「スーパーマン」になりたがる内閣の下心〜安倍政権が「無邪気」に導入を目論む「緊急事態条項」はワイマール憲法を形骸化した「全権委任法」!憲法学者・石川裕一郎聖学院大学教授講演 2016.1.24

記事公開日:2016.2.3取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田充 記事構成・原佑介)

◆ヤバすぎる緊急事態条項特集はこちら!
※3月3日テキストを更新しました!

 安倍政権が憲法改正の突破口に位置づける「緊急事態条項」。

 同条項が現行憲法に盛り込まれていないのは、内閣に強大権力を握らせる明治憲法に対する反省からであり、安倍総理が同条項の新設理由に挙げる「災害対応」は、これまでの法制で十分対応可能である――。

 憲法学者で聖学院大学教授の石川裕一郎氏は2016年1月24日、東京都練馬区の生涯学習センターで開かれた学習会「改憲の目玉・国家緊急権って何だ?」で緊急事態条項の不必要性を説いた。

 石川氏は、自身を含む憲法学者やその他の法律関係者の多くは、「現行憲法に『緊急事態条項』を加える必要はない。同条項の新設は、日本国民にとってむしろ有害である」との認識で一致しているに違いない、と力を込めて語った。

 「(緊急事態条項が発動されると)国会の議論を経ずに、法律と同等のものを、時の内閣がつくることができる。これが非常に怖い」と述べ、ワイマール憲法を骨抜き状態にした、ナチスドイツ時代の「全権委任法」が重なると断じた。

 石川氏は、「緊急事態では、司法権が独自に判断を下さざるを得ない、きわめて難しいケースが登場する。日本の政治家や裁判官に、果たしてそこまでの覚悟はあるのか」とも問いかけた。緊急事態条項に関しては、司法による政治コントロールが不可欠であり、そうなれば、さまざまな閣議決定をめぐる憲法適合性の判断も、最高裁判所が担うようになる、との指摘だ。

記事目次

■ハイライト

議論の末に「外された」緊急事態条項〜内閣への「権力集中」を嫌った戦後の日本

 安倍総理は、「憲法改正は、自民党が1955年の結党以来、『党是』に掲げてきたテーマである」としきりに訴える。

▲「緊急事態条項」に警鐘を鳴らす憲法学者で聖学院大学教授の石川裕一郎氏

 石川氏は、2012年4月に自民党が発表した「日本国憲法改正草案」を読めば、自民が今、どういう改憲を目論んでいるかがわかるとした上で、1月1日付の毎日新聞が、安倍政権は緊急事態条項の新設で、改憲の先鞭をつける方針を固めたと報じていると紹介した。

 記事では、「特に衆院選が災害と重なった場合、国会に議員の空白が生じるため、特例で任期延長を認める必要があると判断した」と書かれており、石川氏は、「自民党改憲草案で当該するのは、『緊急事態の宣言が効力を有する期間は、衆院は解散されない』としている、99条の第4項だ」とした。

【自民党改憲草案99条の第4項】
緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

 「緊急事態条項」というその言葉のトーンからして、一般市民は、「同条項が備わっていない今の憲法には欠陥がある」と解釈してしまいがちだ、と石川氏は懸念する。「仮に、欠陥があるとすれば、現行憲法がつくられる際、当時の帝国議会の議員らは、この欠陥に気づかなかったことになる」と指摘し、次のように続けた。

 「緊急勅令や戒厳大権をはじめとする緊急事態条項を豊富に備えた、(政権が強大な権力を握る点で人権尊重の理念に反する)明治憲法への反省から、(当時の帝国議会の議員たちは)緊急事態条項を現行憲法に盛り込まなかったのだ。当時の議員らは、盛り込むことの必要性の有無については議論している」

緊急事態認定の「定義」が曖昧「いくらでも98条1項が発動できてしまう」

 石川氏が強調するのは、現行憲法の54条にある「参院の緊急集会」という制度だ。これは、衆院の政治空白期間を参院が埋めるものである。

 「参院は衆院とは違い、解散がない。任期は6年だが3年ごとに半数改選が行われる。つまり、参院に関しては『(安倍総理が指摘する)空白期間』は生まれない」

▲石川氏「戦後70年間、緊急事態条項がなくて困る事態は、日本には一度も生じていない」

 石川氏は、帝国議会は「臨時国会の召集(現行憲法53条)」と「参院の緊急集会」の2つを活用すれば、大概の緊急事態に対応できると踏んでいた、と強調する。事実、1946年7月2日の衆院憲法改正委員会で、金森徳次郎国務大臣は、「緊急事態条項は国民の意志を、ある期間無視できる制度で、政権にとっては便利だが、なくてすむならない方がいい」との趣旨の発言をしている。

 石川氏は、「戦後70年間、緊急事態条項がなくて困る事態は、日本には一度も生じておらず、『参院の緊急集会』が使われたことは一度もない。『これから先、何が起こるかわからない』という視点よりも、過去の経験則を大切にすべきだ」と力を込めた。

 そして、自民党草案の「98条1項」の緊急事態認定の定義が曖昧だ、と懸念を表明。その条文では、1. 外部からの武力攻撃、2. 内乱などによる社会秩序の混乱、3. 地震などによる大規模な自然災害──の3つが示されているが、これらに加え、「その他」というくくりがある。石川氏は「(1〜3に)限定しているわけではなく、法律で定めるケースをほかにつくれば、いくらでも98条1項が発動できてしまう」と指摘した。

【自民党改憲草案98条の第1項】
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

「内乱など」と含みをもたせた緊急事態宣言の広範な適用範囲

 草案の98条1項が、「内乱」ではなく「内乱など」と他に含みを持たせている点にも石川氏は着目する。

 ドイツの同様の条項では「ストライキは外す」と明記されている点を強調しつつ、「仮に、政府・与党が草案通りの改憲案を提出すれば、国会で98条1項についても審議されることになり、『ストライキは外す』といった総理の言質をとることになる可能性は十分あるが、現時点では『緊急事態認定の定義が漠然としている』と言わざるを得ない」と指摘した。

 98条には、「閣議にかけて」との言葉が繰り返し登場する。この文言は、素人が一瞥すると、「閣議決定」のことを指すように思われるが、そうではないのだという。

 「これは『閣議決定』を意味していないため、総理の専断に陥る恐れがある。自民党は『今、北朝鮮から数十秒後にミサイルが飛んできた場合、どうするか』といった、映画に登場するワンシーンのような状況を想定している」

(…会員ページにつづく)

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