「ジャパン・ハンドラー」が言いたい放題!「安保法制の成立も、TPPも、すべては日米同盟強化のため」 ~日米安全保障研究会・最終報告、すでに安倍総理は「指令」実行に奔走中?! 2016.2.29

記事公開日:2016.3.22取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山格章)

※3月23日テキストアップしました。

  「平和で安全で繁栄した自由な世界を守るために、軍事力使用の選択肢を持つことは必要だ。日米両国にとって、近代的かつ有能で、十分な予算に支えられた軍事力を備えることは必須で、両国の指導者には、この現実を国民に説明する責務がある」──。

 2016年2月29日、東京都港区のホテルオークラ東京にて、日米安全保障研究会による記者会見が開かれ、日米同盟の将来に関する報告書「パワーと原則」が発表された。これが、同研究会の最終報告となる。

 日米安全保障研究会とは、台頭する中国を見据えて、アジアや日米同盟に関して提言を行うために、笹川平和財団(SPF)と戦略国際問題研究所(CSIS)が2013年に発足させた、日米の専門家からなる研究会だ。

 その主旨は「政策提言を議論するための私的会合」としつつも、アメリカ側のメンバーには、いわゆる「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる、リチャード・アーミテージ氏(アーミテージ・インターナショナル代表)、ジョン・ハムレ氏(戦略国際問題研究所CSIS所長)、ジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学ケネディースクール教授)、マイケル・グリーン氏(戦略国際問題研究所CSIS上級副所長 アジア兼ジャパン・チェア)、アーロン・フリードバーグ氏(プリンストン大学教授)と、そうそうたるメンバーが名を連ねており、その影響力は「政策提言の議論」の範囲にとどまるものではなさそうだ。

 この日は、日本側のメンバーで座長を務める、元在米特命全権大使の加藤良三氏が最終報告の全体説明を行ない、「2030年までは、中国の軍事力が、日米を合わせた軍事能力を上回ることはないという想定の下、何をしていくべきかを研究した。日米両国が今後15年間に直面する国際安全保障環境は、これまでになく厳しく不透明なものになる」と主張。「日米同盟には現状の、もしくはそれ以上の力強さが求められる」と語った。

 笹川平和財団参与の山口昇氏は、「日米同盟は大事だという意識を、日米両国の国民が納得した形で共有していく必要がある。個人的には沖縄の問題も、『基地の負担を軽減』というネガティブな表現ではなく、日米同盟上の日本側の責任を日本国民全体で共有するという、ポジティブな価値観を持つ方向に議論を広げていきたい」と話した。まるで「積極的に米軍基地を受け入れていくべきだ」とでも言いたげである。

 報告書は、米軍と自衛隊の指揮統制機構について、「アメリカは、米軍が日本とその周辺での活動を自衛隊と一緒にできる、統合任務部隊の司令部を日本国内に常設し、そこに日本の幕僚を置く。同時に、日本側も統合作戦司令部を常設し、そこにアメリカ側の幕僚も入る。可能であれば、両司令部を同じ基地に配置する」と、在日米軍と自衛隊の一体化も提言している。

 これについて質疑応答で、「米軍は、これを受け入れると思うか」と尋ねられた加藤氏は、「われわれは(在日米軍基地の)撤廃論を議論しているわけではない。肝心な点は、日本国内の米軍基地の存在は、米軍が戦略上重要な地点に展開するための強力なプラットフォームだということ。アメリカが前方展開戦略を維持していく限り、守らなくてはいけない最低線である。それをいかに、日本社会に受け入れやすいものにしていくか。その努力の方向性を示すものだ」と答えた。

■ハイライト

  • 会見者 ジョン・ハムレ氏(戦略国際問題研究所(CSIS)所長)、デニス・ブレア氏(笹川平和財団米国(SPF-USA)会長)、折木良一氏(統合幕僚監部 前統合幕僚長)、加藤良三氏(元在米特命全権大使)、田波耕治氏(株式会社三菱東京UFJ銀行顧問)、羽生次郎氏(公益財団法人笹川平和財団会長)、山口昇氏(公益財団法人笹川平和財団参与)
  • 日時 2016年2月29日(月) 15:00~
  • 場所 ホテルオークラ東京(東京都港区)

初の国家安全保障戦略の策定、安保法制、すべては日米同盟強化のため

 はじめに座長の加藤氏が、「今回の報告書は『2030年までは、中国が日米を合わせた軍事能力を上回ることはない』という想定の下、どのようなビジョンで何をしていくべきかを研究した」と前置きして、最終報告の全体説明を行った。

 「日米両国が今後15年間に直面する国際安全保障環境は、これまでになく厳しく、不透明なものになる。日米同盟には現状の、もしくはそれ以上の力強さが求められる。このような戦略的なダイナミズムが持つ重要な特徴のひとつはイデオロギー、経済、安全保障分野におけるパワーと影響力をめぐる競争の激化だ。アジアにおいて、日米両国は中国の責任ある行動を助長し、安定を揺るがすような行動に対してはコストを払わせることによって、より良い戦略環境を形成していかなけばならない」

 同研究会の日米双方のメンバーたちは、経済動向にかかわらず、中国は軍事力に対する投資を継続すると推測しており、加藤氏は、「中国の関心領域は拡大し、その強引な行動や領有権拡大への主張を強めることはあっても、弱める可能性は低い。今後15年間の中国の姿を予測するに際し、『中国政府は以前より強大で、やや攻撃的な態度を貫く』ことをベースラインにしている」と説明した。

 日米両国は近年、同盟強化のために数多くの重要な取り組みを行ってきたと強調する加藤氏は、「日本側は、初の国家安全保障戦略を策定し(2013年12月)、米国との協力緊密化を実現する平和安全法制を成立させた(2015年9月)。日米防衛協力のためのガイドラインを改定し(2015年4月)、広範かつ高度な経済協力のために、TPP協定の合意(2015年10月)にも達した。米軍および自衛隊は、今でも世界最高水準で、統制がとれて訓練が行き届いている」と絶賛した。

 日米新ガイドラインで自衛隊が米軍の下請けとして戦争の肩代わりをし、TPPでグローバル資本に日本の市場を明け渡すことになる。そうした「負の側面」は、すべて脇においやられている。

「平和で安全で繁栄した自由な世界を守るため、軍事力を持つことは必要。両国の指導者には、この現実を国民に説明する責務がある」

 2030年までの15年間に、日米が目指すべき世界ビジョンについて、加藤氏は、「日米同盟は従来と同様、アジア太平洋地域の平和と繁栄を焦点とする」とし、詳細の説明に移った。

 平和に関するビジョンでは、「日米安全保障条約に基づき、両国で有効なパワーバランスの維持と抑止に取り組む。必要な場合には武力攻撃や、自国、同盟国、友好国の利益を侵害する行為を撃退する用意を整える。確立された国際ルールや規範を基盤とした現行の秩序を守り、維持する。

 国家間の問題は、平和的な交渉による解決を追求する。グローバルな課題は、多国間組織による解決を支援する。テロ犯罪行為等の手段を用いて自国、同盟国および友好国の国民の安全を脅かす危険な行為に対しては、相手が国家であれ非国家主体であれ、国際的な取り組みを主導し参加する」と述べた。

 繁栄に関するビジョンについては、「投資、もの、サービスの自由な国際フローを支援する。開発途上国の経済発展、ガバナンスの強化、民間部門の能力向上、女性の地位向上を含めた人的能力の育成など、すべての側面における発展のため国際機関を通じた、あるいは直接の支援を提供する。開発支援および良好なガバナンス原則の普及を目指す世界銀行や、国際通貨基金など既存の機関を強化する。自由については、世界人権宣言に謳われた原則の推進を支援する」とした。

 このビジョン達成に向けて、「日米両国の指導者および世論を形成する人々は、必要な場合には軍事力を含む、日米のあらゆる外交手段を用いた、積極的かつ主導的な役割を果たすことの国内の支持を強化し、維持する」と強調し、次のように続けた。

 「本研究会は、軍事力が国の安全保障政策の唯一、あるいはもっとも重要な手段とは考えていないが、平和で安全で繁栄した自由な世界を守るために、軍事力使用の選択肢を持つことは必要、との立場である。

 日米両国にとって、近代的かつ極めて有能で、十分な予算に支えられた軍事力を備えることは必須。両国の指導者には、この現実を国民に説明する責務がある。日米両国は、この報告書に述べる政策を実行すべく、必要となる基本的、経済的基盤を整える政策を講じなければならない」

報告書の「指令」を忠実に実行中? 海保養成学校の卒業式に現職の総理大臣が初出席~安保法制履行のため「周到に準備」すると誓う安倍総理

 報告書「パワーと原則」によると、日米両国の指導者は、「軍事力整備の正当性を国民に説明する責務がある」のだという。

 この報告書発表からひと月も経たない3月19日、安倍総理は海上保安官を養成する海上保安学校の卒業式に現職の総理大臣として初めて出席し、「平和で豊かな海を守る海上保安庁の役割は、重要性を一層増していく。それは時代の要請だ。それぞれの現場で全力を尽くしてほしい」と訓示。「グローバル化が一層加速する中で、自由な海、平和で安全な海を守るためには国際的な協力を深めることが不可欠」であると述べた。

 さらに安倍総理は2日後の3月21日、防衛大学校の卒業式でも訓示し、集団的自衛権行使を一部容認する安保関連法制に言及し、「全ては国民のリスクを下げるため。その任務は誠に崇高なものだ」と激励。「新しい任務でも、現場の隊員たちが安全を確保しながら適切に実施できるよう、あらゆる場面を想定して周到に準備しなければならない」と語った。

 報告書が求める「国民に説明する責務」を忠実に果たそうしているかのようである。

米軍の「下請け化」を実現するため、日米両国民に「日米同盟は大事だ」という価値観を植えつける?

(…会員ページにつづく)

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