元防衛官僚で小泉・福田・第一次安倍・麻生政権時に内閣官房副長官補を務めた柳澤協二氏が、2015年7月19日(日)14時より、福岡市中央区の都久志会館にて「迷走日本と集団的自衛権 〜新ガイドラインと安保法制で日本はどう変わるか〜」と題し、講演を行った。
この講演会は、集団的自衛権容認に反対する福岡県内の地方議員からなる、自治体議員立憲ネットワーク・福岡(荒木龍昇代表=福岡市議をはじめ超党派総勢33議員)が主催したもの。7月15日に、衆院平和安全法制特別委員会で安全保障関連法案の強行採決がおこなわれたが、この法案に対する危機感は、国会議員のみならず地方議員にも相当に強いものがあるという。約300人が入る会場はすぐに満席となり、通路まで聴衆があふれるなど、熱気に包まれた。
- 主催挨拶 荒木龍昇氏(福岡市議会議員)/自治体議員立憲ネットワーク福岡 議員紹介
- 講演 柳澤協二氏(元内閣官房副長官補)「安保法制と日本の将来」
- 閉会挨拶 福島司氏(北九州市議会議員)
▲元内閣官房副長官補・柳澤協二氏
安保法制は「対米公約実現」の法制
柳澤氏は、講演の冒頭から、「安保法制は対米公約実現の法制」とし、国会審議や国内世論よりも、米国政府への服従を最重視する安倍政権の姿勢を厳しく批判した。
今回の安保法制は、1本の新法と10本の改正法からなるが、安倍首相は、国会審議も法案提出もしていない段階で、米議会での演説の際、夏までの成立を約束するなど、新日米ガイドラインのために成立を急いでいるとされ、対米約束が完全に先行している。
こうした動きについて柳澤氏は、日本の防衛政策において「歴史的転換」だと説明する。この法案により、対米一体化はますます強化され、平時からの計画づくり(政策の一体化)、アメリカと同じROE(行動の一体化)が迫られるようになるという。
自衛隊は、「アメリカは違法な戦争はしない」という論理のもと、世界中で発生した紛争に対して、米軍と一心同体で介入せざるを得なくなる。
▲安倍政権が集団的自衛権容認に踏み切る背景を説明したスライド
「自衛隊」が「軍隊」になる=憲法との矛盾
憲法9条は、「国際紛争の手段としての武力行使を放棄」することを定めている。
これを受けて、自衛隊法88条は、「防衛出動命令を受けた自衛隊が、日本を守るために武力の行使ができる」とされているが、柳澤氏は、海外で活動する自衛隊員が個人の意思で武器を使う場合は、「武力行使」ではなく「武器使用」となり、場合によっては刑法の「殺人罪」に問われることもある、と指摘した。
柳澤氏は、「海外で相手を撃ち殺した自衛隊員も、ほとんどの場合は不起訴処分になるだろう」としながらも、「過失責任を問われるかもしれない自衛隊員が受けるストレスは過大なものになる」と、危惧する。通常の軍隊であれば、軍人は裁判ではなく軍法会議によって裁きを受けるが、自衛隊は憲法上「軍隊」ではないため、自衛隊員は、通常の裁判(刑法)でしか裁くことができないという大きなジレンマが発生する。
「巻き込まれの恐怖」と「見捨てられの恐怖」を乗り切る方法とは