【東京都知事選】日本を自滅に導く「ニュークリア・シェアリング」~田母神俊雄氏の「核兵器共有論」と「歴史認識」 2014.1.23

記事公開日:2014.1.23取材地: テキスト動画
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 1月7日、元航空幕僚長で軍事評論家の田母神俊雄氏が立候補を表明しました。記者会見には、日本維新の会の中山成彬衆議院議員、西村眞悟衆議院議員、そして対中関係の悪化を招いた当事者である、元東京都知事で日本維新の会共同代表の石原慎太郎衆議院議員が同席。

 石原氏は、「田母神さんには、なみなみならぬ決意をしていただいた。ある意味では特攻隊ですよ。その戦いに挑む覚悟を理解していただきたいと切に願う」などと述べ、田母神氏への支援を呼びかけました。

■全編動画

典型的な「弱肉強者の論理」

 今回の都知事選立候補者の中で、群を抜いて過去の問題発言が多いのが、なんといってもこの田母神俊雄氏です。

 注意しなければならないのは、田母神氏の問題は田母神氏個人の資質だけの問題ではなく、支援を表明している石原慎太郎氏に共通することはもちろん、右傾化の色彩をどんどん強めてゆく安倍政権にも共通している問題でもある、ということです。

 田母神氏は、立候補を表明した1月7日の記者会見の冒頭、「こんにちは、危険人物の田母神でございます」と挨拶しました。自らを「危険人物」と称するのというのは、石原氏が自身を「暴走老人」と称するのと同様、諧謔を含んだユーモアなのかもしれません。

 しかし、田母神氏の場合、「危険人物」だというのは、冗談ではすまされません。冗談が冗談ですむのは、中身が「危険人物」ではない場合だけです。表紙も中身も「危険人物」なら、それは真実です。

 田母神氏は2012年9月20日、自身のTwitterに次のような書き込みを行いました。

 田母神氏は、「弱者救済が行き過ぎると社会はどんどん駄目になります。国を作ってきたのは時の権力者と金持ちです。言葉は悪いが貧乏人は御すそ分けに預かっていきてきたのです」と記しています。

 これは、弱肉強食の論理そのものです。「貧乏人は麦を食え」とは、煎じ詰めれば、ひと握りの権力者と富裕層にのみ富を集中させ、大多数の一般庶民は米を食べようなどと思うな、麦を食べて飢えをしのげ、ということです。この論理からいけば、田母神氏が都知事になった際、例えば福祉予算や貧困対策予算などを、これまで以上に大幅カットすることが懸念されます。

 記者会見でIWJの石川記者がこの発言の真意を質すと、田母神氏は次のように答えました。

 「私は歴史の事実を述べただけであって、貧乏人は切り捨てて、意見を聞かなくてよい、という考えではまったくありません。言葉は悪いかもしれませんが、弱者はそれなりに救済されるべきだと思いますが、福祉を切り捨てて他に回すとか、そういう考えはまったくありません」。

 田母神氏は、選挙を目前にしてか、ツイッターでの発言のトーンを大幅に変えて福祉予算のカットについては考えていないと、一応は回答しました。しかし、「弱者」は「それなりに救済されるべきだ」としている、「それなりに」というくだりに、田母神氏の「それなり以上を求めるな」というニュアンスが込められているのを聞き流すことはできません。

 「それなりの救済」とはどういう基準か。「麦は食わしてやるが、米を食おうと思うな」ということなのか。田母神氏の「一部の強者」が「大多数の弱者」を組み敷くのは当然という、高見から見下した「強者の論理」に何も変わりはありません。

 しかも田母神氏は、この「強者の論理」こそが「歴史の事実」であると言います。では、田母神氏の歴史認識とはどのようなものなのでしょうか。

田母神氏の歴史認識とは

 昨年末の安倍総理の靖国神社参拝を受け、田母神氏は次のようにツイートしています。

 田母神氏は2008年10月、アパグループ主催の第1回「真の近代史観懸賞論文」に「日本は侵略国家であったのか」と題する論文を投稿し、大賞を受賞しました。しかし、その論文に「我が国はコミンテルンに動かされた蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者」などといった、政府見解と著しく隔たりのある記述が含まれていたため、航空幕僚長の職を解任されました。

 コミンテルンとは、ロシア革命の指導者レーニンによって、1919年に結成された共産主義政党による国際組織「共産主義インターナショナル」の略称です。

 田母神氏は上記のツイートで「日本が侵略国家であるというのは濡れ衣です」という持論を展開しています。「日本は侵略戦争を行っていない。日中戦争に引きずりこまれるのはコミンテルンの謀略である」などという田母神氏の歴史認識は、現在まで一貫しています。

 しかし、田母神氏の主張がまったくのデタラメであることは、まともな歴史家の批判を待つまでもなく、明らかです。

 日本がアジア諸国へ侵略を行なったことはまぎれもない事実であり、それはロシア革命よりもはるかに先立つ明治時代からのことです。ソ連もボリシェヴィキも影も形もなかったこの時代に、どうやって明治政府がコミンテルンに動かされたなどということが言えるでしょう。

 日本が他国に対して侵略行為を行っていないというのは、事実ではありませんし、すべてをコミンテルンの謀略のせいにするのも馬鹿気ています。明治維新以降の日本の近代化の過程は、他国、特に朝鮮半島に対する侵略とともに進展してきました。

 日本が軍艦で挑発し、江華島事件を引き起こして日朝修好条規という不平等条約を押しつけたのは、1875(明治8)年。以来、日本は朝鮮半島支配を深めてゆくのですが、この時代、コミンテルンはおろか、ソ連すら存在しません。田母神説はまったくのデタラメです。

 メルマガ「IWJ特報~旧日本軍による隠されたジェノサイドの真実~北海道大学名誉教授・井上勝生氏インタビュー」で詳しく紹介しましたが、1894年の日清戦争は、日本が朝鮮を清国から独立させるための「義戦」などではなく、日本が朝鮮を植民地化するための侵略戦争でした。

 1895年には、日本公使の三浦梧楼に率いられた日本軍が、朝鮮の王宮である景福宮に乱入し、反日・親露姿勢を明確にしていた朝鮮の明成皇后(閔妃)を暗殺しました。

 この事件を、立場を入れかえ、日本に置きかえてたとえてみれば、在日米軍の日本からの撤退を主張する外国の軍隊が、日本にどかどか入ってきて、その国の駐日大使に率いられて、日本の皇居に押し入って皇后の美智子妃を暗殺してしまうようなものです。そこまでの暴虐を働いたあげく、1910(明治43)年に(ロシア革命の7年前)韓国を併合までしておきながら、「侵略はなかった」などと言えるはずがありません。朝鮮の人々にとって、日本軍による明成皇后(閔妃)の暗殺が、受け入れられるものでないのは当然のことです。

 また、これは忘れられがちなことですが、日清戦争の戦場は、日本でも清国でもなく、朝鮮半島でした。日本と清国の戦死者がそれぞれ約2万人だったのに対し、朝鮮人は、少なくとも3万人から5万人が死亡したと言われています。しかも、井上氏が明らかにしたように、蜂起した東学農民に対し、日本軍は組織的なジェノサイド(大虐殺)を行っていました。

日本を自滅に導く「ニュークリア・シェアリング」

 田母神氏は「核武装論者」として知られます。そしてその際の核武装論とは、日本が独自に核兵器を持つというものではなく、米国との核共有(ニュークリア・シェアリング)です。

 雑誌「Will」2009年6月号に掲載された論文「北朝鮮には核で対抗せよ!」の中で、田母神氏は次のように記しています。

 「私は『ニュークリア・シェアリング』(核シェアリング)という方法があることを何度か述べてきている。『ニュークリア・シェアリング』とは、NATO(北大西洋条約機構)の一部諸国がアメリカの核をシェアしている方法だ。

 これはアメリカの核の発射ボタンを共有する方法である。核を保有し、配備しているのはアメリカだが、ドイツ、オランダ、イタリア、ベルギー、トルコの5カ国は、NATOの枠組みの中でアメリカの核兵器を使って日常的に訓練をしている。核シェアリングをしているこれらの国が核による恫喝を受けた時には、アメリカはこれらの国に決められた核兵器を引き渡すシステムだ。

 この核シェアリングというシステムは、NPT体制下でもすでに機能している。だから、なぜ日本がこのシステムを取り入れないかが不思議でならない。これほど日本の国状にあった方法もないだろう」

 田母神氏は続けて、「『核をシェアできないなら、日本は独自で核を持つぞ』。こうアメリカに迫ることこそが交渉だと言える」と記しています。つまり、「ニュークリア・シェアリング」を対米カードとして利用しろ、と主張しているのです。

 しかし、日本の核保有については、むしろ米国の保守派によって積極的に言及されてきたという経緯があります。2003年3月16日、当時のチェイニー副大統領は、米NBSテレビの番組内で、北朝鮮の核武装に触れながら、以下のように述べました。

 「(北朝鮮に対して)この地域の私たちの友好国がうまく対処することが重要だ。日本、韓国、そして特に中国は、私たちよりももっと直接的に影響を受ける。核武装した北朝鮮が弾道ミサイルを使うということになると、この地域で武装競争が始まるだろう。たとえば、おそらく、日本は核の問題に取りかかるかどうかの検討を強いられることになりうる」

 米国が、日本の頭越しに中国との連携を深める「チャイメリカ」体制を築きつつあること、そして「統合エアシー・バトル構想」において、日本を中国に対する鉄砲玉にしようとしていることは、これまで繰り返し指摘してきました。

 米国が日本に核武装を求めるのは、単に日本の軍事的プレゼンスを高めるためではもちろんありません。中国や北朝鮮との緊張関係を演出し、いざとなれば東アジアにおける「限定戦争」を起こさせ、両者を自滅に追い込み、米国だけは一歩引いて漁夫の利を得るという、「オフショア・バランシング戦略」に基づいたものです。

 田母神氏が言うような「核武装論」は、一見すると勇ましく、「愛国的」です。しかしそれは、結局の所は米国の描いたシナリオに踊らされているだけなのであり、日本を自滅に導く、極めて「売国的」な言動なのです。

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“【東京都知事選】日本を自滅に導く「ニュークリア・シェアリング」~田母神俊雄氏の「核兵器共有論」と「歴史認識」” への 4 件のフィードバック

  1. 名無し より:

    だからと言って、多くが侵略戦争だったと断定するのもどうかと思いますけどね。
    多くはないが、アジアで「日本が欧米列強から開放してくれた」と思っている国があるのも事実ですから。
    何事もそうですが、0か100か ってことにはならないと思いますよ。
    だって日本は全体主義ではないし、いろいろな意見が尊重される民主主義国家ですしね。
    あくまで、私的意見ですが。

  2. 名無し より:

    田母神さんも口下手ですから言葉は悪いですが
    弱者は弱者であることをかさに着て俺たちを守れと自分が有利になることだけを考えて
    騒ぎ立てる人が多いのも事実です。
    得てして現在の日本ではそういった弱者が逆に「強者」となり権力者を追い落とす展開も多く見られます。
    そういう傾向が行き過ぎることに警鐘を鳴らしているのだと思います。
    弱者といっても善良な人間ばかりではないですから、行き過ぎた弱者の保護は不当な増長を招き
    数の暴力などモラルの低下や政治の不安定さにも繋がる可能性があると思います。

  3. 名無し より:

    補足しますともちろん強者が力を持ちすぎると独裁となりひたすら弱者を虐げるような状況が
    生まれますのでどちらも行き過ぎは何も良いことがないということです。
    一党独裁の中国や中東諸国を見ればわかると思います。
    ↑↑の方もおっしゃっていますが0か100かではなくバランス感覚を持つことが大切です。

  4. 名無し より:

    よく「日朝修好条規という不平等条約を押しつけた」というけど、これは当時の東アジアの情勢を俯瞰できていない。当時、李氏朝鮮は清朝の属国であるのは事実ですが、その清朝と日本は対等の日清修好条規を結んでいる。日本が清朝の属国である李氏朝鮮と「対等な」条約を結ぶことはできなかったということです。それこそ清朝のメンツをつぶすことになりますから。1876年当時の日本は維新からまだ10年、大国清と争うことなどとてもできません。
    また、この執筆者は「コミンテルン云々」と述べていますがミスリードはなはだしい。コミンテルンが近衛内閣の中に入り込んで支那事変や大東亜戦争に向かわせたのは説としてあり(1930年代後半)すでにコミンテルンはあります。[日本のアジア侵略」というキーワードだけで、1880~1900年代の出来事と1930~40年代の出来事を混同されているようです。田母神氏も日中戦争とコミンテルンの関係には言及ていますが、日朝修好条規がコミンテルンの陰謀だったとは一切言及されていないようです。これらを混同して田母神氏を出鱈目と決めつけるのは奇妙である。

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