おはようございます。IWJで中継やテキスト関係のお手伝いをしながら報道現場の勉強をしています青木浩文です。
1972年の今日1月30日、北アイルランドのロンドンデリー市で、デモ行進中の市民24名がイギリス陸軍に銃撃されました。市民14名が死亡、その内7人は10代の若者でした。「血の日曜日事件」(ブラッディ・サンデー)と呼ばれています。
アイルランドでは、1922年に独立戦争が発生。南部・西部アイルランドの26地方がイギリス・アイルランド連合王国から分離し、新たにアイルランド自由国を建国します。他方、プロテスタントが人口の過半数を占めていた北アイルランド6州は、独立後もイギリス統治下にとどまることを決定します。
1960年代後半になると、社会的に差別を受けていたカトリックの人々と、プロテスタント主体の北アイルランド政府との対立が深刻化します。
たとえば、北アイルランドでは持家者夫婦のみが選挙権を持つことができる制度でした。他方、公団住宅の割り当て制度において、カトリックの人々に対しては差別的な割り当てが行われました。住宅問題は即座に選挙権に結びつきます。この住宅の不当な割り当てなどによって、カトリックに議席の過半数を与えず、プロテスタントに有利になるよう取り計らわれたのだそうです。
さらに、1971年8月9日、フォークナー北アイルランド首相は、インターンメント(裁判なき拘禁制度)を導入し、同時に1年間デモを禁止しました。
「インターンメント」には裁判がありません。つまり拘禁理由が公にされないため、いつまで監禁されるのかわからず、無期限に監禁される可能性もありました。それは、憲法も基本的人権も一切無視した法律で、令状なしの家宅捜査、集会の禁止なども治安当局の意のままとなりました。
1972年1月30日の日曜日、デモ禁止令にもかかわらず、公民権グループが反インターメントのデモ行進をロンドンデリー市で行います。しかし、デモ行進は待ち構えていた英軍に阻止され前進できなくなり、途中から若者の投石などによって、暴動となりました。
英軍はCSガス、ゴム弾、放水車などで応戦しました。その時突然、英軍はなんの警告もなしに、群集めがけて発砲を開始。銃撃は30分間ほど続き、14人の市民が死亡し、13人が負傷しました。これが世に知られる「血の日曜日(ブラッディ・サンデー)」事件です。
当初の英軍の説明では、発砲はIRA(アイルランド共和国軍:アイルランド独立闘争を行ってきた武装組織)の銃撃に応じた自衛的なものという見解でした。しかし、IRAの銃撃を見た者も、銃声を聞いた者も誰一人としていませんでした。また、英兵は誰も撃たれていませんでした。
1972年、元ビートルズのジョン・レノンはオノ・ヨーコと共にこの「血の日曜日事件」をモチーフにした「血まみれの日曜日(Sunday Bloody Sunday)」と、弾圧されるアイルランドの立場に立ってその声を代弁した「ザ・ラック・オブ・ジ・アイリッシュ」を納めた『サムタイム・イン・ニューヨークシティ』という2枚組のアルバムをリリースしました。
また、アイルランドのロックバンドU2が1983年に発表したアルバム「War」の中で、オープニングソングとして、「ブラッディ・サンデー」を収録し、ヨーロッパと日本ではシングルとして限定発売されたことは、ロックファンならばご存知ではないかと思います。
この事件の発生から四半世紀経った1998年に、ブレア政権下で新たに事件の調査が開始されることになりました。この調査では、兵士610人、一般市民729人、報道関係者30人、政府関係者や政治家、軍上層部ら20人、北アイルランド警察の警察官53人に聞き取りが行なわれました。
そして、この調査は、2002年、映画『ブラディ・サンデー』の公開につながります。30年以上たって少しずつ明らかになる嘘と真実。事件の悲惨さ、政府が秘密としていた情報が公開されることの大切さを、映画は伝えています。
さらに、2007年5月29日、マイク・ジャクソン元参謀総長(当時中佐で現場の副指揮官)は、「無実の人々が射撃されたのは明らかだ」と述べました。
2010年に下院で謝罪したキャメロン首相は、兵士たちが警告なしに発砲したこと、火炎瓶や投石による攻撃に反撃した兵士は皆無だったこと、殺傷された者の中には明らかに現場から逃れるか負傷者を助けようとしていた者がいたこと、そして事件後、多くの兵士たちが偽証していたことを認めました。
四半世紀後に、英国で新たに事件の調査が開始されたことは、評価すべきことなのだと思います。1923年(関東大震災での朝鮮人虐殺事件)、そして1937年(南京大虐殺事件)の歴史的事実を、94年、80年経ってなお、政府自らの手で調べようともかえりみようともせず、逆に歴史的事実の改竄や捏造を行う者たちが増殖するのを放置している、我が国の惨状を目の当たりにすると、歴史的事実に向き合おうとする英国の姿勢には敬意を表すべきであり、率直に見習うべきであると思います。
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しかし、例えば、これから25年後の2042年に、2017年の今起こっていることの真実が明かされることを想像しても、容易に納得できるものではありません。時が経てば経つほど、失われるものがあるはずです。
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