【IWJブログ】田母神俊雄候補が撒き散らす「放射能で死んだ人はひとりもいない」という大嘘! 2014.1.24

記事公開日:2014.1.24 テキスト
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(文 ゆさこうこ/文責 岩上安身)

 告示後の第一声で、東京都知事選の立候補者である田母神俊雄氏は、持論の「放射能は安全」「原発推進」を声高には叫ばなかった。今までかつて口にしたこともない、弱者への福祉政策を前面に出すなど、選挙民へのアピール戦術を変えてきている様子である。

 しかし、我々は忘れるわけにはいかない。

 1月12日に行った街頭演説のなかで、田母神氏は耳を疑うような発言をしたのだ。

「50年原発を使っていて、運転中の原発で、放射能で死んだ人はひとりもいないんです、日本に」。

 だから原発使おうよ、と言うのである。我々IWJは、この演説を中継している。

 田母神氏が「運転中の原発」とリミットをつけているのは自己防衛本能によるものかもしれない。それでも田母神氏が伝えたかったことは、「日本に放射能で死んだ人はひとりもいない」ということである。私たちもぜひそうであってほしいと思うのだが、事実は違う。

 1999年、茨城県の東海村で株式会社ジェー・シー・オーが、核燃料の加工中に臨界事故を起こした。東海村JCO臨界事故と呼ばれる事故である。この事故で作業員2名が死亡した。その死は当然被曝によってもたらされたもので、死に至るまでの過程が綿密に記録されている。田母神氏はこれを知らないのだろうか。知っていて、あえてこんな事実無根の嘘をふりまいているのだろうか。

 JCOの臨界事故以外には、2011年の東京電力福島第一原発事故による「原発事故関連死」があげられる。

 震災関連死・原発事故関連死として認定されたのは、岩手県389人、宮城県862人、福島県1383人(平成25年3月現在)。震災関連死と原発事故関連死それぞれの人数は不明だが、他の被災地と比較して福島県の認定者数が多いことから、福島県の1383人に多くの「原発事故関連死」が含まれていることが推測される。

 つまり、原発事故がなかったら死なずにすんだ人たちの死である。田母神氏は、これを全く考慮しないつもりだろうか。

 また、東京電力は2013年10月に、「現在も毎時1000万ベクレルの追加放出がある」と大気中への放射性物質の放出を認めている。周知の通り、汚染水も漏れ続けている。田母神氏はこの高濃度汚染水について、「アメリカやヨーロッパではコーヒーを飲む水だ」と、さも何でもないかのように発言しているが、現実には事故は現在も進行中であり、放射能汚染は拡大中なのだ。チェルノブイリ事故とその後の経過を見ればわかる通り、放射能による健康被害は遅効性であり、数年を経過して、表にあらわれる。3.11の事故の影響があらわれてくるのは、これからである。

 田母神氏は、「原発についてもきちんと科学的根拠にもとづく論理を展開しなければならないというふうに思います」と述べている。しかし田母神氏の言っている「放射能で死んだ人はひとりもいない」という主張こそ、「科学的根拠」もなく、論理性も欠いていると言わざるをえない。

もう1度、1月12日の田母神発言をふり返ってみよう

「50年の実績を見れば、原発を安全に運用して、そして電力を十分に供給していくということは可能なのではないかと思います」。

 田母神氏は、自信満々にこう述べた。つまり、50年間原発を安全に運用してきたのだから、今後も安全に続けていくことが可能だという論理だ。

 田母神氏が言う「50年の実績」を見てみよう。田母神氏が「安全」という言葉を出したので、あえて、「どのくらい安全運用できなかったのか」の実績を示そう。

  • 1981年3月  日本原電敦賀原発1号機放射性物質を海に放出 レベル 2
  • 1991年2月  美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱細管破断 レベル2
  • 1991年4月  浜岡原子力発電所3号機原子炉給水量減少 レベル2
  • 1995年12月  もんじゅナトリウム漏洩火災事故 レベル1
  • 1997年3月  動燃東海事業所火災爆発事故 レベル3
  • 1999年6月  志賀原子力発電所1号機臨界事故 レベル2
  • 1999年9月  東海村JCO臨界事故 レベル4
  • 2004年8月  関西電力美浜発電所3号機・2次冷却水配管蒸気噴出 レベル 1
  • 2011年3月  福島第一原子力発電所事故 レベル7
  • 2011年3月  福島第二原子力発電所冷却機能一時喪失 レベル3
  • 2013年5月  J-PARC放射性同位体漏洩事故 レベル1

(※レベルは国際原子力事象評価尺度)

 国際原子力事象評価の基準から見て、11回の事故が起きていることになる。しかも 2011年の福島の原発事故は、最高レベルであり「深刻な事故」を指すレベル7が与えられている。全世界で、レベル7に該当する事故を起こしているのは、チェルノブイリと福 島のみだ。福島の事故は、約15万人と言われる避難民を出した。

 これが、日本の原子力発電の「50年の実績」だ。福島の事故をその実績の総括と言ってもいい。それは、数々の事故・トラブルを省みず、2003年、小泉政権下では安全装置を外すという愚行までやってのけた結果だった。

 これをみて、50年間「安全に」原発を運用してきたと田母神氏は言うのだろうか? 福島の事故さえももう忘れてしまっているのか、それともレベル7をたいしたことはないと言うつもりなのか? もしかしたら、田母神氏が言っている「安全」とは、原発作業員や原発周辺に住む人々の安全ではなく、原発の運用によって利益を得る人々の「利権の安全」なのかもしれない、とすら思う。

 福島の事故で原発安全神話は完全に崩壊したはずだった。それも、論理的にではなく、物理的にである。普通の感覚を持っている人は、それを思い知った。それなのに、田母神氏はまだ幻想を見続けている。彼のそのほかの時代錯誤の発言から考えても、田母神氏には現実が見えていないとしか思われない。

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「【IWJブログ】田母神俊雄候補が撒き散らす「放射能で死んだ人はひとりもいない」という大嘘!」への11件のフィードバック

  1. みんみ より:

    東海村の臨界事故は、マンネリ化管理の人為的ミスがまねいているので、原発事故のカテゴリーに入れてしまうと、亡くなった技術者や遺族に対し無能の烙印を押されるのと同然と感じる。私も技術者として詳しく調べれば調べるほど、悲しくなる。企業体質もあるが原発の危機管理等のマニュアルはあったが徹底した教育、人材育成が大事なのではと思い知らされる。

  2. 萩谷 良 より:

    <田母神氏が言っている「安全」とは、原発作業員や原発周辺に住む人々の安全ではなく、原発の運用によって利益を得る人々の「利権の安全」なのかもしれない、とすら思う。>

    まさにその通りです。東京などの「消費者目線」で語っていることの危険性を感じます。

  3. marmar より:

    東海村JCO臨界事故 事故原因

    本事故の原因は、旧動燃が発注した高速増殖炉の研究炉「常陽」用核燃料の製造工程[7]における、JCOのずさんな作業工程管理にあった。
    JCOは燃料加工の工程において、国の管理規定に沿った正規マニュアルではなく「裏マニュアル」を運用していた。一例をあげると、原料であるウラン化合物の粉末を溶解する工程では正規マニュアルでは「溶解塔」という装置を使用するという手順だったが、裏マニュアルではステンレス製バケツを用いた手順に改変されていた。事故当日はこの裏マニュアルをも改悪した手順で作業がなされていた。具体的には、最終工程である製品の均質化作業で、臨界状態に至らないよう形状制限がなされた容器(貯塔)を使用するところを、作業の効率化を図るため、別の、背丈が低く内径の広い、冷却水のジャケットに包まれた容器(沈殿槽)に変更していた。
    その結果、濃縮度18.8%の硝酸ウラニル水溶液を不当に大量に貯蔵した容器の周りにある冷却水が中性子の反射材となって溶液が臨界状態となり、中性子線等の放射線が大量に放射された。ステンレスバケツで溶液を扱っていた作業員の一人は、「約16kgのウラン溶液を溶解槽に移している時に青い光が出た」と語った。

  4. FURUKAWA,Takasi より:

    “田母神氏が「運転中の原発」とリミットをつけているのは自己防衛本能によるものかもしれない” ・・・たしかにそうかもしれませんが、岩上さんが敢えてこの限定を無視するのはどうしたことでしょう?
    田母神さんの肩を持つ気なんてさらさらありませんが、原発じゃない東海村JCOで起こった臨界事故の犠牲者も、311原発事故関連死と称される犠牲者も「運転中の原発で、放射能で死んだ人」にカウントされないのは明らかです。
    私も永らく脱原発を標榜する人間ですし、田母神さんの一連の言動を好しとする者ではありませんが、人を批判し自説を主張するのなら正確なロジックを展開すべきで、岩上さんのこんな稚拙な理屈の展開や、その拡散は脱原発派の知的水準を貶めるばかりだと思います。

  5. 赤野 悠馬 より:

    中韓の原発200基輸出計画には賛成ですか?
    日本が安全なもの作ったほうが安全ではないですか?
    といいつつ私も原発には反対ですがね。

    正直今やめるともっとひどいことになるのは日を見るより明らかですよ。中韓の暴走原発を日仏でまず止めるべきです。

  6. sakata より:

    田母神氏は「原発稼働中の事故」で50年間、放射能でなくなった方は一人もいないと言っているのです。そのとおりで嘘ではありません。
    宇宙飛行士が地上の何百倍の放射線を浴びているにもかかわらず、健康的になって帰ってきているとの研究もあります。いたずらに科学的に裏付のない言葉で不安を増長させないでください。
    福島では、人間より影響が謙虚に出る繊細な動植物でも放射能が原因で異常が出ているものは何もないようです。「放射能による健康被害は遅効性」とは、どういう研究資料に基づくものなのでしょうか。広島、長崎では原爆後の除染作業をしていないにもかかわらず平均寿命は全国平均より高く、新生児の奇形率も低くなっています。この原因をぜひ説明してください。

    1. 兵藤栄治 より:

      その通りです。
      広島、長崎ともに、核爆発で、多くの方が「被爆」されました。

  7. Bebson HOCHFELD より:

    福島原発事故に因る放射線被曝では、一人も死んでおりません。この点では田母神氏は正しい。
    福島原発事故による被曝の危険性の為に、約30万人が避難民となり、この避難生活に関連して約1,600人が死亡、この数は同じエリア内の東日本大震災の地震と津波により死亡した、直接の犠牲者の数を上回っているそうです。
    http://kobajun.chips.jp/?p=13865 無駄な避難だったと言うべきでしょう。

    田母神俊雄候補が撒き散らす「放射能で死んだ人はひとりもいない」という大嘘!と言っている方は、嘘を付いている自覚は無いのでしょうかね?

    1. ひやむぎだいすき より:

      昨年の夏に原発から15kmの地点で環境省が帰れるか調査してるときに、12ミリシーベルト毎時の欠片が見つかり東電に引き渡されるというニュースがありました。ゴルフ場の裁判で裁判所に無主物と認定してもらったのに引き取る東電、狂ってますね。今からでも二本松のゴルフ場に償ってほしいです。
      私はこのニュースで強制避難区域は概ね正しかったと考えを改めました。
      正しい避難指示で多くのひとが亡くなり或いは自死されている。なぜ愛国者と名乗る田母神さんが原発事故を過小評価するのか甚だ疑問です。

  8. さとうえつお より:

     田母神氏は本当は原発事故の恐ろしさを認識しているのだと思う。ネットウヨやヘイトスピーチの人たちに持ち上げられている関係、彼らの支持を失うことを恐れ、「原発は危険だ、再稼働はすべきではない」と言えないのではないだろうか?福島県知事選に立候補しなかった、またはできなかったのはその証拠だと思う。そんなに自分の考えに自信ががあれば、福島県民に堂々を「原発は安全だ、すぐ双葉郡に戻って生活してください」と主張すればいいと思う(たぶん石を投げつけられるだろう)。たぶん彼も自分の考えの間違いには気付いているだろう。本気で言っているとしたら、このおっさんはただのキチガイに違いない。

    1. ブサヨ脂肪 より:

      はぁ?

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