ふくしま集団疎開裁判の会 郡山連続講演会 第2回 チェルノブイリ被害の全貌~福島への教訓 2013.5.20

記事公開日:2013.5.20取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2013年5月20日(月)18時30分から、福島県の郡山市総合福祉センターで「ふくしま集団疎開裁判の会 郡山連続講演会 第2回 チェルノブイリ被害の全貌~福島への教訓」が行われた。メーンの登壇者であるアレクセイ・ヤブロコフ氏(ロシア人科学者)は、著書『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』が誕生した経緯を「2005年、IAEA(国際原子力機関)やWHO(世界保健機関)が、チェルノブイリ原発事故の報告書を発表したが、その内容が、自分の目で見て、自分の耳で聞いてきたことと、乖離していたため」と話した。

※動画データ変換不良のため、動画と音声にズレのある箇所がございます。

■全編動画

  • 講師 アレクセイ・V・ヤブロコフ博士(岩波書店『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』編著者)

 ヤブロコフ氏の講演に先立ち、「ふくしま集団疎開裁判」の現状報告を、原告弁護団の柳原俊夫氏(弁護士)が行った。

 この裁判は、2011年6月、福島県郡山市に住む14人の小中学生が、放射線量が年間1ミリシーベルト以下の安全な場所で生活したいと求めて、郡山市を相手に訴えを起こしたもの。「先月24日に、2審の判決が下され、われわれの申し立ては却下された。しかしながら、先行きには希望が持てる」と、柳原氏は強調し、「今回の判決が下されるまでの期間が、1審の2倍半と長くかかっている。1審での事実認定では、われわれの主張はすべて退けられたが、2審では、それが全面的に覆されたのだ。『除染は十分な効果を示していない』『集団疎開が、行政がとるべき抜本的な対応策として、考慮されるべき選択肢である』など、裁判所が認めた」と述べた。

 このような裁判所の変化について、柳原氏は「チェルノブイリ事故で発生した健康被害が、真実の力として働いた。われわれは、ヤブロコフ博士の報告書(『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』)などに載っている事柄を採用し、主張した」と説明。「日本の裁判所は、もはや不都合な真実を容認できなくなった。しかし、われわれの主張は、まだ力不足だった。だから、『ただちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとまでは、証拠上認めがたい』との理由で、最終的には却下されてしまった」と続けた。その上で、「第2次の疎開裁判を起こすための準備を進めており、原告団の募集をしている」と明かし、「小中学生の子どもを抱えながら、被災地での生活を余儀なくされている父母のみなさんは、ぜひ、われわれに相談してほしい」と呼びかけた。

 その後、今年4月に刊行された『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌(日本語版)』の翻訳グループの代表者、星川淳氏が、ヤブロコフ氏について「1933年生まれで、ロシア科学アカデミーの評議員を長く務め、ロシア環境政策センターの創立者」とプロフィールを紹介し、ヤブロコフ氏本人がマイクを握った。

 この日のヤブロコフ氏のスピーチの内容には、当然ながら、前々日の東京講演と重複する部分があったが、冒頭でヤブロコフ氏は「福島は今後、どうなっていくのか。日本人はどう対処すればいいか。これらに関する議論に、より時間を割いていく」と表明した。

 ヤブロコフ氏は、福島の数年後を、チェルノブイリの調査結果に照らして予測した。「染色体の突然変異が起こる。(新生児の)先天性異常の件数が増えるだろう。白血病も増えていくし、さまざまな臓器のがんの罹病率も高まるとみられる。また、男性の精子の数が減少し、新生児も男児の率が下がる公算が大きい」。そして、ヤブロコフ氏は「当局は、平均的なミリシーベルトという放射線量の数値を出したがるが、それで各人の健康被害がわかるわけではない」と力説。「重要なのは、各人が自主的に検査を受けること。染色体や目の水晶体などを検査してもらうのだ」とし、「自主検査であるため費用はかかるが、被曝の度合いを正確に知るには、このやり方が有効だ」と主張した。

 その上で、「チェルノブイリ事故の影響は、7世代に及ぶと言われている。福島もまた、複数の世代に事故の影響があるだろう」と警告し、「知識は、人に力を与える。確かに恐ろしい事態が起きたが、過度に怖がる必要はない。危険に対処する方法を、まずは知識として身につけてほしい」と述べた。

 質疑応答では、これから子どもを持ちたいとする、郡山市在住の若い男性が、「空間線量は、あてにならないということだったが、その、あてにならない空間線量ですら、郡山ではかなり高い数値が出ている。やはり避難したほうがいいのか。『何もしないで大丈夫』というテレビ報道を信じて、このまま郡山に暮らしていて大丈夫か」と問いかけた。

 これに対し、ヤブロコフ氏は「きちっと肝に銘じなければならないのは、郡山に暮らし続けるのであれば、原発事故以前と同じ暮らし方をしてはいけない、ということ」とし、「子どもを持ち、家族として郡山に住み続ける選択肢を考える場合、ダウン症の子どもが生まれてくる確率が、10~15%は上がることが(チェルノブイリの事例で)証明されている。そういったリスクを負うことができるかを、ぜひ、自問自答してほしい。父親になろうとする人は、精子の検査も忘れずに行なう方がいい」と応じた。

 一方、「講演の中では、チェルノブイリ事故後に生まれた、先天性異常を持った乳幼児の写真を提示したが、新生児が全員、異常を持って生まれてくると解釈するのは間違いで、異常の発生確率は数%以下だ。また、放射性物質によって汚染された地域でも、圧倒的多数の人々は、健康な状態で生活を続けている事実もある」と、人々が過度に悲観しないよう配慮をにじませた発言もあった。ヤブロコフ氏は「市民が力を結集させ、政府から独立した形で、食品をチェックできる体制を整えることが望ましい。すべての人々の口に入る食品を、チェックすることは可能だ」と強調した。

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