「TPPは和牛の輸出を増やすチャンスだ」という声に対し、「はっきり言って、上っ面のすすめですよ」〜宮崎県にあるJA高千穂地区畜産部生産課長にIWJがインタビュー! 2016.10.27

記事公開日:2016.10.28取材地: テキスト動画独自
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(取材・文:安道幹 記事構成:岩上安身)

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特集 TPP問題

 10月26日、宮崎県西臼杵郡で行われたTPP協定に関する地方公聴会の翌日27日、IWJはJA高千穂地区の畜産部生産課長・佐藤紀文氏にインタビューを行い、畜産業の現状やTPP協定について話しをうかがった。

 以下、インタビューの一部を掲載する。

▲JA高千穂地区畜産部生産課長・佐藤紀文氏

▲JA高千穂地区畜産部生産課長・佐藤紀文氏

▲JA高千穂地区

▲JA高千穂地区

■ハイライト

  • 日時 2016年10月27日(木)11:00~
  • 場所 宮崎県高千穂町内

宮崎県・高千穂地区の牛の頭数は、母牛4500頭、子牛3500頭。和牛繁殖農家は804戸

——宮崎県は畜産業が盛んですが、全国の中ではどれくらいの位置なんでしょうか?

佐藤氏「宮崎は牛の頭数は全国2位。牛の生産頭数は鹿児島、宮崎、北海道かな。これでだいたい7割くらい。宮崎は、今、母牛が前年度から3千頭増えて、7万8千頭ほど。子牛は、母牛に種をつけますから、流動的です。一頭の母牛で、一年に1頭しかできませんから。受胎率や妊娠するまでの期間の差も出てきますから。子牛は、母牛の8割程度が目安です」

——その中でも、ここ高千穂地区の頭数は?

佐藤氏「母牛が4500頭、子牛が3500頭くらい。結局はいくら出したいのということだから。一日の競りで最低でも400頭、500頭ほどは出したいですよね。競りは2ヶ月に一回くらいです」

▲事務所の隣にある競り会場

▲事務所の隣にある競り会場

▲高千穂牛は第9回全国和牛能力共進会で「日本一」を獲得

▲高千穂牛は第9回全国和牛能力共進会で「日本一」を獲得

——では高千穂地区で、和牛の繁殖農家は何戸くらいあるんですか?

佐藤氏「804戸です。1戸あたり5頭くらいでしょ。兼業か、コメや野菜、しいたけなど、小規模で、複合の形態的にやってるところがほとんどです。土地が限られているから。飯も食っていかないといけないし。平成2年で2000軒あった。1戸あたりが2、3頭でした。人口減少や高齢者。農家の実態そのものです。最近は60頭、70頭の多頭買いがちらほら、多くなってきました」

TPPにより牛肉の関税が38.5%から9%に下げられることについて「あってないようなもの。厳しいのは間違いない」

——TPPでは日本の酪農も直撃するということで、昨日の地方公聴会では宮崎県が会場に選ばれたわけですが、16年かけて関税が38.5%から9%に下げられると。9%という数字どう思いますか?

「あってないようなもんやね。まず、厳しい。厳しいのは、まず間違いないと思う。牛肉でもいろいろ段階がありますから。例えば国内の分ではすべて、うちで扱ってる和牛ではありませんから。輸入で競合する部分は当然ありますから、そうしたところはまず打撃を受ける。当然、農産物にはランク付けがあって、AがあればCもある。絶対量が少なくない限りは、そこら辺の価格が暴落するでしょう。そういった影響は間違いなくあるだろうと。

 いいものを作ればいいんだということにありますけど、果たしてそれだけで整理ができるのかなというのと、果たして国が、そういったままで、本当に農家さんに対して、まぁ、TPPは農家だけじゃないけど、本当に浸透するのかというのは気になってます。私自身もよく分からないですし。

 昨日の公聴会も見せていただきましたけど、やっぱり同じ話が出ているなと。やっぱり説明不足じゃないかとか。議論ないままに勝手に決めやがってという感じ。そういう話が議論で出てきましたね」

TPPによって804戸の繁殖農家はどうなるか?「枝肉の価格が安くなれば、子牛の値段も安くなる。あとは自然と答えが出てくるでしょう」

————やはり普段食用として食べているホルスタインがTPPの影響を受けやすいですか?

佐藤氏「まちがいなく影響を受けやすいでしょうね。和牛というのは高級牛肉ですよね。ですがまったく影響を受けないわけではないです。かなり深刻に物事を考えなければいけないのかなと思っています」

——和牛を扱っている高千穂でも、危機感を持っていらっしゃる?

佐藤氏「全てにおいてね。うちはコメも多いから。うちは、兼業農家が多いでしょ。2、3頭で飯は食えないでしょう。そこに田んぼがあって、畑があって。TPPはまだですが、すでに価格競争に負けて、農協が取り扱っている品目で消えてしまったものはすでにあるんですよ。例えばカイコ。繭ですよ。今は全部廃業ですわ。木材も言わずと知れた話ですよね。」

——では、TPPが発効されれば、ほとんどが複合や兼業でされているという高千穂の800戸の子牛の繁殖農家はどうなると思いますか?維持できるんでしょうか?

佐藤氏「みんなダメ−ジはあるでしょう。維持できるかはその時の相場次第ですよね。枝肉価格から、餌、子牛の単価。そうやって逆に見ていかないといけない。畜産はそういう中間がありますから。その中で、経営していけなくなると。

 末端の小売価格が下がれば、当然、枝肉の価格も安くなり、廃業する肥育農家も出てくる可能性がある。そうすれば、肥育農家が買いつける子牛の値段も安くなる。あとは自然と答えが出てくるでしょう」

和牛はすでに「差別化」されている。TPPによって「今度は、格差の問題になってくる」

——800戸の繁殖農家が出された子牛は、国内で流通してるんですか?

佐藤氏「90%以上は、そうだと思います。最後は、小売業者なので追跡はできませんが」

——和牛は、すでに差別化されていますが、関税が30%下がるとどうなるんでしょうか?

佐藤氏「今度は、格差の問題になってくる。例えば、グラム1000円と、一方は300円になったと。どちらを買いますか?と。嗜好性も問題、消費者の問題ですが、一般的には安い方に行くでしょう。特別な日は、いいものとなっても」

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