元読売テレビアナウンサーで、情報番組キャスターの辛坊治郎氏が、6月11日にツイッターに連投した年金問題に関するツイートに多くの批判が集まっている。
※辛坊治郎氏のツイート(全て2019年6月11日)
- 「例の『2千万円問題』に関する、マスコミと国会の議論を聞いていると吐き気がする。あるマスコミは、2018年度の年金運用は14兆円の赤字!と伝えて政権が株式運用割合を増やした事を非難した。しかしそこには過去6年のトータルで40兆円以上の運用益が出ている事や」
- 「過去の債券中心運用より遥かに利回りが高い事には一言も触れられていない。私は個人的なは年金運用は債券中心であるべきだと考えているが、そもそも年金積立金は、年金が積立制度だと仮定した場合に必要な金額の十分の一も無く、そんなものの運用が多少赤字でも黒字でも年金財政にほとんど影響しない」
- 「のだ。なぜ必要額の十分の一以下しかないのか? 理由はただ一つ! 現在の年金受給者がこれほど長く生きることを全く想定してなかった低い年金掛け金しか、彼らが現役時代に徴収してなかったからなのだ。この点について酷い勘違いが横行している。ある新聞を読んでいたら、」
- 「生涯独身で自分の子供も他人の子供も直接育てなかった女性が、『私だって長年税金や社会保険料を払って来たから、老後を国に面倒見てもらう権利がある』と主張していた。残念ながら、多くの普通の所得の女性の場合、その人が平均寿命迄生きた場合に、」
- 「多くの普通の所得の女性の場合、その人が平均寿命迄生きた場合に、彼女が生涯に払った金より、彼女が受ける社会保障給付の方がはるかに大きいのだ。そして、その給付を支えるのは他人が育てた子供達が払う金なのだ! マスコミが伝えるべきはこの現実だろうが!!! うー血圧上がる 詳しくはメルマガで」
- 「今回の私の連続ツイートについて、全部通しで読んだら、『そんな反論や感想、ありえないだろう』というアホカキコが散見されます。そんな皆さん、もう一度全文読んで下さい。例えば私は一言も、『自分で子供を産め』なんか言ってませんから。ただ、先に書いたツイートが読みにくいのはごめんなさい」
- 「もう一つ、皆さんのカキコを読んでいて気がついた事があります。年金は制度上絶対に破綻しません。その時代の現役世代の掛け金を高齢者に回すだけですからね。ゼロになるという意味の破綻はないですが、額が減るんです。それが問題なんです。詳しくはおいおい」
辛坊氏のツイートには、いくつものおかしな点が見受けられる。
一つは、年金積立金の株式運用が、債権中心運用より遥かに利回りが高く、過去6年のトータルで40兆円以上の運用益を出していることにマスコミが触れていない、という批判だ。
しかし、メディアや野党の年金運用への批判は、辛坊氏自身も書いているように、政権がリスクの高い「株式運用割合を増やした」ことに対するものだ。年金積立金とは現役世代が払った保険料のうち給付金として支払われなかったものを積み立てたものである。そのような公的年金制度の原資を、40兆円の利益が出ることもあれば短期間で14兆円もの赤字が出ることもあるようなギャンブル性の高い国内外の株式への運用に当てる比率を50%に引き上げたことへの批判だ。トータルで儲かったからいいという話ではない。
そしてもっとも大きな批判を浴びているのが、「多くの普通の所得の女性の場合、その人が平均寿命迄生きた場合に、彼女が生涯に払った金より、彼女が受ける社会保障給付の方がはるかに大きいのだ。そして、その給付を支えるのは他人が育てた子供達が払う金なのだ!」というツイートである。
まず、「多くの普通の所得の女性の場合」と書き出されているが、その一つ前のツイートには、「残念ながら、」と書かれている。この「残念ながら」は、次のツイートの「彼女が生涯に払った金より、彼女が受ける社会保障給付の方がはるかに大きいのだ」にかかっている。いったい何が残念なのだろうか? 公的年金制度は多くの場合、長生きすれば払った金額より多く受け取れるからこそ、成り立っているはずである。
そもそも年金は保険制度の一つであり、保険とはリスクに備えるものだ。長寿によって、生産し所得を得られない老後の時代を人間らしく生きるための保険なのである。長寿はめでたいことだが、経済的な側面から見ればリスクでもある。そのリスクを個々人と家族だけに負わせるのではなく、国民全体で分かち合う「公助」として制度化したのが国民皆年金制度なのだ。
厚生労働省が2015年に発表したデータによれば、厚生年金に加入するサラリーマンの夫と専業主婦の場合、2015年の時点で70歳の人は、保険料1000万円を支払い5200万円の年金が受け取れる。これに対し、30歳の人は2900万円を支払って6800万円が受け取れ、20歳の人になると、3400万円を支払い、受け取る額が7900万円と、割合は低くなるが、いずれも「生涯に払った金より、受ける社会保障給付の方がはるかに大きい」ことに変わりない。
- 平成26年財政検証結果レポート 第5章 その他のトピック(厚生労働省)
さらに「その給付を支えるのは他人が育てた子供達が払う金なのだ!」とあるが、公的年金制度は現役世代全体が高齢者全体を支える制度だから、他人の育てた子供が給付を支えるのは、「ある新聞」にコメントした「生涯独身で自分の子供も他人の子供も直接育てなかった女性」に限らないことである。別の言い方をすれば、現役世代は全員、自分を産み育ててくれた祖父母や両親以外のリタイア世代を支えており、生涯シングルでも、子供を持たなかった男女も、誰か他の人の老いた親を支えてきたのだ。
辛坊氏は後ろのツイートで「私は一言も、『自分で子供を産め』なんか言ってませんから」と言い訳を書いているが、「子供を産み育てなかった女性が、払った以上の年金を受給する」ことに対してバッシングしているとしか読めない。
子供をつくらなかった、つくれなかったのは女性だけではなく、男性も同じこと。生涯独身で、子供のいなかった人は男女ともほぼ同じ数いる。その人たちの多くも働きながら、現役時代に年金を支払ってきたのだ。こうした子供を持たなかった人、持てなかった人への差別、とりわけ女性への偏見と差別の助長は絶対に許せない。
日本年金機構は、公的年金制度の役割を「どれだけ長生きしても、また子供の同居や経済状況など私的な家族の状況にかかわらず、安心・自立して老後を暮らせるための社会的な仕組み」だと説明している。
- 公的年金制度の役割(日本年金機構)
辛坊氏の主張は、「生涯独身で子供を育てなかった女性」を標的に弱者を叩く誤った「自己責任論」であり、公的年金という社会保障制度そのものを否定するものだといえるだろう。
国内株式運用で利益を上げるということは国内の誰かが(外国人投資家もいるが)損をしたわけだ。
公的資金が勝ち負け市場で運用すろるのは如何なものか?