「米国でも69%が自由貿易に反対している」~岩上安身によるインタビュー 第182回 ゲスト TPP訪米調査団から帰国した山田正彦衆議院議員に訊く! 2012.1.17

記事公開日:2012.1.17取材地: テキスト動画独自
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 2012年1月17日(火)、岩上安身による、山田正彦元農水大臣のインタビューが行われた。

 山田議員らは先日、TPP訪米調査団として、米国の政府関係機関や議員11名を訪れるなど、TPPの調査を行った。

 TPPの議論は米国でも「これからだ」と語る人が多く、WSJ等が行った民間アンケートでは、69%が自由貿易に反対しているという結果が出た。失業問題が米国最大の問題であり、FTAの経験から、「自由貿易は失業を増す」という認識が強いため、TPPに対し、消極的な姿勢を示すことも多い。また、米国のNGO団体には、「米国ルールで進める、と言っているTPPに日本が飛び込んでくるなんて、飛んで火に入る夏の虫じゃないか」と言われた等、山田正彦議員らの訪米による調査報告を中心に話をうかがった。

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■ハイライト

■全編動画

――以下は、インタビューの文字起こし

岩上安身氏「皆さんこんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。本日は先日、米国からお帰りになったばかりの山田正彦議員のところにお邪魔にあがりまして、TPPを考える国民会議の訪米団の団長として米国へTPPをめぐる現状視察をされてきた、その成果を今日は単独インタビューでじっくりお話を伺いたいと思います。山田先生、よろしくお願いします」

山田正彦議員「はい。よろしくお願いします」

岩上「1週間ぐらい行かれてたんですか?」

山田「そうですね。向こうで、着いた日はあれでしたが、丸々3日間、フルに動きましたね」

岩上「かなりの箇所を回られた。30ヶ所以上で、議員団も二手に分かれて行動して次々と多くの方にお会いしたとお聞きしておりますけれども、どんなところを回られたんでしょう?」

山田「政府関係、あるいは通商代表部ですね。USTR、それから国務省。それからISDの国際機関ですね。それから議員のところだけで11カ所まわったでしょうか。それから各業界団体、農協団体とか医薬品団体とか自動車業界。そういうところで、どういうことを日本に求めているのかということをいろいろ意見交換に行って参りました」

岩上「昨日行われた記者会見、私どもも中継させていただきましたが、そこで出たお話では、非常に意外なことだけれども、米国の内部ではTPPについて賛成どころかそもそも関心がないというよりもよく知らない。もしくは知っている場合は反対、あるいは慎重というような姿勢が多いということでしたけれども、これはどういうところでそういう現状を把握されたんでしょう?」

山田「いろんな人にお会いしてもTPPの議論はこれからだということでしたね。ただ、今までのFTAとか、いろんな自由貿易協定で、アメリカ国民は意外に反対というかな、非常に消極的な印象でしたね。日本とは違うんだなと感じました」

岩上「これはFTAの経験、とりわけNAFTA、北米自由貿易協定の経験が自由貿易に対して消極的にさせていると。もっぱら原因になっているというふうに報告にありましたけれども、NAFTAを締結して、米国の景気が良くなるとか、大変プラスの方向に出るはずだった。けれども、むしろそうじゃないと。これはどういうことが起きているんでしょう?」

山田「そうですね。NAFTAで以ってアメリカでも雇用が増え、いまTPPで言っているように輸出が伸びるという言い方をして締結をしたんですね。ところが実際には雇用が失われて失業が増えると。そういう結果になってしまって、アメリカの輸出もさほど伸びることはなかったということがアメリカ国民を押して、アメリカのNBC、それからウォール・ストリート・ジャーナルの世論調査等で69%の人がこの自由貿易には反対であると。そういう世論調査の結果が出てましたね。

 他の各紙の結果も殆どがFTAや自由貿易はアメリカにとってメリットがなかったというところなんじゃないかという結果を見せていただきまして、やはり失業の問題がアメリカにとって最大の関心事だし、自由貿易は失業を招くと。それがアメリカの一つの国民の考え方、感じ方なんじゃないかというところがありましたね」

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岩上「締結国。例えばカナダだったりメキシコだったり、あるいはこの間米韓FTAも結ばれましたけれども、そうした韓国であったり。相手国にとってメリットがあったかというと、これもちょっと怪しいところがあるんじゃないかと思うんです。一体誰にとってこの自由貿易協定の類いというものは、FTAとかTPPというものはメリットがあったんでしょうか?」

山田「アメリカの、日本の連合みたいな、労働総同盟の幹部の皆さんといろいろ議論をした時に、結局メキシコも失業が下がり続けて、労働条件は悪くなり、賃金も下げられていった。貧困が増えて犯罪まで多発するようになった。結局、うまくいったというか利益があったのは大企業、多国籍企業じゃないかというお話でしたね」

岩上「日本も同様の状況にあると考えてよろしいんでしょうか?日本でTPPを推進したいといっている人間は結局、最終的にメリットを得るのは多国籍企業。企業全体が得をするというよりは、そこにステークホルダーたる労働者はクビを切られたりするんでしょうから、実際には株主とか一握りの経営陣だけがメリットを得て、多くのステークホルダーはその損失を被らされる。そして、他の労働者とか中小企業とかはダメージを被るのみと。そういう中で、推進したいという声が日本の中でこれだけどこからも反対の手というのはほんの一部を除いては上がらず、バスに乗り遅れたらいけないという声ばっかりになるのはどういうことなんでしょう?」

山田「結局、アメリカの場合もこんな話がありました。アメリカの企業は閉鎖してメキシコに出ていくんだと。工場を移転すると。で、組合としては工場を閉鎖しないでくれと。労働者として。それならば、賃金を半分に下げるか?そう言われた。で、やむを得ないと。賃金半分引き下げを飲んだ。ところがそれでも閉鎖してメキシコに進出した。そういう話をしてましたね」

岩上「日本でも同じことが起きるということですか?」

山田「日本でもおんなじことが起きるでしょう。今TPPで日本の労働組合はそれでいいだろうが、ベトナム、マレーシアから安い労働力が入ってくるんじゃないか。メキシコ、ベトナムにアメリカの企業が、工場がさらに進出していくんじゃないか。雇用が失われるということを非常に心配してましたね。日本でもある自動車メーカーが、こんなに円高になったらもう日本人の雇用は要らないと。我々は外国人の研修生がほしいんだと。そう言ってましたからね」

岩上「これは自動車メーカーのトップですか?」

山田「トップじゃありませんけど。ちょっとこれ以上もう」

岩上「言えないんですか(笑)差し障りがあるけれども、幹部ということですね?」

山田「まあ、幹部でいいと思います。そういうことであれば」

岩上「これは本音だということですね?」

山田「うん。私はそれは本音だと思います。日本の大企業にとって。であれば、本当は日本の労働組合、連合も反対するべきだと思いますがね」

岩上「そうですね。なぜそれが反対にならないんでしょうかね?日本の場合。まだ実態が分からないということですか?」

山田「実態が分からないということが一つ大きいでしょうね。それと、もう一つはTPPの最初の論争の時も大新聞も全て大賛成でしたからね」

岩上「そうですね」

山田「あの当時、連合そのものも早々に賛成に決めてしまいましたね。ということもあるんじゃないかと思いますが。ここで冷静に考えれば、私も結構色々調べてみましたら、当初、労働組合がILO(国際労働機関)で批准されていない部分も日本も批准できるんじゃないかと。労働者の権利がより保護されていくんじゃないかと。TPPに参加したら。と言っていましたがどうやらそうではないですね。ILOの基本条項というのが8つあるんですが、アメリカ議会は団結権とかストライキ権についても批准してませんよね」

岩上「あ、なるほど。そうだったんだ」

山田「8条項のうち2つしか。強制労働の禁止と児童労働の禁止しか米国政府は認めていないんです。しかもマランティスはアメリカの公聴会、貿易小委員会で、環境と労働は全て同一のルールにすると。TPP参加国は。そう言ってるんですね。アメリカの労働法というのは日本ほど労働者が保護されていないんですよ」

岩上「日本よりもっとさらに保護されない状態にあるということですね」

山田「そうです。今現在ですね。日本の場合には、労働法規というのは判例法によって判例の積み重ねによってかなり解雇権の濫用とか、非常に労働者の権利はかなり守られてきたんです。ところがTPPに入るとアメリカと、あるいはそういうメキシコとか。ちなみにメキシコは労働組合に1%しか入っていないとか言ってましたね」

岩上「メキシコ、労働組合に1%しか入っていない?おお」

山田「という中で、労働法規が統一のルールでやるとなると大変だと思いますね」

岩上「これは、日本は労働法制、労働3法というものがあって、それが小泉内閣の頃からだんだんに解体されてるといいますか、順々に労働者の権利というものが、あるいは法というものが緩められてきた。例えば非正規雇用の拡大とか、そういう中で緩められてきたということがずっと指摘されていることですけれども、こんなモンでは済まないと。要するにTPPの行き着く先は労働者が早い話が裸になるような状態。非常に野蛮な状態になるということですよね」

山田「この前、アメリカ議会が批准したコロンビアとのFTA条約がありますね。その中ですと、労働省の設置、および労働監督官の任命、刑法の改革までアメリカの指導によって行うとなっていますね」

岩上「要するにそのコロンビアならコロンビアの主権というものを認めていないということになるわけですね」

山田「と私は思いましたね」

岩上「マランティスというのはUSTRの次席ですよね。そうした人間が先程、環境と労働のルールを統一すると。ということは、これは決定していくのはお互いに決めようねというような話ではなくて、言っているのはアメリカ主導でアメリカのルールに合わせ、ルールというよりはアメリカの都合の良いように変えるということなんですか?」

山田「アメリカの通商代表部はカトラーさんがはっきり言っていましたし、国務省のズムワルドさんも言っていましたが、日本にTPPの、アメリカが要求する中身はなんだ?と聞いたら、米韓FTAを見てくださいと。米韓FTA以上のハイレベルでTPPでは話し合って決めたいという話をしましたね。ということは、米韓FTAの労働問題でも、紛争が生じた場合には理事の中にアメリカ側からも入れて、そこで解決するというふうになっているんです」

岩上「理事に米国側を入れる?それは個々の企業の労使紛争ということですか?」

山田「日本だったら労働委員会に労働者側と使用者側と学識経験者が入っていますね。そこにアメリカ側の理事を入れろというわけです。韓国の場合、入れるっていうわけです」

岩上「これは外資系とか関係なく?」

山田「関係なく。アメリカ政府になるのか、企業代表になるのか分かりませんけども。そして、紛争解決は就業上のルールと同じようにして、たぶんISDと同じように世銀で解決するという意味でしょうから、そしてその損害賠償額は貿易によって被った損失額だという条項になっているんですね。だからそれを日本も米韓FTAと同じことになったら、押しつけられるということになるんじゃないですか」

岩上「恐ろしい話ですけれども、この間の記者会見でも、この米韓FTAを中身がおんなじだと聞いて、本当に驚いて、殆どの記者たちから質問が出ませんでしたけれども。たぶん他の記者たちは米韓FTAの中身を知らないんじゃないかと思うんですが。あそこで書かれているものはとんでもない内容であって、ISDどころか、非違反提訴というNVC条項とか。つまりルールを守って競争してその結果韓国企業が儲けたら、儲けたことによって米国企業が儲からなかったらば、それを理由にアメリカ政府が韓国政府を訴えてお金を取ることができるというとんでもない条項とかありますよね。これは自由競争の否定そのもので、頑張ったら、これから韓国人と韓国企業は一生懸命勤勉に働いて儲けを得るということは、その挙句懲罰のようにしてお金が奪われるという、もう出口のないような状態に陥るわけですね。こういった条項やラチェット条項のように後戻りできないと。これは韓国側だけが後戻り出来ないと。だけれども米国側は好きに関税を上げてもいいというものすごい不平等になっているわけですけれど、こんな内容が日本にもなるということを」

山田「押しつけられるということになると思いますね」

岩上「はっきりと国務省や通商代表部の人間が言っているわけですね」

山田「言っているわけです。それともう一つはアメリカが言っていたのは米国が、オバマ大統領は、日本はルール作りに参加出来ないと。出来たルールを守れと言っているじゃないかと。それなのになんで日本はこういうTPPに入ってくると言うのか。飛んで火に入る夏の虫じゃないかという言い方をアメリカのNGO団体パブリックシチズンの代表がそういう言い方をしていましたね」

岩上「向こうの、米国のNGOに見抜かれて。このTPPの本質を見抜かれて、なんでお前たちは飛んで火に入る夏の虫というか、要するにわざわざ、むざむざと食べられに来るのかと。どうしてそんなことするのかと。愚かしいじゃないかと指摘されたというわけですね。本当に歯痒いというか。でも逆に言えば、アメリカというのはそれぞれそういう良心的なことを発言する方もいる。そして、TPPというのは非常におかしなものだよと。国民もボロボロになっているし、外国にも不利益を与えるんだから止めた方がいいと思っている人もいるということですね。逆に言うと熱心なのはどこなんでしょうか?」

山田「熱心なのは共和党の貿易をやっているところというのはかなり熱心でありますよね。わりに民主党の議員は反対が多いようですね」

岩上「そうですか。しかし今オバマ政権というのは民主党です。なぜこのオバマ政権がかくまでこうした問題に熱心であるのか。そして雇用を増やすと言っていながらその逆の、むしろどちらかと言うと。あ、地震ですね。結構、大きい感じですね」

山田「そうですね。意外だったのは、私ども、オバマ政権が再選するために日本としてはTPPに野田さんとしては参加表明する必要があるんじゃないかという言われ方を、党の執行部は率直に語っていたんですが、そうではありませんでしたね」

岩上「違うんですか?」

山田「うん。むしろオバマ大統領はTPPを口にすると国民の殆どが自由貿易については否定的だから、オバマ大統領は民主党。民主党の議員とか、労働総同盟。これはオバマさんの支持母体ですから、そういうところから反発を食らうので、雇用、雇用と言っているわけでしょうが、いずれにしてもあまり表沙汰にしたくないと。一方で、輸出が期待出来る農業団体とか、いろんな医薬品や医療保険団体とかにはTPPやっていって米韓FTAのように皆さん方が日本に進出して利益をあげられるような世の中を自分が作るんだというふうに言っているんじゃないかという感じを受けましたね」

岩上「ということは、選挙対策ですらないということは逆に言えばいったい動機は何なのかということなんですけれども、どういうパワーがオバマ大統領を押して、動かしているのか?それはもう一つ姿を表してくるのは(安全保障の)戦略面からTPPが必要だという声があがったという話ですよね。この辺りが一つの原因になっているんでしょうか?」

山田「そうでしょうね。アメリカに行って、私が感じたことは、アメリカの皆さんもそう思っているんでしょうけど、この自由貿易、FTAとかEPAはある意味ではグローバリゼーションといって多国籍企業や大企業にとっては利益になるけど、一般庶民や労働者には利益にはならないんじゃないかという感じは受けましたね。

 ただ日本の消費者の場合には、安い食料品が入ってくる、それだけで助かるという声がありますよね。しかし農業は壊滅的に近い状態になるとしたら、200万人の雇用がなくなるわけですよ」

岩上「今の農業従事者ですよね」

山田「農業従事者。それと食品加工産業等々を入れると600万人ぐらいになるんですけど。食品流通。まあ、流通は別としても」

岩上「あるいは地域社会の様々な第一次産業をコアにして成り立っていたそれぞれの地方、地域の社会が要するに壊滅してしまうということになると」

山田「しかも自動車産業とか、そういったところの雇用も安いベトナム人やマレーシア人に変わってくる。そうなったときに賃金もどんどんと下がってきますね。アメリカがそうであったように。賃金が下がってきたら、物品が安くなるけど、購買力がどんどん減っていってデフレがさらに深刻化していくんです。そうすると、日本にとっては大変なことになります。大不況に陥ってしまうと」

岩上「もう既に14年続いているデフレが止まらない。全然止まらないどころか、TPPデフレの更なる加速になるわけですよね。そうなったときには失業とか倒産とかが溢れかえることになるだろうと思いますし、いろいろな形で債務を抱えている人たち、自営業者や中小企業、それから個人でも住宅ローンを含めた債務を返済出来なくなって、債務の比率が大きくなり、債務デフレに陥って、またしても不良債権の山ということになると、今度は金融恐慌にもなりかねないという、とんでもないことになりかねないですよね。こういう状態の中、なぜ現在の民主党政権はデフレを加速するような政策の方に思い切りアクセルを踏んでいるんでしょうか?ましてや、国際を発行して財政出動を行うというようなことではなくて、むしろ逆に増税をすると」

山田「これで増税されたら大変ですよね。今度の増税というのは1億2千万の国民一人あたり年間10万負担させるというわけですからね。強制的に召し上げるというわけだから、これは大変なことですよ。イギリスとかカナダあたりは食料品は非課税。消費税ゼロですからね。フランスやドイツは5,6%ぐらいですから、それを10%に上げるとなったらそれは大変でしょう」

岩上「これは、どんどん実態が分かってきて、なんのためにやっているのは分からなくなってきているんですけれども、聞くところによると今回の訪米で、山田先生、オキュパイ運動をやっている現場の方にまで行かれて、視察もされてきたということなんですが、結局アメリカという国家が繁栄するために我々から収奪を行っているというよりも、アメリカの国民も窮乏化していってるわけですから」

山田「貧富の差が拡大して、若い人の失業者が増えてく。日本と同じですね」

岩上「どんな感じでした?実際に現場に行かれて」

山田「冬、ワシントンは雪が降っていたんですが、ずっと公園にはテントが何十もありまして、しかも全く火の気がないわけです。灯りもないし。どうやって暖をとっているのかと。そういう感じでしたね。火を扱うと出ていけということになるんじゃないでしょうか。そんな中でも頑張ってる。前はウォール街に占拠していたのだが、やっぱり若者たちが訴えている、99%の問題ですが、これはいずれ、早晩日本でもそうなってくるんじゃないでしょうか?」

岩上「日本でもオキュパイ運動に呼応したデモが行われたりもしてますし、現実には日本の窮乏化というのはその前からずっと続いているわけですけれども、さらに加速していく可能性があるという話ですね。

 先程、自動車業界について雇用が失われるという話。労働者側の不利益という話が出ましたが、他方、経営者側にとってもこれは不利益になるんではないかというような話がもう既に出てきています。軽(自動車)の規格を見直せという要求が出てきていると。これは、以前インタビューさせていただいた時に、USTRのナンバー2のマランティス次席代表が、野田総理がAPECに訪問して交渉参加の事前協議を表明した直後に日本に来て、牛肉、郵政、自動車、の3つをアメリカの都合のいいようにやってくれという要求があったという話がありました。既にそういうようなものが形になって現れ始めてきていると思うのですが、この軽の規格の見直しという狙いはどこにあるのか?そして、これを日本側はどういうふうに受け止めているのか?官僚、それから業界。この点をご存知のことをお話いただければと思います」

山田「アメリカの自動車業界と話をいたしましたら、エコカーのことを仕切りに言っていましたね。エコカー減税というのはけしからんと」

岩上「減税はけしからんと?そんなことに口出しするんですね」

山田「不平等だと。競争条件において。おそらくその流れからすれば、軽自動車についてはもともと課税が低いですよね。これを止めさせようと。アメ車と同じようにやれと。アメリカはもう一つ要求しているのは、アクセスにおいて、韓国がそれを認めたわけですが、毎年左ハンドルのアメリカの安全基準に沿った車を確か2万4千台を受け入れよと。それを今アメリカが要求してきているんですね」

岩上「それは日本に対してですか?」

山田「日本に対して。韓国とのそれ以上のものを求めると言うんですから、アメ車は年間8000台しか入っていませんから。それを強制的に受け入れるとなったら、公用車がほとんどアメ車になってしまう」

岩上「なるほど。そんなところで買い取るしかないから。市場原理でいって、良いものを安く、消費者の買いたいものを買うという話になったら、今アメリカ車は見向きもされないわけですよね」

山田「それはアメリカの押し付けですよね。それに日本が交渉に参加するということはそういう話ですよね。従来通り、日米間の外交上のやり取りでやっていけばいい話しなんですよ。NOと言えばNOとアメリカも聞くわけだし。はっきりと言えばいいわけですよ。今回、私はアメリカに行って、通商代表部にも国務省にもはっきり言ってきましたよね。日本はまず参加表明じゃないんだと。事前協議の段階なんだと。そして、野田総理も経産大臣も言ってないと。全ての物品と全てのサービスをテーブルに乗せるということは、それはアメリカ側が一方的に野田総理が言ったと記者会見をし、それを国務省のホームページに載せているのはけしからんと」

岩上「その問題を直接、アメリカ政府に言ってきたんですね」

山田「言ってきました。だからそれについてはぜひ削除してほしいと、強く言って参りました」

岩上「そうですか。政府に要求しても日本政府は一向にアメリカに言わない。それならダイレクトに伝えてくると。これは誰に言ったんですか?」

(0:30:03.9)

山田「それはマランティス」

岩上「マランティスさんの表情というのはどうでした?」

山田「カトラーさんが『それについてコメント出来ない』と言いましたね。そして、ズムワルド国務省の筆頭代理、この方は『これは通商代表部の専管事項だから国務省としては何も言えない』と言ってましたね。そして各政府機関にも各業界団体にも議員さん方にも、日本は与党だけで200人を超える議員がこのTPPは時期尚早である、もしくは反対なんだと。国会に対して国会議員365人。過半数以上の国会議員が既に反対の請願を先の国会に出していると。従って、批准されるものではないだろうと、そうはっきり言いましたら、業界団体は結構、青ざめてましたね」

岩上「そうですか。業界団体というのは推進したい側ですね。例えばどういう団体ですか?最も熱心なところ?」

山田「養豚業界とか、食肉業界とか牛肉業界とかそういう」

岩上「農産、あるいは畜産関係とか。アメリカの農産物、畜産物を日本に輸出したい。あと、知的財産権に絡むところが非常に熱心だったと聞いてますけれども、それは具体的にどういうところなんでしょう?」

山田「そうですね。バイオ関係の団体に行ったんですが、これは遺伝子組み換えの食品表示をさせたくないと。これははっきり言っていましたね」

岩上「遺伝子組み換え。GMですね。その表示をさせない。要するにそれに気付いてしまうと、そういう食品は買わないわけですから、それと分からず食べさせたいわけですよね。これはモンサントなんかが入ってる」

山田「意外だったのは、アメリカ国民もGMの食品表示を義務付けしろという声は多いと。多いけれども、我々は科学的に見て安全なんだから表示させるべきではないと考えていると。表示を義務付けさせるべきではないと考えているという言い方をしてましたね」

岩上「これはモンサントが中心になっているだろうと思うんですけれど、モンサント社の人間とあったのではなく、業界団体とお会いした?」

山田「バイオ業界」

岩上「ということはモンサント以外にもそういう会社があり、そうした企業が加盟している団体ということですね」

山田「バイオ業界の副会長さんでしたかね。お会いしたのは。直前までUSTR通商代表部にいたと言っていましたから。各地でUSTRとか政府機関と回転ドアというんですかね」

岩上「天下りですね。要するに日本と変わらない。業界と密着し合っているわけですね」

山田「そうですね。日本と違うのは天下りというか、むしろ回転ドアに近いんでしょうね」

岩上「行ったり来たりするんですね。一方向ではなくて、また戻ってきたりする。癒着がそこにあるわけですね。はっきり言ってしまえば。

 マランティスさんと会った時の話が、一部伝えられているんですけれども、大変マランティスさんは青ざめた表情で批准の話。日本では国会議員の多数が反対しているので批准されないだろうと言った時にはペットボトルを握りしめて何度も水を飲み、とうとう最後は水を飲み干してしまって、口がカラカラだったみたいな、非常に緊張した面持ちだったということまで随行してきた方々の話で、そういう様子が伝わってきているんですけれど、マランティスさんはどんな感じだったんですか?」

山田「僕はそんなに細かく見ていたわけじゃないんだけど、本人は結構にこやかな表情は作っていましたが、かなり私も厳しく、日本では批准されることはないと思うという言い方をしましたので、アメリカの場合は議会が中心ですから、向こうだって日本の議会がどう考えるかということは大変気になっているはずだから、そうはっきり言われると、今までは何とかTPP交渉に参加させてもらえないか、どうしたら参加出来るかという形で経産省も外務省も当たってきたと思いますよ。そんな話でしたから。それが、私どもがいきなり行って、これは大変難しい話だと。我々は反対だという話をしたので、少し緊張したんじゃないでしょうか」

岩上「日本の役人を相手にしている時はまるで抵抗感なく米国側の要求を押しつけられると。こういうことが日本政府と米国政府の主従関係のように、習い性のように今もうなってしまっている。これは誰の目にも明らかだと思うんですけど、そういう点で国会議員が主権者の代表として、本当に実権を持っているのは我々だと表して米国側に自分たちの意思を伝えるというのは非常に重要なことだったのではないかと思うんですけど」

山田「アメリカの業界紙がかなり大きく取り上げたそうですね」

岩上「そうですか」

山田「INSIDE U.S TRADEという貿易関係では結構有名な週刊誌なんですが、そこでは私が渡した国会議員365名の署名と、党のPTの慎重にという内容まで全文紹介したそうです」

岩上「全文紹介。これはたしかオンライン版もあるはずですけど、今回取り上げられたのはペーパーのものですか?それともネットのものなんですか?」

山田「それはちょっとよく分からないけど、その新聞。INSIDE U.S TRADE」

岩上「これは新聞か雑誌かどっちなんでしょうかね?」

山田「どっちだっけな。いずれにしても貿易関係では世界的に有名な有力な。そこではかなり大々的に取り上げてくれたそうですね。私、まだ見てないんですけど」

岩上「他方で、非常にはっきりとした戦略というか、安全保障に絡めて米国が脅しとも取れるような言い方をした人がいるという話もありました。TPPの話にいった前から、いきなり冒頭から北朝鮮とイランの話をして、それから入ると。要するにそれはイランでも戦争になるかも知れない。北朝鮮も危ないだろう。お前たち、自分の国を守れるのか、というような一種威圧といいますか、威迫といいますか。これを行ってからこの貿易の話に入るというようなことなんだろうと思うんですけれど、こうした話は実際にどなたとどういうふうに話されたんでしょう?」

山田「キャンベルの筆頭代理のズムワルドさんと。でも、実際最初から私の方には経済だけの問題だけでなく北朝鮮とかイランの問題も話したいということは伝わっていましたので、それは別に威圧的にそういったということじゃないと思いますけどね」

岩上「それはどういう口調で、どういう内容だったんでしょう?」

山田「イランについて緊迫した状況に今アメリカもありますと。日本にとっても大変だと思うけど、イランの核開発を何とか阻止したいという話でしたよね。私もオバマさんが言っている、これ以上核を拡散させないということには私どもも同意しますと。それについて出来る協力はやぶさかでないという話は私もしたと思いますが、首藤さんが、日本の立場にとってみれば、イランからの原油について、いきなり規制するということは難しいだろうと。日本側のこれまでの歴史的事情も考慮していただきたいとはっきり述べてくれましたね」

岩上「それに対する反応というのはどうだったんですか?」

山田「そこはお互いに話し合いですから、お互いに話を聞いて、次の話に移ったというところです」

岩上「条件反射のようにこの安全保障問題を出されると、分かりましたと言ってアメリカの要求をそのまま中身を検討しないで従ってしまう。それも安全保障と関係ない問題でも何でもかんでも聞いてしまうということが日本の国内に習い性になるような空気が充満しているように感じるんですけど」

山田「それは間違ってるんですがね。かつてBSEの交渉を、当時私は農務省のベン次官と野党時代に4時間に渡ってやったんです。NOと言いましたら向こうも分かってくれましたよね。アメリカ側とははっきりと理由を言って日本側のイエス、ノーをはっきりと言えば分かってくれる国柄では本来あるんですよ。ただ、日本も外交交渉を官僚に任せておったらダメですね。しかし政治家がまさに政治主導でやるということにならないと今のような政府の外交はダメだと思います」

岩上「今日もここへ来る前に、文科省の大臣会見に出てきたんですけれども、昨日、事故調査委員会でスピーディの情報を国民には開示しなかった。ところが事故直後から米軍には伝えていたということが明らかになってしまったんですね。文科省が外務省を通じて。一体主権者は誰なんですかという質問を平野大臣にしてきたんですけれど。主権者は当然国民だけれども、と言いながら。でも米軍は他国の軍隊でしょ、と。だからどう仲が良かろうがどうであろうがよその国の軍隊に対して重要情報を全くスルーで国内の関係省庁であるかのように渡しておいて、主権者たる国民に渡さないという。ものすごい間違っているんではないかという思いがあって、質問したんですけども」

山田「平野大臣はどう答えました?」

岩上「主権者ではあるけれども、というようなことですね。それに対して、もっと詳しい情報データを出してくださいということを言いまして、今手元にないから次回の会見で、と。いつどこでどんなデータを米軍側に出すために外務省に渡したかということについて出すと。明らかにすると一応は約束してくれましたけれども。しかし、関係省庁に渡したという感覚でそれが米軍に渡っているという言い方はされていましたね。でも、関係省庁ではないですから、米軍は。よその国の軍隊ですから、そういう見識ではないんだなという、ちょっと感じはしました。記者会見の場で議論する場でないので、その場で問いただすということまではさすがにいかなかったですけれども、また重ねてお聞きしたいと思いますが」

山田「日本の外務省もウィキリークスを見れば分かるように、本当に独立国家の、主権国家の外務省と言えないような状況にあるんじゃないでしょうか」

岩上「いつになったら日本は主権国家として回復することが出来るのか。またどのようにしたら、どのような道筋を辿っていくべきなのか。これはTPPでむしろ従属とか隷従が甚だしくなって、後戻りが出来ないところまでいきそうな気がするんですけれども、どのように踏みとどまって、どのような道筋を歩いていったらいいのか。先生、どのようにお感じになりますか?」

山田「自民党になってもより今までがそうであったように従属国家になっていくと思いますよね。我々はせっかく政権交代したのだから、民主党の中には私と同じように考えている人が過半数以上。多いと思いますよ。だから、民主党の中で、我々は今の執行部の考え方を正していくということをこれから精力的にやっていかなきゃいけないと思っています」

岩上「昨日、民主党の党大会がありました。党大会の取材もしました。そしてそれに続けて小沢さんが声をかけた『新政研』と言われる新しい会の、第一回目の勉強会というのが開かれ、これと全く違うことが語られていたわけですね。党大会の方ではとにかく不退転の決意でどうあっても増税するということを野田総理が言い、そして新政研の方では榊原英資さんが、これはまったく経済学的に間違えている。むしろ今国債を発行して、デフレからの脱却、不況からの脱却を図る。それによって税収を高めるべきだというふうに言っている。これはここに両方に参加していた議員さんがいらっしゃるわけですけれども、どのようにお考えになり、どのように行動するんでしょう」

山田「我々は榊原先生が言ったように、いま消費増税するべきじゃないし、国債を思い切って発行してデフレ脱却を図り、復興もあるわけですから、名目成長を上げるしかないですよね。これを今やるべきだというのは我々の一致した意見じゃないでしょうか。その中でTPPも慎重にやる。こういう意見の方が党内では多いと思いますよ」

岩上「何故それなのに代表選でも勝てなかったのか。その辺が。代表選の時に野田総理はここまで前のめりに増税であると言ったかというと言ってないんですよね。増税のことは約束してません。代表選の時に言ったと言ってますけれど、それは嘘で、代表選の演説の何を見てもはっきりそういうことは書いてない。だから騙された感というのは党内の議員の方々にもあるかもしれませんけれども」

山田「TPPについても然りですよね。何も言ってないです。やるべきことをやらずにやっちゃいけないことをやろうとしていることに党内の反発は強いと思いますよ」

岩上「これはいったいどういう力でこれだけの変節になってしまうんでしょう」

山田「それはやっぱり官僚主導じゃないですか。財務省、外務省、経産省の主導。政治主導を忘れてしまったというか、捨ててしまったということじゃないですか」

岩上「官僚機構というものとぶつかり合いながら政治主導を実現していくと言いながら結局はこの民主党政権を2年間見てみると、敗れ去ったのではないかというふうに見ることも出来るんですが。そして中には変節する者も現れたと。官僚側にすり寄って保身を図り、その上に乗っかった方が楽だと。かつての自民党と同じようなことをやっている。野田さんというのはその典型だと思うんですけれども、そういう変節漢が他方で現れ、あとは敗退しつつあるのではないかという見方も出来るんですけど、厳しい言い方で恐縮なんですが、これはどういうふうに考えたらいいんでしょう。どう巻き返すことが可能なんですか?」

山田「我々が多数ですから、これからですよね」

岩上「昨日の勉強会のところに、離党して新しく党を立てた『きづな』とか『新党大地・真民主』の議員さんたちもいらっしゃっていて、もしかするとこうしてボロボロと離党して新党を作っていき、政界再編が行われるのではないかという話もあるんですけれども、これについてどういうふうにお考えになりますか?」

山田「私は民主党の中でも我々と考えを同じくする人が多数だと思うんで、民主党の中ではっきりと我々の主張を、せっかく政権交代したんだから国民も民主党に期待してるんだからもう一回マニフェストの原点に戻ってやらせること。これを取り組むことがまず第一だと。そう思っていますね」

岩上「新党を作るというようなことはあり得ないですか?」

山田「あり得ないということじゃないと思いますけど、消費増税で野田総理が解散するということになれば、その時にみんな考えるんじゃないですか」

岩上「解散をしないと言ってみたり、やる時には国民に信を問うと言ってみたり、野田さんの言ってることが本当に分からないんですけれども、あり得るとお考えですか?」

山田「消費増税を強引に出そうということは解散も考えてるということなんでしょうか」

岩上「解散も考えてないとそんな強引なことは出来ない」

山田「と思います。これからの話ですから。どう考えていくかは」

岩上「ちょっと、TPPに関係した話。もう一つ。投資紛争に関してICSIDといわれるいわゆる投資紛争解決国際センターという世銀の下にある仲裁機関があります。その仲裁機関の関係者にも話を聞かれたというふうに聞いております。この仲裁機関というのはどのようなものでどんなふうな機能を果たすのか。実際にアメリカの意向を反映させる機関になるのか。その点はどうなんでしょう?」

山田「世銀の総裁が3人の委員を決めるわけでしょ。そこの事務局に首藤さんに行って話を聞いていただいたんですが、首藤さんのお話ですと、アメリカ人の総裁なんかとアメリカ人の事務局があって、ISDでアメリカが訴えられて負けた例はないと。それはある意味で当然でしょう。研究者との話し合いの時に面白い話をお聞きしましたけど、かつてクリントン大統領と仲の良かった議員が仲裁員に選任されて、アメリカ政府がメキシコの企業から訴えられた事案で、結局、国務省に呼ばれてメキシコ政府に勝たせたらFTAは、NAFTAは大変なことになると言われたと。やむを得ずアメリカ政府を勝たせたという内輪話をしていただきましたけど、それが実際かどうかは分かりませんよ。でも大学の先生が嘘の話をするとは思えませんけど、そういった圧力というのがかかっていくんじゃないでしょうか」

岩上「国務省からダイレクトに圧力がかかって、そして結局言いなりになっていく。アメリカにとっての、アメリカの資本にとっての利益」

山田「協定の内容そのものがどこの国で国内法がどうであれ、投資家の自由な競争を保護するためだけのものですから、結局負けてしまうというのはあると思いますよ。でもアメリカが負けないというのはおかしな話ですよね」

岩上「そうですね。アメリカ資本だけは負けないと。つまり日本資本がアメリカ政府を訴えても負けていくわけですよね。カナダ資本、メキシコ資本、韓国資本もそうだと思いますけれども」

山田「だから、これからどうなるかだけど、韓国の裁判官170人が反対しているというのもそこにあるんじゃないでしょうか」

岩上「こういうことに対する日本の各界、各層のリアクションというのはちょっと薄いですよね」

山田「そうですね。もう少しよくメディアもその点を報道していただければ有り難いんですが、なかなか報道してくれませんよね」

岩上「はい(笑)我々はやりますけれども。可能な限りやりたいと思いますが、本当に既存メディアは酷いものだと思います。

 分かりました。これからもこうした問題についてお話を伺いたいと思います。今日は先生、どうもありがとうございました」

山田「どうもありがとうございました」

(文字起こし:ボランティアスタッフ @sekilalazowie)

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