「『魔王』には文明に対する直感が込められている」 〜「ゲーテの会」安冨歩氏講演 2014.3.17

記事公開日:2014.3.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・奥松)

 「合理的な神秘主義が、神秘的な合理主義に覆われた時、魔王がやって来る」──。

 2014年3月17日、京都府木津川市の公益財団法人国際高等研究所のコミュニティホールで、けいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」が開催され、東京大学東洋文化研究所教授の安冨歩氏が「合理的な神秘主義 ~命を破壊する暴力についての厳密な学の構想~」と題して講演を行った。

 けいはんな哲学カフェ「ゲーテの会」とは、「文明の未来と人類の幸福」について考える会で、主催の国際高等研究所の庭にゲーテの胸像があることから名付けられた。近代科学文明のあり方を再考する試みのひとつであるという。

 講師の安冨歩氏は、ゲーテの『魔王』から現代社会が抱える問題を読み解いた上で、「合理的な神秘主義」の重要性を指摘。ヴィトゲンシュタイン、ラッセル、チューリング、ドラッカーなど、多彩な学者の名を挙げながら、「いかに、魔王に対処すべきか」を語っていった。

■ハイライト

  • 近代科学をいかにして超えるか -自然と人間との関係性を考える-(Part IV) 「合理的な神秘主義~命を破壊する暴力についての厳密な学の構想~」 講師:安冨歩先生(東京大学東洋文化研究所教授)
  • 交流・懇談(※主催者の意向により、中継いたしません。)

「魔王の誘い」は原発推進派の言葉そのもの

 はじめに、ゲーテの詩が付いた楽曲『魔王』などのピアノ演奏と独唱が披露されたあとで、安冨氏がマイクに向かった。

 安冨氏は「今、曲を聴いて、『魔王』が現代文明の批判になっていたことに気がついた。登場する子どもは人類を、父親は科学や学問、魔王は人類の運命を表現している。冒頭の『お父さん、恐ろしい魔王がいるよ』『大丈夫、木がそびえているだけだ』という同じ対話を、3年前の原発事故のあと、たくさん聞いた気がする」と述べた。

 「魔王が子どもに語りかける『一緒に素敵な遊びをしよう、色とりどりの花に金の服』というくだりは、原子力発電を推進する人々が、私たちに語りかけた言葉そのものだ。われわれが怖いと感じるものを、打ち消す人々がいて、最後には悲劇が待っている。ゲーテの、文明に対する直感が込められているのではないか」。

暴走が始まると社会はシンプルになる

 「独創性とは、差異であり、違うものが出会うところに生まれる」と話す安冨氏は、映画『ゴジラ』のテーマ曲で知られる作曲家の伊福部昭氏が、アイヌなど北方少数民族の音楽に影響を受け、独学で作曲していたことや、19世紀から20世紀のロシアで、ヨーロッパ音楽との出会いが偉大な作曲家たちを輩出したことなどに言及。「学問においても、同じことが言える」とし、現代の学問の限界、乗り越えるべき方向について、自身が考えてきたことを、『合理的な神秘主義』という自著から紹介していった。

 「私は大学で経済を学んで住友銀行に就職し、バブルの渦中で優秀な人たちがおかしくなっていくのを目の当たりにした。大学に戻って、人が暴走するとは何か、を研究し始めた。最初に取り上げたのは満州国。日本社会が戦争へ暴走していくプロセスを理解したかった」。

 「通常、経済の世界は『均衡』という概念が支配し、『暴走』は出てこない。そんな中で、統計力学に出会い、非線形科学を学んだ。いろいろな研究の中で気づいたことは、複雑で理解しがたい人間社会が、いったん暴走し始めるとシンプルになる、ということだ」。

考えられること、考えられないことがある

 安冨氏は、哲学者のヴィトゲンシュタインの著作『論理哲学論考』の、「語り得るものについては語り得る、語り得ぬものについては沈黙せねばならない」という言葉を引用し、「複雑な経済システムが、きちんと運営されているのは、なぜか。これは神秘に属するもので、われわれは『理解できない』と認めなくてはならない」と語る。

 「しかし、この神秘を破壊するもの、たとえば、バブルの起こし方や会社のつぶし方は、語り得ることができる。人は、なぜ生きるのか、答えるのは難しいが、死んだ人間の死因なら明らかにできる」と続け、「生命や社会、宇宙の神秘を問うことは冒涜だ、と認めればいいのだ。それは、科学の敗北ではない。合理的な思考は、神秘を破壊するものについて適用すればいい。これが、私が主張する『合理的な神秘主義』だ」と言明した。

 さらに、「偉大な科学者は謙虚だ。人間の理解できる範囲には限りがある、と心得ているからだ。傲慢な科学者は、その謙虚さを見失う。自分の学んだことが、対象すべてを理解するカギになると妄想し、反論されるとブチ切れる。こういう行動は『神秘的な合理主義』である。合理的思考さえあれば何でも理解できる、という神秘主義に走っているからだ。まさに、ゲーテが批判したものだ」と力説した。

 「ゲーテの思考は合理的だ。その上で彼は、神秘的なものを冒涜すると怒り狂い、『魔王』のような作品を書く。ゲーテは、『合理的な神秘主義』の重要な先駆者と言えるのではないか」。

論理の破綻が、次世代のシステムを生む

(…会員ページにつづく)

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「「『魔王』には文明に対する直感が込められている」 〜「ゲーテの会」安冨歩氏講演」への1件のフィードバック

  1. 脳天壊了 より:

    安富先生のお話は、すごく魅力的です。
    不可知論ふうですが、それでは片付けられないものがあると感じます。
    「立場」論を起点にして遂行的な議論を展開してください、
    期待しています。私も頑張りたい・・・。

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