2025年4月8日午後1時より、東京都千代田区の厚生労働省にて、「グリ下に集う若者たちや、全国の困難な状況にある若者たちを支援する団体による【闇バイトに関するアンケート調査結果と提言】~512名の若者の声を発表」と題した記者会見が行われた。
「グリ下」とは、大阪市中央区道頓堀のグリコ看板付近の通称で、居場所のない若者が集まる場所として知られている。東京・歌舞伎町の「トー横」(新宿東宝ビル横)や、名古屋・栄の「ドン横」(ドン・キホーテ栄本店横)と並び、行き場を見失った若者が集まるポイントとして、注目を集めている場所である。
「グリ下」には、様々な理由で、家庭や社会に居場所のない若者や子供達が集まってくる。犯罪などに巻き込まれるケースも派生しており、また、売春や未成年飲酒といった問題も起こっている。
ここで言われている「犯罪」とは、主に、いわゆる「闇バイト」のことである。
警察庁のホームページでは、「闇バイト」の危険性について、以下のように注意喚起している。
「SNSやインターネットの掲示板には、仕事の内容を明らかにせずに著しく高額な報酬の支払いを示唆するなどして犯罪の実行者を募集する投稿が掲載されています。
簡単に高収入を得られるなら、と応募して、強盗や詐欺といった犯罪に加担することとなり、逮捕された人が多くいます。絶対に手を出さないでください」。
- いわゆる「闇バイト」の危険性について(警察庁ホームページ)
このたび会見を主催したのは、大阪が本部の認定NPO法人D×P(ディーピー:Dream times Possibility)。理事長を務めるのは、今井紀明氏だ。
今井氏は、1985年札幌生まれで現在、神戸在住。高校生の時、イラクの子供達の医療支援を目的とするNGOを設立し、その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航した。
そこで、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」を強調する世論、つまり、日本社会から大きなバッシングを受けた。記憶されている方もいらっしゃるだろう。
今井氏は、この社会的なバッシングにより、対人恐怖症に陥ったが、友人らの支えにより、社会復帰を果たした。自身の経験から、親や教師などから存在を否定され、社会の中で孤立する10代の若者達をサポートするため、2012年にNPO法人D×Pを設立した。
このたびD×Pが行った「闇バイト」に関するアンケート調査の目的は、困窮している若者が「闇バイト」に関してどのような経験を有しているか、彼らが自身の抱える困難を相談する際に、どのようなハードルが存在するのか、などを知ることで、実態を把握・発信し、今後の具体的なとりくみにつなげていくことである。
調査対象は、D×Pが運営するLINE相談サービス「ユキサキチャット」の利用者で、アンケート実施期間の2025年1月31日から2月15日の利用者9008人のうち512人(回答率5.6%)が回答した。
「ユキサキチャット」とは、不登校や中退、困窮など、様々な問題を抱える10代の若者のための進路・就職相談サービスである。
今井氏によると、このアンケート対象者の約4割が「実際に怪しい求人を見たり誘われた経験がある」、約1割が「闇バイトの経験がある・周囲に経験がある人がいる」と回答した。
また、3割以上が、「闇バイト」に誘われても「相談しない/判断できない」と回答している。
路上で、何者かに直接、闇バイトに誘われることがなくても、スマホをいじっていて、SNSなどで勧誘の言葉を目にしてしまうこともある。「闇バイト」の入り口は、身近なところにひそんでいる。
アンケートによって、相談先がない若者の実態が浮き彫りとなり、彼らの多くが、「闇バイト」に容易に踏み入れてしまうほど、困窮と孤立を極めていることが明らかとなった。
若者達が「闇バイト」について相談しない理由については、「怒られるかもしれない」、「電話のハードルが高い」など、既存の支援・相談窓口の問題点が指摘されている。
また、中には「支援の相談に行ったら『おまえは闇バイトするしかない』と言われた」など、逆に支援を断られ、反対に背中を押された経験を持つ若者もおり、「保護者や警察等の大人に相談せずに、自力で稼いでなんとかしようとする傾向がみられる」という報告も行われた。
質疑応答で、IWJ記者は以下の通り質問した。
IWJ記者「今回のアンケートに直接は、あまり関係ない質問なのですけど、『プレジデントオンライン』の記事で、今井さんが昔、大阪にいらっしゃる時に、自分の家を開放したというエピソードが紹介されていて、すごいなと思いました。
今の社会で、『一人で抱えない』、それを『誰かとシェアする』ということが、今の社会の問題を解決する上ですごく重要なコンセプトだと思いました。
今やってらっしゃる活動も含めて、現代社会において、その『共有する』というコンセプトを、どんな感じで今井さんがとらえて活動しているのか、お聞かせ願えますか?」
- 親が急にいなくなった、奨学金を使い込まれた…子どもの不条理に向き合う 「自己責任」「国賊」「頼むから死んでくれ」…イラク人質事件で壮絶なバッシングを受けた18歳の20年後の姿(プレジデントウーマン、2025年1月1日)
この質問に、今井氏は次のように答えた。
今井氏「はい、ありがとうございます。
そうですね、直接的に回答になってるか、わからないんですけれども、私自身は、『共有』というか、子供達や若者達の居場所とか、つながりというのが、極端に少なくなってきている社会なのかな、という風に思っていてですね。
例えば、『核家族化』でですね、おじいちゃん、おばあちゃんとか、昔頼れていた先とかが、なかなか頼れなくなったとかですね、あとは、地域の居場所がなくなったとか、子供達が遊ぶ場所がなくなったとかを含めてですね、貧困だけじゃなくて、孤立して複数の問題を抱えている子ほど、なかなか頼り先がないとか、あと、誰にも相談できない環境というのは、より強化されてきているのではないか、というふうに、私自身は感じています。
なので、NPOをやっている理由としても、いかにして、もう一度新しい形で、様々な方と協力して、子供達、若者達のセーフティネットだったりとか、あとはこのつながりの部分というのを再構築していくのか、みたいな部分というのは、NPOをやりながら思っているところなので、新しい形で、私自身も自分の経験と重ねながらやってきているのかな、というのは思います」
今井氏が会見中に使用した資料については、以下のURLをご参照いただきたい。
会見の詳細については、全編動画を御覧いただきたい。