ともに1946年生まれ。東京都品川区にある都立小山台高校で同期だった2人が、安倍晋三政権が推し進める、安全保障関連法案をめぐる強行採決に向けた動きに猛反発した。
1人は、安倍首相は祖父(岸信介)の無念を晴らすことが最大の目的になってしまっている、と指摘。もう1人は、自衛隊員が抱えるリスクの高まりを案じた──。前者は元首相で民主党の菅直人衆議院議員、後者は元内閣官房副長官補の柳澤協二氏だ。
2015年6月29日、東京都武蔵野市で行われた「柳澤協二氏×菅直人氏 安保法制・緊急シンポジウム『違憲でも突き進む安保法制の狙いはこれだ!!』」と題した集会でのことである。2人が高校時代の思い出話に花を咲かせるシーンを期待していた向きは肩透かしを食らう、硬派な進行だった。
ゲストの柳澤氏は「今言わずに、いつ言うのか」と己を鼓舞し、安保法案強行採決の阻止に向けて、渾身のスピーチを披露。政府・与党の狙いは、「米国との安保協力(=自衛隊による米軍支援)を、アジア・太平洋を越えて世界規模で展開できるものにすること」と述べ、それに伴い、自衛隊員に課せられる任務が過剰なものになることを危惧した。
海外派遣された自衛隊員に、武器使用の規制が緩和されることは、リスクの方が大きいと警鐘を鳴らす柳澤氏は、今の憲法では、海外で相手を銃殺した自衛隊員は国内刑法の下で殺人罪に問われてしまい、「発砲した自衛隊員の『個人の問題』として扱われることになり、自衛隊員が受けるストレスは過大なものになる」とも強調した。
安倍首相の政治は単なる「祖父の仇討ち」か!?
柳澤氏の講演に先立ち、菅氏が、「安倍首相は、祖父である岸信介の無念を晴らすために、国会を運営している」と口火を切った。
「岸信介は戦前からの大臣で、東条英機内閣では商工大臣を務めた。敗戦後はA級戦犯容疑者として巣鴨の拘置所に入れられるが、その後、釈放され、日本の総理大臣にまで上り詰めた人物だ」
こう語った菅氏は、第1次安倍政権時代に、安倍首相に対し、「岸が東条内閣の一大臣として太平洋戦争の開戦に賛成したことは、正しいことだったのか」と質問をぶつけた折のことを、次のように紹介した。
「安倍首相は、はぐらかしてかわそうとしたが、私の追及に、最後は『政治は結果責任であるから、その時の(岸の)判断は間違っていたのではないかと思う』と答弁した」
だが、最近の安倍首相は、岸の判断の誤りを一切認めようとしないと、菅氏は顔をしかめる。国会審議で関連する質問をされると徹底的にはぐらかすと指摘し、「安倍さんは、彼のお爺さんがやろうとしてやれなかった『憲法改正』をやることが、自分の政治家としての使命だと思い込んでいる」との見方を示した。
「問題は、安倍さんのその思い込みが、国民の将来の利益につながるかどうかだ。個人としてお爺さんを敬うのは、決して悪いことではない。しかし、政治家であるなら、ましてや一国のトップであるなら、国民のため、国のため、さらには世界のために、その政策が本当にやるべきものなのかを第一に考えねばならない。安倍さんの政治には、ある種の『逆転』が起きていると言わざるを得ない」
日米防衛協力「新指針」ありきで動く安倍政権
続いて菅氏から、「元は防衛省のキャリア官僚で、小泉純一郎内閣から麻生太郎内閣までの自民党4内閣で、内閣官房副長官補(安全保障担当)を務めてきた人物が、政府・与党が国会に出した安保関連法案に、厳しい指摘を行っている」と紹介され、柳澤氏がマイクを握った。
「私の最近の主張に対しては、自民党から非難が飛んでくるが、私は基本的には、長く仕えてきた自民党政権に保たれていた(憲法9条をめぐる)解釈の範囲の中でしか発言していない。今の自民党は、勝手に『右』の方向に進んでしまっている」
こう言うと、柳澤氏は客席に目をやりながら、「みなさんは、安保法案の中身を読んでいないはず。新法1つと10本の改正法からなる複雑な案など、普通は読まない」と苦笑しつつも、「私は読んだが、A4の紙でかなりのぶ厚さになる。難解だったが読み進んでいくうちに、いろいろな問題点が浮かび上がってきた」と述べた。