「法律家にとってみれば、突っ込みどころが満載」 ~本当はどうなの!「特定秘密保護法案」 講師 倉知孝匡弁護士 2013.12.1

記事公開日:2013.12.1取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ 阿部玲/奥松)

 「裁判所にも情報が秘密にされる。弁護士も確認できない。これでは、裁判が成り立たない」──。

 2013年12月1日、岐阜県多治見市の多治見市文化会館で、講演会「本当はどうなの!『特定秘密保護法案』」が行われた。地元出身の弁護士、倉知孝匡氏が講師を務め、条文を解説。秘密保護法案について、「そもそも、立法理由に疑いがある」と批判、数々の問題点を指摘した。

■全編動画

  • 講演 倉知孝匡(くらち・たかまさ)氏(多治見市出身、秘密保全法に反対する愛知の会、弁護士)
  • 日時 2013年12月1日(日)
  • 場所 多治見市文化会館(岐阜県多治見市)
  • 主催 特定秘密保護法案を考える市民の会

 倉知氏は冒頭で、「中学3年から4年間不登校だったが、大検を受けてロー・スクールに進学、弁護士の資格を取得し、現在は名古屋法律事務所に勤務している。主に知的財産権やクリエイター関係、セクシャルマイノリティ支援などを担当している」と自己紹介をした。秘密保護法を理解するのに大切なこととしては、「法律の文言をよく読むこと。首相や大臣が『説明』と称して何を言ったとしても、それは言っただけであり、法律になっていなければ、意味がない」と念を押した。

そもそも立法理由に疑いがある

 秘密保護法案の第1章第1条には、その目的が記されている。「国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で(以下略)”」。

 倉知氏はこれを、「そもそも、文章としてわからない。立法理由そのものに疑いがある」と指摘した。その理由として、「国際情勢が複雑化したら、秘密が必要になるのか。高度ネットワーク社会が発達すれば、情報の漏洩化の危険が増すのか。まったく理由が書いておらず、飛躍し過ぎている。不正アクセスなどはシステム上の問題であり、ハッキングする人というのは、罰則など、あってもやる。どう安全を構築するかの問題であり、見当はずれである」と斬り捨てた。

 有効期間については、「第4条では『原則として5年』としながら、2項では『5年を超えない期間で延長できる』、3項では『30年までは延長できる』。さらに衆議院通過後の修正案第4項では、『内閣の承認を得れば30年を超えて延長できる』。つまり60年まで延長できることになる。さらに、『ただし、次の各号に掲げる事項に関する情報を除き、指定の有効期間は、通じて60年を超えることができない』は、その事項に該当するものであれば、60年も超えて永久に延長できるのでは、とも読める」と述べ、実質的に制限がない記述になっていることに、大きな懸念を示した。

罰則が及ぶのは公務員だけではない

 その他各条項についても、「5条4項で言う適合事業者とは、つまり民間企業のこと。情報漏洩に罰則が設けられるのは『公務員だけ』と思っている人も多いが、そうではない。12条で定めた適性評価では、調査は本人のみならず、家族、知人にも及ぶ。飲酒の節度や家族の借金について、知人に尋ねて、『あいつ酒ぐせ悪いですよ』『借金あるみたいですよ』という評判があれば、そういうものも評価のひとつにされてしう。winnyでの情報漏れなどが問題になったことがあるが、そういった管理上のミスも漏洩罪の過失犯として扱われることになる」など、数々の問題点を指摘した。

 内容そのものも危険だが、運用する上で、チェックする第三者機関がないことも問題だという。「修正案では、首相が第三者機関になるとされたが、行政機関のやることを、行政のトップがチェックしても意味がない。しかも条文上『設置する』とはなっておらず、『これから設置する』と言っただけ」。

多用される文言の曖昧性も注意が必要

 「『恐れ』という言葉は危険だ。テロに利用させる『恐れがある』と言えば、何でも可能性を拡げることができる。TPPの内容も『~かもしれない』で秘密になってしまう。科学技術関係では、たとえば、顔認識技術も『テロリスト対策』として秘密に、医療関係では『伝染病を知らせたらパニックになるから秘密』と、キリがない。イラク戦争のようなものも、当然、特定秘密になり、国民は批判する材料すら手に入らない」と、乱用の危険性を懸念する。

 倉知氏は「総じて人権と秘密を比べた場合、明らかに秘密の方にウェイトを置いている。秘密を知ろうとしただけで罰せられ、では、裁判になれば明らかになるのかというと、裁判所に対しても情報が秘密にされる」という。その根拠は第10条1項。「行政が認めた時は、裁判所に見せてもいいですよ、ということ。それで、はじめて裁判所もわかる。秘密の内容そのものに踏み込まず、それで有罪にされてしまう。弁護士も確認できない。これでは、そもそも裁判として成り立たない」と、述べた。

不都合な真実を隠すには最適

 これ以外にも、「省庁間の情報も秘密になるため、縦割り行政化が進む。法案を推進した大臣自体も処罰の対象になり、自分の首を大きく締める可能性がある。不都合な情報を隠すのには最適な法律のため、不祥事隠しが横行する。かつての薬害エイズなどの問題は、官僚が隠すことが可能になる。不正を追求しようと思った国会議員が罰せられる」など、予想される事態を挙げた。

 最後に、「軍事上の重要な情報は機密にして当然、とよく言われるが、太平洋戦争当時の発表では、戦地で負けているのに勝った勝ったと伝えられ、結果、多くの国民が犠牲になった。軍事関係だから秘密にしてもいい、という意見も、そもそも違う。大勢の国民が『知る権利』を理解していない。国民から、国に文句を言う権利が奪われてしまう」と、国民の理解が必要だと訴えた。

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