「金融権力」と「サイバー・リバタリアン」そしてネオコンが「反トランプ」のネガティブキャンペーンを開始した!?~トランプ氏の集会が「中止」、その背景にあるものとは 2016.3.15

記事公開日:2016.3.15 テキスト
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(記事:平山茂樹、記事構成:岩上安身)

特集アメリカ大統領選挙2020
※日刊IWJガイド2016.03.15号~No.1279号より抜粋

 昨日、14時から4時間半にわたり配信した、岩上さんによる京都大学名誉教授・本山美彦氏インタビュー第2弾はご覧いただけましたでしょうか? 本山氏が専門とする世界経済論にとどまらず、アメリカ大統領選や文科省が進める英語化政策など、時事的なトピックにも言及していただきました。

 現在、予備選が行われているアメリカ大統領選では、共和党では「不動産王」で「暴言王」のドナルド・トランプ氏が首位を走っています。そのトランプ氏に、突如、「逆風」が吹き始めました。3月11日、イリノイ州シカゴで行われる予定だったトランプ氏の集会に、トランプ氏が主張する「移民排斥」に反対する若者が多数押しかけ、支持者と反対派の間でもみ合いになり、集会が中止されてしまったのです。

 メキシコ人や移民、イスラム教徒に対するトランプ氏の暴言は、もちろん看過できるものではありません。しかし、その一方で、「トランプ現象」の火消しに動いているのがどういう勢力であるか、見極めることも重要ではないでしょうか。

 トランプ氏の選挙資金は、7割が自己資金です。他方、共和党内でトランプ氏を追うクルーズ氏やルビオ氏の選挙資金は、ほとんどが大企業からの献金に支えられています。民主党の場合でも、バーニー・サンダース氏の選挙資金の7割が平均29ドルの一般市民による少額献金である一方、ヒラリー氏は、大企業や投資家からの献金に支えられています。

 アメリカの選挙では、PAC(political action community―政治行動委員会)という組織が重要な役割をはたします。アメリカにおいては、企業、団体、組合などが政党や政治家に直接献金を行うことが禁止されているため、候補者はこのPACを設立して、企業の経営者などからPACに献金を集め、そのPACから間接的に献金を受け取るという仕組みになっています。。

 従来のPACでは、個人献金の場合、一人5000ドルまでという上限が決められていました。しかし、2010年の最高裁判決によってこの上限が撤廃され、無制限に献金を集めることもできるようになりました。これを、スーパーPACと呼びます。このスーパーPACは、集めた資金を候補者に直接、献金することはできませんが、その外部にあって、いわば「勝手連」のように候補者の応援キャンペーンをしたり、対立候補のネガティブキャンペーンを行えるのだと、本山氏は解説します。

 本山氏は、現在のトランプ氏に対する「逆風」の背景に、このスーパーPACの存在を見て取ります。「不動産王」であるトランプ氏は、選挙資金のほとんどを自己資金でまかなえるため、外部からの資金調達を必要とはしません。従って誰かの「言いなり」にはならず、見たところ「自由」にふるまうことができ、それが米国の有権者たちの琴線に触れ、支持率が高いのだ、と本山氏は分析します。

 そこで、「トランプ旋風」を脅威に感じた対抗馬の陣営、共和党でいえばクルーズ氏やルビオ氏、民主党でいえばヒラリー氏のスーパーPACに献金するウォール街の金融関係者やシリコンバレーのIT経営者らが、次の大統領となる人物に影響力を行使するため、トランプ氏をつぶしにかかり、ネガキャンが張られているというのです。

 そんな馬鹿な、と思う人もいるかもしれません。米国を代表する「高級紙」ワシントン・ポスト紙は、2月25日、共和党の指導者に向けて「あなた方は、トランプ氏阻止のため、あらゆる措置をとるべきだ」と、直接呼びかける「異例」の社説を掲載しました。

 しかし、そのワシントン・ポストを2013年8月に買収して、オーナーになったのは、アマゾンの創立者のジェフ・ベゾス氏であることに注意を払うべきだ、と本山氏は言います。

 3月8日付の「ハフィントン・ポスト」(英語版)は、ジョージア州のシー島で、「反トランプ秘密会議」が開かれたと伝えています。その会議に参加したのは、アップルCEOのティム・クック氏やグーグルCEOのラリー・ペイジ氏といったIT経営者たちと、ブッシュ政権を支えたネオコンのカール・ローブ氏だったといいます。

 スーパーPACを通じてアメリカ政治に影響力を及ぼそうとする大富豪たちが、スーパーPACを必要としないトランプ氏に対するネガティブ・キャンペーンを開始したのではないか。本山氏は岩上さんによるインタビューの中で、トランプ氏の集会が中止になるという「事件」をそのように読み解きました。

 本山氏が注目するのは、その大富豪たちの顔ぶれです。グーグルCEOのラリー・ペイジ氏をはじめ、マイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、そして上記のアマゾンの創立者ジェフ・ベゾス氏らの「IT長者」を、「サイバー・リバタリアン」であると呼称します。「リバタリアニズム」とは、「機会の自由」を重視し「再分配」の重要性を否定する「自由至上主義者」のことであり、この場合の自由とは「果てしない富の追求の自由」を指します。

 本山氏によれば、世界中で「1%対99%」というような極端な所得格差が拡大していくのは、「際限なく金を稼ぎ、富を所有したいという欲望」を全面肯定する自由主義のドグマと、その追求のための「ワシントン・コンセンサス」が存在し、そういう構造の中で、IT長者たちが「サイバー・リバタリアン」としてのし上がり、彼らが今回のアメリカ大統領選挙にも影響を及ぼしている、というのです。

 前回のインタビューでは、米国の格付け会社、証券会社、会計事務所、そして政治家によってかたちづくられる「金融権力」の実態について取り上げましたが、本山氏は、これからはこの「金融権力」とIT経営者ら「サイバー・リバタリアン」が結びつく「Fintech(フィンテック)」が支配的な体制になると予測します。「Fintech」の実態とは何か?

 本山氏によれば、安倍政権のもとで始まったマイナンバー制度もこれに関連するというのですが、このようなITと金融が一体化した新たな支配体制は、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか? インタビューでは岩上さんが深く掘り下げてお聞きしていますので、ぜひ、ご覧ください!

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