20歳のとき、徴兵を拒否してフランスへ亡命した経験を持つ韓国人のイ・イェダ氏(22)が9月19日、日本外国特派員協会で記者会見を行った。
イ氏の招聘に中心的役割を果たしたのは雨宮処凛氏。「日本の集団的自衛権の問題や、軍隊や戦争といった問題を、彼の話から考えたかった」とその目的を説明した。
徴兵を拒否するために、「亡命という極端な選択」をせざるを得なかったイ氏の肉声は、今のところ徴兵制のない国に住む日本人にとっても、迫真性とともに迫るものとなった。また会見には、韓国で徴兵制に対する反対活動を続けるアン・アキ氏が同席し、徴兵体験者の立場から貴重な証言を行った。
- 会見 イ・イェダ (Lee Yeda) 氏(良心的兵役拒否者、フランス在住)/安悪喜(アン・アナーキー)氏(映画評論家・ミュージシャン、ソウル在住)/雨宮処凛(あまみや・かりん)氏(作家)
「命を殺さない」決意
「中学生の時に、手塚治虫の漫画『ブッダ』を読んでから、自分は命を殺すことができない、そう決めました」。イ氏は、徴兵を拒否した理由をこう語る。徴兵されることは、人を殺す兵士として訓練されることを意味する。これは、イ氏の「良心と信念に矛盾していること」だった。
イ氏は、1991年生まれで現在22歳。2012年7月に徴兵を拒否し、フランスに渡った。当時の所持金は、日本円に換算して6万円だけ。手にしていたのは片道切符のみ。フランス語に堪能だったわけでもなかった。
フランスでは、難民申請の許可が下りる日を待った。ホームレスのシェルターでの寝泊まりをすることもあったという。渡仏後およそ1年を経た2013年6月、ようやくフランス政府が難民認定。これまで、韓国人が徴兵を拒否して外国へ亡命する前例はあったが、これらは、性的マイノリティであることや宗教上の理由から亡命を認定されたもの。徴兵制度を理由とした難民認定は、イ氏のケースが初めてだという。
現在イ氏は、パリでベーグル職人として働いている。
徴兵拒否は「社会的な死」
イ氏によれば、韓国社会では、徴兵が「社会人になる一つの段階」として位置づけられている。このため、徴兵を完了していない場合、就職が困難になるといった不利益をこうむることになるという。
さらに、韓国では良心的兵役拒否が、徴兵を辞退する理由として認められておらず、代替服務制度もない。徴兵に応じなければ、1年半の間、刑務所に入れられる。イ氏は「韓国で徴兵を拒否するということは、社会的な死を意味するのです」と訴える。
徴兵経験者からは、厳しい服務環境を指摘する声が上がった。会見に同席したアン・アキ氏は徴兵された経験を持つが、軍隊生活は「社会からの隔離」だと身をもって体験したという。
特に外部からの情報はほとんど寸断された状態に置かれ、インターネット、携帯電話、その他の情報端末の使用はできない。アン氏は「ほとんど刑務所の生活と同じです」と話す。
また、アン氏の指摘によれば、1年9ヵ月の服務期間のうち定期休暇はわずか28日。外出と外泊も服務期間のうち10日に限られ、しかも司令官の許可が必要だという。
過酷な服務環境を背景に、韓国軍隊内では暴力やいじめが横行。自殺につながるケースや、集団で暴行を加え死亡者が出る事例が相次いで報告されている。
「後悔していない」