「日本では、政権に都合の悪いジャーナリズムはつぶされる」――ワシントン・ポスト紙が社説でメディアに圧力をかける安倍政権を痛烈批判! 2016.3.9

記事公開日:2016.3.9 テキスト
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※日刊IWJガイド2016.3.9日号~No.1273号より抜粋

 おはようございます。平山です。米大手紙「ワシントン・ポスト」が3月5日、「日本では、政権に都合の悪いジャーナリズムはつぶされる」(Squelching bad news in Japan)という社説を発表し、注目を集めています。

 社説では、アベノミクスについて、「これまでのところ好調であるといえるものではな」く、「2015年終盤の3ヶ月間のマイナス成長を含めた残念な結果」に終わっていると指摘。そのうえで、こうした状況を「国民は憂慮し、内閣支持率も下落中である。こうした悪いニュースばかりになると、一般的に、多くの指導者は、それらの報道を行うメディアに八つ当たりするものだ。残念ながら、安倍氏も例外ではないようだ」と論じています。

 さらに同社説は、2015年4月17日に自民党の情報通信戦略調査会がNHKと朝日新聞の幹部を呼びつけたこと、古舘伊知郎氏、岸井成格氏、国谷裕子氏といった「政府の意向に反する」3人のジャーナリストに対して番組を降板するよう圧力があったのでないかと推察されること、そして、「公平さ」を欠くテレビ局に対して高市早苗総務相が「電波停止」を示唆する答弁を行ったことを紹介しています。安倍政権によるメディアへの露骨な圧力は、広く海外にも知れ渡っているのです。

 「戦後日本の成果の最も自慢すべきは経済の『奇跡』ではなく、独立したメディア(independent media)を含む自由な機構の設立であった。安倍氏の目標はこうしたメディアの自由等の犠牲のもとに行われるべきではない」と、同社説は結論づけています。社説全文の和訳は、本記事の後半に掲載しますので、ご覧ください。

 しかし、ワシントン・ポストが書いているように、戦後日本において「独立したメディアを含む自由な機構」が存在したことが本当にあったでしょうか?

 戦前、戦時中のファシズムの時代よりは、はるかに自由で民主的になった、という人もいるかもしれません。それはその通り、戦前に比べれば相対的にはましになったことでしょう。しかし、それは比べる対象のレベルがひどすぎる。戦時中の日本に、報道や言論の自由のカケラもありません。弾圧につぐ弾圧が繰り広げられました。こんな最悪な時代と比べて、自由化されたと喜ぶのは低レベルすぎる話です。

 戦後の日本社会において、報道は本当にオープンでフェアで自由であったのか? 日本国民の多くは、大新聞とテレビを無批判に受け入れ、その結果として政治家と官僚、財界と癒着する閉鎖的な「記者クラブ」の培養を許してしまったのではないでしょうか?

 独占禁止法にひっかかっても少しもおかしくない、排他的な情報カルテルである「記者クラブ」の利権が存在するところに、真の報道の自由はありません。新聞やテレビなどの記者クラブメディアに食い足りなさを覚えていた人々は、出版ジャーナリズムのゲリラ的な報道にむしろ「報道の自由」を見出してきましたし、現代では「ネットによる報道・言論の自由」によって、権力のプロパガンダを見破ることが可能になっていますが、メインメディアは、安倍政権の圧力に対して抵抗するどころか、自ら忖度して、自発的に隷従してしまうあり様です。

 この「記者クラブ」問題をはじめとする既存大手メディアの問題は、IWJ発足当初からのメインテーマのひとつです。最近では、安倍総理と会食を繰り返す既存大手メディア幹部の問題について京都大学教授の高山佳奈子氏に、また、安倍政権からメディアへの圧力の実態について、BPO放送倫理委員会委員長代行で映画監督の是枝裕和氏に岩上代表がインタビューしましたので、ぜひ、ご覧いただければと思います!

(記事・平山茂樹 記事構成・岩上安身)

 以下、ワシントン・ポスト社説「日本では、政権に都合の悪いジャーナリズムはつぶされる」

「日本では、政権に都合の悪いジャーナリズムはつぶされる」

 3年前の選挙時に安倍総理によって打ち出された、日本の低迷中の経済を活性化せんとする野心的プログラムであるアベノミクスはこれまでのところ好調であるといえるものではない。安倍首相は、財政的刺激、金融緩和、構造改革(「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」)のための「三本の矢」を放つと約束した。日銀が、最近のマイナス金利を含め、急激な反デフレ手段を講じ、安倍氏は金融面で劇的な政策を打ち出した。しかしながら、2015年終盤の3ヶ月間のマイナス成長を含め、迫力に欠ける結果を見て、日本市民は不安感をいだき、安倍政権の支持率も落ち込んできている。一方、中国と北朝鮮は軍事力を示して地域の安定を乱そうとしている。

 こうした悪いニュースに囲まれると、一般的に、多くの指導者達は、それらのニュースを報道するメディアを非難し始める。残念ながら安倍氏も例外ではない。事実、政府とその支援者達による公式・非公式のメディアに対する圧力は、安倍氏が首相になってからの不満のタネ(a sore point )である。多くの市民が、2014年1月の、公共放送であるNHKの運営を任された安倍政権支援者の台頭の後ろに、批判的報道を封じ込めようとする安倍氏の傾向があるとみている。NHKの新会長は、従軍慰安婦問題で戦争時にはどこの国でもあることと発言した。それ以来、自民党の調査会は、NHKとテレビ朝日の幹部を呼びつけ、自民党議員は沖縄の二紙の広告収入をなくすと脅した。安倍氏は、沖縄の件ついては謝罪した。

 最近、政府の意向に反することで知られている3人のテレビ・ジャーナリストの辞任することになった。これは放送網に対して、安倍氏を支持する有力者からの圧力があったのでないかとみられている。これらの辞任は、政治報道で「公平さ」を欠く放送局の放送免許を取り消し可能性を述べて波紋を呼んだ高市総務大臣の発言とも時期が重なる。日本民間放送労働組合連合会は放送局に対する「どう喝」であると非難した。2015年、国境なき記者団は報道の自由度で日本を世界180か国中、61番目であるとの評価を発表した。これは11番目とされた2010年からの大きな後退だ。

 安倍政権を苛立たせている報道は主に集団自衛権などの安全保障政策についてであり、これに関する日本メディアの報道は、米国の報道基準では生ぬるいものにすぎない。しかし経済と安全保障の両方の分野で、日本が課題に直面しているのは事実だ。安倍氏はこうした問題に対応するために必然的な物議をかもしつつも、自国を近代化しようとしている。しかし、戦後日本成果の最も自慢すべきは経済の「奇跡」ではなく、独立したメディア(independent media)を含む自由な機構の設立であった。安倍氏の目標はこうしたメディアの自由等の犠牲のもとに行われるべきではない。

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