アルジェリア日本人人質事件の裏で進む安倍政権のタカ派外交 (「IWJ通信」1月28日号 巻頭言より) 2013.1.28

記事公開日:2013.1.28 テキスト
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(岩上安身)

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 アルジェリアで日本人が人質に捕らわれ、殺害されるという痛ましい事件が起きました。1月16日、アルジェリア南東部イナメナスで起きた武装勢力による人質事件は、25日現在で日本人10人の死亡が確認され、他国を含め、全体の人質の死者は少なくとも38人に及んでます。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、哀悼の意を捧げたいと思います。

 この痛ましい事件の背景には、フランス軍によるマリへの侵攻があります。人質をとった武装勢力の行動は許されませんが、彼らがフランス軍のマリ侵攻(フランス側は「介入」と称していますが)に抗議し、撤退を求めていたことには注意を払う必要があります。23日(水)に私がインタビューした同志社大学の内藤正典教授は、「『アルカイダ』『テロとの戦い』という呪文のような言葉で思考停止に陥ってしまい、フランスのマリ侵攻が正当化された」「テロ予防のためなら他国を蹂躙していいのか」とフランスの軍事行動と、それを是認する西側諸国に疑問を投げかけました。

 内藤教授は、「本来イスラム過激派は日本人をまず狙わない。それは日本が軍を派遣しないからだ」と語り、マリ侵攻のような旧宗主国による旧植民地への横暴な振る舞いを、「恐ろしく時代錯誤な考え。他国に攻め込んだところで、恨みが再生産され、経済活動も停滞するだけ」と断じました。事態はまさに、9.11後のアメリカによるアフガニスタン侵攻とイラク戦争に似てきているように思われます。
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 問題なのは、この事件にかこつけて、自衛隊法を改正すべきとの声が上がっていることです。海外で紛争などが起きて、日本人が危険な地域に取り残された場合、自衛隊を派遣して救出や輸送が出来るようにすべき、というものです。1月20日に自民党の石破茂幹事長が、22日には菅義偉官房長官、公明党の井上義久幹事長が自衛隊法改正に言及しました。また、26日には小野寺五典防衛相、27日には石破茂幹事長が、「必要最低限度の武器使用は、憲法の禁じる武力行使にはならない」などと、武器使用基準の緩和を求める考えを示しました。

 当事国の同意なしに、武器を持って他国に入るというのは、他国の主権を侵害することに他なりません。武力行使を伴えば、時には侵略とみなされます。にもかかわらず、「人質解放のために誰も差し向けないのはおかしい」などという単純な論理がまかり通ることに肌が粟立つ思いです。「邦人救出」というのはあくまで大義名分に過ぎず、秘められた政治目的があるのではないか。内藤教授の言う「時代錯誤な旧宗主国」と同じ道を日本も歩もうとしているのではないか、という懸念が拭えません。

 このような発言は、憲法改正、集団的自衛権の行使容認など、安倍政権における一連のタカ派的な動きと通じています。安倍総理は、就任直後の昨年12月27日、保守系の国際NPO団体「プロジェクトシンジケート」のウェブサイトに、「アジアの民主主義・セキュリティダイヤモンド」と題する英語論文を発表していました。「南シナ海は『北京の湖』になる」という挑発的なレトリックを用いばがら、オーストラリア、インド、日本、米国ハワイによって、中国包囲網を作ろうと呼びかけるものです。一国の宰相の言葉としては、あまりにも攻撃的で外交的配慮が欠落しています。詳細は、1月21日放送の文化放送「夕やけ寺ちゃん活動中」と、1月23日オンエアのMXテレビ「ニッポン・ダンディ」の中でもふれましたが、1月23日発行のまぐまぐの有料メルマガ「岩上安身のIWJ特報」第72号「メディアが報じない『安倍セキュリティダイヤモンド構想』の危険性 」にて詳述しましたので御一読願いたいと思います。

 25日(金)には、右傾化の象徴とも言える自民党憲法改正草案について、澤藤統一郎弁護士、梓澤和幸弁護士と三度目の鼎談。前回からゼミナール方式で逐条解説してきましたが、今回は主に第20条「信教の自由」と第21条「表現の自由」を取り上げました。 近代立憲主義を無視したこの憲法改正草案にはまだまだ多くの問題がはらまれています。両先生とのゼミナールは今後も継続して行なっていきます。
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