安倍政権はセンチメンタルな「友情」論ではなく、国益を見極める判断力を〜国民安保法制懇が集団的自衛権行使の閣議決定を徹底批判 2014.9.29

記事公開日:2014.9.30取材地: テキスト動画
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(取材:IWJ・薊一郎、記事:IWJ・ぎぎまき)

 「いったん、集団的自衛権の行使に踏み出せば、日本の立場から見てどんなに不当で、かつ、日本にとって利益の見出しがたい軍事行動でも、アメリカに付き合わざるを得なくなるおそれが大きい。世界各地で『テロとの戦い』を押しすすめるアメリカと軍事的協力関係を深めることは、日本をグローバルに展開するテロ組織の標的とする危険にさらすことでもある。

 要するに、集団的自衛権の行使容認は、日本および日本国民をより安全にするどころか、より危険とする蓋然性が高い。外交・防衛問題に関しては、同盟国同士で助け合おうという曖昧でセンチメンタルな『友情』論ではなく、冷徹に国益を見極める判断力が求められる」

 憲法学者や元内閣法制局長官、防衛官僚OBなどからなる「国民安保法制懇」が、臨時国会が開会した9月29日、集団的自衛権行使を容認する閣議決定の撤回を求め、政府に報告書を提出。同日、同制懇のメンバーらは記者会見を開き、討論を経てまとめたという9ページにわたる報告書の概要と閣議決定の問題点を説明した。

 その中で、元防衛官僚の柳澤協二氏は、「米国との軍事協力の強化によって、日本がテロ組織の標的になる危険性がある」と指摘。自衛隊のみならず、日本の一般市民がテロの対象になることは、過去に起きた復数の日本人拉致、殺害事件を見ても明らかだ。同制懇は報告書の中で、安倍政権の主張する同盟国同士の助け合いを、「曖昧で、センチメンタルな友情論」だと断じた。

■ハイライト

  • 出席者 愛敬浩二氏、青井未帆氏、伊藤真氏、大森政輔氏、小林節氏、長谷部恭男氏、樋口陽一氏、孫崎享氏、柳澤協二氏

「自衛隊に入ってくるのは、人の役に立ちたいという真面目な若者たちだ。彼らを訳の分からない国策のために、無駄に使って欲しくない。その一点で、私はこのメンバーに加わっている」

 柳澤氏は続けて、安倍首相の集団的自衛権に関する説明が、具体性や現実性を欠く「訳の分からないものだ」と批判した。

 閣議決定後の集中審議を聞いていても、安倍首相は、武力行使の新3要件である「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」が、具体的にどういうケースを指すのか説明できていない。

 柳澤氏は、「抽象的な覚悟ではなく、自衛隊が実際に何をどこまでやるのか、できるのかということを、イラクやアフガニスタン戦争、今では『イスラム国』を事例として挙げ、具体的な議論を展開すべきだ」と主張した。

徴兵制も憲法解釈で容認される可能性!?「安倍政権の閣議決定は国民にとって非常にマイナス」

  「憲法解釈を閣議決定で変更したのは、立憲主義への深刻な打撃。政府の権限を縛る憲法を、時の政府の判断で変更できるという前例を作ったことは、国民にとって非常にマイナスである」

 報告書の概要を説明した、憲法学者の長谷部恭男早稲田大学教授はこう述べ、「安倍政権は憲法によって禁止されていることを、閣議決定によって変更する可能性に道を開いた」とし、憲法解釈の根底的な不安定化を招くだろうと指摘した。

 今後、起こり得る具体的な事例として長谷部氏は、現時点では憲法によって禁止されている「徴兵制」を挙げ、将来の政権によって導入も否定できないと語った。

 橋本内閣、小渕内閣で約4年間、内閣法制局長官を務めた大森政輔氏は、「法律についての意見を述べることで、内閣を補佐する為に設置されたのが内閣法制局。橋本、小渕両元総理は、『これは無理ですよ』と言えば、『そうか、分かった』と言って、二度とそういうこと(集団的自衛権など、法制局の従来の憲法解釈と食い違うこと)をやろうとは述べなかった」と、歴代の首相から自衛権について意見を求められた経験を説明。今の法制局と政府との関係について、「不愉快で残念だ」と話した。

 国民安保法制懇は報告書の中で、「内閣法制局が本閣議決定に加担することは、憲法解釈を守る『番人』としての役割を放棄することを意味する」という見解を表明し、法制局に対し、解釈変更の誤りを認め、従前の解釈へ回帰するよう求めている。

孫崎氏「安倍首相の嘘は少し調べれば分かる」

 「集団的自衛権の本質は、米国の戦略のために自衛隊を作ること。にも関わらず、あたかも日本の防衛のために使おうとしているから、訳の分からない説明になる」

 元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、安倍政権の「嘘」をこう批判し、5月15日の首相会見での安倍首相の説明と米国務省の見解を次のように解説した。

 「首相はパネルを使って、日本人の乗った米国軍艦を守らなければいけないと説明したが、これも、少し調べれば全くの嘘であることが分かる。危機において、米国市民以外の脱出を助けるのかという質問に対し、米国国務省は、『我々の優先は米国市民を助けることである。救出を期待するべきではない』と言っている」

 さらに、「『米国の軍用手段を使った救出劇は、現実というより、ハリウッドの脚本である』とも言っている」と国務省の方針を紹介。続けて、「嘘と詭弁で憲法に関わる重大なことを実施しようとしている。日本政治の堕落である」と強い口調で訴えた。

 最後に、会見で司会進行を務めた弁護士の伊藤真氏は、「政府の行為によって再び戦争をさせないと明確に謳っているのが憲法だと私は考えている。かつて、主権は天皇にあったが、今は私たちが主権者だ。声をあげることが求められている」と述べ、国民安保法制懇は今後、全国各地で集会を開き、集団的自衛権についての世論を喚起していきたいと話した。

 この日、政府に提出された報告書には、メンバー11人が名を連ねているが、これまで、中心的役割を担ってきた元内閣法制局長官の阪田雅裕氏が、意見の食い違いにより、報告書には賛同せず、同制懇からも退会したことが会見の中で明らかになった。

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「安倍政権はセンチメンタルな「友情」論ではなく、国益を見極める判断力を〜国民安保法制懇が集団的自衛権行使の閣議決定を徹底批判」への1件のフィードバック

  1. 55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    国民安保法制懇が集団的自衛権行使の閣議決定を徹底批判 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/171412 … @iwakamiyasumi
    苦しい財政状況の中、非会員の方にも10月4日まで全編見れるようにしたのは、多くの人に知ってほしいからです。テレビが伝えない集団的自衛権の真実がここに。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/517253024511586304

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