ケンブリッジ大学で開かれた島の戦争研究会ではホロコーストと認定〜「ニュース女子」出演者らが知ろうともしない沖縄史!蟻塚亮二著『沖縄戦と心の傷~トラウマ診療の現場から』(第13弾) 2017.2.24

記事公開日:2017.2.24 テキスト
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(文:福田玲子、記事構成:原佑介、岩上安身)

(「沖縄を侮辱する「無知」を許してはならない!「ニュース女子」出演者らが知ろうともしない沖縄の歴史!蟻塚亮二著『沖縄戦と心の傷~トラウマ診療の現場から』を読む!(第12弾) 2017.2.8」の続き)

 「無知」と「無理解」から生まれる沖縄への差別やデマ。その典型例がTOKYO MXで放送された報道バラエティ番組「ニュース女子」だ。

 県民の4人に1人が死んだ沖縄戦を知らずして、沖縄は語れない。IWJはそうした視点から、「ニュース女子」検証記事第12弾で蟻塚亮二著『沖縄戦と心の傷~トラウマ診療の現場から』(大月書店)を紹介し、いまだに深く残る沖縄戦の「傷跡」の一例を紹介した。

 精神科医の蟻塚亮二氏は2004年から2012年まで沖縄のメンタルクリニックで診療にあたっていた。その中で、「うつ」や「統合失調症」にみえた患者らが、実は過酷な沖縄戦のトラウマに起因する「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」を患っていたことに気づく。辛い記憶を封じ込め、普通に暮らしていたはずの人が高齢になって突然発症する「晩発性PTSD」だ。

▲降伏を促すビラを手に取る沖縄住民(ウィキペディアより)。

▲降伏を促すビラを手に取る沖縄住民(ウィキペディアより)

 2007年、超党派の議員らで作る日本会議国会議員懇談会(日本会議議連)は、「沖縄戦による集団自決強制はなかった」とする決議を採択し、教科書から「集団自決強制」の一文を削除させた。こうした「歴史修正」に対し、蟻塚氏は著書で「隠ぺい作業にもかかわらず、沖縄戦を体験した人々の脳の中の記憶は風化しない」と指摘し、次のように記述している。

 「沖縄戦を体験した人たちは高齢化しているが、彼らの記憶はまだ熱く生々しいままに保たれている。それどころか、戦時のトラウマ記憶により、彼らは毎日ジェット戦闘機の轟音に怯え、事故や災害のテレビ報道などに戦慄する。夏祭りには、最後の花火大会になると、花火の音で高齢者が戦争記憶を思い出して恐怖しないように帰宅させる地域もある」

 沖縄を攻撃したのは、米軍だけではない。沖縄県のホームページにある、「教育・文化・交流」のコーナーを見てみよう。

 「日本軍は沖縄住民をスパイ視して拷問や虐殺をしたり、壕追い出しや、米軍に探知されないために乳幼児の殺害などをおこなった。その他、食糧不足から住民の食糧を強奪したり、戦闘の足手まといを理由に、死を強要した。住民は逃げ場を失い、米軍に保護収容される者もいたが、食糧不足による餓死や追い込まれた住民同士の殺害などもおこり、まさに地獄の状況であった」

 沖縄には、米軍だけでなく、日本政府に裏切られ、戦後も長きに渡って「捨て石」として犠牲を強いられた記憶が今も色濃く残っている。

 こうした深いトラウマが刻まれた沖縄に対して、「ニュース女子」はどんなアプローチをしたか。『ありがとう日本軍』『日本が戦ってくれて感謝しています』などの著書を持つ自称「ジャーナリスト」(実は武器輸入商社・双日エアロスペース社員)の井上和彦氏が沖縄でロケを行い、「基地反対派」の住民らを「テロリスト」呼ばわりし、「沖縄を返せ」などと絶叫している。

▲「ニュース女子」内で流れたVTRで「沖縄を返せ」と叫ぶ井上和彦氏(DHCシアターホームページより)

▲「ニュース女子」内で流れたVTRで「沖縄を返せ」と叫ぶ井上和彦氏(DHCシアターホームページより)

 なぜ、彼らは現実を知ろうともせず、沖縄の人々の負った傷にわざわざ塩をすりこむような真似をするのだろうか。「無知」「無理解」をさらけだして恥ずかしいとも思わない彼らは、戦争経験者の抱える深刻なPTSDに思いをはせることがない。

 現在、アフガン、イラク戦争で従軍した米兵の4人に1人がPTSDに苦しみ、自殺者が戦死者を上回るといわれている。日本も他人事ではない。安保法制が施行された今、海外派兵で新任務にあたる自衛隊員らが戦闘に巻き込まれるリスクは格段に高まった。無事帰還することができても、自衛隊員が「コンバット・ストレス」に苦しめられる可能性は小さくはない。

 今回の「後編」では、『沖縄戦と心の傷~トラウマ診療の現場から』をさらに掘り下げ、今も沖縄に残る深い傷を理解することで「ニュース女子」にみられる沖縄蔑視と決別するとともに、同じ傷を自衛隊員に負わせて本当によいものか、改めて熟考する機会としたい。

記事目次

沖縄戦をケンブリッジ大学で開かれた島の戦争研究会ではホロコーストと認定

 沖縄戦では、単に米軍などの外国軍からだけではなく、同胞であったはずの日本軍から虐殺・人格破壊がなされたことは特筆すべきことである。これが沖縄の人々の傷を一段と深くしている。

 被害は沖縄全土に及び、程度の差こそあれ、これとまったく無関係でありえた人はいない。以下、蟻塚氏の『沖縄戦と心の傷』から引用する。

 「南部を米軍が制圧した後は、米軍による軍ぐるみの性暴力が横行した。2000年時のある調査によれば、60歳以上の沖縄南部在住であった女性で『自分または身近な誰かが強姦された』記憶のない人はいないという」

 「沖縄戦と心の傷」には、被害の大きかった南部の自治体別の死亡率が掲載されている。1988年の「糸満市史資料七 戦時資料下巻」からの抜粋で、まとめたのが下の図である。なお旧三ツ和村のように、住民死亡率100%の自治体もあった。

浦添市  44.6% 高嶺村 43.0%
西原市  46.9% 真壁村  44.9%
南風原町市 44.4% 摩文仁村 47.7%
糸満市 36.9%    

沖縄戦体験者への聞き取りと診療を深めていった結果、蟻塚氏は、ヨーロッパのトラウマ学会で、沖縄戦を「ホロコースト」という言葉で紹介しようとした。すると「ホロコーストはヨーロッパでは特別な言葉で民族抹殺の意図があったときに使う」言葉であり、「ユダヤ人のように5年で600万人が死亡したのか」と問われたという。

 そこで蟻塚氏はこう答えた。

 「1945年2月、近衛首相はそろそろ戦争を終わりにしないかと言うと、昭和天皇は敗戦を拒否……朱里の32軍壕司令部が撤退するとき、避難民や住民であふれる沖縄本島南部に戦いながら撤退という方針をとらなければ被害がこれほど甚大になることもなかった」

 「沖縄戦は、本土上陸を遅らすための大本営の作戦であり、沖縄棄民政策であった」(出血持久作戦。捨て石作戦とも呼ばれた)。棄民政策の背景にあるのは、「琉球処分」以来の沖縄差別である。こうした点を説明すると、トラウマ学会からは、「沖縄戦をホロコーストとして位置付けてくれてかまわない」と返答があったという。

▲アウシュビッツ強制収容所の門。「働けば自由になる」と書かれた看板(ウィキペディアより)。もちろん待っていたのは「強制労働」であり、働けなくなれば「ガス室送り」だった。このホロコーストと沖縄戦での住民の犠牲は、比較されうるものとしてトラウマ学会で認められた。

▲アウシュビッツ強制収容所の門。「働けば自由になる」と書かれた看板(ウィキペディアより)。もちろん待っていたのは「強制労働」であり、働けなくなれば「ガス室送り」だった。このホロコーストと沖縄戦での住民の犠牲は、比較されうるものとしてトラウマ学会で認められた。

沖縄でのみ実施されていない総務省『全国戦災史実調査報告書』

 ほとんどの日本人にとって、ホロコーストは遠い外国の出来事だったはずだ。しかし、ホロコーストはこんなにも身近にあった。

 私たちは沖縄のことについてあまりにも知らなすぎる。学校で歴史的事実を教えないのも一因だが、根はもっと深いところにある。

 沖縄県議の仲村未央氏によれば、「1977年から2009年にかけて総務省が作成した『全国戦災史実調査報告書』で本土では行われた戦時の被害調査が、なぜか沖縄だけ行われていない」。

 なぜ沖縄だけ対象外なのか? 仲村県議が国会で質疑すると、総務省は「理由は定かではない」と述べたという。戦時の被害調査がされていないということはつまり、戦争によって沖縄で何人死んだのか、その死傷者数すらも明確になっていないということだ。

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「ケンブリッジ大学で開かれた島の戦争研究会ではホロコーストと認定〜「ニュース女子」出演者らが知ろうともしない沖縄史!蟻塚亮二著『沖縄戦と心の傷~トラウマ診療の現場から』(第13弾)」への1件のフィードバック

  1. あのねあのね より:

     長谷川幸洋氏は中日新聞の社長と安倍晋三と三人で会食した記録が首相動静に残っています。そこで、ニュース女子の司会と安倍晋三の為に嘘を真実として放送し視聴者を騙すことは決まっていたと思う。だから、事後でも反省の無い懲りない発言を平然としていると考えると疑問は解決します。確信犯なんですよ。
     それと、このニュース女子に続くYoutubeの動画を観ていると、特定のチャンネルがニュース女子をソースにして嘘の上塗りをしていますね。これも最初から番組と込みでしょう。

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