4月30日付けのブルームバーグが中国の通信機器大手・ファーウェイ(華為技術)について興味深い記事を配信している。それによると、ファーウェイの深玔(しんせん)工場で生産され、ボーダフォンのイタリア事業所に供給された部品に、バックドア(※注)機能が仕掛けられていたというのである。数年前に発見されていた、とブルームバーグは報じている。
(※注)バックドアとは、「裏口」の意味で、パスワードやIDなど正規の認証を経ることなく、外部からコンピューター・システムや暗号データにアクセス可能にする通信接続機能のこと。
▲ファーウェイのスマートフォン
このバックドアが発見されたのは、家庭用インターネット・ルーターと光サービス・ノードの部品、ブロードバンド・ネットワーク・ゲイトウェイの部品だった。
ボーダフォンで見つかったバックドアを使用すると、ファーウェイはイタリアの数百万世帯と企業が加入するボーダフォンの固定ラインネットワークにアクセスでき、ボーダフォンの顧客のパーソナル・コンピューターやホーム・ネットワークにも外部からアクセスできてしまうという。
ボーダフォンは英国に本社を置く欧州最大の携帯電話企業で、英国、ドイツ、イタリア、トルコでは、1000万人以上の顧客を持っている。
ブルームバーグによると、ルーターと固定アクセス・ネットワークの脆弱性は2012年以降も存在し、英国やドイツ、スペイン、ポルトガルでも見つかっていたという。
トランプ米政権は、中国によるスパイ行為を可能にするとして、西側同盟国に対し、次世代通信規格「5G」にファーウェイ製品を使用しないよう要請してきた。ファーウェイは、繰り返し、バックドアは作っていないと否定し、中国政府には義務も恩義もないと述べてきた。
この問題に対するファーウェイの説明は、次の通りである。
「部品の欠陥も脆弱性もメンテナンスと診断機能にあるもので、電気通信産業では一般的なものである。ファーウェイが部品のバックドアを隠していたというのはデタラメである」
ファーウェイの言明は虚偽だったのか。このブルームバーグの記事をどう考えればいいのか。中国経済に詳しく、IWJ代表・岩上安身のインタビューにも繰り返し応じているエコノミストの田代秀敏氏に、同じ、ブルームバーグの記事を読んでいただき、メールにて詳細な分析をいただいた。以下、その分析を紹介する。
▲田代秀敏氏(2019年3月5日、IWJ撮影)
「これは一言で言って華為 Huawei に追い詰められたアメリカの最後のあがきでしょう。
アメリカ政府は2012年08月08日の報告書 “Investigative Report on the U.S. National Security Issues Posed by Chinese Telecommunications Companies Huawei and ZTE” 以来、華為 Huawei 製品を介して中国が盗聴・傍受をしていると主張してきましたが、具体的な証拠を示したことは一度もありません。
“Investigative Report on the U.S. National Security Issues Posed by Chinese Telecommunications Companies Huawei and ZTE”
U.S. House of Representatives
112th Congress
October 8, 2012
https://fas.org/irp/congress/2012_rpt/huawei.pdf
上記の報告書でも“backdoors”という言葉を用いていたのは一箇所だけで、それも本文ではなく、冒頭の“Summary of Findings”においてです(p.11)。つまり、本文が完成した後、発表する前に挿入された言葉に過ぎませんでした。
しかも、“backdoors”を用いた箇所は、次の通り、華為 Huawei の個別の製品を実際に分解調査して、全ての技術的脆弱性(technological vulnerabilities)を調査してはいないことを示唆しています。
“The Committee did not attempt a review of all technological vulnerabilities of particular ZTE and Huawei products or components. Of course, the Committee took seriously recent allegations of backdoors, or other unexpected elements in either company’s products, as reported previously and during the course of the investigation. But the expertise of the Committee does not lend itself to comprehensive reviews of particular pieces of equipment.”
上記引用で、“backdoors”は“intended technological vulnerabilities”(意図された技術的脆弱性)を指す言葉として用いられているに過ぎません。しかし、この“backdoors”という言葉は、素人達の間を一人歩きし、素人達の思考を停止させてしまいました。今日のBloomberg記事はその典型です」