【IWJブログ:国境問題「張り付くことで激化する」 孫崎享氏インタビュー】 2013.2.14

記事公開日:2013.2.18 テキスト動画
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特集 TPP問題

 2013年2月14日(木)、北朝鮮の核実験をうけて、岩上安身が孫崎享氏へインタビューを行った。以下、インタビューの実況ツイートを掲載します。

インタビューの本記事はこちら

■イントロ動画公開

■以下、インタビュー実況ツイートのまとめに加筆・訂正をしたものを掲載します。

岩上「北朝鮮が核実験をこの時期にしたという意味は?」

孫崎氏「北朝鮮は米国のターゲットになっている。冷戦後ソ連が解体し、米国のターゲットはイラク、イランとなった。米国はそのような国が強硬に出てくることを望んでいる。しかし、米国に挑発されて、それにのっていいのかということ。北朝鮮の在日の方々に講演をした際、本国の(米国に対する)姿勢はこのままでいいのか、米国の思惑の通りの行動になってしまっている、と話した。

 ブッシュJr.はイラン・北朝鮮は核を使っている。核攻撃を阻止するためには武力行使も辞さないという姿勢を明示していた。だから、北朝鮮、イランはそれに対する抑止力として核を持つ。キッシンジャーは『核兵器と外交政策』で核兵器保有国は、それを用いずして全面降伏を受け入れることはないであろうし、一方でその生存が直接脅かされていると信ずるとき以外は、戦争の危険を冒す国もないと見られる。(核保有国が)無条件降伏を求めるものでないことを明らかにし、どんな紛争も国家の生存の問題を含まない枠を作ることが米国外交の仕事である、と述べている。しかし、例えば対イラン政策で西側諸国はイランを転覆、つまり民主化を促進するために、ありとあらゆる手段を講じるため、(結果的に)核保有を促進させてしまっている。軍事でもって攻撃、あるいはその脅威を見せられれば、それに対して抑止力を持つのは当然。自然なこと。

 2月13日付のNYタイムスで、オバマ政権の外交顧問を務めるブレジンスキーが論文を寄稿した。彼はタカ派の軍事戦略家で、ソ連に対する憎しみが強い。かつて、中東にイスラムを勃興させ、民族主義によってソ連崩壊を企てた。つまり、これに火を付けたのは米国だったということ。彼は13日付の論文で、今、危険になってきたのはアジア地域での日中、北朝鮮・韓国、中印だ、と述べている」

岩上「ジャパンハンドラーは、これまで日米同盟の深化を散々言いながら、日中関係が悪化すると日本に肩入れするなと言う。日本がTPP参加、50兆円の米国債を買う為のファンド構想を献上すると言うも、米国は日米会談を延期した」

孫崎氏「日米豪の合同演習などではアジアにおける新しい戦略を打ちたて、日本の海上自衛隊を使うことも想定しているが、かたや日中関係の問題では米国は出て行かないという2つの戦略が存在する。例えば、オスプレイはなんの戦闘能力もないのに、米国に買わされている。ケビン・メアもF35を買え、イージス艦を買え、と文藝春秋で言い、これのために尖閣問題が利用されている」

岩上「歴史問題、慰安婦問題について、第一次安倍政権で安倍首相は慰安婦の狭義の強制性を否定、米国下院で慰安婦問題を非難する決議案が出ても、謝罪しないとしたが、その後の日米共同会見で謝罪することになった。しかし、その後もまた慰安婦問題は強制ではなかったという内容の意見広告をワシントンポストに出し、さらに、昨年の11月にも同様の意見広告を出した。首相の座に返り咲いてからも態度は変わっていない。先月、米ニューヨーク州上院で、慰安婦問題は人道に対する罪だと非難する決議案が採択された際、日本の右翼団体が慰安婦問題は嘘だったという内容のメール攻撃を上下院議員に行い、議員を憤慨させた。これについて、米上院議員の一人(トニー・アベラ氏)はインタビューで、おそらくメールを見た議員にとって、これは逆効果だった。歴史は書き換えられない、と語っている」

孫崎氏「日本は劣化した社会になっている。原発・TPP・増税…一番大切な事を論じずに事実を曲げている。尖閣では、戦後の外務次官で最も優秀だった一人の栗山尚一氏が、棚上げ論があったことは当時の共通認識だった、と述べている」

岩上「安倍首相は棚上げ論を否定している」

孫崎氏「公明党の山口代表をはじめ、棚上げ論に言及すると、ことごとくそれを潰している。米国は緊急時の際、尖閣問題は日米安保の対象になると言うが、これはイコールではない」

岩上「今月13日、石原慎太郎さんの衆院予算委員会での憲法問題に関する質問で、安倍首相はマッカーサー私案を押しつけられ、毎日新聞がそれをスクープしたと発言した。これは歴史的な基本認識を誤った発言。日本政府は松本試案、つまり、政府試案を作成していて、毎日新聞のスクープは、これとは別の宮沢甲案に相当する内容。これを保守的だと批判されたため、GHQは草案の作成に踏み切った。その経緯を飛ばしてしまっている」

孫崎氏「イラク戦争の際、事実でないと知りながら、東大の先生ら、北岡氏、JICAの田中氏がイラク戦争を推進する方向に持っていった。パウエル米元国務長官は、のちにイラクに対する攻撃演説を自分の人生の汚点、と語った。にも関わらず、日本では正しいことを言った人間が排除され、操作側に回った人間が偉くなるという構造。これは世界でも稀。ウォルフレン氏は、議員資金調達関連法を曖昧にし、反対派をいつでも恣意的に摘発する動きは、戦前から行われている日本のシステムと指摘。日本のこの曖昧さは戦前の言論弾圧のシステムと同じ。それが現在も続いている。その意味で、ソーシャルメディアの重要性が高まってきている。日本はリベラルな発言をできる場が無い。それはソーシャルメディアしかない。これをみんなが応援していくべき」

岩上「北朝鮮は経済的に窮乏しているが、なかなか倒れない。そこには中国の下支えがある。北朝鮮の貿易高の7割は中国。中国の北朝鮮からの輸入も前年比で倍額になっている。中国にとっては、北朝鮮が韓国と統合され、そこに米軍基地を持たれることは好ましくない。米国は北朝鮮をけしからんと思いつつも、中国を含み、今後どうしようとしているのか?」

孫崎氏「対中政策をめぐり米国の中でも対立がある。冷戦期のような戦争を望む声もあれば、中国と手を握るべきとの見方もある。米国市場は沸騰点に達しているから、後者の方が強くなっていくだろう。オバマ政権は金融界から資金が出ている。ウォール街は中国と手を取り合うべきだと考えている」

岩上「金融界は軍産複合体にも投資してきたため、在庫一斉にセールはしなければならない、それを日本に売ると」

孫崎氏「世界の日本に対するイメージは変わった。アルジェリアでは邦人が躊躇なく殺害された。帝国主義に倒された国は沢山あったが、これまで抑圧される国の代表格には日本があった。日本はPLOのアラファト氏を国賓レベルで招いた最初の国だった。しかし、イラク戦争の時から日本は完全に米国の傘下に入ったと認識されてしまうことになった。アルジェリアの件はそこに結びついている。

 米国は国際法がどうあろうと、先制攻撃をする。しかし、他国にはそれを許さない。ミサイルを北朝鮮が打つ前に打つという考えがある。それをやってもいいような状況に今日本は突入しようとしている。北朝鮮のミサイルは、米国本土には届かないが、ノドンは200~300発、実戦配備済。日本の米軍基地には届く。核弾頭は小型化できなくても、通常弾頭でも威力は大きい。直径10~15M、深さ3Mの穴が開く」

岩上「先日インタビューした『日本国憲法の誕生』の著者、獨協大学教授の古関彰一教授によると、明治憲法では宣戦布告を元首である天皇が行うが、自民党改憲案では、天皇を元首とするも、宣戦布告の規程がない」

孫崎氏「確認しなければならないことだが、先日、福島原発事故の対応で、陸幕長は日米統合指揮の中にかなりの時間入っていたという話があった。これはトモダチ作戦を含め、日米が同じ指令形態で動くようになってきているということを意味している。明治憲法下では、日本に主体があるわけで、日本に決定権があって動いていたが、今はそうではなくなっているということ」

岩上「宣戦布告の規定がない憲法はどういうことか、戦争はやらないが、事変はやるのか、満州事変のような…」

孫崎氏「指揮命令系統がないということ。国際法も関係ない。それが今行われているエアシーバトル。エアシーバトルには日本も組み込まれている。日本も米国の戦略の中でコマになるということ。そこで日本の役割を担えとの指示が出ている」

岩上「なぜ日本がそれをするのかという議論が抜け落ちている」

孫崎氏「米国海兵隊がいるようなアフガン、イラクなどの緊急時の戦争に巻き込まれることも想定される。福田首相の時に自衛隊を派兵するように言われていた。それを撤回すると同時に、彼は辞任することになった。これまでは9条があったから拒否できたが、訓練も装備も法も問題がなければ、戦争に行くことを拒否できない状況となる」

岩上「(自民党)改憲案は9条に関心がいくが、基本的人権、立憲主義、表現の自由が制約される。国がとんでもない方向にいってもそれにNOと言えなくなる。ソーシャルメディアでも発言できなくなる。それは亡国へまっしぐらということ」

孫崎氏「原発事故では悲劇を被った。しかし、原発のことで与えられている情報は、正確なものではないが、正確な情報はどこかに存在しているのだから、それを私たちは探さなければならない。それをできる人が増えている」

岩上「日中が戦争になれば、両者とも敗者で勝者は米国ではないか」

孫崎氏「(日本で)棚上げ論がことごとく否定されているが、これについて、実は中国の方が議論がオープン。元駐日大使の陳健氏がNYタイムスで、尖閣諸島において、米国によって埋め込まれた時限爆弾が爆発しようとしている。それを踏まないように我々は行動しなければならない、と発言したと報じられている。日本の言論界の状況は、中国よりもひどいと言える」

岩上「中国との関係において、石原(慎太郎)さんは延々に中国を挑発し続けている。

 ほとんどメディアは報じていないが、昨年のOECDの予測で、3年後にGDPで米国が中国に抜かれ、2060年には、中印でGDPの半分近くを占めるようになる。米、欧州、日は転落傾向。ここで攻撃を仕掛けるのは危険行為」

孫崎氏「2010年に工業生産高で中国は米国を抜いた。これは歴史的な大転換だが、産業革命までは、中印が世界のGDPの20~30%を持っていた。革命での技術を中印は持てなかったため、人口比ではない形の経済構造になった。(欧米は)自分たちの市場が飽和状態になると、最新技術を欧米企業が与え、中国の市場を利用した。すると技術の差が次第になくなり、人口比に比例する経済構造になった。国力関係も(人口比に準じ)中国13、日本1と考えられる」

岩上「Deep Night2でも話していた、米中の覇権ゲームの中で、日本を核の鉄砲玉にするのが米国の思惑だった、ということが、もう現実になってくるとは思わなかった」

孫崎氏「領土問題が複雑なのは、問題が延々と続くこと。青山学院大学で欧州情勢の研究をされてる羽場先生がおっしゃっていたのは、欧州の固有の領土はローマ時代まで遡らなければならない。結局、そこから得たことは、現状維持をすること。そこで欧州の安定を図る、と。現状を変えようとすれば、ユーゴスラビアのような紛争に発展する。それがそれが欧州で確立されたこと。プレジンスキ―に言わせれば、欧州が19~20世紀にやったように、今再びナショナリズムで対立しようとしている。なぜ歴史から学べないのか。歴史を学ぶ知恵は将来のためにある」

岩上「彼は日本を米国の保護国とはっきり書いた人。それはつまり属国ということで、それと、中国とうまく付き合っていくことは共存している」

孫崎氏「重要なところは軍の位置、米国との関係であり米軍との関係。米国との関係は、1951年の安保条約締結の時にダレス国務長官が言った、米国の軍隊を必要な時に必要なだけ持つ、ということ。それが在日米軍。自衛隊はどういうものか、警察予備隊がなぜできたかと言えば、GHQに言われて作られた。これは米国の戦略の中で作られてきたということ。それを常識だと認識しなければならない」

岩上「日本は連合軍に無条件降伏したが、中国に負けたわけではないことになっている。ここでもう一度、日中が戦争するようなことになり、米軍が引いて日本が中国に負け、降伏するようなことになれば、二重属国のような状態になる」

孫崎氏「中国は、自分たちの国の発展のためには経済発展をしなければならないと考えている。海外に自国の製品を売るためには、海外市場が重要であるから、自分から戦争はしたくないという立場。これは米国の報告書にも書いてあること。日本は中国に対して歪んだものの見方をしている。尖閣には何の経済的価値もなく、仮に取りたいと考えるのは、カザフスタンのようなレアメタルが取れて経済的価値がある場所だが、コストがかかるから、それはしない。国同士の関係において、軍事行為に出ることは非常にマイナスを被るということ。1945年以降、核兵器が出てきてから、覇権国が覇権国同士で戦争はしない状況になっている」

岩上「今後、朝鮮半島の緊張は激化するか?」

孫崎氏「残念ながら激化すると思う。北朝鮮のナショナリズムを抑止することを、北朝鮮内部ですることは難しい。ナショナリズムを煽るような仕掛けがたくさんある。

 ノルウェーでは、かつてソ連に接していたことから、NATOに加盟しなければならず、戦争になれば最前線になる状況だった。しかし、それは避けなければならなかった。そこで、150キロ兵隊を離し、国境線でのトラブルを避けた。ノルウェーは(兵隊あるいは軍が)下がることで安定を確保した。はり付くことでは緊張は激化する。そういう意味では主体性があったと言える。欧州では戦争にどう向き合うか、という知恵がある」

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