【特別掲載!】安倍総理による「改憲隠し」にダマされるな! 参院選の真の争点は改憲と「緊急事態条項」の創設である〜岩上安身による『前夜・増補改訂版』の「まえがき」を緊急アップ! 2016.6.15

記事公開日:2016.6.15 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

 参議院選挙の公示が6月22日、投開票日が7月10日に決まった。安倍総理は今回の参院選の争点を「アベノミクスの継続」であるとしているが、それは真の争点を隠すためのものである。今回の選挙における真の争点は、改憲に他ならない。

 岩上安身は、第2次安倍政権発足直後の2012年12月28日から、憲法問題の専門家である梓澤和幸弁護士、澤藤統一郎弁護士とともに、12回にわたって現行の日本国憲法と自民党改憲草案を逐条で徹底的に比較、検討し、自民党改憲草案の危険性をあぶり出す鼎談シリーズを行った。

梓澤和幸・岩上安身・澤藤統一郎『前夜・増補改訂版』

▲梓澤和幸・岩上安身・澤藤統一郎『前夜・増補改訂版』

 この鼎談シリーズは、特定秘密保護法が可決された直後の2013年12月に『前夜』として、さらにその2年後の2015年12月には、安保法制が強行採決された後の状況を踏まえて行われた新たな鼎談を収録した『前夜・増補改訂版』としてまとめられた。

 IWJではこのたび、今回の参院選で改憲が最大の争点となることに鑑み、版元である現代書館と共著者である梓澤和幸弁護士、澤藤統一郎弁護士の許可を得て、『前夜・増補改訂版』の中から重要な箇所をピックアップして、サイト上で公開する運びとなった。基本的人権を停止させる「緊急事態条項」の創設を定めた第98、99条や、新たに「国防軍」の創設をうたった第9条、「表現の自由」を後退させかねない第21条、警察による取り調べ時の「拷問」に道を開く第36条などを、これから順次、pdfで公開してゆく。

 第1弾となる今回は、岩上安身が『前夜・増補改訂版』の刊行に際し、2015年11月30日に執筆した「まえがき」を掲載する。この「まえがき」の中で岩上安身は、参院選の真の争点が改憲であること、そして「ナチスの手口」とも言うべき「緊急事態条項」の創設がいかに危険なものであるかを既に指摘している。

 今回掲載する「まえがき」のみ、pdfではなく、テキストデータとしてIWJのウェブサイトに掲載する。コピペ自由なので、7月10日の運命の投開票日まで、少しでも多くの市民に拡散して、読んでいただきたいと願う(IWJ編集部)。

▲梓澤和幸・岩上安身・澤藤統一郎『前夜・増補改訂版』

▲梓澤和幸・岩上安身・澤藤統一郎『前夜・増補改訂版』

『前夜・増補改訂版』より、岩上安身の「まえがき」

 本書初版の「まえがき」執筆の前夜(2013年11月26日)、強行採決が行われ、稀代の悪法・特定秘密保護法が衆院で可決されてしまった。

 それから約2年、2015年9月19日未明、違憲の疑いが濃い平和安全法制(安全保障関連法案=戦争法)がきわめて強引な採決により「成立」してしまった。解釈改憲による集団的自衛権の行使容認によって、米国の引き起こす戦争に地球の裏側であろうと、宇宙の彼方であろうと(安保法制懇座長代理・北岡伸一氏の発言)自衛隊がつき従ってゆく体制ができ上がってしまったことになる。

 日本に対する有事であれば、日本の周辺および日本国土内が舞台になる。そうした急迫不正な侵害に関しては、個別的自衛権で対応可能であり、米軍との協力や援護も可能であるにもかかわらず、なぜ集団的自衛権の行使を、憲法解釈を曲げてまで強引に容認したのか。背景には莫大な財政赤字を抱えながら維持困難な地球大の軍事帝国を築いてしまった米国からの強い要請がある。

 米国が集団的自衛権の行使を強く求めるのは、日本の防衛とは関係のない、米国の国際戦略に基づく戦争に加担させるためである。その結果、米国の戦費を肩代わりさせられ、税金を乱費し、自衛隊員の生命を犠牲にしてしまう可能性がある。犠牲を強いられるのは、日本の防衛や国益のためでなく、米国という、限界まで伸びきってしまった、オーバーストレッチ帝国の維持という実現困難なミッションのためであり、日本が自分たちの頭で理性的に物事を考えることなく対米追従していくのは、我が国の実態が米国の「属国」に他ならないからである。

 こうした真実を日本国民が目の当たりにすれば、米国からの真の独立と民主化を求める声が高まるのは必然である。であるからこそ、米帝国との「同盟」(実は従属関係)に忠誠を誓う「属国」の政府官僚らは、米国からのミッションである隷属の遂行のためにも、「秘密」と「ファシズム」とを必要とする。国民の目や耳から「真実」を遠ざけるためである。特定秘密保護法や安保法制の成立・施行は、そのための第一歩である。そして第一歩ではあっても、そのすべてではない、というところが肝要である。

 来年(2016年)夏、参議院が改選を迎える。この参議院選挙に安倍政権は、自民党改憲草案を引っさげ、憲法改正の必要性を世に問う。すでに衆議院は改憲発議に必要な3分の2の議席(定数475議席、改憲発議に必要なのが317議席、自民・公明両党で326議席、さらにおおさか維新を足すと337議席)を改憲勢力が占めている。参議院は(定数242議席、改憲発議に必要なのが162議席、改憲勢力は自民・公明両党で133議席、その他改憲勢力として次世代の党が5議席、おおさか維新が6議席、そしておおさか維新と統一会派を目指す日本を元気にする会が7議席で151議席)、あとわずかに11議席程度である。実は議席数からみて、日本国憲法が崖っぷちに瀕していることを、ほとんどの国民は知らされていない。

 憲法改正論議といえば、改憲賛成派も改憲反対派(護憲派)も、憲法9条を前提にしてきた。しかし、安倍政権がもくろむのは、憲法9条の改正ではなく、緊急事態宣言の創設である。

 安保法制の「成立」から間もない9月24日、自民党本部で開かれた記者会見では、2016年夏の参院選において憲法改正を「公約に掲げる」と明言した。さらに11月10、11日両日行われた衆参での予算委員会において、安倍晋三首相は、「緊急事態条項」の新設を重視すると明言した。

 「緊急事態」は、自民党改憲草案で新たに付け加えられた1章であり、その第99条として「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」と明記されている。

 つまり、自民党改憲草案に示されている緊急事態条項とは、国会の事前同意を必ずしも必要とせずに、国民の各基本権が停止させられ、公権力が制限なく全権を振るえるものであり、国会は完全に形骸化され、言論報道機関も統制され、行政府が立法府を兼ね、法律と同じ効力を持つ政令を国会にはかることなく乱発できて、予算措置も取れ、期間の延長もできるという、事実上無制限の権力を行使できるものである。

 これはかつてナチスが利用した「全権委任法」と極めて酷似している。「緊急事態」の名の下で、我々の人権は制限され、憲法を変えることなく様々な法案が内閣のみで決定されていくことになってしまう。

 たとえ激甚災害であれ、災害のために、こんな危険な国家緊急権が必要なはずはない。災害時に公的機関が出動する被災地域は範囲が限定的であり、国土全土や社会の全領域を覆う必要はない。

 これは非常時にかこつけて、全権を手にする危険な非常事態宣言である。これさえ手に入れてしまえば憲法9条の改正すら必要ない。現行憲法を無効化する立法は簡単にできてしまう。

 ドイツで1933年に国会放火事件が起きた直後に出された緊急事態宣言によって、ナチスへの抵抗勢力は根こそぎにされ、そののちに全権委任法が成立した。全権委任法の導入前に、緊急事態宣言の段階で、勝負は決していたと考えられる。

 ナチスの当時の緊急事態宣言と比較しても、自民党が導入するという緊急事態宣言条項は極めて強力なもので、ナチスが全権掌握していったその轍を踏む危険性が現実的にありうる。帝国の「属国」でありながら、ファシズムという最悪の政体が成立しかねない。

 米国が我々日本国民の基本的人権を守る理由はまったくない。我々の権利は日本国民としての権利であり、その権利を定め、守っているのは日本国憲法に他ならない。

 憲法は主権者たる国民が権力者に向かって権力の濫用を戒めるために書かれたものであり、憲法に書かれた範囲においてのみ権力の行使が可能になるとして授権するものである。

 すなわち立憲主義の制約のもとでのみ民主主義は健全に機能するのであり、立憲主義を欠いた民主主義は一時的に多数を占めた者たちの専横を許し、独裁を誕生させてしまう可能性がある。民主主義とともに立憲主義が尊重されなくてはならない所以である。

 ところが自民党改憲草案は、基本的人権の上位に「公益及び公の秩序」をあからさまに位置づける。立憲主義を根底から破壊する、エセ憲法であり、これが通るということは、日本が、先進的な立憲民主主義国家の隊列から落伍することを意味する。

 危機的な状況が眼前に迫る一方で、参院選を7カ月後に控えてなお、共産党の「国民連合政府」構想を掲げた「野党共闘」の呼びかけに対しては、野党第一党である民主党は態度を保留し続け、時間だけがいたずらに浪費されている。

 2015年の秋に安保法制が「成立」してしまい、約半年後の2016年の夏には、運命の分かれ道ともいうべき緊急事態宣言条項の創設をめぐる重要な参院選を控えた2015年冬、本書の増補改訂版を出すことになり、再度の鼎談を梓澤弁護士、澤藤弁護士にお願いした。本書はその鼎談に大幅に加筆したテキストを所収している。一人でも多くの方に読まれ、目前に迫る危機についての理解が深まることを著者の一人として願う。

(2015年11月30日夜)

前夜

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です