「秘密保護法とアベノミクスは『高度経済成長のニッポン』への固執。どちらも時代錯誤型の愚作だ!」 〜安冨歩教授 緊急対談2 2013.11.18

記事公開日:2013.11.18取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2013年11月18日、大阪大の福井康太教授の研究室で、安冨歩東大教授による「緊急対話シリーズ2『特定秘密保護法案を問う』」があった。持論である「立場主義」の視点から、「今や役所の中では、伝統的な『相互監視システム』は機能しない」と力説する安冨氏。福井氏は「だから、『厳罰化』で公務員にプレッシャーをかけようとしているのが安倍政権」と応じ、国民の側にある「思考停止」も問題だと訴えた。約80分間の激論は、「秘密保護法が成立したら、いわゆる『リーク』はどう扱われるのか」との、安冨氏による疑問の提示で始まった。

■全編動画

  • 出演:福井康太大阪大学大学院教授/安冨歩東京大学教授
  • 日時 2013年11月18日(月)
  • 場所 大阪大学(大阪府吹田市)

 福井氏はリークと情報漏えいの差異について、「要するに狙いが違う。国家機密を暴露してでも、国民に問題を伝えようとするのが『漏洩』であるのに対し、政策誘導のために行うのが『リーク』だ」と説明した。安冨氏はこれに納得しつつ、「その政策を実現させたい集団が、地ならしのために意図的に外部に情報を流すのがリークになる」とした上で、「そのリークは、秘密保護法でブロックされるのか」と重ねて疑問を提示した。福井氏は「当該する行政機関のトップが、その情報を流すことを許可すれば、秘密保護法の下でもリークは認められると思う」と述べた。

 政策誘導のために情報は流すが、国民に知られたくない情報は厳罰化(最高で懲役10年)で流れ出ないようにするのが、秘密保護法──。2人は、こうした見方で一致。福井氏は同法を、「気骨のある官僚にプレッシャーをかける悪法」と切り捨てた。

背景には「立場主義」の機能不全が

 「元来、日本の公務員は『暴露』をしない人たちだったはず」。こう指摘した安冨氏は、次のように語った。「かつての公務員は、国家公務員法などなくても、機密情報を暴露しなかったのではないか。つまり、例の尖閣諸島の衝突映像も、あれが機密情報に相当する・しないは別として、役所ならではの文化的な『相互監視システム』が上手く働いていれば、外部に出ることはなかったと思う」。福井氏は「あの映像発信事件は、『当人が本気になれば、役所の相互監視システムの間隙を縫うことなど難しくない』ことを世に知らしめた。当局は、かなり慌てたに違いない」と言葉を足した。

 安冨氏は、インターネットの大普及(=誰もが手軽に情報発信者になれる)という時代的背景もあり、「かつての公務員の世界では当たり前だった『立場主義』が機能しなくなっている」と述べた。「つまり、『公務員の役割を果たすためには、何でもしなければならない』という規範、換言すれば『公務員であるという、自分や職場の仲間の立場を守るためなら、何でもしなければならない』といった規範が、すでに揺らいでいるのだ」。

 安冨氏の指摘に、福井氏は「だからこそ、公務員法の罰則を強化しなければならない、との結論に至ったのだろう。10年もの間、刑務所に入れば、職業人としての人生は成り立たなくなる」とコメントし、「安倍政権は、米国が日本に要求している以上のことを、秘密保護法でやろうとしている」とも話した。「米国は、日本と共同でテロ対策や軍事行動ができるようになることを、期待しているとみられる。でも、秘密保護法案には『その他』のただし書きが30カ所以上もあり、これでは適用範囲が無限に広がってしまっても不思議ではない」。

米国の要求を上回る内容

 「米国は、機密情報の管理で、日本にも同じプラットフォームを整備したいと考えているに違いない。ただ、米国には『情報は国民の財産』という大前提がある。だからこそ、一定期間が過ぎれば、どんな重要情報でも開示するのだ」と述べた福井氏は、「(情報開示に消極的な)安倍政権は『米国の要求』を口実にして、大改悪を図ろうとしているのではないか」と力を込めた。安冨氏が「官僚の年長世代には、『今の若い公務員は何をしでかすかわからない』という恐れがあると思う。つまり、もはや『立場主義』の再生が望めない以上、『厳罰化』で対応するしかない、と考えているのだろう」と語り、「秘密保護法が成立すれば、公務員が萎縮するようになる。懲役10年を恐れて、特定秘密に当該しない情報まで外に出さないようになる」と、日本社会に旧ソ連のような情報隠蔽体質が根づくことを危惧した。

 安冨氏は「立場主義は、民間企業人にも当てはまる」とした上で、「この社会的価値観は、大手メーカーを中心に、終身雇用と年功序列の日本型経営を成り立たせた、高度経済成長と表裏一体だった」と力説。「ネット社会の誕生や、アジアなど後発国の工業化による国際分業の進展を背景に、ビジネスマンのコミュニケーションのあり方が激変した。それゆえ、日本は『立場主義』にとって代わる、新たな規範の育成を急がねばならない」とし、「だが、安倍政権は、それをやらずに『厳罰化』でしのごうとしとしている」と懸念を口にした。

『三丁目の夕日』に逃げる国民気質

 安冨氏は「安倍政権が進める経済政策のアベノミクスも、大胆な金融緩和で強引に、かつての日本の再生を図ろうとするもので、今は円安という追い風で多少成果が見られるが、最終的には『弊害』が膨らむだけ」と主張する。「日本経済の発展に寄与した『立場主義』は、もはや過去の遺物。巨大な財政赤字や年金の崩壊危機などが、その証拠と言える。それなのに安倍首相は、日本に『昔』を取り戻したいと考えている。東京にオリンピックを招致し、リニアモーターカーを整備するという発想は、昭和30年代の日本のそれに重なる」。

 安冨氏と福井氏は、「国民の側にも、意識改革が必要」と訴えた。福井氏は「今のような閉塞した日本で、政府が『重要情報』を囲ってしまい、誰も批判ができないようになるのは非常に危ういこと。情報は、積極的に開示されるのが筋で、その上で盛り上がった世論に対し、政府は耳を傾けるべきだ」と述べ、「国民の側にも問題がある。今の日本人の何割かは『面倒なことは考えたくない』と、思考停止に陥ってしまっている」と指摘した。

 「今の日本人には、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』に出てくるような、昔の社会の幻想に逃げ込んでいるフシがある」との福井氏の見方に、安冨氏も同意を表明。「だからこそ、(古き良き日本社会の復活を期待させる)安倍政権が誕生したとも言える」とし、「秘密保護法などの時代錯誤の法案が、さほど国民的議論を伴わずに、どんどん成立してしまうとしたら、それは由々しき事態だ」と力を込めた。

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