2018年4月12日、森友学園との土地取引に関する財務省の決裁文書の改竄が発覚し、国会が大揺れの中で、財務省の福田淳一事務次官(当時)が、取材に来た女性記者に度重なるセクシャル・ハラスメント(以下、セクハラ)をしていたと、週刊新潮が報じた。福田事務次官とされる男性が、「胸、触っていい?」などと話している音声データもネット上で公開され、大騒ぎになった。
当初、財務省は報道を疑問視し、財務省の記者クラブ所属の女性記者たちに「セクハラ被害調査に協力を」と呼びかけた。しかし、被害者に名乗り出ることを要求したこの対応に、批判の声が集中。福田事務次官はセクハラ行為を否定しつつ、報道による混乱で職務を遂行できないとして、4月18日に辞任を表明した。
4月19日、テレビ朝日が福田氏からセクハラを受けたのは自社の女性社員であると発表、財務省に抗議した。財務省は、福田氏がテレビ朝日の主張に反論していないことから、セクハラ行為があったと判断。辞任した福田氏を減給処分にして、この問題に幕引きをはかっている。
この一件によって、ジャーナリズムの世界で働く女性たちがセクハラを含む人権侵害を受けていること、取材先との人間関係が重視される仕事であるがゆえに、被害を訴えにくい実情などが改めて浮き彫りにされた。
そんな中、2018年5月15日、東京都千代田区の厚生労働省にて、「メディアで働く女性ネットワーク」の設立と財務省セクシュアル・ハラスメント問題についての申し入れ記者会見が行われた。会見したのは元朝日新聞記者でフリーランス・ジャーナリストの林美子氏と、同じくフリーランス・ジャーナリストの松元千枝氏である。
林氏は、「これまで、ジャーナリズムに携わる多くの女性たちは『取材先との関係が壊れる』と思い、(セクハラを受けても)声を上げてこなかった。私たち自身が、声なき声の当事者だった」と振り返った。その上で、今回の告発に勇気づけられ、今こそセクハラを含むすべての人権侵害をなくす時だと考えて、「メディアで働く女性ネットワーク」を設立したと表明した。
また、セクハラに対する法整備にも言及。「これだけ被害があるのに、政府は、男女雇用機会均等法あるいはその指導指針で十分だと言っている。今年の秋からは、男女雇用機会均等法改正の議論が始まる。性差別禁止法を作ってほしいという運動もある。女性が働きやすく、性的な暴力を受けないですむ社会を目指すため、法整備を訴えていきたい」とした。
松元氏は、「自治体幹部に無理矢理キスをされた。警察署長との懇談会を断ったら会見に呼ばないと脅された。地方議員に口説かれ、断ると翌日から取材拒否された」などの、女性ジャーナリストから寄せられた被害の実態を紹介。「福田事務次官の事件以降、セクハラを受けた経験は『女性記者あるある』になった。けれど、この職業に希望を持つ後輩たちに同じ経験をしてほしくない」と口調を強め、このように続けた。
「この会を設立した目的は、これまで職場で分断され、マイノリティだった女性がひとつに集まって支え合い、エンパワーメント(注)していくこと。まずは、安心安全の中でお互いに率直に語り合える場を作り、問題意識を共有していくことが大事だと思う」
注:エンパワーメント
力をつけること。また,女性が力をつけ,連帯して行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えていこうとする考え方。