「ダンス規制は表現の自由に対する制約になりうる」 ~大阪地裁の無罪判決に見るダンス規制の問題点 2014.7.8

記事公開日:2014.7.13取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・関根かんじ/奥松)

 「摘発当時、30名ほどの客がフロアーにいたが、うち10名ほどは潜入捜査員。強制捜査開始で、警察官45名が店内に流れ込んだ。この日は、ブリティッシュロックのイベントで、Suedeの『Trash』が流れていた」──。

 2014年7月8日、東京都新宿区の早稲田大学で「風営法改正最前線 ダンス規制を考える緊急シンポジウム」が開催された。「ダンス規制法(風営法)」の改正をめぐり、ダンス文化推進議員連盟は、今国会への議員立法の改正案提出を、与党内の反対により見送ることになった。一方で政府は、規制緩和を盛り込んだ「第2次答申」を発表。秋の臨時国会に改正案を提出するため、警察庁に有識者会議を設けて議論を始める。この日は、弁護士や憲法学者らが風営法について説明し、無許可のダンス営業で摘発された大阪のクラブ経営者に無罪判決が出た「NOON裁判判決」について意見を交わした。

 シンポジウムで取り上げられた「NOON裁判判決」とは、2012年4月4日、大阪市北区のクラブNOONが、ダンスの無許可営業で曾根崎署に摘発された事件。経営者とスタッフなど8名が逮捕されたが、裁判の過程で「ダンスとは何か」という定義が曖昧なまま、捜査が行われたことが判明した。弁護士らは「裁判所が、ダンス規制は表現の自由に対する制約になりうる、としたことは大きな成果」だと力を込めた。

■ハイライト

利害当事者の範囲が広い「風営法第3号営業」

 冒頭、主催者である早稲田大学法学部准教授の岩村健二郎氏が、「専門はキューバ歴史学。また、サルサバンドをやっていて、演奏者としても風営法対象の飲食店(3・4号営業)と関わりがある」と自己紹介した。

 岩村氏は「7月30日には、警察庁内で有識者会議があり、ヒアリングが始まる。風営法の利害当事者の範囲は広く、飲食店主、風俗業者、テナント業者、DJ、ダンス教師までも含まれる。風営法の改正は、センシティブな問題だ。より良い法改正になるようにしたい」と語った。

 続いて、「『ダンス営業になぜ許可が?』どう見るNOON裁判判決」に移った。壇上には、広島大学大学院教授の新井誠氏(憲法学者)、京都大学大学院教授の高山佳奈子氏(刑法学者)、NOON訴訟弁護団主任弁護人の水谷恭史弁護士が並び、コーディネーターは、NOON訴訟弁護団長の西川研一弁護士が務めた。

 大阪地裁は4月25日、無許可営業で摘発されたクラブNOONの経営者に対し、無罪判決を言い渡した(検察側は控訴)。「クラブは風営法第3号営業規制対象になるが、今後の法改正に、この判決がどのような影響を与えるのか話し合いたい」と西川氏が口火を切った。

風営法はギャンブルや売春の規制が目的だった

 水谷氏が、4月25日の無罪判決について解説した。「判決の趣旨は、許可を要する営業をしていたとは認められない、としたこと。風営法は、性風俗秩序が著しく乱れるという理由で、ダンス飲食営業を一般禁止している。判決では『クラブ営業とは、性風俗秩序を乱す恐れが、単に抽象的なものにとどまらず、実質的に認められる営業を指すものに限る』とした」。

 該当する風営法3号規定とは、『ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業』(第1号キャバレー以外)だ。

 高山氏は風営法について、「1948年に成立した。売春防止法の制定前で、ギャンブル、売春を規制するために作られたもので、ダンスの禁止が目的ではない」と説明した。ダンス営業がなぜ、売買春に通じるのかについては、新井氏が「当時、男女の性的出会いの場がダンスにあったからではないか。それが、たまたまダンスであって、もし、テニスだったら『テニスコート規制』もありえたのではないか」と語った。

 西川氏は「風営法は、これまでに30回以上の改正を重ねており、1984年の大幅改正では、善良な風俗と正常な風俗環境の保持、青少年の健全な育成を目的に規定された」と述べ、「1984年の改正で、ダンス規制そのものが取り込まれていったのか」と新井氏に尋ねた。新井氏は「青少年保護、善良な風俗などの言葉に、何でも含まれていく懸念はある。言葉を拡大解釈するので、本来の目的とは切り離すべきだ」と答えた。

客30人のうち10人は覆面捜査員

 水谷弁護士が、NOON裁判の経緯について説明した。「クラブ経営者が、公安委員会の許可が必要な営業は行なっていないと主張したため、検察官は摘発時の様子を法廷で再現した。摘発時に居合わせた客5人、警察官7人、クラブのスタッフ3人の15人が証言した」。

 「摘発当時、30名ほどの客が60平方メートルほどのフロアーにいたが、そのうち10名ほどは潜入捜査員だった。強制捜査で店内に流れ込んできた警察官45名が、客に供述調書をとっていった。当日は、ブリティッシュロックのイベントだった」。こう述べて、摘発時に店内で流れていたイギリスのバンドSuedeの『Trash』を会場に流して聞かせた。

「何がダンス?」逮捕の基準がない

 「捜査員の供述では、客に聞いたことは『ダンスしてたよね』。店のスタッフには『ダンスさせてたね』だった。われわれは『では、ダンスとは何か』と証人の警察官全員に質問した」。

 このように語った水谷氏は、捜査員が参考にしたという、ダンスを定義する動作の資料(府警本部保安課作成)をスクリーンに映し出し、次のように続けた。「腕を振る、首を振る、ステップを踏むなどの動作。しかし、警察の上司と部下の間でも、ダンスに対しての定義は一致していなかったことが、証言から明らかになった」。

 「警察幹部は『ダンスかどうか、私の基準で決める』と言い、もう1人は『音楽に合わせて、楽しく動いていたらダンスだ』と証言。つまり、犯罪決定の重要なポイントが、現場の警察官の判断によるということ。このような、あいまいな基準に依っているのだ」。

 水谷氏は「しかし、この罰則は、懲役2年か罰金200万円、もしくは両方だ。罪にあたる行為かどうかの客観的基準がはっきりしていないと、安心して行動ができない」と述べて、犯罪の線引きのあいまいさを危惧した。【IWJテキストスタッフ・関根/奥松】

3つのポイント「職業選択と表現の自由、罪刑法定主義」

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「「ダンス規制は表現の自由に対する制約になりうる」 ~大阪地裁の無罪判決に見るダンス規制の問題点」への1件のフィードバック

  1. @yoshitaka177177さん(ツイッターのご意見より) より:

    ブリティッシュロックのイベントで強制捜査されました。お客さんは30人です。

@yoshitaka177177さん(ツイッターのご意見より) にコメントする コメントをキャンセル

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