「軍事研究の解禁」を日本学術会議が検討!あらゆる分野で進行する「戦前回帰」? 科学者たちも日本の「戦争遂行態勢」に絡めとられるのか!? 2016.5.22

記事公開日:2016.5.22 テキスト
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(IWJ・原祐介)

 日本の科学者で構成される「日本学術会議」が、2016年5月20日の幹事会で、「安全保障と学術に関する検討委員会」の設置を決定した。戦後、一貫して「軍事目的の研究を否定」する立場をとり続けてきた日本学術会議だが、その大原則の「見直し」を検討するというのである。

 政府が軍事用にも民生用にも使うことができる「デュアルユース(軍民両用)」技術の研究を推進する中、「時代に合わない」との意見が出てきたためで、検討会では年内に見解をまとめる見通しだ。

 日本学術会議は1949年の発足にあたり、戦前・戦中における学問の戦争協力を反省し、「(科学が)わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓う」と表明。翌50年には、「科学者としての節操を守るためにも、戦争を目的とする科学の研究には、今後絶対に従わない」とも宣言している。

 また、日本物理学会の国際会議が、米軍から補助金を受けたことが発覚し、1967年にも改めて、「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発表。「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」と強調した。

 憲法の縛りが強引な解釈改憲によって破られ、安保関連法制の成立で「戦争ができる国」となってしまった日本。防衛省は昨年から、「安全保障技術研究推進制度」として、大学などの研究者を対象に「安全保障に役立つ技術開発」の公募を開始した。防衛省が直接研究者に研究費を出すのは戦後初のことだ。

 科学者たちまでもが「科学の平和利用」の誓いを破り捨て、戦争遂行態勢へと向けた、日本の軍国化の動きに絡めとられていくのだろうか。今回の日本学術会議の検討委設置の報を受け、IWJは小寺隆幸・京都橘大教授に話をうかがった。

「軍事研究の解禁」は日本学術会議会長の意向か!? 日本学術会議、変節の歴史

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▲学問の軍事利用再開に懸念を示す小寺隆幸・京都橘大教授(2016年4月8日、神奈川工科大学へ申し入れ時の写真)

 小寺教授は「大学の軍事研究に反対する学者・市民有志」として、防衛省の「安全保障技術研究推進制度」に公募で選ばれた大学などに対し、「大学は戦争協力をするな」と申し入れを行なってきた。

 今回の日本学術会議の決定について小寺教授は、「まだ報道以上のことはわかりません」と前置きしたうえで、「日本学術会議の大西隆会長は豊橋技術科学大学の学長で、この大学は防衛省が研究費を支給する『安全保障技術研究推進制度』に応じています。そういう(軍事研究の)方向に行きたい、ということなのではないでしょうか」と語った。

 さらに、学術会議という組織について、「内部でも反対する人が増えてほしいが、学術会議の構成自体が、実際には、今いる会員が退任するにあたって次の会員を推薦するシステムになっているようで、どうしても似た傾向の人が入っていく」と指摘する。

 「かつては『学者の国会』と言われた学術会議ですが、今はかつてのように公選制ではない。公選制の頃は、いろんな学問分野から会員が選ばれ、全員の学者の意見を代表する人物が内部に入っていきましたが、今は政府の『諮問機関』に落とし込まれてしまっています。もちろん分野にもよりますが、例えば原子力学会には反対派が入る余地がありません」

 1949年、日本学術会議法を根拠に設立された日本学術会議。当時、210名の会員は3年に一度の選挙で選ばれたが、公職選挙法の決まりに則った選挙ではなかったため、組織票や選挙運動などの不正が問題視された。1983年には法改正が行われ、公選制から、学協会を基盤とする推薦制へ変更となった。その閉鎖性を批判する声が多々あがったが、さらに 2004 年の法改正を経て、現役会員が半数交代の対象となる次期会員105名を選出する方式へと変更し、現在に至っている。

「米軍は自衛隊による集団的自衛権の行使だけでなく日本の軍事技術も欲している」

 「研究者からすれば、自分の研究を進めたいが資金は乏しい。そこで防衛省は『直接の軍事研究ではなく、デュアルユース』だと刷りこむが、防衛省がお金を出すのは、ゆくゆくは軍事研究に使いたいからです」

 小寺教授はそう続ける。今回、日本学術会議の大西会長は「戦争を目的とした科学研究を行うべきでないとの考え方は堅持すべきだが、自衛のための研究までは否定されない」との見解を示している。しかし、小寺教授は「どんな戦争も自衛のため、というところから始まる」と反駁する。

 「自衛隊による集団的自衛権の行使だけでなく、米国が日本の軍事技術を欲しがっています。武器輸出三原則も解禁されました。軍事技術の開発も含め、日米の軍事関係は今まで以上に踏み込んでいくでしょう。実際に、これまでも米軍から、日本の技術者にお金は出ています」

 米政府は、2000年以降、米軍が日本国内26の大学などの研究者に約1億8000万円を超える資金を提供していたことを公表。そのうち国内12の大学がそれを認めている。東京工業大学が1億680万円、埼玉大学が2177万円、横浜国立大学が1835万円、金沢工業大学が804万円、他にも福井大学、長岡技術科学大学、名城大学などが資金を受け取っていたことが明らかになった。ここへ至るまでに、「科学の平和利用」の原則は徐々に浸食されていたのである。

「平和目的」から「安全保障」へと変質した、「宇宙開発分野」の前例

 「自衛のための研究」という名目で軍事研究を解禁すればどうなるか。宇宙開発分野の「前例」が参考になりそうだ。

 2012年6月、当時の民主党・野田政権は、日本の宇宙開発を担う独立行政法人・宇宙航空研究開発機構(JAXA)の業務を「平和の目的に限る」と限定したJAXA法からこの文言を削除し、「平和的利用に関する基本理念にのっとり」と置き換えた。平和的な利用に限るはずのロケット開発が、弾道ミサイルへの転用も可能になったのである。

 これにさきがけ、2008年5月には宇宙基本法が成立していた。自民党政権の時代であるが、自公から提出された法案に対し、「宇宙基本法検討プロジェクトチーム」を設立していた民主党が協議に応じて賛成に回った。このプロジェクトチームの座長は野田佳彦氏だった。同法は、宇宙開発利用の柱として「我が国の安全保障に資する」ことを掲げ、「専守防衛の範囲内」での宇宙利用を推進すると明言した。さらに宇宙の本格的な防衛利用に道を開いた。09年には、自衛隊による軍事衛星の活用を国家戦略として位置づけた「宇宙基本計画」を制定した。

 「平和的利用」や「安全保障」の名のもとで、宇宙を舞台とした防衛省とJAXAによる共同の軍事研究は公然と行われるようになっている。小寺教授は、「防衛省とJAXAや海洋研が公然と軍事研究を行なっているように、日本のどの大学でも軍事研究やっているというような方向に持っていくのが狙いでしょう」との見解を示した。


▲防衛省資料「防衛省における宇宙開発利用の取り組みについて」

日本はペンタゴンに「研究の自由」を奪われた米国の学会の後を追うのか

 米国では、科学研究費の8?9割が軍事分野との関わりがあるとも言われている。小寺教授は、「いろんなところにペンタゴン(米国国防総省)のお金が出ている。ペンタゴンの意向に沿わなければ研究費がもらえないので、研究の自由などなくなってしまう」と米国の事例をあげ、日本の学問の行方に懸念を示した。

 「むしろ、軍事研究に手を出さない日本の大学は、世界でも珍しい立場でした。世界的に見れば、どこの国でも、軍隊があれば防衛のための研究が行われています。しかし、ドイツなどでは『軍事研究のような汚い分野から手をひこう』という運動が起こり、研究者も考えを変えつつあります。日本の場合は、今から踏み込もうとしていますが、『そんな研究はやめろ』と声をだしていく必要があります」

 5月29日には、京都大学で「平和のための学術を求めて―『軍学共同』反対シンポジウム―」が開催される。小寺教授はこの日、登壇する井野瀬久美恵・日本学術会議副会長に直接、認識を確かめるという。IWJはこのシンポジウムの取材を申請中である。

 日本学術会議が軍事研究の解禁検討のニュースは、NHKと毎日新聞しか報じていない。科学の平和利用の原則がなし崩しとなりそうな今、この動きを日本の軍国化の一端として警戒し、今後も注視して報じていきたい。

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