「(枝野氏に)新党立ち上げをお願いしようと考えたのは9月28日です」――。
民進党の両院議員総会が開かれ、前原氏の指示に従って、「満場一致」で希望の党への「合流」が決定した9月28日、民進党の公認候補者として東京選挙区から出馬予定だった新人4人はこの決定に納得がいかず、元代表代行の枝野幸男氏に新党結党の提案を思い立った。
4人は新党の立ち上げを求める切実な理由や、「立憲民主党」という党名や綱領をまとめたレジュメを作成、枝野氏に提出した。10月1日、枝野氏本人から「気持ちはわかっている。今、一生懸命やっているからもう少し待ってくれ」という返事が届いた。その翌日の2日、枝野氏は都内で記者会見を開き、「立憲民主党」の結党を表明した。
新人4人とは東京2区の松尾明弘氏(42歳)、8区の吉田晴美氏(45歳)、10区の鈴木庸介氏(41歳)、13区の北條(きたじょう)智彦氏(34歳)。
IWJは3日、鈴木、北條両氏に直撃取材し、これまでの経緯について聞いた。鈴木氏は「自分のポリシーや意思を曲げてまで当選しても、それは自分の人生ではない」と新人らしい勢いと覚悟をのぞかせた。鈴木氏には2016年に、岩上安身が単独インタビューをおこなっている。
鈴木氏は理念や政策に賛同できないと希望の党へは公認申請をせず、2016年10月、小池百合子氏の東京都知事選出馬による補欠選挙で対戦し破れた若狭勝氏と、今回も同じ10区で戦うことを選んだ。
一方の北條氏は、希望の党執行部・細野豪志事務所でインターンをつとめていた経歴もあり、細野氏から直々に「こっちへ来て一緒にやらないか」と小池新党への誘いを受けた。しかし、前原代表がかかげた「All for All」という概念に強く共感していたことを理由に参加を断った。そして民進党の代表選では枝野氏ではなく前原氏を応援したが、今は前原氏が独断で主導した、あまりにも不透明な希望の党への「合流」劇に困惑していると話した。
細野氏、そして前原氏と、期待し、信じた政治家に立て続けに2度裏切られたようなものである。北條氏は、「前原さんにはきちんと責任を取っていただきたい」と不満を語った。
今回の選挙の争点は何か――。北條氏は、小池新党の「反安倍」は茶番だと批判し、「2つの右派政党で社会が回ってしまっていいのかを有権者の皆さんに問いたい」と答えた。
以下、鈴木、北條両氏のインタビュー内容を掲載する。
▲10月4日、鈴木庸介氏(すずき・ようすけ 前列右から2番目)と北條智彦氏は東京選挙区から立候補予定の14人とともに記者会見にのぞんだ
枝野氏に提案した新党「立憲民主党」の結党~「気持ちはわかっている。今、一生懸命やっているからもう少し待ってくれ」
▲鈴木庸介氏(2016年10月の衆院補欠選挙で)
――立憲民主党への参加を決めるまでの経緯を教えてください。
鈴木庸介氏(以下、鈴木氏)「希望の党への参加を知ってから最初の2~3日は様子見でした。前原さんの説明だと、そのまま全員が合流できるという雰囲気で、我々の『All for All』という考え方もそのままで、党名だけが変わるという感じでした。
だから、両院議員総会もそうだったと思いますが、(新人が説明を聞いた)都連代表者会議でも大きな疑義は出ませんでした。それが突然、『安保法制に賛成しろ』などと話がどんどんと変わっていき、先週まで『反対』だと言ってきたことに、突然『賛成』しろと。
決定的だったのは、小池(百合子)さんが『排除』の理論を持ち出したときですね。僕のモットーは『誰もが居場所のある社会を作りたい』ですから、人を『排除』する社会はあり得ないと、真剣に一人で無所属で戦えるかな?と考え始めました」
――枝野幸男氏に、新党結党を要請したんですよね。
鈴木氏「悩んでいるときに、他のメンバーとも話をして、枝野さんに新党の綱領や『立憲民主党』という名前も提案して、レジュメを送りました」
――枝野氏から返事はありましたか。
鈴木氏「『気持ちはわかっている。今、一生懸命やっているからもう少し待ってくれ』という返事が、2日に行われた新党結党記者会見の前日にありました。
後は、枝野幸男という男を信じるかどうか。我々は信じてついていこうと決め、4人で同じ2日に枝野さんの新党へ参加を表明する記者会見を行いました。
自分のポリシーや意思を曲げて、例え希望の党から国会議員になったとしても、それは自分の人生ではないなという気がしています」
「全員が希望の党に行ける」という点にリアリティはなかった~『みんなで政権交代する』という催眠術!?
▲東京13区から立候補予定の北條智彦氏、2017年10月4日参議院議員会館)
――新党の結党を要請しようと考えたのはいつですか。
北條智彦氏「確か、9月28日の夜。衆議院が解散した日、前原さんから『希望の党』に全員行きなさいという、例の両院議員総会での話が出てきました。私たち新人からしてみれば、あれは3つの選択肢を意味します。
希望に行くのか、出馬を辞めるのか、無所属で出るのか。民進党の若手ということでこれまで一緒に街宣活動をしてきた仲間たちと話し、『どの選択肢もないよね』という結論にいたりました」
――北條さんとしては、なぜ、希望の党へは行けないと判断されたのですか。
北條氏「特に選挙区が東京なので、私たちからすれば、『全員が希望の党に行ける』という点にそもそもリアリティがありませんでした。希望の党も候補者を出してくるはずです。
それから、前原さんの説明では、人が移動するだけじゃないと。政策も理念も向こう(希望)で実現するんだという話でした。『本当にそんなことできるのか?』という疑いもありました」
――直接、前原代表から説明を受けたのでしょうか。
北條氏「私たちは両院議員総会には出ていないので、東京都連の東京代表者会議で、9月28日の夕方、都連幹事長の川田龍平参院議員から説明を受けました。ほぼ、伝聞の状態で、川田議員もそれ以上の情報は持っていないようでした」
――その会議に出ていた候補予定者から、何か意見は出ましたか。
北條氏「東京2区の松尾さんだったと思いますが、『交渉しているというが、何をどこまで握っているんだ』という趣旨の質問をした時、川田幹事長は答えられませんでした。実は、交渉は何も行われていないんじゃないかと思い、いったい執行部は何をやっているんだろうと。
現職の議員を中心に催眠術にかかっているようで、『みんなで政権交代する』という雰囲気に急になっていきましたが、私たちの感覚とは相当違っていました」
細野豪志事務所の元インターンで「自誓会」所属、前回の代表選では前原氏を応援していたが・・・
――前原代表に交渉を一任し、大半が希望の党に合流した状況をどう見ていますか。
北條氏「いわゆる『踏み絵』の話がでてくる以前の話ですが、2種類のタイプがいたと思います。致し方ないという思いで行った人もいれば、『渡りに船』だと思って行った人もいるでしょう。それぞれの選挙区の情勢にもよりますし、どこまで準備が整っていたかで判断も違うと思います。
私の場合は、実は細野豪志さんのところでインターンをしていた関係もあり、『自誓会』にも所属していました。細野さんからは『こっち(希望)に来て一緒にやらないか』と誘ってもいただきました。
私としては、民進党の前原さんが掲げていた『All for All』という概念に非常に共感をしていた。それをじっくりやっていくべきだと思っていたので、お断りしました。今の時点でも、民進党が培ってきた文化や理念、政策を引き継いでいくのは明らかに『立憲民主党』の方だと考えています」
――代表選はどちらを応援していたのですか。
北條氏「代表選で前原さんに譲ってもらった恩もあり、細野さんからの求めで前原さんを応援しました」
党を離れた細野氏が、党の外からも民進党の代表選に首を突っ込み、前原氏の集票を手伝っていたのは実に興味深い。「前原クーデター」が一夜にしてなったはずがない。前原氏が代表にならなければ、小池新党との「合流」についての交渉を「白紙一任」されるはずはなかった。綿密に計算された「クーデター」であり、細野氏らは先制部隊だったともうかがい知れる。
――今回の希望の党への合流劇を見て、前原氏をどう評価されていますか。
北條氏「前原さんにはきちんと責任を取っていただきたいと思っています。代表選挙では、そもそもこんな説明は全くなかったですし、『All for All』という新しい概念を育て、ゆくゆくは政権交代をしようという話しが、ぽろっと変わってしまって当惑しています。
希望の党とも、通常であれば根回し、交渉をして、ある程度のところまで書面を交わした上で、両院議員総会で意思決定を図る必要があります。何よりも、両院議員総会だけで良かったのか。私たち候補者はそこには入っていません。
公式のものを見たわけではありませんが、出回っている希望の党の(一次)公認候補者リストを見ると、民進党は一部、入っているものの、新人候補はほとんど入っていません。新人を削って現職を通したようにしか見えない。新人候補者は、ある意味でリスクを一番負っています。代表としてやっていることが、ちょっとおかしいのではないかと思います」
今回の選挙は「二大政党制を選ぶ」という選択肢ではない!希望の党の「反安倍」は茶番、2党の狙いは同じ
――今回の選挙の争点は。
北條氏「争点が見えなくなりつつあります。
『投票先がない』と言う人が回りにはたくさんいます。小池さんの本性が色々と明るみになってきた今、安倍政権とあまり変わらない政策がある。『原発ゼロ』だって本気でやるのもわかりません。
『極右』という表現がいいのかわかりませんが、右派政党の2択で社会がまわってしまっていいんですか、と。きちんと幅広い考え方を受け入れられる選択肢が真ん中にないといけないのではないですか?と説いていくのが今、多くの有権者に一番理解を得られるような気はしています。
小池新党の議席がある程度伸びて、自公で過半数に届かなかった場合、間違いなく自民党と連立すると思います。これは推測ではありますが、希望の党は自民党側とも候補者調整しているのではないでしょうか。確たる証拠はありませんが、選挙に精通している人が希望の党の候補者リストをみれば、ここはおかしいのではないかと思うところが出てくると思います。
で、あれば、『二代政党を選ぶ』とか『反安倍』という選択肢ではない。茶番であり、2党が狙っているところは一緒です。枝野さんに申し入れした趣旨は、まさにそこでした」
小池新党は「しがらみのない政治」をスローガンとして掲げているが、眉に唾をつけて聞くほかない。「米国の隠然たる支配」という最大のしがらみにからめとられて、米国(特に米軍)の求める改憲と戦争遂行体制の大急ぎの確率に向けてひた走っている、「しがらみ」そのものの政党が希望の党である。希望の党に、自由や平和や啓蒙を求める人々に希望はない。
無名の若い候補のまなざしは、実に清々しい。文字通り「しがらみ」のない身で、マスコミが作り出す、嘘でぬりかためて作りあげた小池一座の虚像を見事にあばいている。「両院議員総会後の現職の議員らが催眠術にかかっているようだった」という証言は、実にリアルだ。小池氏・前原氏の仕掛けた政治的詐欺に、多くの議員らが引っかかってしまったのだろう。
その迂闊さをいつまでも攻めている時ではない。意識的に「改憲・安保法制容認」の希望の党へ移った者は別として、詐術に引っかかった者には「目を覚まして戻ってこい!」と呼びかけるべきだ。騙されていた者のうち、「洗脳」がとけて希望の党の公認を返上する者が一人でもあらわれれば、それは歓迎すべきことである。
前原氏が「希望の党」への合流を決めたのは、「民進党」の看板・政党資金・地方組織を以ってしても変わり映えのしない党代表が看板では、不祥事続きの「自民・公明」を追い込む事が出来ず、選挙で負けると判断したからでしょう。
それならば代表戦で立候補せず枝野代表にし、党が割れない様に支援すべきですが、かなり早い段階(希望の党の商標登録した2月以前)から細野氏の離党なども含め詳細に計画していた為、代表戦辞退は有り得ない選択肢だった様に感じます。
それにしても、若狭・細野が積み上げた筈の物を「リセット」し、綱領・政策を上から押し付け、選挙後には各議員の発言・行動を監視する「ガバナンス長」を作るなど、党首のヒトラーを髣髴させる「非民主主義的態度」には呆れ果てますし、そこから公認を得て選挙に勝てたとしても「頭数要員に成り下がること」を受け入れる候補者にも疑問を感じます。