同性カップルを「結婚に相当する関係」と認める、全国では初の「パートナーシップ」証明条例案を、3月の区議会に提出した渋谷区の桑原敏武区長が2015年3月23日、日本外国特派員協会で記者会見を行った。
同条例案は、3月31日の本会議で議決されるが、区議会で多数を占める自民党の議員らは、これに反対している。谷垣禎一自民党幹事長も「家族関係がどうあるかというのは、社会の制度や秩序の根幹に触れてくるものだ」と発言しており、前例のない条例案に対して懸念を示した。
質疑応答で、条例可決の見通しについて問われた区長は、「私を推薦している自民党の議員が反対しているのは事実。しかし、その他の政党が支持をしていると聞いている」と話し、また、仮に可決しなくても、相談窓口の設置や性的障害について啓蒙活動は実施していく考えを見せた。
IWJは、過去、区内で実施されてきた、外国人を対象にしたヘイトデモについて聞いた。区長は、「己をあるがままに、表現できない人たちのために、努力をしなければいけない」と回答したが、ヘイトスピーチに対する認識の甘さが露呈した内容となった。
また、宮下公園から路上生活者を締め出した件について問われた区長は、区として実施している施策を述べた上で、「政治運動を目的に行われていることに対し、対応する必要はない」と述べ、渋谷区に路上生活者はいないという見解を示した。
ホームレス締め出しは「思いやりのある社会」と矛盾している
以下、発言要旨を掲載する。
記者「東京地裁は今月(3月)13日、渋谷区による野宿者の直接強制排除は違法だと指摘し、野宿者に賠償金を払えという判決を出した。最近では、水道の蛇口を閉めて、野宿者に水を使わせないようにもしている。これは、桑原区長が言った、思いやり、人権といったものに矛盾しないのか」
桑原敏武区長(以下、桑原・敬称略)「渋谷区は毎月4回、区の職員が回って、路上生活者に生活保護や就職の働きかけをしている。渋谷区の窓口は年末年始、24時間の窓口でそういう人たちを保護する対応もやっている。そういった中で、生活保護の申請が1件、職員が回った中ではゼロ。
では、なぜ食事を出す時に、人が集まってくるのか。それは政治活動だと思っている。渋谷区はそこまで対応する必要はないのではないか。トイレや水飲み場をつくることが人を集めやすいとも言われている。地域からも『ルールを守ってもらいたい』という声もある。
集まる人たちは火を使う、燃やす。公園では火を使うことは禁止している。法令のもとで、私はいろんな活動をすることは認めているので、今言ったことは当たらないと思っている」
自民党が多数を占める区議会で、条例案は可決されるのか?
記者「今回の条例は成立しそうなのか。渋谷区の区議会は自民党が多数を占めている。展望についてうかがいたい」
桑原「端的に言って、分からない。私を推薦している、自民党が反対しているのは事実。しかし、その他の政党が支持をしていると聞いている。結果はまだ分からない。3月31日にはっきりすると思います。
仮に成立しなくても、相談窓口は置きたいと思っているし、教育や職場の現場で、こういったことに対する配慮や理解を得る活動は進めさせていただきたい。成立しなければ条例は出せないが、我々は性的障害のために苦しんでいる人がいれば、努力をしなければならないと思っている」
記者「条例に違反した企業はホームページなどで、社名を公表すると。渋谷区内の外資や日系企業で、渋谷区内のLGBT支援をする企業から『どういった体制整備をしたらいいのか』という相談が来ていると聞いている。企業の体制整備については、どうお考えか」
桑原「渋谷区に、担当課長をはじめとする組織を置こうと考えている。啓発が中心なので過料を科すことは適当ではない。公表することでプレッシャーをかけたいと考えている。この問題に理解をしない企業は、社会的制裁を受けることがあるんだと。
一方で教育職場では、先生の対応の仕方を、渋谷区として指導していかなければならない。企業に対しては、専門機関があるので、お互いにどうすれば理解していただけるのか、渋谷区と社会が一体となっていくことができるのか、話し合いを、専門家を交えながらやっていきたい。企業や学校においても、性的マイノリティーのためのトイレや更衣室を準備するなどの課題を、相談しながら対応していきたい」
「私はゲイではない。理解をしたいというだけ」
記者「区長の考え方は、日本の主流とはだいぶ異なる。なぜ、踏み切ったのか。区長自身はゲイなのか」
桑原「まず、渋谷区がこういうことをやるかということは、法律があって事実があるのではなく、事実があって法があると思っている。性的な障害があるために、ありのままの自己が表明できずに、差別的な扱いをされている。そういう事実があって、法は、温かい手を等しく差し伸べることが、国のやるべきことだと思っている。国もいずれの時期には考えなければいけないのではないか。
憲法は、性的差別、人種、国籍、社会的身分による差別を禁止している。社会的身分の中に、性的障害は入ると思っている。
(可決された場合、転入するケースが増えることについて)入区については、歓迎する。また、条例案に反対する動きについてだが、性的障害の問題は、信条や信念の問題ではなく、事実の問題。苦しんでいる人たちを、いつまでも社会から見えないようにしていていいのか。同時に、反対のための反対もあるようなので、このことについては、一つ一つ説得をしていきたいと思っている。
私は自分がゲイという意識は一切ない。ただ、理解をしたいということだけです」
記者「今回の条例には注目が集まり、大きく報道されている。区長は次の選挙には立候補されないということだが、渋谷区とは、今後、どういう関わりを持っていくのか」
桑原「私自身は、議員から3年前にこの質問があって、一つの出された考えにけじめをつけるのが私自身の課題だと考え、条例という形で返事を返したということになります。この条例の中にもございますように、システムをつくって社会が正しく理解し、メッセージを発信していくことができると考えておりますから、きちっとこれをやっていきたい」
ヘイトデモについて、桑原区長「何ら恐れることはない」!?
実情を正しく認識している区長の議案が議決されることを強く望む。私は、ここのところ毎週一回性別変更済みのヨーロッパ人や、現在は性別違和と呼ぶことが多くなった性同一性障害の人達と会っているので、いくらかこの問題について承知していると思う。性別違和は完全に体のみ病気であると認識するしか解決策がありません。これを、心の問題だと認識すると問題は全く解決しないし、不幸な結果しか招かない。家族にとっての最悪のケースは自殺です。但し、当事者にとっては自殺は“生き地獄からの脱出”でしかない。
“同性婚”をするケースは実は多く、友達同士の同居を認めた賃貸住宅の中には実は恋愛関係にある同性どうしを想定したものが意外と多いのではないかと推測しています。生まれ育った地方で一緒に住めないから東京で同居しているのではないか。そのあたりの実態を考えると、友達同士の同居としか公言できないが内実は“同性婚”が多いであろう渋谷区の区長がこのような議案を提出した経緯も理解しやすいと思います。
なを、性別違和(性同一性障害またはGID)は体の病気でしかないので、体の難病ととらえる方が理解がしやすいです。