえます。IWJはこれまでにも、交渉会合にステークホルダー(利害関係者)として参加した識者へのインタビューや、米国の実情に詳しい専門家へのインタビューを試み、参加各国や、当の米国内で交渉への反発が強まっている状況を報じてきました。

 しかしシンガポール会合真っ只中の12月9日、ウィキリークスが11月に続きリークした、TPP交渉の内部テキストには、これまでに伝えられてきた以上の「米国と世界の間の溝」が鮮明に書かれていたのです。

 IWJは「TPPの現況」と題するリーク文書を独自に邦訳し、ブログ記事として掲載しました。そこでは「知的財産」「投資」「金融サービス」などの分野で、年内妥結に拘る米国が他国に圧力を加え、強引に自らの要求を押し通そうとする姿と、それに対して各国が頑なに反発している様子が、生々しく見て取れます。

 リーク文書をみると、まず「知的財産」分野では「条項のほとんど全てで、大きな意見の相違が確認」などと書かれ、さらに「投資」分野では「これまでの会合と同様、米国はまったく柔軟性を見せず、条項締結への最大の障壁となっている。米国が柔軟になる兆しはない」と、米国に対して批判的な姿勢がにじみ出ています。

 さらに「投資」分野で注目すべきは、企業が「投資相手国の規制や法律によって不利益を被った」として、その国を訴えることができる「ISD条項」です。リーク文書には「ISD条項の適用範囲についても、根本的な意見の相違がある」と書かれています。「ISD条項」については、米国が強行に推し進めるなか、日本が自ら賛成を表明したことが波紋を呼んでいます。このリーク文書によると、そうした日米の共同歩調に対し、その他参加国がいまだ反発を続けていることが読み取れます。

 また「関税」については、「自由化率95%の第3段階は到達。日本以外は合意。日本は交渉に参加して間もないので(まだ合意しない)『権利』を持つ。日本を含めた展望は非常に難しい」と書かれています。日本が「聖域」に掲げている「農産品5項目の関税撤廃除外」に対し、米国が「例外なき関税撤廃」を主張し、これに日本が何とか抵抗をみせている様子が映しだされています。

 さらに「医薬品」「原産地規則」「繊維」「衛生植物検疫」「環境」「法律と制度」など多くの分野で交渉が難航しており、リーク文書には「議論中断」「進展不十分」「進展なし」の文字がおどります。そのほとんどに「米国が柔軟性を見せず」、なかには「米国にはめられた」と書かれており、米国の横暴と、それに対する各国の不平が根底に存在し、議論の進展を妨げている様子がわかります。

 そして驚くべきは自国の農産品輸出を支援する「輸出補助金」分野です。このリーク文書には「米国以外のすべての国が補助金撤廃を約束」と書かれています。つまり、米国一国だけが自国の農産品輸出保護の補助金撤廃に反発しているというのです。

 言いかえると、米国は、政府と業界が一体となって、他国の市場を侵略するような攻撃的な農産品輸出攻勢を改める気がない、ということです。

 これは、不公平であるばかりではなく、彼らが掲げる「国家の介入を極力少なくした自由市場の実現」という理念そのものにも反します。米国のあまりにもあからさまなダブルスタンダード。彼らは市場にすべてをゆだねる市場原理主義者ですらないのです。

 このリーク文書は、交渉国のうちの参加1ヶ国の立場で書かれており、作成した国の名前を明らかにされないため、多少の編集が加えられている可能性があり、ここに書かれていること全てを鵜呑みにはできません。

 しかし、もしこれが事実であれば、他国には例外なき規制緩和と自由貿易推進を迫りながら、自国の産業保護だけは例外として守る、米国の自分勝手で「ジャイアニズム」な姿勢が改めて明らかになったといえます。

米国内でも反対の機運高まる
~オバマ政権が妥結できない可能性

 他国に対して強引にTPPの妥結を要求する米国ですが、しかし、その米国自体がTPPを締結できない可能性が出てきました。

 中身を一切国民には開示せず、秘密裏に進められてきたTPPですが、米国では5月23日、オレゴン州のロン・ワイデン上院議員が「これでは審議できない」と政府に対し開示を求める法案を提出しました。これにより米国では今年9月から、連邦議員が交渉テキストを「閲覧」できるようになったのです。

 そして秘密のベールに包まれていた交渉内容が徐々に開示されてきたことで、米国でも、議会で反対の声が膨れ上がっています。

 11月13日米下院で、オバマ大統領のよって立つ民主党議員201名のうち166名が、オバマ政権が貿易交渉促進権限(TPA)を取得することに反対を表明し、そのうち151名が「我が国(米国)に途方もない影響を及ぼす可能性のあるTPP・FTAについて、現在進行中の交渉に対する深刻な懸念を表明する」とする書簡を連名で提出しました。

 また、共和党議員23名も同じく、オバマ大統領のTPA取得に反対の書簡を提出しました。

 TPAとはかつて「ファスト・トラック(追い越し車線の意)権限」と呼ばれていたもので、本来議会が持つ貿易交渉権を大統領に一任することで、議会に協定への口出しや修正を許さず、最終的に批准するか・しないかだけを問えるというもので、オバマ政権は交渉加速の切り札としてきました。その権限を議会が与えない可能性がでてきたため、オバマ大統領は手づまりとなったのです。

 オバマ政権はこの「TPA法案」を議会で承認させなければ、TPPを迅速に締結・批准できません。

 オバマ大統領はTPPを、自身の掲げる「輸出倍増計画」の柱と位置づけてきました。つまり、他国の市場を強引に「開放」させ、食い荒らしてでも、米国内の産業のために輸出先を見つけなければ、国内の不満を抑えられず、政権の基盤すらぐらつきかねないのです。TPPの年内妥結の見送りは、急速に求心力を失いつつあるオバマ大統領にとって大きな痛手となります。

 ノーベル経済学賞に輝く経済学者・ポール・クルーグマンが、2008年のリーマン・ショック後に、ソウルでの講演で口にした言葉、「輸出先としてもう一つの惑星をつくるか、さもなければ第三次世界大戦が起きない限り、この不況は続く」という言葉をいやおうなく思い出さないわけにはいきません。

 TPPの「空中分解」までもが囁かれ始めましたが、だからといって日本の「TPP反対派」は安心はできません。焦りに焦るオバマ政権が、議会を納得させるために、より強行に日本に対して譲歩を迫る可能性があるからです。

「米国内のTPP反対の声」に安心してはいけない

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