民進党の蓮舫代表が2017年7月11日午後の党執行役員会で、自身が日本国籍と台湾籍の「二重国籍」だった問題について、「戸籍を示し、近々説明する」と述べたと、報じられた。
- 蓮舫氏「戸籍示す」=二重国籍問題(時事ドットコム、2017年7月11日)
蓮舫氏の二重国籍問題は2016年9月の民進党代表選で浮上した。当初蓮舫氏は、父親の出身地である台湾籍を17歳の時に放棄したと説明していたが、手続きができていなかったことが判明した。このため、代表就任後の2016年10月、台湾籍の除籍手続きを行い、戸籍法に基づいて日本国籍の選択宣言をしたことを表明した。
一般的には知られていないが、日本国籍の選択を宣言すると、戸籍謄本に宣言日が明記される。そこに目をつけた元通産省官僚で、評論家の八幡和郎氏らが右派言論サイト「アゴラ(あの元NHKの池田信夫氏が主宰)」や「夕刊フジ」、「産経新聞」などの右派メディア、そして著書「蓮舫二重国籍のデタラメ」(飛鳥新社)などで「戸籍を公開して証拠を示せ」と執拗に迫った(この八幡和郎氏は、加計学園問題で、行政が歪められてきた事実を証言した前文部科学事務次官・前川喜平氏を口汚く誹謗中傷している人物でもある)。
そしてそれに乗った自民党や日本維新の会などの議員、さらには「身内」であるはずの民進党内の一部の議員までもが、「証拠がなく問題が終わらない」などと蓮舫氏に対する批判を続けてきていた。
蓮舫氏は日本国籍の選択宣言を表明した後も、家族のプライバシーを理由に戸籍謄本の公開を拒んできた。
▲民進党 蓮舫代表(2017年6月29日 定例記者会見で)
日本国籍を持つ多重国籍者が国会議員、国務大臣、総理大臣になることに法律上の規制はない
しかし、そもそも議員として選挙に立候補した時点で選管に戸籍を提出しなければならず、蓮舫氏に被選挙権があると認められたならば、日本国籍であることは明白だ。日本国籍を持つ多重国籍者が選挙に立候補することには公職選挙法上の直接規制はなく、国会議員はもちろん、国務大臣や内閣総理大臣になることにも、法律上の直接規制はない。この点については、IWJは日本政府に直接取材し、確認を取っている。ぜひ、以下の記事をお読みいただきたい。
つまり法的問題がないにもかかわらず、台湾にルーツをもつ者として蓮舫氏を徹底的に差別的に攻撃し、さらに台湾籍からの離脱にこだわり、プライバシーの塊である戸籍の公開を迫る。これは日本国民の中にあるルーツの多様性やマイノリティーの存在を認めない、典型的な差別である。また、個人情報の開示を強要することは、出自による差別を禁じている憲法第14条及び人種差別撤廃条約の趣旨に反する差別そのものである。
産経新聞記者に対して「差別主義者やレイシストの方たちの声には私は屈しません」と切り返した蓮舫代表
報道から2日後の2017年7月13日、国会内で蓮舫民進党代表定例記者会見が行なわれた。
蓮舫代表からの発言の後、質疑応答に入り真っ先に手を上げたのは、この問題を執拗に取り上げ続けている産経新聞の記者だった。この記者が、11日の戸籍謄本公開の報道の真偽を質すと、蓮舫氏は「戸籍謄本そのものとは言っていません」と断り、自身の見解を述べた。
「特に我が国におきましては戸籍というのはすぐれて個人のプライバシーに属するものであり、これまでも私も言ってきましたけれど、積極的に差別主義者・排外主義者の方たちに言われて、それを公開するようなことが絶対にあってはいけないと、今なお思っています。前例にしてはいけないとも思っています」
毅然とした言葉であり、態度であったと思う。
その上で「ただ一私人ではなく、一公人ではなく、野党第一党の党首として、今特に安倍総理に対して、強く説明責任を求めている立場からして、極めてレアなケースではありますけれども、戸籍謄本そのものではなくて、『私自身がすでに台湾籍を有していない』ということがわかる部分、これをお伝えするのは、準備があるというのは、お示しをしたところです」と述べ、18日に何らかの証明書類を公開し、記者会見を行なうことを約束した。
この答えに前出の産経新聞記者は、「党内でも二重国籍問題の説明への疑問を持つ声が議員からも出ている。疑問の声を差別主義者・排外主義者とひとくくりにするようなさきほどの発言についてどうお考えなのか」と気色ばんだが、それに対して、蓮舫氏は「それは受け止めが完全に間違っています。差別主義者やレイシストの方たちの声には私は屈しませんし、世の中一般的に絶対にあってはいけません。それと、党内の声は別です」と、明快に切り捨てた。
産経新聞記者は「差別主義者、レイシストとひとくくりにされたくない」と言うが、自社の記事によって、明白に差別を助長し、レイシストを後押しし続けていることに何ら反省の色はない。これは欺瞞以外の何ものでもない。
産経は新聞紙上で突出して差別を助長し、煽動し続けている。その自覚がないなら、自覚すべきだし、社会も産経に対して声を大にして注意を促すべきだ。また、産経が自社の差別的姿勢を内心自覚していてもトボケて差別的記事を載せ続けているのであれば、極めて悪質である。もっと厳しく、産経が差別主義者のための差別主義者による新聞であることを指摘し、そうした主張は誤っていると、何度も何度も言い続けなければならない。
条文の一部だけを切り取って違法行為であるかのように見せる読売新聞
この会見を受けて、産経以外の「排外主義・差別主義」メディアも騒ぎ出した。
読売新聞は「国籍法によると、二重国籍者は原則22歳までに、日本国籍か外国籍かを選ばなければならない。蓮舫氏が選択宣言を昨年行ったことが真実だとしても、長年にわたり国籍法の義務を履行していなかったことに変わりはない」と書いた。
卑劣な記事である。法律の条文の一部のみを切り取って都合よく読者に勘違いさせようとしている。
国籍法第十四条には確かに「外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が二十歳に達する以前であるときは二十二歳に達するまでに、その時が二十歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない」と書かれている。
しかし、同時に第十六条では「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」と書かれているのである。
二重(多重)国籍者が日本国籍を選択するだけでは、ただちに他国の国籍を離脱できるわけではない。日本以外のもう一方の国の国籍を抹消するためには、その相手国にも離脱の手続きをしなければならない場合が多い。まして、国籍を抹消するかどうかは、その政府・機関が独自の判断によって決めることである。中には国籍離脱を認めていない国もあり、現在日本には60万人近い二重国籍者がいるといわれている。その数は法務省ですら正確には把握できていない。日本国内の行政手続だけですむ話ではないからだ。
だからこそ第十六条では「努めなければならない」と「努力義務」としてのみ書かれているのだ。
それを読売は「長年にわたり国籍法の義務を履行していなかったことに変わりはない」と決めつけているのだ。第16条に定められた「努力義務」条項を完全にネグって、あたかも蓮舫氏が国民としての義務を怠ったかのような偏向した中傷を展開している。これが一千万部の発行部数を誇る「大新聞」のやることなのか。卑劣きわまりない。