2022年9月28日(水)18 時半から、東京都文京区の全水道会館にて、#もっと安全な中絶をアクション(ASAJ)主催による「9.28 国際セーフ・アボーション・デー 記念イベント『中絶について声をあげよう!』」が開催された。
主催者の意向により、動画取材は不可、ペン取材のみとのことだった。以下に、レポートする。
毎年9月28日は「国際セーフ・アボーション・デー」として、女性と少女の安全な中絶への権利とアクセスが保証されることを求め、全世界でさまざまな活動が行われる。
イベントでは、日本でのもっと安全な中絶の実現に向けて何ができるかを考える集いとして、主催団体の活動報告及び日本や世界の中絶をめぐる動向についての解説、また、活動に賛同する政治家、医療者、活動家などのリレートークが行われた。
イベントタイトルの「中絶について声をあげよう!」の内容には、「わたしたちのポリシー」として、3つの声が挙げられた。
1.わたしの身体はわたしが決める
2.安全な中絶はわたしの権利
3.中絶をあたりまえのヘルスケアに
まず最初に、その声に賛同し、リレートーク者として参加した唯一の男性である日本若者協議会の室橋祐貴氏の発言を紹介したい。
室橋氏「自己決定権が日本であまりにも軽視されている。ブラック校則、部活強制加入など、無自覚に先生たちが強制しているというような考え方が日本にある。根本的にこういう考え方が日本社会にあるからこそ、女性が自分で自分のことを決めるという権利が侵害されていると思う。管理教育やパターナリズムな風土を変えていくことが根本的な問題の改善につながると考えているので、様々な形で連帯していきたい」
女性が自分で自分のことを決めるという権利が侵害されている中絶に関する現行法について、主催団体で活動している大橋由香子氏は、安全な中絶が進まない理由を、次のように指摘した。
大橋氏「堕胎罪は大日本帝国憲法下に、女性の選挙権がない、無権利状態時につくられた刑法。母体保護法の配偶者の同意の見直しや、中絶の値段を安くすること、もっと安全な中絶が進まない、女性の健康が守られていない理由として、中絶が犯罪扱いされていることが関係していると思われる」
大橋氏は、具体的なエピソードを交え、母体保護法の見直しと、刑法堕胎罪の廃止を求める提言を行った。
「ある年配の女性から、『昔、中絶をしに産婦人科に行った時、罪人のような扱いをされた。医者や看護師さんや受付の事務の人たちから非常に蔑むような視線を受け、説教された』と仰っていました。
中絶を犯罪というふうにしている堕胎罪があるから、医療の世界でも教育の世界でも法律の世界でも私たちの日常のあらゆるところで、中絶は罰しなきゃいけないということが意識の中に染みついているのではないでしょうか。中絶を私たちの当たり前の権利とするためには、堕胎罪と母体保護法の仕組みを変えることが重要だと思います」
もちろん、「中絶を(女性の)当たり前の権利」といっても、妊娠後どの段階から見るかという生物学的な問題、子どもの権利、父親である男性の権利の問題、生まれてきた子どもを養育する社会的な環境の問題、人為的に中絶を行うことの宗教的・倫理的価値観の問題など、幅広い問題が背景にあることを忘れてはならない。
大橋氏は、『キャリア出産という選択―35歳からの妊娠・出産を応援する』(2002年、双葉社)、「産む/産まない/産めない女」(出版社解説より)の線引きをめぐる『記憶のキャッチボール―子育て・介助・仕事をめぐって』(2008年、インパクト出版会)などの著作を通じて、妊娠をめぐるさまざまな問題に取り組んでこられた。その知見の上での発言である。
その法律を変えていく糸口として、全国フェミニスト議員連盟、三鷹市議の野村羊子議員は、以下のように会場参加者に呼びかけた。
野村議員「安倍政治が数の論理で押し切るということを国会で行ったことによって、それが地方議会にまで広がっている。女性議員の数を増やすことが重要。女性が政治に参画し決定権を持つことで、女性の身体の権利、女性の生活の中の権利、ケアすることの問題が政治の課題として入ってくる。
小金井市では『人工妊娠中絶における配偶者同意の撤廃を求める意見書』、文京区では『経口中絶薬の承認審査にあたり、女性を守るための総合的な検討を求める意見書』で原案が可決された。ぜひ、議会に意見書を出せる女性議員とつながり、話しかけ、使い、支えてください」
元国会議員で国民民主党の円より子氏は、身近で経験した性犯罪や事故、自身が開設した「ニコニコ離婚講座」の中で、3万人の女性相談者の多くが中絶経験者だったことなどを挙げ、避妊、中絶、妊娠、出産、女性の身体、健康、性の自己決定権が日本で軽んじていられることを実感してきたという。
円氏「今現在、緊急避妊薬が手軽に手に入らないのも、中絶で女性の身体を傷つける掻爬手術が多いのも、女性の自己決定権が軽んじられている証左だと思う。
それは古典的性別役割分業に固執している人たち(統一教会とか安倍さんたち)がいるから、そういう考えが我が国に蔓延っているからだと思う」
円氏は、国会議員時代の1996年に、国会で審議がないまま、自民党の一部と厚生省だけで進められた委員長提出法案で「優生保護法」が(「母体保護法」に)改正された当時の国会報告書を紹介し、悲憤を滲ませた。そして、安全な中絶を通して女性の身体、健康、性の自己決定権を推し進めるためにも、NGO などの民間団体の協力が重要だと述べた。
この他、妊娠した場合に、誰もが孤立しない支援制度や「包括的性教育」の必要性についても語られた。その重要性については、主催団体で活動している梶谷風音(かじや かざね)氏の次のエピソードが参考になる。
「中絶や性教育に対して拒絶、よくないんじゃないかという人たちとどのように連帯するか」という会場からの質問に対し、梶谷氏が回答した。
梶谷氏「苦しんだ人たちの声を届けることで伝わると思う。DV夫に同意が得られないため医者に断られ続け、20週まで妊娠継続を強要され、最後に警察同伴でDV夫に頭を下げて同意を求めに行った例もある。
日本の女性は、人権教育、性教育がないせいか、性暴力として認識できていないところがあり、『今、思えば、あれは性暴力だった、モラハラだった』という人が多い。
『避妊してもらえなかった』という人は多い。それは、日本で避妊法が少ないこともあるし、避妊をしないということがDVだということを、女性も認識できていない。それで妊娠して『中絶したい』というと、『人殺し』『お前が勝手にしろ』など酷い言葉で夫に罵られた、という人たちがいる。
今まで『中絶、悪いことだよね』と掻き消されてきた名も無き声、日本の法律でスティグマ(烙印)に苦しんできた女性の声を届け、日本で起きている問題を知ってもらうことが連帯の一歩だと思う」
最後に、会場参加者で、子ども食堂などの食の支援活動している男性から述べられた感想を記したい。
「望まない妊娠で出産してしまったお母さんたちから『子育てしていて、かわいいと思えない』ということを聞いている。望まなかった妊娠をしたら、生まないことを決断できる心をつくっていってほしい。『お母さんに叩かれる思い出しかない』という子どもがいるという嫌な連鎖が続いてしまう。この活動は皆でやっていくべきだと思う」
上述したように、人工中絶は単なる女性問題ではない、幅広い問題に関わる根の深い課題である。ただし、女性の自己決定権、尊厳、社会的地位の問題でもあり、女性問題であることも事実である。女性たちの声に耳を傾けることから、議論を重ねていくべきである。
その他、主催団体の#もっと安全な中絶をアクション(ASAJ)から、岩本美砂子氏、塚原久美氏、長沖暁子氏の報告が、またリレートーク者として、松尾亜紀子氏(エトセトラブックス)、イロタカ氏(セックスミュージアム設立準備委員会)、 中島かおり氏(ピッコラーレ・助産師)、田村智子議員(日本共産党ジェンダー平等委員会)、福島みずほ議員(日本社会民主党)、櫻井裕子氏(さくらい助産院・助産師)からそれぞれ発言があったことをお伝えしておく。